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第1章4話〜売って売って売りまくったよな〜

「メズが悪かったな。お前のところに転がり込んだんだろ。誘ってくれて、感謝するよ。あいつ行き場どこにもなかったと思うから。」


 レグルはそう言うと、俺に深く頭を下げてくる。


 別にそんな頭下げられる事なんて、俺はしてねーんだがな。


「頭あげろって。うちのギルマスが拾ったんだよ。俺がギルドに引き入れたわけじゃない。」


 レグルの勘違いに俺は苦笑いを浮かべ、「だから、気にするな。」と右手を軽く横に振る。


「ギルマス...。あぁ、あの動画の子か。」


 レグルは下げていた頭を上げると、そうボソリと呟く。


 レグルまで知ってるとは、どんだけあのピアス狩りの時のユカちゃんの動画見られてんだよ。


「あの子、何となくテレスに似ているな。お前があの子を気に入るのが、分かるような気がする。」


「全然似てねぇよ。確かにプレイヤースキルは両方ズバ抜けてるけどよ。ユカちゃんはもっとまともだ。テレスは本当に何をしでかすか分からなかったぞ。」


 俺はレグルの言葉に対して、強くかぶりを振って否定する。


 あの頃、俺はナイトアウルのメンバーの中で一番テレスに近いところにいたという自負がある。それでも、テレスが何を考えていたのかなんて、未だに分からない事ばかりだ。思い返せば思い返すほど本当に頭のおかしな女だった。


「まぁ、確かにな。あの当時のテレスを一言で表すなら...、カオスだったな。」


「まぁ、常識ハズレだったのは間違いないな...。」


「アルゴ、お前も相当人間性に問題があるが、テレスはその比じゃない。あいつの思考回路は誰も理解出来なかった。」


「まぁな。未だに俺も、テレスがあの時何を考えてたかなんて分からないままだからな。」


「ただ、そこがテレスの魅力で皆惹かれていったわけだがな。気弱で臆病なのに、やることなすこと全部ぶっ飛んでた。最高のリーダーだったよ。」


「ほんと言ってる事と、やってる事の乖離が凄まじかったな。俺達のリーダーは。」


 初代ナイトアウルのギルドマスターの話をこんな風にじっくりするなんて久しぶりだ。今思い返しても笑ってしまう事ばかりだ。


「レグル、グリルチキン祭り覚えてるか?あれ食っても力は普通プラス二しかされないはずなのに、アップデート後にプラス二百になってたバグ。」


 思い出話に花が咲くとは、まさにこの事だろう。グリルチキンというワードで、レグルはブッと吹き出すと顔をニヤニヤとさせ、饒舌に語り出す。


「あったな!クソ懐かしいじゃねーか。忘れるわけねーよ!テレスの命令で、ギルド総出でフレイムバード狩りしてよ。全部の町や国で、香菜や香辛料を買い荒らして、グリルチキン焼いたよな。アルゴが料理してんの初めて見たぞ。」


 俺の背中をバンバン叩きながら、実に楽しそうにレグルは笑う。


「実際、アバンダンドで料理なんて、あの時まで一回もやった事なかったからな。レベルなんて1だったのが、これだけで料理人レベル13まで上がったぞ。」


「焼いて焼いて焼いて、売って売って売りまくったからな。そりゃ、レベルも上がって当然だ。修正されるまでの数時間で、五百万Gは稼いだっけか。」


「宣伝部隊まで作って、本格的だったな。全エリアでグリルチキンが力がプラス二百の効果です。ヴォルトシェルで売ってますって叫びまくってよ。」


「鳥が消えた日だっけ。今でもクソ笑える話だよな。」


「ちげぇねぇな。」


 それから、レグルは当時の事を振り返って、しみじみとした口調で語り始める。


「テレスがいて、アルゴがいて、メズがいて、あの頃が一番面白かったな。まだゲーム自体サービス開始二年目で分かんねえ事ばっかで、手探りで皆で攻略してったよな。」


「そうだな。世界で最初にネームド狩り達成出来た時は、俺ですら感慨深いものがあったぞ。グレイトベアよりも早くネームド倒せたのは燃えたよ。」


「面白い事ばっかだったよなぁ。」


 ひとしきり二人で思い出話に大笑いすると、ふぅ、とレグルは一息つき、少しだけ陰のある顔つきになった。


「...メズの炎上はナイトアウルのメンバーにも責任がある。あいつ、本当に一生懸命ギルマスやってたんだ。あいつなりにテレスの代役を果たそうと必死だったと思う。だから、俺達も必要以上にメズを担ぎ上げちゃったところがあるんだ。」


「メズの炎上に関しては、俺も責められねーよ。結局、メズがギルマスを引き継ぐのを分かって、俺は出て行ったわけだからな。俺もあいつに重荷を背負わせた一人だ。」


「あいつ、俺達に対する不満をブチまけるだけだったら、除名する事もなかったんだ。あいつを苦しめたの俺達なんだからな。でも、それだけじゃ済まなくて、メズ色んなところを怒らせるような事も書いてたんだ。ギルドを守る為には、あーするしかなかったんだ。メズには悪い事してしまったよ。」


 そんなレグルの呟きに、俺は再び首を横に振り、「あいつはあいつで、俺達の所で元気にしてるからあんま気にすんな。」と否定する。


 気休めじゃなく、本当に元気すぎるからな。ラーメン二杯俺に奢らせておいて落ち込んでるもクソもない。


「...なぁ、アルゴ。マジでナイトアウルに戻って来ねーか?メズも今すぐってわけにはいかないが、炎上も収まったら、戻ってきてもらってよ。ユカちゃんだっけ?あの子も連れて来いよ。他のギルドメンバーだって受け入れるぞ。」



お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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