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番外編31〜一番難しいクエストって何になるんでしょうか?〜

「...メズさん大丈夫ですか?」


「...大丈夫。大分精神やられたけど、これで二度とあいつの顔見なくて済むと思うと喜びの方が上回るわ。」


 その言葉通り、先程まで気持ち悪そうにえずいていた時と違って、ミルファ姿のメズさんはどこか晴れやかそうな顔をしている。だからこそ、私はメズさんに、「...そうですね。」としか言えない。あの事を完全に忘れてしまっているらしい。


「何言ってんだ。クリアしたのはユカちゃんでお前まだレベル30以下なんだから、ミルファが30なったら、またここに来る事になるんだぞ。」


 ...ああ、敢えて私は指摘しなかった事をモノーキーさんが言ってしまった。


 全身緑色で三本角を生やしているオーガであるモノーキーさんは呆れ顔でメズさんに言う。


 メズさんは、「...そうだったわ。私はまだクリアしてなかった...。」と言って、再び全てに絶望したような顔つきになっている。


「...マジ最悪なんですけど。」


 【世界で一番弱いモンスター】というクエストをクリアして、大衆食堂を出た私達はそんなたわいない会話をしつつ、四層にある五つ葉のクローバーのギルド本部に向かっている。


 このクエストを達成する為に、いずれまたこの大衆食堂の料理長と再び向き合わなければいけないという事でメズさんは調子悪そうにしている。本当にこのクエストはメズさんにとってトラウマと化しているようだ。そんなメズさんを見て私は一つ疑問に思う事があった。


「これほどトラウマになるクエストでも、モノーキーさん達にとっては、このクエストが最難関ってわけではないんですよね?」


 私の質問にモノーキーさんは、「ああ。もっと頭がおかしくなりそうなクエストはこれ以外にも腐るほどあったぞ。」と言って、真顔で頷く。


 ...こんなサラッと言うなんて、他のクエストはどれだけ酷い事になっているのだろうと、思わず不安になる。


「私もトラウマ度はこのスライムが一番だけど、最難関って意味で言うなら、他のを挙げるわね。」


 メズさんも先ほどよりは平静を取り戻したようで、再び私達の会話に参加してくる。


「それではACOで一番難しいクエストって、何になるんでしょうか?」


 勿論、人によってその答えは違うのだろうと思うけれど、このACOという世界において相当な強者である二人はどんなクエストを難しいと思うのか興味が湧いた。


 そんな私の質問に、『エキスパート。』『エキスパートスキルね。』とモノーキーさんとメズさんからほぼ同時に返事が返ってくる。最大手ギルドのギルドマスターをしていた二人が返答に窮する事なく即答するのだ。恐らくこの世界の大部分の人はそのエキスパートスキルのクエストが最難関と思うはずだ。...一体どれだけの難易度を誇るのだろう。


「それって、メズさんが持ってるユニーク武器やモノーキーさんが買ったと言う蒼穹回廊よりも難易度が高いんですか?」


「高い。」「高いわね。」


 再び、モノーキーさんとメズさんは声を揃えて私に言う。良くいがみ合って口論している二人だが、何だかんだで息ぴったりな様子に思わずクスりと笑ってしまう。


「ユニークや蒼穹回廊は金さえあれば手に入るからな。エキスパートスキル入手クエストの方が、この二つより遥かに難易度高い。」


 モノーキーさんがそう言うと、メズさんも同意らしくこくりと首肯する。


「そうね。エキスパートスキルだけは本気で人生をアバンダンドに注ぐつもりじゃないと無理だわ。」


「...ちなみにどんな内容か聞いてもいいですか?」と言う私にモノーキーさんは、「そうだなぁ。」と顎に指を添えて、少し考えている。


「海賊のエキスパートスキルだったら、こいつを入手する為には五千回巡航船を奪取する必要があるとかだな。」


 モノーキーさんの言葉にメズさんも同意なようで、「ほんと頭おかしい難易度よね。」と苦々しげに言うけれど、ようやく30に達したばっかりの私には、その難しさはどうにもピンと来ない。


「五千...。すみません。聞いておいてなんなんですが、それって凄く難しい事なんでしょうか?」


「ピンと来ないか。うーん。そうだな。ユカちゃんは見た事ないかもしれないが、船に乗ってるとジョブが海賊のプレイヤー達が襲ってくる事があるんだ。その襲ってきた海賊達が五分以内に船長室にまで乗り込むと、奪取成功になる。」


「それを五千回...。」


 その言葉で少しだけ、この難易度が私にも分かったかもしれない。船は一時間に一本もしくは二本程度しか出ない。単純計算だけど、このクエストに費やす時間は最低五千時間はかかる。確かに難しそうなクエストだ。でも、これだけだとモノーキーさんのような超やり込み系のプレイヤーなら、結構達成する人もいてもおかしくない気もする。


