第2章11話〜こいつら本当に最低だな〜
「いい?二人とも。このバ⚫︎の言う事なんて信じちゃダメよ。現実でも私超可愛いんだからね!」
メズは俺をじろっと睨みつけながら言う。
まったく、何て冗談の通じない女だ。
「おっさん。...あの、メズさんって、もしかしてあのメズさんか?」
メズという名前を聞いて、レンタロウは目の前にいるプレイヤーが誰か気づいたらしい。おずおずとレンタロウが俺に尋ねてきた。
流石高レベルプレイヤー。ちゃんと他のプレイヤーの事もある程度頭に入れているようだ。まぁ、そもそもメズはこのアバンダンドにおいて、一、二位を争うほどの超有名人だしな。ただ、レンタロウと違って、このゲームを始めたばかりであるユカちゃんはメズが誰なのか分かってはいない様子だ。
「ああ。多分、お前が思ってるメズであってると思う。」
「...なるほど。」
全てを察したようで、余計な事を言うまいと、レンタロウは唇をぎゅっと結んでいる。しかし、ユカちゃんは良く分からないようで、
「タロちゃん。どういう事?メズさんって有名な方なの?」と、レンタロウに詰め寄っている。
ユカちゃんに問い詰められたレンタロウはメズが目の前で見ている手前、無視する事も出来ず、ぎょろぎょろと目が泳ぎまくっている。それでも、何とか回答を捻り出して、「...色んな意味で有名かな。」と言葉を濁している。絶対に私の事言うんじゃねぇぞという、メズからの圧力を感じているようだ。
しょうがない。俺がまた助け舟を出してやる事にするか。
「ユカちゃん。簡単に言うとだ。アバンダンドには現在三大嫌われ者がいる。一人は皇帝ザラシ、もう一人がこいつ、魔女メズ。そしてもう一人が俺だ。そういう意味で有名プレイヤーって事なだけだ。」
「モノーキーさんとメズさんって、そんな名前が上がるほどのプレイヤーだったんですね。お二方ともまったく悪い人には見えないので、きっと嫌われちゃうのも有名税ってやつですね。」
何というお人よし。あまりにも純粋な言葉に俺もメズも気まずくなる。
「だってよ。メズ。」
そう言って、俺がメズに視線をやると、
「...あんたがこの子と一緒にいるのが何となくわかったわ。」と実に納得した表情をメズは浮かべながら言う。
「だろ?それにしても、改めて魔女メズなんて口に出してみると、違和感あるな。ちょっと前まで、お前ACOの聖女なんて言われてたのにな。大分落ちぶれたな。」
「うるさい!黙れ!」
俺とメズの掛け合いを見て、ユカちゃんは苦笑いを浮かべながら、更に質問する。
「モノーキーさんはそういう二つ名って、何か無いんですか?」
「あー、そういう異名は...。」
「このバ⚫︎は狂人アルゴって言われてたわ。」
リアルタイムフィルターで音声処理をされながら話すメズの言葉に、「あー...。」とユカちゃんとレンタロウは、どこか納得した表情を浮かべている。
何故納得する。失礼な。
「モノーキーさんとメズさん以外にもう一人名前出てきましたけど、皇帝さん?って強いんですか?」
「ああ、強い。この世界の伝説的人物だ。PvPじゃ、俺も全く相手にならないからな。領土防衛戦では未だに一回も領土を失った事が無い上に、一番最初に蒼穹回廊っていう特別な土地を購入し、ユニーク武器、エキスパートスキル、禁断魔法の全てを手に入れたプレイヤーだ。」
俺の説明に、「はえー、凄い人なんですね。」とユカちゃんは言うも、多分この説明だけじゃ、まだピンとは来てないだろうな。
「これのどれか1つでも持ってたら、この世界で、最強のプレイヤーの一角と言われるほどだな。アルゴの時の俺でも、蒼穹回廊しか持ってないくらいと言えば分かりやすいか?」
俺がそう言うと、ユカちゃんは大分その凄さが分かったようで、「わぁ。」と驚嘆している
「それを全部持ってるだなんて、皇帝さん凄すぎますよ...。モノーキーさんやメズさんは、皇帝さんに会った事あるんですか?」
「ああ。俺とメズはゲーム内だけじゃなく、リアルでも会った事あるぞ。端的に言えばそうだな...。」
俺が顎に指を添えて、少し考え込むと、ユカちゃんはゴクり、と喉を鳴らして俺の言葉を待っている。
「無職のデブのおっさんだ。」
「...まぁ、そうとしか言いようがないわよね。」
メズも呆れたように、「はぁ、」と息を吐きながら、俺に同意する。
だって、本当にそうとしか言いようがない。
「...何ていうかこう...。MMOの最強の存在ってアニメや漫画みたいな少年主人公的なのをちょっと想像してたんだけど。」
レンタロウが複雑そうな表情を浮かべながら、俺に言う。
そんなクソガキがMMORPG最強なんて、現実にあり得るわけないだろ。何を夢見てんだ。そんなのは創作の世界だけの話だ。
「普通に考えてみろ。MMORPGなんて、親の脛齧って年中引きこもってゲームしてる奴が最強に決まってんだろ。プレイ時間こそ大正義だからな。だから、デブのおっさんこそが最強なんだ。この世界で最強を目指してる俺もデブではないが、その為に仕事辞めて無職になってしるな。この世界で最強になるってのは、そういう事よ。頭おかしい奴ほどこの世界では強いんだ。」
「夢も何もねーな...。」
「まぁ、そういう意味では今一番主人公的存在に近いのはアルゴの元相棒、英雄ホーブよね。狂人アルゴからギルドのマスターの座を奪い、ACOの聖女メズを打ち倒して、数年振りに拠点を奪った男。狙うは、この世界の頂点であるザラシの首っていったところかしら。...ほんっと最悪。」
「魔女メズな。」と俺が訂正を入れると、メズはギロリとその馬鹿でかい目で俺を睨みつけてくる。
おお、怖い怖い。
「しっかし、別にホーブもそんなに焦って皇帝倒そうなんて思わなくて良いのにな。あいつは放置でいい放置で。ザラシそのうち不摂生がたまってリアルで倒れんじゃねーか?そしたら、ホーブが自動的にナンバーワンだろ。」
「確かにそうね。アルゴの言う通りだわ。」
メズが俺の言葉に同意して、しみじみと頷く。
「こいつら本当に最低だな...。」
レンタロウが俺とメズの会話を聞いて、唖然としながら呟いている。
「で、メズ。話はそれたが、結局何の用だったんだよ。何か話があるから俺の所に来たんだろ?」
「あ、そうだった。」と、手をポンと一回叩きながら、メズは俺に一つの提案をし始める。
「アルゴ。もしアカウント停止が解けたら、私と固定でレベリングパーティしない?嫌われちゃって組む人がいないのよ。アンタも組む人いなくて困ってるでしょ?」
お読みいただきありがとうございます。
面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。
よろしくお願い致します。