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最終章6話〜ナイトアウル〜

 私がヴォルトシェル王国五層の大通りにある取引販売所で、良い武器はないかと物色していると、「あ、いた!テレス。見て、見てー!」と背後から私の名を呼ぶ声がする。


 私は声のする方へ振り向くと、毛先だけピンク色に染めた金髪のエルフの女が袖までゆったりとした上下一つなぎの黒のローブを身につけて立っており、「見て、見て、新調したのよ!」とドヤ顔で見せつけてくる。


「ジョブ、僧侶に変えたのよ。どう似合ってる?」


「...そ、僧侶ってよりは闇の魔法使いって感じ。」


 買い物を途中で止められた事もあってか、少し苛ついていた私は、ちょっとだけ棘のある言葉で彼女に返答する。私の率直や感想にエルフの女も実はそう思うところはあったのだろう。彼女は、うぐっ、と言葉を詰まらせている。


「だ、だってしょうがないじゃん。まだレベル10なんだし。つけれる装備も限られてるのよ。」


 私はエルフの女こと、メズちゃんに対して、露骨にぞんざいな態度で接しているというのに、何故かメズちゃんはスライム狩り以来、私に付き纏ってくるようになった。


 ...訳が分からない。まぁ、私の事をここまで好意的に見てくれる人なんて今までいなかったから、嬉しいは嬉しいけれど、この距離感の詰め方は鬱陶しくもある。


「あー、早くレベル上げたいなぁ。知ってる?高レベルの僧侶って、アニメや漫画のヒロインみたいな装備あるのよ。それ着れるように、速攻でレベル上げるつもりよ!絶対私に似合うと思うのよねえ。」


 屈託のない笑顔でそう語る彼女を見ていると、私の中の卑屈さがどうしても滲み出てしまう。何でそんなに自分に対して自信を持てるのだろう。今、取引販売所で私が欲しがっていたものは新しいナイフと弓。それに対して、彼女が欲しがっているのは見た目が可愛い装備。私と彼女のその差をまざまざと思い知らされるようだ。この子と一緒にいると、アバンダンドの世界にいるのに、現実社会のように息がしにくくなってしまうような気がしてくる。


「...わ、私はファッションとかよく分からないし、性能が良ければ私はそれで良いかな。見た目でのこだわりとかないし。」


「あー、テレスなら確かにそう思っても当然よね。プレイヤースキル、超超凄いもんね。攻略系のプレイヤーって感じで、超良い感じ。」


 気軽に私を呼び捨てにして、微笑んでくる彼女の顔を見てズルいと思った。何でそんなに自然な顔で笑えるのだろう。私が笑うと、不自然極まりない笑顔になるのというのに。そんな自分の顔を見るのが嫌で、私は鏡を見るのも写真に撮られるのも苦手だ。


 きっと、この子は私と違って、写真を撮られるのも、鏡を見るのも好きなんだろうなと思う。鏡や写真が苦手な人がいるなんて、生まれてこの方考えた事もないのだろう。この子は自分がどう笑ったら、綺麗に見えるのかを遺伝子レベルで身につけている気がする。私とは根本的な何かが違うのだ。私がメズちゃんの真似をしたって、きっと同じ風にはならないのが分かる。


「なぁによ、人の顔ジロジロ見て。何か私の顔についてる?」


「い、いや。音楽家、せ、せっかくメズちゃん30超えられるようになったのに、もったいなぁって。」


 私は誤魔化す為に咄嗟の嘘をつくと、メズちゃんは苦笑いを浮かべて、「あー、それね...。」と言い淀んでいる。


 しっかし、この話し方とキャラ付けは失敗したなぁと、改めて感じる。この子と関わるのなんて、あの時一回こっきりだと思ったから、あくまでその時だけ言葉に詰まりやすいキャラ設定にしたというのに。こう何度も会う関係になってしまうと、今更普通の話し方に戻す事も出来やしない。面倒な事をしてしまったと思う。