 そんな私の疑問を見透かしたかのように再びモノーキーさんは口を開き始める。


「ユカちゃんは船を奪取されると、乗ってたプレイヤーはどうなると思う。」


「えっと、目的地のエリアで降ろされるんじゃないんですか?」


「不正解だ。船が奪われると、乗ってたプレイヤーは元の港にまで戻されるっていうクソみたいな仕様だ。一時間に一本か二本しか出ない船でそれやられてみろ。ガチで海賊に対してイラついてくるぞ。」


「...確かに。もし、自分が船に乗ってる時にそれ起きたらと思うと、非常に迷惑ですね...。」


「だろ?あまりにも傍迷惑だから、自警団として強いプレイヤーが趣味で防衛してくれたりするし、もし、いなくても船釣りしてるプレイヤー達は、釣りが途中で打ち切られるの嫌がって死ぬ気で海賊達を阻止してくるから奪取成功率は著しく低いんだ。」


 モノーキーさんの説明を補足するように、メズさんも口を開く。


「それにね、巡航船奪取したプレイヤーは匿名掲示板に晒されたりするしリスクもあるわ。だから、今は積極的に船を襲うプレイヤーはとても少ないの。いても人のいない時間狙ってやるプレイヤーがほとんどかしら。朝の二時とか三時とかね。それでも結構厳しいけど。」


「...一日に出来て二回三回しか成功しないと思うと相当エグいですね。それを五千回...。」


 私がこのクエスト、このアバンダンドいうゲームの異常性に大分理解が進んできた事で、メズさんはニヤリと口の端を吊りあげる。


「エキスパートスキルは、どれもこれも他のプレイヤーを出し抜いたり、蹴落とした先に手に入るものが殆どなのよ。海賊だけじゃないわ。だから、狙ってる奴も他のプレイヤーに迷惑かけても気にしないっていう点で、相当ヤバい奴しかいないわ。」


「そういや、この前ハルが船で暴れまくったみたいで掲示板に晒されてたぞ。クソ海賊として。」


「...ほんと見事にあんたの教え子ね。ユカユカちゃんはハルみたいにならないでね、ほんと。」


 メズさんはハルさんが苦手なようで、私の手を握り、必死に訴えてくる。


「...肝に銘じます。」


 あまりのメズさんの熱意にハルさんに申し訳ないと思いつつ、そう答えるとメズさんは安心したようで軽く息を吐く。


「...ね、エキスパートスキルを手に入れようとしてるだけで、これだけヤバいんだから、持ってる人がいたら、異常者よ。マジで。」


 そう言うメズさんの視線は、モノーキーさんへと向かっている。


 ...。


「...まさかモノーキーさん持ってるんですか!?」


 私も怪訝な眼差しをモノーキーさんへと送る。


 ...この人ならやりかねない。ゲームに人生を全て注ぎ込んでいる人だ。このゲームを始めて、日は浅いけれど、まだ私はこの人以上にこのゲームに狂気に近いほどの熱情を燃やしている人を見た事がない。


「...あるわけないだろ。」


 そう言って、私の言葉を何を馬鹿な事を言ってるんだと言わんばかりに軽くあしらってくる。その言葉に私は内心ホッとする。


  ...良かった。持ってなかった。まだ、この人も常識の範囲内にいる人だった。


「ほんとかしら。この男は嘘つきだからね。本当に持ってなかったとしても、かなり入手に近いところにいると思ってるわ。」


 メズさんはモノーキーさんの言葉に納得出来ていないようで、目を細め、疑わしげに見つめている。


「...おいおい。盗賊のエキスパートスキル達成条件は宝箱五千個開ける事だぞ。無理に決まってんだろ。」


 モノーキーさんは呆れた声でメズさんに向かって言う。


「宝箱はダンジョンに数個しかない上に一度開けたら、次の宝箱復活するまで小一時間かかるんだぞ?しかも、宝箱は他にクエストで必要なアイテムも出るからライバルも多い。無理だ無理。」


「でも、私アルゴが宝箱争いで負けたところ見た事ないんだけど。それに、ナイトアウルにいた時一日で三十個開けてやったとか、ざまぁみろとか言ってた事なかった?」


「ありゃあ、一日の最高記録の話だ。俺が宝箱目の前で奪ったってだけで、ギルド総勢で喧嘩売りにきたから、十時間近く全部の宝箱独占したってだけだ。普段はそんな事しねーよ。」


「...普通は喧嘩売られたってそんな事しませんよ。何かモノーキーさんならそのうち本当にエキスパートスキル手に入れちゃいそうですね...。」



お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
新年早々お疲れ様です アルゴのひけらかさず裏で努力出来る人間性と、 2人のアルゴの理解度がよく分かる良い話ですね
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