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第1章〜一緒に倒しましょう〜

 俺は町にある各プレイヤー、一人一人に与えられた冒険者の家と言われる自分の家でキャラクター操作の確認をしていた。倉庫アカウントとして使っていた分には、そんなに違和感も無かったが、実際こいつでメインプレイするって事になると、操作感の違いに四苦八苦する。


 ...視点がたけーな。慣れるまで、戦闘に苦労しそうだ。


 俺は腕と手の動作を確認する為に目の前に右手を持っていく。今の俺の腕は、青柳色とでもいうのだろうか、濃い黄緑色が目に映る。俺は設定で一人称視点から三人称視点へと切り替えると、こいつの全身がVRゴーグルの画面に映し出される。手や腕だけでなく全身が青柳色であり、頭髪は一本もなく、代わりに三本のツノの生えたオーガと言われる鬼の種族の姿がそこにあった。


 ...改めて見てみると、完全に怪物だなこりゃ。


 このゲームでは、オーガという種族になっているものの、濃い黄緑色の肌に三本の角の姿は、一般的にはトロールと言われるモンスターの方がイメージに近い気がする。それに、自分でつけておいてなんだが、名前だって酷い。俺の頭上にはMonokeyというプレイヤーネームが表示されている。読み方はモノーキーだ。


 由来は物置。倉庫キャラとして作ったんだから、名前なんてこんなんでいいだろ、適当な理由でつけてしまっていた。こいつで当分メインプレイすることになるんだったら、もう少しまともな名前にすりゃ良かったと、今更ながら後悔してしまう。


 俺は再び設定から、視点を一人称へと切り替え、頭髪のないツノの生えた頭に手を当て、どうしたもんかねぇと考え込む。もう一度新規アカウントを作る事も考えたが、アカウント開設は少額とはいえ有料だ。絶賛無職中で社会人時代に貯めた貯金を切り崩しながら生活している今の俺の状況では、生きていくのに必要な事以外には、出来る限り金は使いたくない。


 このアバンダンドというゲームでは、種族は一度決めたら変更出来ない。こうなったら、オーガでやるしか俺に選択肢はない。


 ...どうやって、こいつを当面の間育てて行くべきただろうか。


 俺はため息をつきながら、今度はメニューからステータスを開いて数値を確認する。やはりMPと神聖力はオーガは高くない。


 オーガ族の基本ステータスは以下の様になっている。


 HP:A

 MP:C

 攻撃力:S

 防御力:B

 魔力:C

 神聖力:C

 素早さ:D


 これを見て分かる通り、HP、攻撃力、防御力と肉体の強さが光る種族となっている。その為、アバンダンドプレイヤーからオーガ族は脳筋と言われているが、それも納得のステータスだ。しかし、今の俺のジョブは僧侶である。僧侶で重要となるステータスは神聖力とMPだが、数値が示すようにオーガで僧侶をやるのはあまり良い選択肢ではない。それでも、俺がこのジョブを選んだのは、僧侶が一番レベル上げをしやすいジョブだからだ。


 僧侶は攻撃力も防御力も低く、ソロプレイは不得手だ。しかし、敵に攻撃を与える事をメインとするアタッカーのジョブは豊富なのに比べて、回復を使えるジョブは数が少ない為、パーティプレイにおいては、その希少性と重要さから大人気となっている。


 アタッカーは自分から、「パーティに入りませんか?」または、「入れてくれませんか?」と動かない限り、中々パーティを組む事が出来ない。それに対して僧侶は、ボーッと町に突っ立っているだけでも、「もし、よろしければレベリングパーティに入りませんか?」と常に声がかかるくらいには、レベル上げに苦労する事はない。


 勿論、運営側もジョブによってのパーティプレイでの人気格差は想定済みであり、その対策として似たようなレベル帯の人で、自動的にパーティを作ってくれるシステムもある。ただ、ぶっちゃけあまり使われることはない。


 その理由としては、


 例えば、あまり火力が高くない盗賊は余っているとする。この自動パーティ作成システムを使って、5人パーティを作ってもらうとメンバーの構成が、


 武盗盗盗魔


みたいな事もあり得る。武は武闘家 盗は盗賊 魔は魔法使いを表している。


 いや、別にこれで良くない?と思う人もいるだろう。しかし、タンクロール、つまり敵からの攻撃を受ける事をメインとするジョブなら、盾を装備出来る戦士や王国騎士を選んだ方が効率は良い。


