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番外編32〜...おはよ。①〜

「うす。ハル、早いな。」


「...おはよ。」


 私が朝二時に、この摩天楼と言わんばかりの高層ビルの形状をしたラビッツフットのギルド本部のエントランスにログインすると、ギルドマスターであるホーブが私の姿を見て、片手を上げて挨拶してくる。


 ギルマスがギルド長室以外にいるなんて珍しいじゃんと思っていたら、どうやらギルマスも私と同じ事を思っていたようで、意外そうな声で私に話しかけてきた。


「珍しいな。ハルがこんな時間にログインしてくるなんて、朝大丈夫なのか?」


「べっつにぃ。だって、私フリーターだし。明日っつーか、今日はシフト入ってないから、全く問題なし。」


「へぇ、フリーターなのか。オレは、てっきりハルは大学とか専門とかに通ってるのとばっかり思ってた。」


「...何それ。バ⚫︎にしてる?」


 そのギルマスの言い方に私は見下されたような気分になり、苛つきを隠さずにギルマスに言い返す。しかし、ギルマスは、「違う違う。むしろ逆だ。褒めてんだよ。」とかぶりを振って先ほどの意図を説明し出す。


「無職のオレが働いてる奴をバ⚫︎にすると思うか?このギルドで働いてる奴なんて貴重も貴重だ。」


「超ロクでもないギルドだよね、ほんと。」


 私はギルマスに口で悪態をつくものの、このラビッツフットというギルドの居心地は案外悪くない。重度のネトゲ廃人であるアルゴちんが厳選して集めたメンバーなだけあって、基本的にこのギルドに所属しているプレイヤーは無職のクズしかいない。学生も2人程在籍しているけれど、皆不登校という有様だ。


 この時間に普段ログインをしないから私は知らなかったけど、深夜帯だというのにギルドメンバーのログイン率は九割を超えている。


 ...アルゴちんは良くぞここまで社会の最底辺のギルドを作り上げたなぁと感心するまである。


「ま、いいや。私、ちょっと遊んでくる。もし、苦情飛んで来たらギルマスが処理しておいて。」


 私はギルマスに背を向け、手を振りながらそう言うと、「...苦情って。ハル、どこに何しに行くんだよ。」とギルマスの怪訝そうな声が聞こえてきた。


「ん?嫌がらせ。」


 私は振り向きもせず、ギルマスにそう答えると、私はラナイト湾へと蒼穹回廊の効果を使ってワープした。


―――


 ラナイト湾はラビッツフットの数ある拠点の中でも最重要エリアと言っても過言じゃない。基本的にラナイト湾はヴォルトシェルから巡航船でヒビカスの町まで行くか、ゲーム開始時にプレイヤーのスタート地点となる町の一つであるアゼイリの町から、砂漠と峡谷を越えて行くしか辿り着けない。ここを拠点地に出来れば移動時間を物凄く減らす事が出来る為、アルゴちんはラナイト湾をラビッツフットの拠点にする事に物凄くこだわっていた。


 ラナイト湾にはウミネコの洞窟というダンジョンが存在している。ここが今回の私の目的地だ。この洞窟の入り口前にはヴォルトシェルから派遣されたという設定の屈強そうな警備兵が立っており、危険だからとプレイヤーは入る事を許されていない。しかし、プレイヤーのジョブを海賊にして行くと、警備兵は見なかった振りをしてくれて、ウミネコの洞窟内へと入る事が出来る。


 海賊である私はすんなりと警備をパスし、狭く薄暗い洞窟の中を勝手知った様子で、ずんずんと進んで行く。洞窟の最奥に辿り着くと陽の光が差し込む入江と、巨大な海賊船が現れる。ヴォルトシェル王国は海賊を排除する事に躍起になっているのに、実際は、ここでヴォルトシェルの兵士達が海賊達を匿っているのが闇深さを感じる。


 海賊船の前に立っているいかにも海賊風な姿のNPCに話しかけると、次に巡航船へ襲撃する時間は二時三十三分だと伝えられる。私はそのNPCの言葉を了承し、海賊船に乗り込むと、甲板の上には私以外に十人ほど海賊がいた。


「あ、こんばんわー。初めましてですね。エキスパート狙いですかー?」


 赤色の肌のオーガ族の女性に声をかけられる。まぁ、中のプレイヤーが男か女かは分からないけど、とりあえずキャラクターの見た目的に女と思っておこう。別に私はエキスパート狙いでもなんでもないんだけど、まぁ、そういう事にしておいた方が話は早いな。