「そ、そういう可愛い装備着たいなら、音楽家のままでも良かったんじゃない?ど、どっちかってと、あっちのがアイドルみたいな装備っぽくない?」


 私は小首を傾げながら、メズちゃんに尋ねる。


 実際、私の言う事は的を射てると思う。高レベルの僧侶の装備は確かに煌びやかな装飾もあって可愛いと思うけれど、ローブやチュニックなどの装備がメインとなる分、何となく見た目が重たい印象も受ける。音楽家の装備は使う楽器によって身につけるものも変わってくるが、歌をメインにしてる人であればひらひらとしたアイドル風味のものもある。良い意味でも悪い意味でも、こういうバカっぽい服装の方が彼女の好みに近いんじゃなかろうか。


「私だって続けたいと思ってたわよ。でも、あまりにスライム狩りで、罵倒されて心が折れたわ...。悔しいっ。何でそんな事見ず知らずの他人に言われなきゃならないのよ。おかしいわよ。このACOのゲームのプレイヤー達は。」


 憤慨するメズちゃんの姿を見て、私は心の中で、メズちゃんにそう言った人と、このアバンダンドという世界にグッジョブと思ってしまう。現実世界ではきっと何もかも上手くいってる彼女だ。そんな彼女がこのアバンダンドでは苦戦している。その事実を考えると、再び私は何だか息がしやすくなったような気がしてくる。


 やはり、このアバンダンドという世界は、私の世界だと言う事に安堵してしまう。この場所だけはずっと変わらない異常な世界でいて欲しい。ライトユーザー志向になんか絶対にならないで欲しいと思わず願ってしまう。


「やっぱ知らない人と組むと、こういう対人関係でのリスクもあるわよね。やっぱギルドに入って、固定の人見つけた方が良いのかしら。テレスはプレイヤースキルあるから、ギルドや固定なんかしなくても、野良パーティでガンガンやっていけるだろうけどさ。テレス、超凄いもん。」


 悔しい事に、こうやってメズちゃんから褒められる事は、私にとって何よりも嬉しく思えてしまう。

やっぱり人生をまともに過ごしている人から凄いねと言って貰えるのは認められた気がして、口元が緩んでしまいそうになる。私は口元にぐっと力を入れて、それを隠しつつ、メズちゃんへ返事を返す。


「あ、うん。でも、私そのうちギルド入る予定ではいるよ。」


 私のその返答がメズちゃんにとっては予想外だったらしく、エルフ特有の馬鹿でかい目を更に見開いてら「マジ?」と驚愕の表情を見せながら言う。


「えっとね、も、もう少ししたら、ギルド作ろうと思ってるんだ。せ、せっかくこのゲームやってるんなら全部のコンテンツに手を出してみたいんだ。」


 最初はどこかのギルドに入ろうかとも考えたが、私は自分自身の事をよく分かっている。既に出来上がった集団に入ったとしても、またボロが出てしまいかねない。それならば私が気に入った人達のみを誘ったギルドを作れば良い。単純にそんな考えだった。


「ほんと!?ね、テレス。...もし、作ったら、私もギルドに入れて欲しいなぁ。」


 少し遠慮気味に私に聞いてくるメズちゃんに対して、私は少し困ってしまう。どういうギルドにするのかのコンセプトは決めていたからだ。


 私は星が好きだ。だから、このギルドは星に関連した名前の人達を入れようとは思っていた。だからメズちゃんはその条件には当たらない。


 ん?


 いや、当たる...?気がしてきた。


 綴りは違うけれど、メデューサはメズサと呼ぶ事もないわけじゃない。だから、メズという名前から関連づけられない事もない。ペルセウス座にはメデューサが描かれているから、星関係の名前と言えなくもない。


「...う、うん。いいよ。んじゃ、作ったらメズちゃんをまず誘うね。」


 私は心の中で少しだけ、ため息をつく。私が勝手に彼女の事を苦手なだけでメズちゃんは全く悪い子ではない。むしろ、超良い子だ。誘わない理由がないと言えばない。


「ありがとー!ね、ね、何て名前にするのかもう決まってたりする?」


 メズちゃんの質問に対して、私は軽く頷いて答える。


「ナイトアウル。」


 夜の梟。つまり、夜更かしをする人って意味だ。ゲーム廃人である私にぴったりな名前だと思う。


 しかし、メズちゃんはどうもピンとこないらしい。小首を傾げて私に尋ねてくる。


「えっと、アウルは確かフクロウよね?フクロウの騎士?何だか不思議な名前ね。」


 ...そうきたか。


お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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