第1章2話〜最高レアだな〜
「ナイトアウルの初代ギルマスが、人前に出るとパニックになる人だったからな。幹部だった俺とメズはギルマスの代理でよく一緒に行動させられてたんだ。だから、俺とメズをそういう風に勘違いする奴多かったよな。」
「アンタと噂になっていい迷惑だったわよ、こっちは。」
メズは大変不愉快そうに眉を顰めながら、払いのけるように手を振る。
「ナイトアウルの初代ギルマスさんって、カリスマ性が凄かったって聞きましたが。人前に出るのが苦手だったんですか?」
ユカちゃんはどうも周りから聞かされていた初代ナイトアウルのギルドマスターの印象と、今俺とメズが言った彼女の印象に乖離があるらしく、小首を傾げながら尋ねてくる。
...んー、何て言えば良いだろうか。俺はあの頃の事を一つ一つ思い出しながら、口を開く。
「実際、カリスマ性は物凄かったぞ。彼女の超人的プレイングを見た者は誰もが魅了されたからな。ただ、人前に出るのが苦手で、いつもしどろもどろで周りがサポートしてあげないとヤバいと思わせられる人だったのも間違いないな。」
俺は脳裏に在りし日の彼女の姿を思い返す。喋るのも苦手だったし、人付き合いも苦手だったのに、よくもまぁ、ギルドマスターをやろうなんて思えたな、あの人。...懐かしいな。
「戦闘に関してもPvE、PvPの両方とも本当に鬼のように強くてな。まさに最強だったよ。それでいて、公式イベントとかにも運営から声かけられてたらしいんだけど、ずっと断ってたせいで、どんどんミステリアスな存在になってったんだ。外部の奴らからしたら、とんでもないカリスマ性のある人物に見えたんだろうな。」
「自分の全てをアバンダンドに注ぎ込んでる子だったわね。ま、良い意味でも...、悪い意味でも。」
メズは俺の言葉を補足するようにそう言った後、苦笑いを浮かべる。
俺とメズの掻い摘んだナイトアウルの初代ギルマスの説明に、いつもなら、"ダメ人間じゃないですか!"なんてユカちゃんが突っ込んできそうなものだったが、何となくメズが懐かしそうに彼女を語る表情の断片から、そう突っ込んではいけない空気みたいなのを察したのだろう。ユカちゃんは何も言わずに、ただ頷いている。凄く察しの良い子だ。
あいつはメズにとって一番の親友であり、妹のような存在だった。久しぶりに彼女の話をして懐かしそうにしているメズに俺は一つ尋ねて見る事にした。
「なぁ、メズ。久しぶりにナイトアウルに一度顔を出しに行こうとは思ってんだが、お前も行くか?」
俺からの提案にメズは眉を顰め、深くため息をつく。
「...行けるわけないでしょ。ナイトアウルから除名されてんのよ、私は。」
だよな。クソ、一人で行くのは少し気恥ずかしいがしゃーねぇか。
―――
翌日の昼間。ユカちゃんやレンタロウが学校に行ってる時間帯に、俺は第二層にあるクランス・パイラル城の隣のゲートへと一人向かっていた。俺がレベル50以上である事と、メインストーリー進める事で入手できる許可証をゲートにいたNPCが確認するとゲートの通行が許可され、少し進んだ先に蒼穹回廊行きの魔法陣があった。
ここに行くのは、いつ以来だろう。ラビッツフットで蒼穹回廊の土地を買った時は、そのうち見に行こうと思っていたが、あれから大分時間が経っちまったな。
俺は魔法陣の上に乗ると、蒼穹回廊への転送が始まる。光に包まれ、何秒もかからないうちに転送が終わると、「お金ください!!!!!!」「ゴールドください!!!!!!」と、多くのプレイヤーの絶叫が蒼穹回廊に鳴り響いていた。
...相変わらず地獄みてーな光景だ。ここは変わらないな。