 アタッカーロールなら、盗賊より火力の高い、暗殺者、魔剣士、海賊、魔法使いを選びたい。


 ヒールロールなら薬師よりも回復性能が高い僧侶を選びたくなる。


 結局の所、レベル上げに非常に時間のかかるこのアバンダンドというゲームでは、出来る限り経験値を効率良く稼げるパーティを自然と望んでしまい、自動パーティ作成は、誰も使わないゴミシステムとなってしまった。そのうち削除されるんじゃねーかなこの機能。


 ...出来る限り、ラビッツフットの奴等に遅れをとる訳にはいかない。せめて金稼ぎをして、メインアカウントが復活するまでの間を繋ぎたい。少なくとも、このモノーキーを低レベル帯のユニークモンスターをソロで狩れる程度にさえ上げる事が出来れば、それで良い。


 ソロで金策するをするのならば、力とHPが非常に高いオーガで、ヒール魔法で自己回復出来る僧侶選んでおくのは、案外悪くない選択肢とも言える。


 それに、幸いな事に俺は元々自分で言うのもなんだが、四大ギルドに迫ろうかという規模のギルドのマスターをしていたプレイヤーだ。


 メインアカウントが停止されても、サブアカのこいつに、かなりの数の装備やアイテムは渡してあった。だから、魔法関連のステータスは装備で補える。装備の整っていないエルフや人間族程度なら、魔法関連のステータスすら、俺の方が上になる事も可能だろう。


 とりあえず、一気にレベル上げるから、レベル15になるまでの装備は持ってく事にしよう。


 俺はアイテムを詰め込んでいる宝箱を開け、持っていくアイテムと装備をガサガサ取り出していると、一つ目につく装備があった。


 あー... 。こいつ、こんなところに入れっぱなしだったんだな。最近使ってなかったもんな。


-----

鮮血兎の足


装備蘭:アクセサリー

防御率+1 ドロップ率+1%

-----


 ギルド、ラビッツフットの元ネタとなったアイテムだ。能力値だけで言えば、まったくもって強くないアイテムだが、市場価格は1000万は優に超えるほどの値がついている。それもそのはずだ。こいつを持ってるプレイヤーは、この世界において俺を含めて3人しかいない。


 あるユニークモンスターが相当な低確率で落とすアイテムだ。その確率は0.01%とも0.001パーセントとも言われている。このゲームのサービス始まって以来、こいつを落とすユニークモンスターである鮮血兎は、毎日誰かに倒されているにも関わらず、3個しか存在していないのを考えると、その希少性が分かるはずだ。


 こいつがあったからこそ、俺はこのゲームで上を目指せたとも言える。ま、色々あんだよこれには。


 俺は腰に鮮血兎の足を身につける。こいつを装備するのなんていつ以来だろう。


 さて、冒険の世界に行きますとしますかねぇ。


 玄関の扉を開け、俺はプレイヤーが最初に配置される事になる、ダンデリオンの町へと足を踏み入れた。


 冒険者の家から外に出ると、ヴォルトシェルのような天空都市と違って、大地に根差した町がそこにはあった。周りを見れば、木々や花々が至る所に咲き乱れている。少し遠くには小川が流れて、そこには魚もたくさんおり、桟橋の上から、のんびりとひたすら釣りをして楽しんでいるプレイヤーもいる。


 情緒のある町だ。


 ここはゲーム開始時にプレイヤーがランダムで配置される3つの町の一つだ。ここに限らず、初心者が初めて町に降り立った時、まさに現実そのものとしか思えないほどのクオリティの風景を見て、とてつもない感動を得るはずだ。勿論、俺も始めた時はそうだった。ここの景色を見ながら、ゆっくりと町を回るだけでも、とてつもなく楽しい。しかし、今は違う。早く町を抜けてモンスターを狩りに行かねばならない。俺は背中に棍棒を背負いながら、一目散へと町の出口へと向かって走り出す。


