第3章5話〜むしろ知っていますか?〜
「...メズさん、良いですか。人間内心で何をどう思おうが、それは個人の考えなので構いません。けれど、それを一度でも表に出してしまったのなら、発言した責任はずっとついて回ります。」
このユカちゃんの言葉はメズに向けたものであるが、ある意味俺にも刺さる言葉だ。俺も自分の発言でラビッツフットを失脚した人間だからな。反省はしなくちゃいけない。ただ、反省はするが後悔はしていない。自分が間違った事をしたなんて、さらさら思ってないからな。
「まだ私はメズさんと出会ってから、そんなに日は経ってはいませんが、メズさんが悪い人でないのは十分分かっているつもりです。SNSに良くない事を書くような面も確かにあるのでしょうけれど、それがメズさんの全てとは決して思いません。」
ユカちゃんはメズの目を真っ直ぐ見つめながら、諌めている。
ユカちゃんは強い子だと思う。俺に対してもそうだが、明らかに自分より歳上にも間違っている事は間違っていると言えるなんて、そう簡単には出来る事じゃない。こういう事言ったら、本当の弟であるレンタロウには悪いだろうけど、メズとユカちゃんのやりとりを見ていると、まるでロクでもない姉を慰めるしっかりものの妹のようだ。このギルドには女性メンバーがメズしかいないから、仲良くなるのだろうとは思っていたが、俺が思った以上にユカちゃんとメズは相当打ち解けているように見える。
俺はこの光景に懐かしさを覚える。俺がナイトアウルにいた時もメズと初代のナイトアウルのギルマスとの間でもこういう事があった。あの時は今と逆で、メズの方があいつに対して、しっかりしたお姉さん的な役割をしていたというのが信じられない。まぁ、それだけ、ナイトアウルの初代ギルドマスターがぶっ飛び過ぎてたからだけどな。俺も狂人アルゴなんて言われてるが、あいつは俺の比なんかじゃないほど頭がおかしかった。
俺はゆっくりとメズに歩み寄ると、メズの背中をバシッと叩きながら、喉を鳴らして揶揄うように言う。
「メズ、良かったじゃねえか。まだ、物好きがいてくれてよ。ファンって言ってくれるササガワにマジで感謝しとけ。」
俺の言葉に、「...るっさいわね。」とメズはボソッと呟いた後、メズはササガワに視線を向けた。
「...でも、本当にファンなんて、もう絶滅していたと思ってたわ。ファンだって言ってくれる人がいてくれたのは、素直に嬉しかったわ。ね、ササガワくん。きっと私の事失望しちゃったでしょ?」
ササガワはメズの言葉に笑いながら、首を横に振って答える。
「いえ、失望なんかまったくしていません。知っていますか?むしろ今、またメズさん人気も出てるんですよ?」
「へ?」と、メズはササガワの言葉に面食らい、気の抜けたような声を出す。
「やっぱり知らなかったんですね。メズさん、最近SNSとかエゴサとか見ていない感じですか?」
「そりゃあ...ね。絶対にいい事なんて書かれてないもの。」
メズは再び伏し目がちで呟く。
「元々のファン層で離れてしまった人や、やらかしてしまった事で、確かにネガティブな意見もありますが、馬⚫︎女過ぎて面白い。正直過ぎて笑える。聖女と呼ばれてた女が堕ちていくのって、何か興奮する。そんな意見も沢山溢れてますよ。」
「...意味が分かりません。どういう世界なんですかそれ...。」
ササガワの言ってる事に対して、理解出来ないと頭を抱えているユカちゃんを見て、俺はケタケタ笑う。
「何度も言ったろ。アバンダンドは頭のおかしい奴らしかいないって。良かったじゃねえか、メズ。」
このギルドを見るだけでも、頭のおかしい奴らしかいないだろ?と続けようとしたが、色々と反感を買いそうだったので言うのはやめておこう。
「え、ええ。手放しで喜んでいいのかどうかはわからないけれど。...いつかはストリーマーの活動も復活してもいいのかしら。でも、そんな事考える事自体まだ時期尚早よね。...反省しないと。」
そう言いつつも、俺の呼びかけに顔を上げたメズの表情は今までよりも随分明るいように見える。そんなメズにユカちゃんは頭を下げる。
「すみません、メズさん。私なんかが色々と偉そうに言ってしまって。」
「謝らないで。こうやって叱ってくれる人って滅多にいないから、ありがとう。」
「ははは、雨降って地固まるってやつですな。美女のかけ合いが見れて僕は幸せです。」
ササガワは、ニヤニヤと柏手を打ちながら、気持ち悪いことを言っている。
...お前は一体どういうキャラなんだよ。
―――
「せっかく、ここに皆集まっていますし、何かしませんか?」と、提案したのはユカちゃんからだった。これにはササガワの入団祝いという意味合いも込められているのだろう。
「レベリングでいいんじゃないか?ササガワ、戦士25だったろ確か。」
俺がササガワに尋ねると、ササガワはOKのようでこくりと頷く。
「そうですね。死霊使いなどの特殊ジョブを出来るように25まであげる必要あったので、戦士は上げています。でも、先ほども言った通り、僕はマルチプレイが苦手なので、迷惑をかけてしまうかもしれません。」
OKを出してくれてはいるが、やはりササガワはパーティプレイをする事に、苦手意識を持っているようだ。このギルドの半分はクズ野郎しかいないのだから、何も気にしなくて良いのにな。
「大丈夫ですよ、ササガワさん。ここにいる人達は皆優しい方ですから。ね?モノーキーさん?」
ユカちゃんは、俺をじとーっとした目つきで見つめてくる。...無言の圧力を感じる。
「お、おう。任せとけ!フォローもすっからよ。」
俺は自分の胸をドンと叩いて、ユカちゃんに強く頷いてみせる。しかし、何故かレンタロウは怪訝な顔つきで、けむくじゃらの髭を揺らしながら、俺の腰あたりを肘で軽く小突いてくる。俺がレンタロウに顔を向けると、レンタロウは右手首を動かし、屈めと促してくる。どうやら話があるらしい。レンタロウの指示に従い、俺が腰を屈めると、レンタロウはこっそりと小声で俺にだけ聞こえるように言う。
「...良いのかよ、おっさん。戦士ってタンクロールじゃん。殴られる役割だぞ?絶対にダメだろ...。さっきのバレーボールの時の話みてえにPTSD引き起こすんじゃねえの?」
「...そこまで考えてなかった。確かにやばいかもしれんな。」
「あ、そこは大丈夫ですよ。」と、ササガワが俺とレンタロウの話に割って入ってくる。
俺とレンタロウはササガワに話を聞かれていた事に若干気まずくなるが、ササガワはその事に関しては全然気にしていないらしく、話を続けている。
「モンスターに殴られようが蹴られようが、そこは所詮ゲームはゲームです。痛みもないので平気です。...それよりも、自分がミスした時の事を考える方が吐き気が...。」
ササガワは何かが込み上げてくるらしく、胸の辺りを押さえている。
本当に大丈夫かよ。...こいつ。
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