こんな事をこいつらは叫んでいるが、誰も本気でゴールドを恵んでもらおうなんて思っているわけじゃない。蒼穹回廊という超一等地にギルドを建てたプレイヤーに対する嫌がらせ目的が殆どだろう。
レベルとメインストーリーさえ進めれば、誰でも入る事の出来るエリアであるからこそ、こうやって迷惑行為を繰り返すプレイヤーが後を経たない。
お金ください。ゴールドください発言は、あくまでもハラスメントじゃないところがいやらしい。嫌がらせする奴らも本当に頭を回してくるから、タチが悪い。別に人を誹謗中傷する言葉でもないから取り締まりしづらいのが運営が頭を悩ませたところだ。何とか運営が絞り出した答えが、イメージを崩す 他のプレイヤーに迷惑になる と言った理由で、ギルドメンバー以外はギルドに近づけない透明の壁を実装している。
これが実装される前までは、ギルドから出る度に入り口にたむろしている人だかりから、罵声を浴びせられていたのを思い出す。
さて、どうすっかね。知り合いの名前を検索かけて、個人チャットして、壁を通り抜ける許可を出してもらってもいいが、久々にここにきたんだ。焦る事など何一つとしてない。知ってるメンバーが来るのを待つ事にしよう。ナイトアウルにいた時と違って、今は働いてないんだ。時間は無限大にある。
見上げると空が非常に近い。空の中にいると言っても過言じゃない。まさに蒼穹の名にふさわしいところだ。こうやって、景色を見ながらゆっくりするのも悪くはない。
さてさて、誰が一番最初に通りかかるかね。
見えない透明な壁にアルゴを寄りかからせるように操作すると、ガチャを回す気分でぐるりと辺りを見渡す。すると、ナイトアウルに所属していた頃には無かった巨大な黒い高層ビルのような建造物が目に入った。
恐らく、あれがラビッツフットのギルド本部だろうな。...ビルにするとはセンスがねーなぁ。あれじゃ、会社じゃねーか。
はぁ、と深く俺はため息をつく。
ラビッツフットはメンバーの殆どが働いていない為、高層ビルに憧れがあるのかもしれないと邪推してしまう。ゲームでまで会社ごっこしても面白くねーだろうに、何でわざわざゲームに現実っぽさ持ってくるかねぇ。
俺が今もギルドマスターだったなら、今にも崩落しそうな感じのボロボロな城とか塔とかにしていただろう。下手に小綺麗な建物よりよっぽど迫力あるし、ラストダンジョンみてーの方がぜってえいいよなぁ。ラビッツフットは別に正義のギルドではないし、どっちかってと悪のギルドっぽさもあったしな。最上階にギルドマスターの部屋つくってよ。ボッロボロのでけーイスとか置くとかいいよな。
クソ、ハウジングやりたくなってきたじゃねえか。高さ制限のあるヴォルトシェルの他の階層でそんなの作っても映えねーしよ。ぜってー蒼穹回廊の土地だけは返してもらわねーとだな。あのクソみてーなビル解体して、更地にしてやる。で、内装は全部禍々しいものにして、
「おい、アルゴ。ここで何してんだよ。ナイトアウルの本部に入りてーのか?」
んだよ。うるせーな。俺の思考の邪魔すんなよ。誰だよ、まったく。
俺が顔を上げた先にはよく見知った、かつて俺が所属していたギルドのメンバーが怪訝な顔をして俺を見つめていた。眉にかかる程度の長さの前髪、逆立ったツンツン頭が特徴的な白銀の鎧を身に纏った人間族の王国騎士。現ナイトアウルの代表だ。ソーシャルゲームのガチャで例えるなら、こいつはURだろう。
「いきなり、最高レアだな。」
俺はグッと拳を握り、小さくガッツポーズをする。
「相変わらず訳分んねーな、お前は。」
彼は俺の前に手を差し伸ばしてきたので、俺も手を伸ばし、握手を交わす。
久しぶりだな。レグル。
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