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第3章13話〜餞別だ〜

 俺がそんなユカちゃんの姿を一人思い返していると、いつの間にかハルが俺の隣に陣取っていた。ツンツンと俺の事を人差し指でつつきながら、ハルが立腹した顔で囁く。


「どうして、私達を置いて行ったの。」


 ハルはホーブとは違い、俺がアルゴだと確信しているようだ。


「...知ってんだろ。追い出されたんだよ。まぁ、自業自得だけどな。」


 思いがけず、いつもより声が低くなり、少し冷たい言い方になってしまった。ラビッツフットのメンバー達との邂逅で多少なりとも感情的になっていたらしい。俺を除名したホーブだとは頭では理解していたものの、ホーブが行った俺の除名投票に賛成の票を投じたであろうハル達に対しても、心の奥底では不満があったのかもしれない。


「私はアルゴちんについて行きたかった。」


 ハルからは怒りの感情は消え、今度は寂しげな声で俺に呟く。その言葉には嘘偽りなさそうに思える。


「...いつから、気づいてたんだ?」


「んなの。最初からに決まってんじゃん。大好きなアルゴちんだもん。声で分かるよ。知らないふりしてただけ。蕨も多分だけど気づいてる。」


「...何で知らねえフリなんかしてんだよ。」


「そりゃ、私に何も言わずに出てった事に結構本気でムカついてたし。あと、せっかく本気のアルゴちんと遊びたかったしね。やっぱ、アルゴちんにPvEじゃ勝てないなー。」


 ハルは両手を後頭部で組み、「あーあ。」と悪びれる事なく、悔しそうに呟く。


「...なるほど。んじゃ、ホーブが俺に気づかないのは何なんだ。」


「あいつはあいつで、アルゴちんとはベクトルの違うバ⚫︎だし。多分声とかじゃなくて、動きで判断してんじゃない?だから、ユカユカちゃんの超人的なプレイを見て、アルゴちんだろって言ってるんだと思う。」


 今、こいつ、ナチュラルに俺の事をバカって言ってきやがったな。...まぁいい。とりあえず、何も聞かなかった事にしてやろう。


「ねぇ、アルゴちん。あの時のパワハラ音声って、運営の方で忙しかったアルゴちんの代理で、私が金策チームのリーダー任せられてたのに、うまく集金出来なかったから、アルゴちんが代わりに怒ってくれただけのやつじゃん。」


「ああ、あの音声ってその時のやつか。別にハルのせいじゃない。ノルマも果たさねーで、自分の主張ばっか繰り返す奴の事がきれぇだっただけだ。気にすんな。」


「でもぉ。」


「いーんだよ。いつもあんな発言ばっかしてりゃ、いつかは、こうなってもおかしくなかったんだからな。んな事より、今はうまくやってんのか?」


「あのままじゃダメだと思って、最近は地を出してやってる。大好きなアルゴちんいなくなったんなら、こんな奴らに猫被る必要ないし。」


「んじゃ、それが本来のハルって事か?」


「そ。アルゴちん見習って、愛のあるパワハラしまくってるよ。」


「一番マネしちゃいけねーやつだろ。それ」


 予想外の言葉に、俺は思わず笑ってしまった。


 久々に見たハルの性格がクソ悪く見えたが、あれは俺の真似も入ってるって事か。外部から見たら、俺ってあーいうふうに見えてるんだな。少し気をつけよう...。


「今はもうついていけないけど許して。とりあえずはホーブのラビッツフットで頑張る。」


「許すもどうもこうもねーよ。好きにやりな。」


 その言葉にハルは、「うん。」と頷きながら言うも、ハルはサイドの髪の毛いじりながら、少しだけ不満そうな声で、俺に尋ねてくる。


「ねぇ、アルゴちんは黒髪が好きだと思ったんだけど違ったんだね。」


「いや、間違ってない。ミルクティーカラーが一番だが、黒髪は三番目に好きだ。」


「...ふーん、そっかぁ。じゃあ、覚えとく。またねぇ。」


 ハルは小さく首を縦に振ると、ホーブの元へと走っていく。ホーブの元には、蕨餅が一言も言わずにただ、黙って戻ってくるハルを見つめていた。俺は軽く手を挙げると、何となく蕨餅も頷いたように見える。


 あいつも大丈夫だな。...さて。


 俺は再びユカちゃんとホーブを見る。


「確かに!これはモ、アルゴさんに借りたのものです!でも、私はアルゴさんじゃありません!」


「いーや!お前はアルゴだ!そうじゃなきゃあんな芸当出来るわけない!」


 やりとりはいまだに続いていた。...まだやってたのか。一体何やってんだこいつら。


「あのさぁ、アンタ。アルゴに執着しすぎ!言っておくけど、私達アルゴの下に着いたわけじゃないわよ?」


 そう言うとメズは、ホーブに対して見下したように言葉を続ける。


「良い?私達は、このユカユカちゃんの下についたの。あのアルゴだってユカユカちゃんのギルドに入ったのよ!」


「あのアルゴが、いまさら誰かの下につくわけがないだろう。自分が上にいないと気が済まない人間だからな!」


「いや、アルゴさんは人の下につくとか、上にたつとかそんな事考えてるわけがない!あの人は、自分の事だけしか考えていない!そもそも、ラビッツフットは最高効率求める為に作っただけだよ。それで一番上の立場になったというだけで。ホーブは勘違いしてる!」


 ...子供の喧嘩かよ。三人とも俺の名前を出してギャースカ揉めている。人の話題でよくそこまで盛り上がれるものだ。


「良い?アンタはアルゴに負けたって事にしたいんだろうけど、アンタはこのユカユカちゃんに負けたのよ。必ず、そのうちあんたのラビッツフットも潰しに行くんだから覚悟しときなさい。」


「そ、そんな事、私はしませんよ!変な揉め事持ってこないでください!」


 調子こいて胸を張りながら、とんでもない発言をしているメズを、ユカちゃんが羽交締めしてとめようとしている。


「ユカユカか。その名前覚えておこう。」


 宣戦布告されたホーブは、ジロリとユカちゃんを見つめている。


「覚えなくていいです!喧嘩も売ってませんから、やめてください!」


 ユカちゃんが頭を抱えながら、どうしたら良いと悶えている。


 何やってんだか。


「まったく、こんな分からず屋にこれ以上付き合う事ないですよ。もう、帰りましょう。皆集まってください。」


 ササガワはそう言うと、ダンジョン脱出用の呪文を唱え始める。俺もその呪文の範囲内に急いで入る事にする。死霊使いはソロがコンセプトで作られている為、ソロ活動に必要な呪文やスキルが多く使う事が出来る。これもその一つだ。


 移動系呪文の詠唱には、相当時間がかかるのがネックではあるものの、仕方ない事だと思う。もし、モンスターに絡まれても、発動が早かったとしたなら、いつでも避難出来て緊張感も何もなくなっちまうからな。俺はこのゲームのこういうバランス感は好きである。


 そろそろか


 呪文の光が発動したタイミングで、俺はホーブに大声で呼びかける。


「おい、ホーブ!餞別だ、ラビッツフットはお前にくれてやるよ!」


「...っ待て、アルゴ!」


 そう声がしたと同時に、俺は光の中に包まれる。


 言い逃げは卑怯かもしれねーが、これもまた一発ぶん殴ってやったって事になるだろ?


お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。


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