最終章10話〜擁護できませんねこれ〜
「...ナイトアウルと全然違いますね。」
自動ドアを通り、エントランスに入った私達の目に、まず映ったのは、巨大な噴水とその中央に五メートルはあろうかという全身金ピカのライオンの像が、口から水を吐いている衝撃的な光景だった。置かれているインテリアも全てが豪華絢爛、見るからに普通のギルドでは手が出せないようなと高級品のみで揃えられている。
ラビッツフットの本部のあまりの趣味の悪さに、五つ葉のクローバーのメンバー全員が絶句している。私が訪れた事のある他のギルドは先ほど訪れたナイトアウルくらいな為、どうしてもその比較をせざるを得ない。ナイトアウルの内装は教会を思わせるような荘厳な雰囲気のお城だったから、そのあまりの落差に言葉を失ってしまう。
「...成金趣味全開ね。」
メズさんはあまりの内装の酷さに、眉間に皺を寄せ、理解し難いといった様子だ。正直、メズさんがそんな感想を浮かべるのも無理はないと思う。
私は顔を上げ、天井を見上げると、エントランスの天井には数えきれないほどのシャンデリアがつけられ、眩いまでの光で私達を照らしている。いくらなんだって多すぎる。
「...シャンデリアもこんなに必要なのでしょうか。あの、ササガワさん。昔からラビッツフットって、こうだったんですか?」
私の問いに慌ててササガワさんは、「いやいやいや。」と激しく手のひらと首を横に振る。
「僕がいた頃はこんなんじゃありませんでしたよ。勿論、二層に本部があった時の話ですけどね。あの時はアルゴさんがギルマスだったんで、何に使うのか分からない変な機械とか、どういう効果をもたらすのか分からない変な薬品とか大量に棚に置いてあって、研究所みたいな雰囲気でしたね。あれはあれで、訳分からなかったですけど。」
「ホーブさんの作ったこのギルド本部もアレですけど、モノーキーさんはモノーキーさんで、大分拗らせてますね...。」
「...あの二人はベクトルの違う変人なのよね。だから変人同士妙に気が合って長いこと相棒としてやってきたんだろうけれど。」
私とメズさんがラビッツフットに対して、好き勝手な感想を述べていると、痺れを切らしたように、タロちゃんが受付の方を指を差し、声を上げる。
「なぁ。ここで、ウダウダしてたって何も進まねーし、あそこ受付みたいだから、そろそろ話聞きに行かねーか。」
その言葉に私は慌てて軽く両手を合わせて、「あ、ごめん。そうだね。そろそろ聞きに行こっか。」とタロちゃんに謝る。
正直、タロちゃんまでラビッツフット本部についてきたのは意外だったなぁ。ナイトアウルの時はタロちゃんはついて来なかったから今回も来ないと思っていたのに。...きっと、タロちゃんが来たのはササガワさんが行くからってもあるんだろうな。二人がここまで仲良くなるなんて思わなかった。
―――
「か、かわいい!」
私が思わずこんな声をあげたのには訳がある。私達がタロちゃんに促され受付に行くと、プレイヤーではなく、女性のドワーフのNPCさんが立っていたからだ。プレイヤーでは滅多に見ないその姿に、私はテンション爆上がりしてしまう。
「こんにちは。ギルド、ラビッツフットへようこそ。本日はどのようなご用件でいらっしゃいますか?」
こうして動いたり、喋ったりしている姿を見ると、更に可愛い。身長はとても小柄で毛量が多く、長い茶色の髪の毛に包まれたその姿は超可愛すぎる。女の子なのにヒゲがあるのが、プレイヤーから見れば、使うのを躊躇ってしまうのだろうけど、こうやって実際に見ると、そんなの全く気にならない程可愛い。
「す、凄い。ドワーフの女の子が受付けしてます!NPCって、ギルドに置けるんですね!」
私が興奮しながら、メズさんに尋ねると、「ええ、出来るわよ。」とメズさんは微笑んで言う。
「ただ、私もNPCレンタル使ってる人というかギルド、初めて見たわ。ラビッツフットは景気良いわね。」
感心した様子で、メズさんもドワーフさんをマジマジと見つめながら言う。
「私も自分のギルドにドワーフさんをレンタルしたいです!」
「あー、姉ちゃん。それはちょっと難しいかも。確かNPCレンタルは一日十万Gはかかるはずだ。誰がこんなの雇うんだよと、実装された時、ユーザー達から非難轟轟だった記憶あるわ。」
「...どんだけ、お金持ってるんですか。このギルド。一ヶ月で、三百万Gじゃないですか。普通じゃないですよ...。」
「そりゃ、アルゴとホーブとハルがいたギルドが、まともなわけないでしょ。」
「散々な言われようですが、妙に納得してしまいますね...。」
そんな話をしていると、ふと、視線を感じて、その方向へと目をやると、タロちゃんが怪訝そうな目で私を見つめている。
まずいまずい。このギルドにいると、ツッコミどころがあり過ぎて、話が進まなくなってしまう。またタロちゃんに怒られちゃうな。
私は焦りながら、NPCのドワーフさんに、ギルドマスター室を尋ねる。
「えっと、ギルドマスターのホーブさんに用があるんですけど。どう行けばいいんでしょうか?」
「はい。それでしたら、三十階がギルド長室となります。一番左のエレベーターが直通ですので、ご利用ください。」
受付のドワーフさんが示した先には、エレベーターが、パッと見で二十個近くはあった。
...この一番左が直通のエレベーター。何を思ってホーブさんはこんなにエレベーターを作ったのだろうか。
「...なんてバ⚫︎みたいなギルドだ。」
無数にあるエレベーターを見て、タロちゃんが完全に呆れている。普段であればそんな失礼な事言っちゃダメと、タロちゃんを嗜めるところだが、流石の私でもこれは中々酷いと思う。
「ニートの作った会社ごっこの建物って感じがする。おっさん、自分が大枚叩いて買った土地に、こんなバ⚫︎みたいな建物建ってるの知ったら、卒倒すんじゃねえの。」
「...いくら私でも、ちょっと、擁護できませんねこれ」
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