プロローグ3〜ラビッツフットのギルドマスターとしてね〜
《で、どうすんの。リーダー。》
ホーブは、ため息混じりに言う。どうやら、俺の返答に完全に呆れ返っているようだ。
クソ、ここまで物的証拠を持って来られたら、俺だって多少は自分の非を認めざるを得ない。
《...そうだな。確かに俺があのような発言をしたから100%悪いのは分かる。...いや、違うな、そうだな。90%...、70%位は俺が悪い。認めるさ。だから、60日間のアカウント停止は受け入れる。》
確かに、暴言を吐いたのは俺がした事だ。それが、ゲームの規約違反に当たるんだとしたら、このゲームを愛するものとして、そこはきちんと罰を受けなければならない。
《それが良いとオレも思うよ。60日間、中々に重い処分だね。》
《そこなんだよな。俺も60%は悪い所はあんよ。でもよ、あれを晒した奴だって悪いと思わねーか?俺の言い分も聞いてくれ。》
《そうだね。リーダーの言い分もちゃんと聞くよ。話してみてくれ。》
《ああ。まず、第一にな。俺は、ちゃんとギルドの説明してんだよ。ラビッツフットは、ガチ勢のギルドだって。》
ホーブは俺の言葉にふんふん、頷きながら聞いている。
《だから、場合によっては学校よりも仕事よりも、ギルドを優先して貰う事もある。一ヶ月毎のギルド運営費のノルマも相当な額だから、生半可な覚悟で入団されても困るって具合にな。》
《...改めて聞くと、とんでもない廃人ギルドだね。ラビッツフットは。》
《んな事は良いんだよ。つまり、何が言いてーかってとだ。俺は丁寧に説明してんだよ。なのに、それが出来ねー上に、ネームドやユニーク狩りには参加して、ドロップアイテムを欲しがるクソ野郎には、そうやって気合いを入れる事はある。》
何つーか、さっきまで俺も悪かったかなと反省するところもあったが、こうやって言葉に出してみると、マジで全く俺悪くねーじゃん。ルールを守れない奴に説教をした。それだけの話で、アカウント停止までさせられるのは行き過ぎだろ。
《...今回晒した奴が誰なのかは、色んな奴らに言いすぎて分からんが...。まぁ、俺が暴言吐くのは、そういうルールを守れなかった奴だけだ。だから、確かに俺も30%悪い。でも、晒した奴も70%悪いだろ!》
段々と苛立ちを隠せなくなってきた俺は、ホーブの反応も待たずに矢継ぎ早に話続ける。
《それに、こんなん俺がギルマスだから代表して言ってるだけで、ギルメン全員思ってることだろ。ホーブ、お前だって俺と変わらないはずだ。》
自分だけは圏外で見ているような飄々とした態度を崩さないホーブへと向けて言う。サブマスターであるホーブだって、今まで俺のこのやり方を許してきたはずだ。
《確かにそうだね。オレもリーダーと一緒だよ。いらない奴はどんどん切り捨てていく。そのやり方は全くもって否定しないよ。》
ホーブの声は苛立っている俺と対照的に、依然として涼しげな声色のままだ。
《ここはそういうギルド。最強を目指す為だけに作られたギルドだ。だから、このギルドの為にならない奴はいらない。》
ホーブは淡々と、その声のトーンを崩さずに続けて言う。
《ねぇ、リーダー。オレはもっと上に行きたいんだ。こんなつまらない事で足踏みをしたくない。だから、リーダーなら分かってくれるよね。このギルドを思うなら。》
《何をだ。》
《オレがギルマスになるからリーダー、脱退してくれないか?》
《は?》と、俺は驚きの声を出す。
何言ってんだこいつ。頭おかしくなったのか?
