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第1章5話〜お前はずるいな。〜

「戻る気など、サラサラないな。」


 俺は瞬きもせず、レグルをまっすぐ見つめ、即答する。


 この回答に窮する事や迷いなど微塵もない。ここで簡単にナイトアウルに復帰するような程度の気持ちや覚悟で、あの時俺はナイトアウルを脱退してはいない。ホーブにラビッツフットを除名されて行く当てがなくなった時に、今のようにレグルからこの話を貰っていたしても、俺は間違いなく誘いを断っていたはずだ。


「俺もメズと同じく大規模なギルドで失敗しちまったからな。今の小規模な感じで、割と面白くやってんだ。だから、悪いな。」


「そうか。」


 俺の断りの返答に残念そうな声でレグルは呟く。


 恐らく、レグルはあの頃の事が忘れられないのだろう。あの頃はやる事なす事、全てがうまくいっていた時代だ。何をやっても、毎日がお祭り騒ぎのような楽しい日々だった。レグルの誘いを断りはしたが、そんなナイトアウルでの日々を俺だって共に過ごしてきたんだ。同じ気持ちに決まっている。しかし、あれはあくまでも過去の話だ。そこにいくら執着したって、あの時が戻ってくるわけじゃあない。戻る事のない過去よりも未来に目を向けた方が良いに決まってる。今だって、面白ぇ事は山ほどあんだからな。


「アルゴ...。お前はずるいな。新しくテレスを見つけてよ。」


 ...随分と気に触る言い方をするじゃないか。恐らく、レグルが言う新しいテレスとはユカちゃんの事だろう。


 神経を逆撫でするかのようなレグルの物言いに、酷く不快感を募らせた俺は、少しだけ言葉の中に怒気を含ませて言う。


「ユカちゃんはテレスじゃねぇよ。」


「...悪い。失言だった。」


 レグル自身も無意識下での言葉だったのだろう。自分の発言がいかに酷いものだったのかに、ハッと気づくと、慌てて俺に頭を下げてきた。


「あの頃はあの頃だ。今と違うのは、俺だって頭では分かっているんだ。」


 あまりにも酷い失言をした自己嫌悪からだろうか。レグルは苦々しい表情を浮かべると、ガリガリとまるで血が出そうな勢いで、自分の頭を掻きむしっている。グローブ型コントローラーとVRゴーグルの表情読み取り機能により、手の動きや表情は現実のものと遜色なく、このアバンダンド世界に反映される。だから、これは単なるゲームキャラクターのポーズではなく、現実でもレグルは同じ行動をとっているのだろう。


「...俺達は、メズにあの頃のテレスになる事を求めてしまった。そして、メズもテレスになろうと必死に頑張っていた。だから、ユニーク武器を持っていたテレスと同じ存在になれるように、俺達は皆で金を出し合い、最強のギルドマスターの象徴として、ユニーク武器をメズに与えてしまった。」


「まぁ、俺がナイトアウルからいなくなったあと、突然メズがユニーク武器を持ち始めたからな。そういう事なんだろうなというのは薄々分かってた。」


「それも、メズにとってはテレスにならないといけないという更に強いプレッシャーになってしまったんだろうな。良かれと思って俺達のした何もかも全てが間違ってたんだ。だから、このナイトアウルの崩壊も必然だったのかもしれないな。」


 自嘲するようにレグルは呟き、俺は何も言えないでいる。


「お前は大丈夫か?俺達がメズにしてしまったように、お前はあの子にテレスを求めていないか?」


 そのレグルの問いかけに"違う"とハッキリ言い切れない自分がいる。もしかしたら、俺も無意識のうちにユカちゃんにあの頃のテレスの姿を重ね、求めてしまっていたのかもしれない。テレスというプレイヤーはそれ程までに多くのアバンダンドプレイヤーにその爪痕を残して消えていった。あいつと出会ってしまった時点でその存在を無視する事など出来やしないのだから。


「なぁ、アルゴ。俺達にナイトアウルを建て直す時間をくれないか。このギルドが立て直せるまでで良い。...頑張ってはみたが、凡人の俺じゃダメなんだよ。」


 苦しそうな表情を浮かべ、懇願してくるレグルに俺は言葉を詰まらせる。


「...俺に何をしろってんだ。」


 何とか言葉を捻り出して、こう言ってはみたものの、レグルが俺に何を言いたいのかは既に分かっている。俺がレグルと同じ立場だったとしたら、言う言葉は一つだけだ。


「期間限定で良いんだ。ナイトアウルのギルマスを引き受けて欲しい。アルゴならナイトアウルのメンバー全員が納得するはずだ。今の俺達には精神的支柱が必要なんだ。」


 ...これは呪いにも近い。いくら、逃げてもテレスがついて回ってくる。


 "私ね、アルゴちゃんにナイトアウル任せたいと思ってるの。引き受けてくれるかな?"


 あの時彼女が俺に言った言葉が、俺の頭の中で反響するように何度も鳴り響いてくる。


 俺は深くため息を吐き、「...分かった。メズに全て押し付けた責任は俺にもある。ギルマス引き受ける話考えといてやるよ。ただし、お前の言う通り期間限定でな。」とレグルに言う。


「助かるよ。」


 そう言って、レグルは再び深く丁寧に俺に頭を下げる。


 ...クソ、とんでもなくめんどくさい事を引き受けてしまった。ちょっと前にあんだけカッコつけて五つ葉のクローバーに入れてくれって言ったのに、ナイトアウルのギルマスやるから、ちょっと脱退するなんてユカちゃんにどうやって伝えりゃ良いんだよ!!!!!



お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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