第2章12話〜夜は私がモノーキーさんとすればいいんです!〜
「ナイトアウル除名されてから、誰も私と組んでくれないのよ。これじゃ、レベリングもままならないわ。」
メズは疲れ気味な声で俺に愚痴を吐く。仲の良かったメズのフレンドの大半は追放されたギルド、ナイトアウルにいた事もあり、溜まった負の感情を吐き出す先すら中々なかったのだろう。
「組むつっても、俺のアカウント停止期間はまだまだ残ってんぞ。俺を待つより、誰か別に組んでくれる奴見つける方が効率良いと思うぞ。」
「いや、アンタが良いのよ。お互いこの世界の腫れ物だし。アルゴも私も二十四時間いつでもプレイ出来る環境でしょ。相手の予定に合わせなくて良いし、気が楽なのよ。ね、あと解除されるまでどれくらい残ってるのよ。」
「五十日はある。」
「五十日...。確かに結構長いわね。でも、運営に異議申し立てはしてるんでしょ?」
「ああ。一応な。初日にフォームから送ってはいる。」
「なら、多分もっと期間は短くなるわ。何もしなければ二ヶ月待つ事になるでしょうけど、きちんと対応してるなら、一ヶ月ちょいもすれば恐らく、解除されるはずよ。」
...ふむ。その話が本当だとすると、メズから持ちかけられた話は正直悪くない。最近は俺もずっとラビッツフットのメンバーとしか組んでいなかった。ギルドを追放され、腫れ物と化した俺と組んでくれる人は中々いないだろう。メズは人としてどうかと思う所は非常にあるが、組むとなれば最高のプレイヤーの一人ではある。プレイヤースキルもある。レベルも俺とそこまで変わらない。条件としては、ある意味完璧とも言える。しかし、今俺はユカちゃんと固定を組んでいる。約束した事を簡単に反故するのは俺の主義に反する。
「悪いが。メズ。俺はお前と「モノーキーさん。それなら、是非メズさんと組んであげてください!私との固定は解除してかまいませんので。」
組む事は出来ないと、俺が言葉を続けようとしたのをユカちゃんは察したらしい。俺に頭を下げながら、割り込んで言う。いきなり、俺に頭を下げるユカちゃんを見て、メズは面食らっているようだったが、すぐに微笑んでユカちゃんに謝罪の言葉を述べる。
「あー。ユカユカちゃん。ごめんね。いきなり、あなたの相棒取ろうとしちゃって。既にアルゴと固定組んじゃってたのね。そういう事なら諦めるから大丈夫。安心して。」
メズは、「じゃあね。」と言って、軽く手を振りながら、俺達の元を立ち去って行く。
そのメズの細い背中に向かって、ユカちゃんは駆け出すと、「メズさん!待ってください!」とメズの腕を後ろから握り、いつもより若干硬い声で引き止める。
「あら、何かしら。」
ユカちゃんに引き止められたメズは足を止め、再び俺達の方を身体ごと振り向く。微笑みを浮かべながら、小首をかしげ、尋ねてくるメズに、ユカちゃんはメズの腕から手を離して緊張した面持ちで語りかける。
「あの、メズさん。今どこのギルドにも入っていないのであれば私のギルドに入りませんか?」
「へ?誘ってるの?この私を?」
突然のユカちゃんからの提案にメズはきょとんとした声で、戸惑ったように自分を指差す。
「はい!良い事を思いついたんです。メズさんにギルドに入ってもらって、モノーキーさんをシェアすれば良いんじゃないでしょうか?」
ユカちゃんは本当に良い事を思いついたと言わんばかりに目を細め、人差し指を一本立てると、得意げに鼻をフフンと鳴らして、淀みなく滔々と語り始める。
「だって、モノーキーさん。働いてないじゃないですか。だから、朝と昼はメズさんがモノーキーさんとしてもらって、夜は私が、モノーキーさんとすれば良いんです!」
変なものが現実世界の俺の口から吹き出した。気管に入ってゲホゲホとむせる。
...いきなり何を言い出すんだこの娘は。
ユカちゃんの馬鹿でかい声での宣言により、周りの空気が凍りつている。歩いていたプレイヤー達も歩みを止めてユカちゃんを見ている。
...言いたい事は分かるけど、その言い方はやべーだろ。
「いや、あの、ユカちゃん。その、」
その言い回しは、非常に誤解を招きかねないと続けて言おうとしたが、ユカちゃんは俺の口の前に手を出し、俺の言葉を遮ってくる。
「言いたい事は分かります。でも、モノーキーさんなら体力ありますし、朝も夜もプレイ出来ますよ。絶対に大丈夫です。」
更に酷くなった。...どうすんだこれ。
周りの反応も、「無職のくせに女二人はべらかすとか、どんなクソ野郎だよ。」とか、「何でク⚫︎人間があんなにモテるんだよ。」とか、聞こえてくる。しかし、当のユカちゃんには、その声は聞こえていないのか、更に胸を張って、したり顔で得意げに喋り続けている。
「それに、メズさんがもし嫌でなかったら、夜も私達と一緒にやりませんか?私同じ女性として、メズさんとも仲良くなりたいです。」
ユカちゃんはそう言うと、メズの手を握る。ユカちゃんに喋らせれば喋らすほど、どんどん状況が酷くなって行く有様である。目を爛々と輝かせ、無垢な瞳でそう言い放つユカちゃんに対して、あのメズがどうしたもんかと焦っている。
周りからヒソヒソと、「...あいつら道のど真ん中で乱●の計画立ててるのか。」とか、「3●うらやま。」「百合百合してきた」とか、更に声が増えてくる。
俺はコソッとレンタロウの肩を指で突き、「...行って止めて来いよ。自分の姉ちゃんだぞ。」と小声で呟き、目配せする。
「死にたくないから嫌だ。」
レンタロウは真顔でその髭もじゃの口元を動かす。
ごもっともで。
ユカちゃんが自分がいかに危うい発言をしているのかレンタロウが指摘したら、こいつの命が危ない。勿論、このゲームの世界ではなくリアルの方で。
そんな俺達を見て、メズが情けない男達だと言わんばかりに大きくため息をつき、「しょうがない。」と呟く。
どうやら、メズがユカちゃんに言ってくれるらしい。なんて良い奴だ。実に頼りになる女である。
「あの、ユカユカちゃん。...ちょっと、こっちに来てもらえるかしら。」
ちょいちょいと手招きされて呼ばれたユカちゃんは、メズから耳打ちされている。すると、みるみるうちにユカちゃんの顔が真っ赤に染まり、手だけでなく声まで小刻みに震えている。
「は、は、ははは早く!ヴォルトシェルを出発しましょう!!!!」
そして、絶叫している。自分が他にどんな意味を持つ言葉を喋っていたのか理解したらしい。
「姉ちゃん、船の時間まであと一時間以上あるから今港に行っても無駄だって。」
「ダメです!こ、この街には私はもういられません!船がダメなら歩いていきましょう!」
「無茶言うなって!」
わなわなと声と手を震わせているユカちゃんをレンタロウは宥めている。
「何とも楽しそうなギルドね。」
そんな慌ただしい姉と弟を見ながら、メズが呟く。
「あぁ。見てて飽きないぞ。」
こうして、俺達のギルドにまた一人メンバーが増えた。
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