 町の出口には、警備兵が突っ立っているが、一瞥もくれずに街を抜けようとすると、いきなり警備兵が俺の目の前に立ち塞がり、外に出ようとする俺を止めてくる。


「おい 貴様!この出口を抜けるとモンスターがフィールドに、」


 うるせぇ スキップだ。


 俺は画面上に浮かんでいるスキップボタンをタップすると、NPCの警備兵は喋るのをやめ、元の位置へと戻って行く。


 よしよし、それで良いんだよ。


 そういや倉庫キャラとして作ったこいつは、初めて町の外へ出るから、こういうイベントがいちいち起きんのか。だりぃな。


 町を抜けた先には、どこまでも広がる巨大な平原を中型犬ほどの大きさの巨大な芋虫が動き回り、火を吐きながら飛んでいる鳥などの現実世界では絶対にあり得ないような光景が目に入ってくる。


 さてさて。とりあえず、こいつでぶん殴ってみますかねぇ。


 俺は巨大な芋虫へ近づくと、思い切り棍棒を芋虫へと振り下ろす。すると一撃で芋虫は意識を失い、光となって消えていく。


 おお...。クソ強え。


 一般的にレベル1がつけれる武器の価格が100〜200G前後の中、俺のこの棍棒はなんと10万Gするユニークモンスターが落とす逸品だ。僧侶が付けれる武器は主に杖なのだが、この棍棒も杖として認識されているのは面白い。


 金にものを言わせただけあって、本当の意味でこのレベル帯最強の武器である。同レベル程度の敵であれば、軒並み一撃で倒せるだろう。その上、防具だってこのレベル帯最強のもので揃えてあるから、敵からのダメージも全く喰らわない。


 ...誰もいねーし、範囲狩りするか。


 俺は、地面に落ちている石を拾い上げると、目の前にいるモンスター全てにぶん投げていく。石が直撃した事で怒ったモンスター達は、逃げる俺の後を追ってくる。その数10体以上である。流石に、この数ともなると、この装備でもだいぶダメージを喰らい始めるな。


 ま、そろそろかね。


 俺は薙ぎ払いのスキルを使う。MP消費は3と、中々大きいが、敵の数が多ければ多いほどこのスキルは効果を増す。棍棒が光を纏い、俺が横に棍棒を薙ぎ払うと、目の前のモンスターが全て光となって消え、俺のレベルが3まで一気に上がる。


 ...ヤバい。強すぎる上に、経験値もうますぎる。よしよし、低レベル帯はレベルが上がりやすい上に、最高効率のやり方だ。貰える経験値の量が尋常じゃない。僧侶で自己回復出来るし、このやり方でもう少し続けよう。


 何度か同じ工程で狩りをしていると、俺のレベルは6まで上がる。初心者であれば下手したら数時間どころか数日かけて稼ぐ量の経験値を俺は数十分で稼いだ事になる。ここまでレベルを上げてしまうと、現状の場所では少し経験値が物足りなくなってきた俺はフィールドの少し奥まで向かい出す。


 目的地へ走っている最中、ふと、俺は自分の右手首あたりが青く滲んだ光が目に入ってくる。これは新規キャラクターをプレイして、30時間未満の人に現れる初心者を表す光だ。この光を放っている人がいたら優しくしてねという、運営の心遣いである。


 少し立ち止まり、この光を見つめていると本当に俺はこれで良いのだろうかという気もしてくる。あのままラビッツフットをホーブに渡しておけば、確かにあいつならうまくやるだろう。


 こんな初心者みたいになってまでこのゲームにしがみつくよりも、引退した方がラビッツフット初代ギルマスとしての終わり方は、綺麗なんじゃないだろうかという気もしてくる。こうやって昔と同じように初期のエリアの風景を見て、終わるのも悪くはないんじゃないだろうか。


 いや...。自分で言っておいてなんだが、普通に無理だな。多分引退はできねぇ。


 俺は重度のネトゲ中毒だ。


 こんな事考えていても、どうせ明日には、このサブ垢でログインしてる姿が目に浮かぶ。やめるやめる詐欺になるのが分かりきっている。...続きをやるとするか。


 俺は再び平原の奥へ走って移動しようとすると、体力ゲージが微かに減っていくのに気づいた。


 あん?


