最終章9話〜わ、忘れてた〜
ミラリサさんに連れられ、ナイトアウルの本部である西洋風の真っ白いお城を訪れた私達に、「悪かった。メズ。俺達が間違っていた。」と第一声で、レグルさんがメズさんに頭を下げ、謝罪してきた。レグルさんのその言葉と共に、ナイトアウルにいたメンバー全員も、メズさんに頭を下げ、謝罪の言葉を口にしている。
「み、皆が私に謝るなんておかしいわよ。謝らなきゃいけないのは、わ、私なのに!」
突然の謝罪を受けたメズさんは、心苦しそうに、慌てて自分も頭を大きく下げて、謝罪しようとするがミラリサさんが首を横に振って、メズさんを止めている。
私はこの光景を見て安堵する。これでようやくメズさんは本来の自分の居場所へと帰れるようになったんじゃないかと思う。勿論、メズさんが向き合わなければならない課題は山のようにある。それでも、ナイトアウルとメズさんの関係に限ってはこれでわだかまりは解消されたはずだ。
...だから、もし、遠くない未来にメズさんがナイトアウルに戻ると言い出す時が来たら、私はメズさんを引き止める事はせず、快く送り出す覚悟はしている。私は姉のようにメズさんを慕っていた。当然寂しさはある。でも、モノーキーさんと同様に本来彼女は、こんな弱小ギルドなんかにいるべき存在ではない。メズさんの選択を認めてあげる事が五つ葉のクローバーのギルドマスターの役割だと思っている。
しばらく経って、色々が落ち着いてきた頃、私は意を決して、このナイトアウルを訪れた最大の目的をレグルさんに聞いてみた。
「あの、レグルさん。ナイトアウルにモノ、いえ、アルゴさんって来ていますでしょうか。」
...来ていてほしい。ただ単に忙しくて五つ葉のクローバーに帰って来れないだけであって欲しい。
レグルさんから返ってくる言葉が私の思った通りであって欲しいと願っていたが、レグルさんは首を横に振り、私の言葉を否定する。
...やはり、モノーキーさんはナイトアウルにも顔を出していない。少なからずそんな気はしていた。きっと、今モノーキーさんに何かが起きている。私と彼はそんなに長い付き合いではないけれど、私には分かる。そんな確信がある。
「力になれなくてすまない。俺達も防衛戦が終わってから、一度もアルゴを見ていないんだ。」
「...そうなんですね。アルゴさん、うちにも来ていないんです。どこに行っちゃったんでしょう...。」
落ち込む私の姿を見てだろう。ミラリサさんが私を励ますように、「大丈夫よ。ユカユカちゃん。」と声をかけてくれる。
「ギルマスの事だから、ラビッツフットを倒して、最強のプレイヤーって名声を手に入れた事で、ちょっとモチベ下がってるとか、その程度よ。だから、きっとすぐ戻ってくると思うわ。」
「励ましてくれてありがとうございます。ただ、私、モノ、じゃなくて、アルゴさんがそのくらいでログインしなくなるとは私には思えないところもあるんです。」
私がこうぽつりと漏らすと、ミラリサさんは、「そっか。そうよね。」と優しく微笑んでくれる。
「...確かにユカユカちゃんの言う通りね。あのネトゲ廃人に限って、それは絶対無いか。」
ミラリサさんの言葉に、レグルさんも大きく頷き、「俺もユカユカちゃんと同意見だ。」と私に同意してくれる。
「確かにな。あいつは風邪を引こうが、高熱があろうが、バケツにゲロ吐きながら、そのまま二十時間以上プレイし続ける異常者だからな!」
そう言って、腕を組んで大笑いするレグルさんに思わず、私は苦笑いを浮かべてしまう。
「...こう、客観的にモノーキーさんの事を聞くと、本当に頭おかしい人ですね...。あの人。」
そんな中、私達の話を聞いていた一人のオーガ族の男性が私達の話に混ざってくる。
「あの、すみません。俺、これ、参考になるかどうか分からないんですけど。ちょっと気になる事があって。防衛戦の時のギルマス、何か調子おかしかったんですよ。」
オーガさんの言葉に、レグルさんは心当たりがあるようで、「あ〜、」と声を漏らす。
「確かにそうだ。言われてみればあいつ、おかしかったな。アルゴ、あん時アル太、お前を庇って攻撃を喰らってまで、俺を蘇生させるのに専念していたな。」
アル太と呼ばれたオーガさんは、「はい!そうなんですよ!」と力強く答える。
「ギルマスなら、俺やレグルを放置してでも、ハルを倒す事を最優先にするはずなのに、あえてハルの攻撃を喰らいにいくような感じが不可解で。もしかしたら、ハルと何かあったんじゃないかなって。すみません。こんな自信のない情報で。」
アル太さんは、「確信はないですが。」と自信無さげに答えるが、レグルさんは感謝の言葉をアル太さんに伝えている。
「いやいや、お前の言う通りだ。助かるよ。そうだな。ラビッツフットとあいつの間で何かあったと言うのは考えられるな。どうだ、ユカユカちゃん。ラビッツフットを訪ねれば、何か分かるかもしれないぞ。」
そのレグルさんの提案により、少しだけ次が見えた事に私は歓喜する。
「そうですね、メズさん!!次はラビッツフットに行きましょう!」
私はメズさんに向き直り、胸が早鐘が打つ中、声高々にそう提案するも、意外な事にメズさんは喜ぶどころか、どこか困ったような表情を浮かべている。
「...えっとね、ユカユカちゃん。それ、ちょっと難しいかも。ラビッツフットは物凄く排他的なギルドなのよね。だから、訪ねたとしても、ギルドにすら入れてもらえないかも。ザラシもラビッツフットを訪ねたけど入れて貰えなかったって前に言ってたでしょ?ホーブは私、少し面識あるけど、ハルには嫌われてるし、うまくいくかしら...。」
こめかみに指の第一関節を当てて、頭を悩ませているメズさんを見て、「何を言ってんだ。」とレグルさんは不思議そうな顔を浮かべながら言う。
「メズ、ユカユカちゃん。五つ葉のクローバーには漆黒がいるだろ。あいつにラビッツフットと繋いで貰えばいいだけなんじゃないか?本来ラビッツフットのサブマスになるはずだったプレイヤーだ。ラビッツフット関係なら、多少の事はあいつが何とかしてくれるはずだろ。」
そのレグルさんの言葉に、私とメズさんはハッと顔を見合わせる。
「わ、忘れてた!そういやササガワくん、ラビッツフットのサブマスだったんだっけ。異常者揃いのラビッツフットの馬⚫︎達と違って、優しくて穏やかな人だから、すっかりその事忘れてたわ...。」
「改めて考えてみると、私のギルド皆凄い人ばっかり集まってたんですね...。」
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