第2章12話〜だから俺は〜
「...結構大きな告白だったんだけどな。...何があったか知らないけど、とりあえず私は手は抜かないからね。...受け切らないと⚫︎ぬよ?」
そう言うと、ハルは俺に切り掛かってくる。このまま無抵抗でやられてしまおうと思っていたのに、体が咄嗟にハルの斬撃をバックラーで受け止めるだけでなく、腰に身に付けていたホルスターからダガーを抜いて、アシッドスラッシュを思わず放ってまう。
「...そうこなくっちゃ!」
俺がやる気になったと思ったハルはパァっと表情を明るくさせている。俺が放ったダガーによる攻撃はハルの肩をギリギリ掠め、ハルに毒を付与すると同時に頭の中に声が響いてくる。
なぁ、恭介。お前が全て原因だ。お前がハルを批判できるわけがないよな何で攻撃を受け止めた。何で攻撃を仕掛けた。まさかお前まだハルと正々堂々勝負したいとでも思ってるのか?
「なーに。アルゴちん。アシッドスラッシュなんてせこい技使っちゃって。」
ハルが毒消しを使おうと足を止め、メニューを操作しようとするその隙を逃す事なく、俺は彼女の首を狙って攻撃を仕掛けに行く。
俺相手に毒消しを使う余裕があるわけないだろ。ラビッツフット離れてそれほど経ってもいないのに舐められたものだ。
ハルは俺の攻撃モーションをその超人的な反応速度で見抜くと、直ぐに大きく後ろにジャンプして、俺のダガーでの攻撃を完全に避ける。
あのタイミングからの攻撃を躱すとは流石だ。
相変わらず、ハルは笑っちまうくらい凄まじい反応速度をしている。ユカちゃんといい勝負をしている。強い。面白い。思わず顔が綻んでしまいそうになる。
お前まだこんな状況となってもゲームを楽しむ気でいるのか?どこまでも身勝手だな。言葉でハルに謝ってはいても、本心ではそんなこと思ってないんだろう?お前はどこまでもお前の事しか考えていないからな。
ハルは毒によるスリップダメージ量が予想以上だったのだろう。少し焦った表情を浮かべ、毒でやられる前に押し切ろうと、俺に近距離戦を仕掛けてくる。ハルの猛攻を俺はダガーやバックラーで受け止めつつ、俺もハルの首を狙って攻撃を仕掛ける。そう簡単には俺の首は落とさせない。
決め手に欠けると判断したのだろう。ハルが水魔法を使う為に再び大きく後ろにジャンプをし、俺から距離を取り出す。
今度は魔法なんて打たせるかよ。
俺はすかさずテレスの弓に四本矢をセットし、攻撃を溜め始めると、ハルに狙いを定めながらジリジリと距離を詰めていく。狙いは零距離射撃だ。エキスパートスキルを使わずとも、この弓で確実にダメージを与えられる唯一の方法だ。
テレスの弓か。お前にその弓を使う資格などない。テレスが死んだ事を知った時、誰にも伝えず、お前だけの秘密にしたのは、テレスが死んだのを認めたくないという事だけじゃないはずだ。お前がとった行動全てが、あいつを追い詰める結果となり、自殺したと周りに思われたくなかったからだ。
「アルゴちんの考えてる事当ててあげる。」
メズから糾弾されるのが怖かったんだろ。ナイトアウルのみんなに真相話して糾弾されるのが怖かっただけなんだろ。テレスが死んだ事すら、お前は自分の身のことだけを考えていたはずだ。お前は誰よりもお前のことがかわいいんだよな。愛した人が死んでもそれは変わらない。
「...零距離射撃でしょ。私に密着して射れば上に飛んでこうが、下にとんでこうが関係なく当てられるからね。...良い作戦だね。」
バレたらどうしよう。それだけしか考えていなかったはずだ。メズに真相を知られないようにする為と言う理由をつけて、メズにナイトアウルを押し付けて逃げた。自分の罪の意識をかき消すために、周りから嫌われるような行動をとった。
「...でもぉ、本当にその弓、私に当てられるぅ?」
それでいて、誰からも嫌われるのは嫌で、ハルやユカちゃんといったテレスに似た人物たちに優しくして慕われている事に満足している最悪な人間だ。
「アルゴちんが私と心中する為に胸に飛び込んでくるなんてドラマみたいでドキドキしちゃうなぁ。いっそのこと私の方から飛び込んじゃおうかなぁ。」
頭の中に声が鳴り響く中、ハルが猛烈な勢いで曲刀を振るい始める。
もう、いつでもやられてもいいはずなのに、俺は攻撃を避けてしまうどころか、零距離射撃をする為に密着出来そうであれば、ハルに向けて飛び込んで行く始末だ。頭に鳴り響く声の通りだ。俺はどこまでいってもゲーム中毒だ。どこまでも自分の事しか考えていない。こんな状況であっても責められても何をしても楽しく思ってしまう自分が嫌だ。だから、俺はこの試合が終わったら引退しよう。もうすぐだ。もうすぐ終わる。
「大好きだよ。アルゴちん。」
お前は自分を慰めるためだけにハルに優しくした。テレスの代用品としてな。
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