《今リーダーは、ログイン出来ないから、自分ではギルド抜けれないだろ?でも、安心してくれ。サブマスの権限なら、リーダーをキック出来る。メンバーの8割が了承しないと使えないけど...。まぁ、この状況なら、全員納得してくれるはずさ。》
キック。つまりギルドにとって不必要なメンバーの除名を意味する。メンバーを排除する事が出来るのはギルドマスターと除名機能をマスターから認可されたサブマスターだけだ。ギルドマスターはメンバーの意向を聞かずとも、一方的にメンバーを排除出来る権限を持つ。サブマスもギルマスが認可すれば、その機能を代行として使う事が出来る。だが、サブマスターには、ギルドマスターにも使えない機能がある。
それがギルドマスター除名決議だ。ギルドメンバー全員に、ギルドマスターがその立場に相応しいかどうかどうかの投票を行う事が可能だ。全メンバーの8割が賛同すれば、ギルドマスターを解任し、サブマスターをギルドマスターへと昇格させられる。
《...んで、俺が抜けなきゃいけないんだよ。そこまでするような事じゃないだろ。》
《まぁね。暴言なんかオレも気にしないよ。ただね、これからオレ達は四大ギルドに並ぶんだ。それを分かってるのかい。暴言吐いて、アカウント停止になるようなマヌケは必要ないよ。》
《...流石に懲りた。悪かった。もうしねーよ》
《いやいや、無理でしょ。オレはリーダーの事をよく分かってる。リーダーの半分は、暴言で出来てるからね。人間そんな簡単には変われないよ。必ずまた問題を起こすはずさ。リーダーの相棒として長い付き合いだから、オレには分かるよ》
《んじゃ次俺が問題起こしたら、除名って事で良いだろ。それなら俺も納得する。これからの俺をみてくれよ。》
《ダメだよ、リーダー。正直この程度の事だったら、オレもそこまでしなかった。だけど、60日間アカウント停止。こればかり許容出来ない。》
《たかが、2ヶ月だろ。俺ならすぐレベルも追いつける。》
《リーダー。その2ヶ月ってデカいよ。その間にリーダーは、間違いなくトップ層から落ちる。大半のギルドメンバー達が今のリーダーのレベルに並ぶくらいにはなる。それに評判が地に落ちた君とパーティを組んでくれる人がいるとも思わない。》
ここまで言われてしまうと、もはや俺には言い返せない。これは全部今まで俺が言ってきた事だ。それが俺自身に返ってくる。...皮肉だな。
《ただの強いプレイヤー程度になったリーダーをラビッツフットは許さないよ。オレ達は4大ギルドすらも超えたい。リーダーを待ってる時間もなんてない。》
俺は諦めて、ホーブに言う。
《...分かった。オレをキックしろ。》
《それでこそ、オレ達のリーダーだ。最後までカッコ良くいてくれてありがとう。》
ホーブの淡々とした口調が、少し笑みを含んだものとなる。
《でもな、蒼穹回廊もギルドも全部俺のもんだ。アカウント停止が解けたら、必ずお前から全部取り返しに行く。》
俺がそう言うと、ホーブはアハハハと不敵に嗤い出す。
《いいね。期待して待ってるよ。ラビッツフットのギルドマスターとしてね。》
《...最後に聞きたい。》
《何だい?》
《...ホーブが犯人か?蒼穹回廊を落札してからの動きが、いくらなんでも早すぎる。こうなるのを狙ってたとしか思えない。》
《な訳ないだろ。ただの偶然さ。オレは今でもリーダーを友達だと思ってるからね。リーダーに恨み持ってる人なんて山のようにいる。その誰かさ。》
ホーブは俺の問い詰めにも自分は関係ないと余裕弱者な態度を崩さずに言う。その言葉が真実かどうかは俺には分からないまま、俺達の通話が途切れはこれで途切れた。
これが俺のギルド追放の一抹の流れだった。
お読みいただきありがとうございます。
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よろしくお願い致します。
これでプロローグがようやく終わりです。
長かった...