最終章2話〜Algol〜
段ボールを開封した私は、中に入ってたVRゴーグルとグローブ型コントローラーなどの周辺機器を取り出す。VRゴーグルを頭に、グローブ型コントローラーを両手に装着し、電源ボタンを入れる。電源を入れた事により、真っ暗だったモニター画面にホーム画面が表示される。
付属されていた取り扱い説明書を読む為に、VRゴーグルをつけたり外したり、四苦八苦しながら少しずつ読み進めていく。まずは設定を選んで、このVRゴーグルをネットワーク接続をしなければならないらしい。説明書通りに家のインターネット回線に繋いで、ネットワーク接続を完了する。ゲームダウンロードする為には、このVRゴーグルのアカウントを作らなければならないようだ。メールアドレスも必要になるらしい。これに関しては以前お父さんのパソコンで自分用に取得してたフリーメールでいい。
で、作成するアカウント名はどうしようか。セキュリティはしっかりしてるだろうから、流出はないだろうけれど、私の本名を入れる事はやっぱり抵抗がある。それにこれから違う世界に行くのに、この現実の世界の私の要素を入れたくなかったと言うのもある。だから、アカウント名には私の好きな星の名前を入れる事にした。決めた。アカウント名はAlgolにしよう。変光星だ。明るさが変わっていく姿が奇妙で悪魔の星と言われ忌み嫌われた星。そこにいるだけで、何もしていないのに周りと違うから嫌われしまうなんて、まるで私みたいな星だなと初めてこの星を知った時からそう感じていた。
アカウントが作成し終わると、VRゴーグルでDL出来るゲームタイトルが無数に画面に表示される。
この中からアバンダンドコンティネントオンラインを選択し、購入したDLコードを入力すると、ゲームのダウンロードとインストールが始まった。私は表示されている残り時間を驚愕する。
...百五十分近くある。二時間半近くはヤバい。中々の大容量だ。いくらなんでも、VRゴーグルをつけたまま待ってられない。
私はVRゴーグルを取り外し、ダウンロードがされるまで、テレビを見たり漫画を読んだりして過ごす。エラーが発生していないかを確認する為に、たまにゴーグルを付け直すが、残り時間は中々減ってはいかない。普段なら数時間なんて、ぼーっとしてたら、一日が終わってるって思うくらいには、早く感じるはずなのに、今日はやけに遅く感じる。待ってる時間がもどかしい。
結局ダウンロードやインストールが予定時間より早まる事も遅くなる事もなく、二時間半ぴったりにインストールが終わった。私はホーム画面から、【Abandoned continent online】のタイトルを選択すると、キャラクターの作成画面へと進んだ。
VRゴーグルのモニターには、【Male】【Female】と選択肢が出ている。私が女性だからって、女キャラクターを使わなきゃいけないって事はない。別に男キャラを使っても良いはずだ。でも、現実では引きこもりで着飾る事が出来ないのは仕方ないけれど、ゲームの中でまで女である事から逃げるのは何となく躊躇ってしまう。私にだってプライドくらいはある。本心を言えば私だって女の子らしい見た目になりたいし、可愛い格好だってしてみたい。だから、【Female】を私は選択したはいいものの、すぐさまその決意は揺らぎそうになった。
その理由はキャラクターの種族選択だ。女の子らしい事をしたいと思って性別はfemaleにしたというのに、エルフ族や人間族の見るからに可愛い女の子のキャラクターを選ぶのは躊躇われた。現実の自分はクラスのカースト最底辺だったのだ。こんな可愛い子達を選ぼうと思うと心の中から"お前ごときがエルフや人間族を選ぶなんて烏滸がましいだろ"と声が聞こえてくる。何度も選ぼうと思ってエルフを選択するも、その度にまた種族選択画面へと戻ってしまう。
...やはり、私にはこの二種族は選べない。かといって、女の子なのに髭がある個性的なキャラクターのドワーフの女の子を選ぶ気にもならない。となると、残るのはオーガ族の少女だった。ツノは最小にすればそこまで目立たないし、身長も設定出来る最小値にすれば人間族の女の子と変わらないくらいの大きさになる。肌の色も薄桃色にしたら、何となく自分が作りたかったキャラクターのイメージに寄せる事は出来そうだ。
...ただ本当はエルフを選びたかったな。
そんな気持ちを抱いたまま白髪のボブカットの髪型まで選択すると、この少女が急に私に微笑みかけてきた。多分表情などを確認する為にプログラムされた動きなのだろうけれど、この表情見たら、せっかく作ったんだ。この子にしようかなと思えた。
さて、名前は最初から決めていた。Telescopeだ。私はキーボードを打ち込み、Telescまで入力を終えたところで、私はcの文字を消す。
テレスコープさんと言われた時の語感を考えると少し長いような気もする。うん、Telesでいいよね。テレス。ちゃんと名前っぽくなった。
プレイヤーネームの入力が完了すると、ジョブ選択画面が現れる。これを選ぶとアバンダンドの世界に行く事になりそうだ。私は戦士や僧侶など選択肢がある中で迷わず盗賊を選ぶ。ずっと現実では大人しく自己主張せずに生きてきたんだ。せっかく違う自分になれるんだ。一番自分と程遠い悪そうなジョブにしよう。そんな考えだった。
ジョブを選び終わると、画面が暗転する。再びモニターに映像が浮かぶと、私は部屋の中にいた。ワンルームの部屋だ。周りをぐるりと見渡すと、部屋の奥に巨大な箱が一つ置いてあった。恐る恐る、その巨大な箱を開けてみると、中にはポーションが一つだけ入っていた。恐らくこれはアイテム収納用の箱なのだろう。
...なるほど。察するところ、この部屋はこの世界の私の拠点ような場所なのだろう。んじゃ、外はどうなっているのだろう。
そう思い、外に出るために玄関の扉を開けると、私の眼前に夜の町が映し出された。あまりのリアルさに全身に鳥肌が立つ。あまりにも現実と何も変わらないほど作り込まれた世界に身が震えてしまう。まだ現実世界は、十四時をまわったくらいで、明るいはずなのに、ここは完全に夜なのだ。音感センサーでもついてるのだろうか、呼吸をする度に私の口元から白い息が吐き出される。あまりにもリアルな映像に脳が錯覚を起こしたせいなのだろうか、風や土の匂いまで感じ取れるような気がする。
顔を上げると、暗闇の空に数えきれないほど多くの星達が光り輝き、この小さな町を照らしていた。満天の夜空とはこのような光景の事を言うのだと思った。まるで、私は異世界に来たんじゃないかと錯覚するような、そんな気分だった。
お読みいただきありがとうございます。
面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。
よろしくお願い致します。