第2章4話〜それって凄く難しい事なんですか?〜
「おい、おっさん。誰なんだよこいつ。」
弟君は眉をピクっと動かし、ギロリと鋭い目つきで俺を睨みつけてくる。自分の姉を危険な目に合わせるんじゃないかと疑っていた奴が、俺を王と呼んで慕っている事に対して、かなりの不信感を抱いているようだ。しかし、俺にはこのリンドウという男に関する記憶がない為、説明のしようがない。
こいつがラビッツフットのメンバーやメインアカウントでのフレンドだったとしたなら、俺がその名を忘れるわけがない。...一体誰なんだこいつは。
どうしたもんかと、俺は顎に指を添えて、思考を巡らしていると、静寂を破るようにリンドウが声を張り上げる。
「...我が王をおっさん呼ばわり...●ね!!無名ごときがイキがってんじゃねえぞ!!クソガキ!!」
不適切な音声が確認されたのでリアルタイムでフィルター処理を行いましたと、俺のログに文字が流れ、俺はその言葉対して頭を抱えながら言う。
「...一つ言える事は俺の関係者で間違いはなさそうだな。」
「あぁ...。今、絶対にそうだと分かった...。」
こうなってしまえば、もう無関係と言う事は出来ない。こいつが誰なのか、リンドウ本人に素直に聞く事にしよう。
「なあ、リンドウ。悪いんだが、俺はお前の事を覚えていない。俺とどういう関わりがあったのか、教えてくれねーか。」
素直に頭を下げ、謝罪する俺に対して、リンドウは滅相もない事だと言わんばかりに、両手と頭を地面につけ平伏しながら言う。
「いえ、王よ。私の事など覚えていなくて当然です。しかし、これを見て貰えば分かるはずです。」
リンドウは平伏したまま、懐から一つの鉱石を取り出すと、少しだけ顔を上げて、俺にその鉱石を差し出してくる。俺がリンドウが差し出してきた鉱石を見つめると、角度によっては青系であったり、黒色系であったりと様々な色合いに輝いている。
俺も長い事このゲームをプレイしているが、こんな鉱石を見るのは初めてだ。
「王が私に命じていたアダマントの鉱石です。」
こ、こいつ。マジかよ。
「...じ、実物初めて見たぞ。」
「...アダマント鉱って実在すんのかよ。」
リンドウが差し出してきたアダマント鉱石を見て、俺と弟君は顔を見合わせる。
「これって凄いんですか?綺麗な石だとは思いますけれど。」
ユカちゃんはアダマント鉱石を見ても、ピンと来ていないようで、困惑している。
「ああ。超貴重な鉱石だ。メインアカウント時代の俺でも見た事なくて、一回でいいからお目に...。」
...ん?アダマント鉱石だと?
ユカちゃんに話しかけている途中で、遠い記憶が脳の奥底から蘇ってきた。確か半年前位にそんな単語を出した気がする。
そうだ。思い出した。
「お前、ずっと前に俺のギルドに入りたがってた奴か!?」
「はい、王よ。思い出して頂けたのですね!」
平伏したままだったリンドウが涙を流しながら、顔を上げる。
「モノーキーさん、思い出したとの事ですが、この方は一体どういう方なのでしょうか。」
...あまり話したくない内容ではあるが、流石に彼女を危険な目に合わせてしまった手前、俺は彼女と弟君に説明し始める。
「こいつ。半年以上前に俺のギルドに入りたいってずーっと言ってた奴だ。ただ、熱意はすげぇあったけど、レベルも低いし、プレイヤースキルもそうでもなかったから、何度も俺は断ってたんだよ。」
「はい、王の仰る通りです。」
リンドウは再び顔を地面へとひれ伏しながら、俺の言葉に同意する。
「それでも、こいつ絶対に諦めなくてなぁ。しょうがねぇから、アダマント鉱石を発掘して持ってきたら、ギルドに入れてやるよと言った気がする。」
「...最悪すぎるだろおっさん。」
弟君は俺がリンドウに命じた事の難易度の高さを分かっているようで、完全に侮蔑の目で俺を見つめている。
「それって凄く難しい事なんですか?」
ユカちゃんは首を傾げながら俺に尋ねてくる。
「ユカちゃんは、採掘ってやった事ないか。」
「ありません。」
「そうか。アバンダンドには、採掘ポイントが世界中の至る所にあって、その世界のどこかに一日一箇所だけ、アダマント鉱石を掘り出せるポイントがあるんだよ。」
「...ちなみに採掘ポイントって、世界で何ヶ所くらいあるんですか?」
「...数十万はあるんじゃないかな。」
「毎日毎日採掘ポイントを回っておりました。いつかはここにアダマント鉱石がポイント割り当てされる事を願っていたところ、こうして、ついに掘り当てました。」
...なんて忠実な男なんだ。
「可哀想すぎるだろ...。どうすんだよおっさん。」
「まるで、求婚者達に無理難題を押し付けるかぐや姫ですね...。」
俺の後ろに立っている二人からの突き刺さるような視線が痛い。
「いえ、王は何も悪くありません。自分は確かにレベルも低いしプレイヤーとしてのスキルもありません。しかし、そんな自分にもツルハシで掘る事は出来ます。まさに天啓、天職でした。王の人の才能を見抜く力はまさに鵜の目鷹の目です。」
「ま、まぁ。リンドウさんが納得してるならそれはそれで良いのでしょうか...。」
ユカちゃんが、とりえず場をまとめようとした時、「いや、まだだ。」と弟くんが口にした。
「かぐや姫の求婚者ってのは、一人だけじゃないからな。おっさん。似たような事を他にも頼んだ奴いるんじゃねーだろうな?」
...何て鋭い奴だ。
図星を突かれた俺は気まずいながらも、2人に正直に答える。
「...魚を釣ってきたら、ギルドに入れてやると言った奴もいる気がする。」
俺の言葉に弟君は呆れて、ため息をつく。
「何の魚だよ。イトウとか、シーラカンスとか、無茶な事言ってんじゃねえだろうな?」
「...リンドヴルム。」
「は?」
「リンドヴルムが見たいなと言った事がある...。」
「もはやドラゴンだろそれ!」
「いや、ギリ海蛇の範囲に...。」
「入んねーよ!!!姉ちゃん、このおっさん除名しよう。人としておかしい。ロクな事しねーよ!」
「ま、まぁまぁ。タロちゃん落ち着いて。」
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