「こんばんわー。そうなんですー。」


 私はオーガの女性に朗らかな笑顔でそう返すと、彼女は脇を締め、肩の高さくらいの所に両手で拳を作り、「遠い道のりですが、エキスパートスキル目指して、お互い頑張りましょう!」と気合を入れている。他のプレイヤー達からも、「頑張ろう!」と私に声がかけられる。


 彼女達はどうやらエキスパートスキル狙いの常連らしくて、全員顔見知りらしい。熱苦しくて、こういう体育会系的なノリは大嫌いだが、深夜帯で人は少ないと言っても海賊船奪取する事で晒されたりするリスクを負いながらも、エキスパートスキルを狙おうとしているあたり気概のある連中だ。多少なりとも好感は持てる。


 出航時間になり、海賊船が動き始めると、数分後には今回襲うべき巡航船の姿が海上に見えてきた。


 さ、ストレス溜まってるし、虐殺して遊ぼ。


―――


 海賊船から巡航船へと私達は飛び移ると、オーガの女性は手馴れた様子で船長室へと一目散に駆けて行く。他のプレイヤー達は彼女をサポートするように、阻止しようとしてくるプレイヤーを足止めしている。出来る限りキルはせず、相手の被害は最小限に抑えて、この船を奪い取ろうという事らしい。


 お優しい事で。


 私は巡航船を奪い取るのを阻止しようとしてくるプレイヤー達に、ニコニコとした笑顔を崩す事なく、遠慮なく曲刀で首を切り落とす。


 生ぬるいなぁ。そんなんじゃダメだって。


 私が一人、また一人と逃げ回るプレイヤーを曲刀でどんどん斬りまくっていくと、味方であるはずの海賊達からも、どよめきの声が上がり始めてくるが、そんなん知ったこっちゃない。


 制限時間は残り二分。あと二人はやれるかな。


 二時台の襲撃は結果的に大成功だった。船も奪えたし、私一人だけで五キルする事が出来た。


 上出来上出来。出だしにしては悪くないペースだ。


 だが、周りの海賊達からは先ほどの和やかな雰囲気と違って、明らかに私に向けられる目が変わってきている。私のプレイングに対してドン引きしているようだ。


 船長室に入りさえすれば巡航船を奪う事に成功するのだから、PKはしなくても良いっちゃ良い。それを考えると、彼等のようにあまり波風立てないやり方もありなんだろうが、残念な事に私の目的はエキスパートスキルじゃない。


 ただの嫌がらせだ。


 そんな私をみかねてだろう。オーガ族の女性は、「あ、あの、釣り人まで、キルされちゃってますよね... 。もしかすると、匿名掲示板やSNSに晒されたりしちゃうかもしれませんよ。」と、恐る恐ると言った様子で私に話しかけてくる。


 私は彼女達のその言葉を聞いて鼻で笑い、彼女達に心底バカにしたような声と笑顔で言ってやる事にした。


「はぁ?エキスパートスキル狙ってるくせに、そんなつまんない事気にしてんの?くっだらな。」


 それから、この海賊達は私と一緒に巡航船襲撃をすると晒されかねないと踏んだのだろう。三時台の襲撃からは海賊船に乗っているプレイヤーは私一人になった。


 クソ萎えるわほんと。あんな奴らじゃ、一生かかってもエキスパートスキルは取れないわ、絶対。エキスパートスキルは人から嫌われようが、んなこと一切気にせず、自分の欲望に正直じゃないと取れるはずもない。皆はクソだクソだと言うけれど、私からしたら、良く出来たクエストだと思う。


 結局、三時台、四時台、五時台とソロで巡航船全止めに私は成功した。周りで、雑魚どもにうろちょろされているより、よっぽど私一人の方がやりやすい。


―――


 6:30


 私は再び海賊船から巡航船へと乗り込む。この時間は学校や会社に行く前に軽く釣りをしたり、他の町に行こうとしたりする学生や社会人プレイヤーなのだろう。大分巡航船に乗っている人の数が増えていた。


 こっからはちょっと難易度上がってきたな。少しは楽しめそうだ。


 多くのプレイヤーが巡航船を奪い取ろうとする私を止めようと、私の前に立ちはだかってくる。その中に一人、私を見て怯えている女の子のキャラクターがいる。見た感じ、恐らく初心者ちゃんと思われる。この子を見てると何だかアルゴちんにくっつく悪い虫を思い出してしまった。


 私は目の前に立ちはだかるプレイヤー達など目もくれず、彼等を掻い潜りながら、初心者らしきプレイヤーの前へと一気に詰め寄る。


「おはよー。」


 私はその子ににっこりと笑顔で話しかけて、曲刀を腹部に突き刺すと一撃で、彼女はその場に倒れ込む。


 あー、すっきりした。超楽しい。


お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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