番外編37〜Yukayuka〜
メズさんは、アバンダンドの公式ストリーマーを卒業、...もといクビになった。謹慎中にハルさんと起こした喧嘩が問題となったらしい。以前の炎上がまだ完全に収まっていない中、今回の暴言とスキャンダルで完全にアウトになったようだ。
メズさんはクビになった当初は、「私の生活これからどうなるのよ...。」と絶望していたが、
「これで自由にやれるところもあるから。」と、最近はヤケクソ気味だけれど、前向きになっており、今は個人配信に向けて準備をしているようだ。
メズさんはナイトアウルの次のギルドマスターとしても復帰するようだ。テレスさんという大きな存在から脱却し、これから本当の意味で新しいナイトアウルが始まるのだと思う。
ハルさんの方は、あの騒動の後もラビッツフットに残っている。もうハルさんが、ラビッツフットに残る理由はないと思っていたけれど、何だかんだでハルさんにとって居心地の良い場所らしい。
ハルさんに関しては、もう一つ衝撃の事実があった。私が最近よくレベリングパーティで一緒になるなと思っていた人が、実はハルさんの倉庫キャラクターだったと言う事だ...。どうやら、私を通じて常にモノーキーさんとメズさんの動向を探って、暗躍していたらしい。
「あ!また一緒のパーティで奇遇ですね!」と、二人で無邪気に笑い合っていたのに、今となると非常に恐ろしい...。ハルさん本人から謝罪と共に打ち明けてくれたけど、絶対他にも色々やっている気がする...。
ハルさんのやっていた事は正直怖すぎるけれど、きっとそれだけ、モノーキーさんの事が好きだったと言う事なのだろう。
―――
「...あの、モノーキーさん。一体どうなってるんですか。おかしいですよ。あり得ないですよ。」
モノーキーさんにヴォルトシェルの五層の大通りに呼び出された私は、現れた彼の姿を見て唖然としていた。
ナイトアウルに移籍してから、操作しない期間が大分あったはずなのに、三本角で緑の肌で頑強な肉体のオーガであるモノーキーさんのレベルが私に追いつくどころか、一つ上になっていたからだ。何かの間違いじゃないかと思わず二度見してしまった。
「どうだ、驚いたか?久々にユカちゃんとこのモノーキーでレベリングしようと思ってな。離されてたけど、ちゃんとレベルも追いついたぞ。これが大人の本気ってやつよ。」
そう言って、ギャハハハとドブのような汚い声で愉快そうに笑う彼を見て、私は一つ決意をする。緊張からだろう、私の心臓が早鐘を打つのを感じる。
「...モノーキーさん。これ見てください。最近手に入れたんです。凄くないですか?」と言って、彼をちょいちょいと左手で手招きして呼び寄せ、私は彼に右の手のひらを見せる。
モノーキーさんは怪訝な顔をしながら、「...どれだ?何も見えないんだが。」と言って、彼の前に広げた私の右手を食い入るように凝視している。
そんな彼に私は呆れ顔で、「ほら。ありますよ。ちゃんと見てください。オーガで身長高いから、良く見えないんじゃないですか?しゃがめば見えますよ。」と言って、軽くため息をついてみせる。
「んー?そうか。どれどれ...。っ...!?」
しゃがんで、私の手のひらを見る彼に、私の唇を重ねてみた。勿論、何か感触があるわけでもないし、物凄く近くに彼の顔があった。驚いたように目を見開いたままの彼と目が合い、私は微笑んだ。それだけだ。私は彼から唇を離す。
モノーキーさんがアルゴさんになってから、私はずっと蚊帳の外だった。レベルが離れた彼に対して、私は何もする事が出来なかった。それが、ただただ悲しかった。私がアルゴさんのレベルに追いつくまで一緒にレベリングする事は、もう無いと思っていた。でも、こうやってモノーキーのレベルを彼は上げてくれていた事が、私は何よりも嬉しかった。だから、思わずこんな行動をとってしまった。
確かにハルさんやメズさんに比べたら、私はアルゴさんと過ごした時間は短いし負けているのだろう。でも、モノーキーさんと過ごした時間は、誰にも負けてはいない。
絶対に負けてたまるか。ここでまで、蚊帳の外でいてたまるか。
そんな決意をしている私とは対照的に、モノーキーさんは狼狽えながら、ニコニコと微笑む私の顔から距離を取り、条例が〜とか法律が〜とか言っているのを見て、アハハと声に出して、思わず笑ってしまった。
確かに、現実で私の年齢でモノーキーさんにそういう事をしてしまったら、きっと、彼からすると世間的にも法律的にもまずいのかもしれない。でも、ここではモノーキーさんの言う法律や条例には当たらないから良いだろう。
Abandoned Continent Online。
今、私達がいるこの世界は、ただのオンラインゲームなのだから。
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