最終章12話〜冷静にな?〜
エレベーターのかごに乗り、一気に最上階まで上がった私達はギルド長室へと入る。中にいたホーブさんは待ち構えていたとばかりに、「思ったよりは早かったな。」と、不敵な笑みを浮かべながら、私達を出迎えてくれた。
ギルド長室の中に入った私達はまるで空の中にいるようなこの部屋の圧巻の景色に、言葉を呑んでしまう。ギルド長室は全面ガラス張りであり、蒼穹回廊の景色が一望できる作りとなっている。外に見える景色に、ラビッツフットより高い建物は現在蒼穹回廊には存在しない。グレイトベアやナイトアウルなどの四大ギルドに対して、ラビッツフットこそがACOの頂点であると示威してるかのようだ。
「どうだ。アルゴが作り、オレが引き継いだラビッツフットは。漆黒に個人チャットして、お前らの聞きたかった事を教えてやっても良かったんだが、まぁ、せっかくだ。うちのギルドを楽しんでもらおうとね。」
メズさんは呆れ気味に、ホーブさんに尋ねる。
「...まぁ、好みは人それぞれだから、何とも言えないけれど。よくこんな内装をハルが許したわね。あの子、こういうの嫌いじゃないの?」
「ああ、超嫌がってるね。だから、これでもあいつの意見を取り入れて、抑えてはいるんだ。本来はこのビルに煙突も何本もつけて、工場夜景のように外観もギラギラと輝かせる予定だったからな。」
そのホーブさんの言葉を聞いたタロちゃんは、いつもの調子で、「...さすがおっさんの元相棒。この人もどうかしてるだろ。センスがおかしい。」とボソリと口を出してしまっている。
...まずい。
私はタロちゃんのあまりにも失礼な態度に顔面が蒼白になる。こんな事を言ったら気を悪くしてモノーキーさんの事を答えてくれなくなってしまうかもしれない。
「ちょ、タロちゃん!す、すいません。ホーブさん失礼な事を言って。この子、私の弟のレンタロウです。ほら、失礼でしょ!あとで、よーく言い聞かせておくんで!タロちゃん、あ、や、ま、り、なさい。」
私は慌ててタロちゃんの口を塞ぎ、ぐいぐいとホーブさんへ無理矢理頭を下げさせる。
「わ、悪かったって。あまりにもツッコミどころの多すぎるギルドで、ツッコミたくなる自分を抑えられなくなってしまったんだよ。ホ、ホーブさん、すみません、申し訳ない。」
きっと、私に後でとっちめられる姿を想像したのだろう。焦りながら、ホーブさんへ謝罪の言葉をタロちゃんは述べ出す。...まったくこの子は。
ホーブさんは必死にタロちゃんに頭を下げさせている私の姿を見て大笑いしながら、「ハルも、全く同じ事を俺に言ってくるから、大丈夫大丈夫。」と言ってくれている。
ホーブさんが優しい人で良かったと、私は安堵の息を吐く。
「えっと、レンタロウくん。君とは初対面だね。君のお姉さんとはピアス狩りの時に少しだけ面識があるが、ちゃんと挨拶した事はなかったな。二人に改めて名乗らせてもらおう。オレがラビッツフットのマスター。ホーブ。そしてアルゴの元相棒だな。」
ホーブさんは軽く自分を指差し、自己紹介を始める。私とタロちゃんもホーブさんに続いて、自己紹介を改めて行い頭を下げると、ホーブさんは笑みを浮かべて、椅子に自分のキャラを座らせる。
「さて。じゃあ、お互い自己紹介済んだ事だし。そろそろ本題に入ろうか。君達が聞きたいのはアルゴの事。それでいいんだな?」
ホーブさんの質問に対して私は強く、「はい。」と言って、頷く。
「そうか。なら、悪い知らせと良い知らせの二つがある。まず悪い知らせは、あいつはここには現れてないし、オレにはあいつがログインしなくなった理由は分からない。ただ、その、なんだ。良い方の知らせとしては、あいつに繋がる最大の情報をオレは持っている。」
「ほんとですか!」
ホーブさんの言葉に、私は歓喜の声を上げる。だが、ホーブさんは私の喜びとは対照的に、困ったように顔を顰めている。
「...ただなぁ。メズやユカユカちゃんに言うのは少し躊躇うような内容なんだ。良いか?二人とも聞いても、...冷静にな?」
額に汗を滲ませたホーブさんは私とメズさんをチラッと一瞥すると、歯切れ悪く、言葉を濁しながら私達に言う。
「...私達が冷静じゃなくなるような事って、何でしょうか。」
「まぁ、聞かない事には話が進まないし。良いわよね?ユカユカちゃん。」
「ええ、メズさん。私も大丈夫です。」
私とメズさんは顔を見合わせ、同時に頷く。
ホーブさんがモノーキーさんの情報を話す事に対して難色を示している理由は私達には分からないけれど、ここまでモノーキーさんを探しに来たんだ。何があろうとも、聞く以外の選択肢など私達には存在しない。覚悟は決まっている。
私達の同意を得られたホーブさんは少し躊躇った様子で、訥々と語り出す。
「あのな...。ナイトアウル戦以来、ハルもログインして来てないんだ。だから、その、なんだ、多分アルゴはハルとずっと一緒にいると思う。」
「ちょ、それって、どういう事ですか!?」
「はぁああ!?」
メズさんと私は同時に声を荒げ、ホーブさんへ詰め寄ると、「だから、言うの躊躇ったんだ。」とホーブさんは大きくため息をついた。
「...ハル、あいつな。ナイトアウルとの防衛戦終わった直後に、血相変えて私、アルゴちんと結婚するから、当分このギルドに来ないから!もし、メスガキやバ⚫︎女が、ここに来ても知らないふりしといてと、オレに言ってきたんだよ。」
私はそのホーブさんの言葉に、思わずこめかみに手を当ててしまう。ハルさんが一体何をしでかそうとしているのか突っ込みたい事は山ほどあるが、とりあえず、冷静に一つ一つ、キーワードとなりそうな単語をホーブさんに聞き返す事にしてみる。
「えっと、結婚って、あの結婚ですよね?」と私は確認の復唱をする。
「そりゃ、結婚つったら、あの結婚だろうな。ハルはアルゴの事愛してるからな。それ以外に考えられないだろ。」
「...じゃあ、メスガキとバ⚫︎女とは...?」
「ああ、メスガキ。」と言って、ホーブさんは真顔で私に向かって、指を差す。
「...メスガキって、私の事だったんですね...。」
あまりに酷すぎるハルさんの私に対する評価に、ショックを受けた私は、開いた方が口が塞がらない。
...そんな風に思われていたとは。あれ、待てよ。私がメスガキって事は...。
「んで、バ⚫︎女。」
ホーブさんはメズさんの顔に向かって、再び真顔で指を差す。メズさんは私より酷い評価をされていた為だろう。メズさんの両手がわなわなと震えている。
「あ、あのクソ女。どこまでも私の前に立ちはだかってくるわね。」
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