 目の前には今の俺を小さくしたような茶色の小鬼のような生物がナイフで俺を切りつけてきている。


 ゴブリンLV10だ。


 あー、クソ絡まれた。ちょっとレベルたけーな。ここまでレベル差がある奴と戦うのは、今日初めてだ。ダンデリオンまで逃げるか?いや、勝てる気もするな。とりあえず、一撃ぶん殴って削り具合を見て決めるか。


 俺はゴブリンに攻撃する為に棍棒を構えると、すぐ近くから声が聞こえてくる。


 なんだ?


「そのモンスターはまだ早いですよー!!!」


 声の方向に顔を向けると、ミルクティーカラーの髪色をしたポニーテールの少女が叫んでいるのが見える。


 先ほどの声の主は、あの子か。


「私をパーティに誘ってください。その子の推奨レベルは、最低でもレベル8です!」


 そう彼女が叫ぶと、俺の目の前にウインドウが現れる。


【Yukayukaがパーティ参加希望を出しています。】【承認しますか?】【はい】【いいえ】


 突然の出来事に俺が困惑していると、彼女が再び叫ぶ。


「早くしてください!死んじゃいますよ!」


 お、おう。とりあえず、彼女の言う通り、【はい】を選んでおくか。


 叫んでいる女のあまりの勢いに押されて、俺は承認許可を出す。


「ありがとうございます!!さあ、一緒に倒しましょう!」


 彼女は懐から短剣を取り出すと、ゴブリンに切り掛かっている。俺はその光景を見て、思わず感心していた。彼女の右手首にも俺と同様に青い光が見える。つまり、彼女は初心者だ。身につけている装備も大した物ではないし、レベルも9と低い。下手したら自分が負ける可能性もあるのに、デスペナ気にせず助けに来るとは、中々出来ることじゃない。


 ゴブリンの攻撃を一身に受ける事になった彼女は、予想以上のゴブリンの攻撃力の高さからだろう。「うっ...。」と声を上げたあと、チラッと俺の方を一瞥し、声をかけてくる。


「すみません。大口叩いて加勢に入ったのに申し訳ないのですが、このままですと、もしかしたらギリギリかもしれません。」


 その言葉通り、既に彼女のHPは3分の1ほどが削られている。確かに彼女1人で、このゴブリンを倒す事は厳しいだろう。だが、これはパーティプレイだ。自分のジョブだけじゃ出来ない事をパーティメンバーならする事が可能だ。


 俺はヒールの呪文を彼女へと唱えると、その失っていた分の彼女のHPが回復していく。


「ありがとうございます!」


 俺のヒールによって体力が回復した彼女は、俺にデカデカとした声でお礼を言う。元気な子だな。


 しっかし、なるほどなぁ。僧侶ってのは、ヒールするだけでこう感謝されるのか。...悪い気分じゃないな。さて、こっちの方はどうかね。


 俺はゴブリンの頭上に思い切り棍棒を叩きつけると、ゴブリンは、「ギャッ!」と甲高い叫び声を上げるが、今までの敵と違って簡単には倒れてくれない。


 当然、レベル差がある敵だ。この一撃だけでは、このレベル帯最強の武器であるこの棍棒でも倒せない事は分かっている。だが、これで十分だ。この攻撃によりゴブリンのヘイト、つまり敵が誰を狙うかを決める事になる敵対心というシステムの数値を俺は上げた。これでゴブリンの攻撃を彼女から俺に向ける事が出来る。


 攻撃の対象から外れた彼女は、その隙にゴブリンの背中に回り込み、短剣で切りつける。クリティカルが入ったようでゴブリンはその場に倒れ込むが、まだ油断は出来ない。


 まだHPは残ってんな。ま、これで終わりだろう。


 俺はトドメの一撃として、ゴブリンの頭にもう一度棍棒を叩きつけると、ゴブリンは絶命し、光の結晶となって消えていく。彼女はあまりのあっけなさに、「あ、あれ!?」と困惑している。


「おっかしいなぁ。こんなに早く倒せるはずないのに。前に私が戦った時は、あと一撃貰ったら戦闘不能になりかけたんだけど、どうしたんだろ。」


 そら、不思議に思うよな。ぶっちゃけ、この棍棒チートだもん。


お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。

よろしくお願い致します。


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[一言] 倉庫番垢は知ってそうだけどあえて潰さなかったのかな?(ギルド側が)
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