第2章11話〜悪かった〜
「...結構大きな告白だったんだけどな。...何があったか知らないけど、とりあえず私は手は抜かないからね。...受け切らないと⚫︎ぬよ?」
そう言って、私は左手のグローブ型コントローラーに強く力を込めて、曲刀を握り直す。
...まぁいいや、この攻撃でアルゴちんが死んだら死んだでそこまでだ。ここで死ぬ程度なら、アルゴちんも期待外れだったというだけにしか過ぎない。
痺れを切らした私はアルゴちんに飛び込んで曲刀で切り掛かると、私の斬撃をバックラーで完璧に受け止めただけでなく、更に腰のホルスターからダガーを抜いて、攻撃を仕掛けてくる。
まったく、カトラスのような攻撃力の高い大型のナイフじゃなくて、PvE仕様の小型のナイフ用意してくるなんて、まるで私の事モンスター扱いじゃん。酷いなぁ。...でも、
「...そうこなくっちゃ!」
私はそのアルゴちんの攻撃を上体を逸らし、ギリギリ躱わそうとするも、刃先が肩に微かに掠ってしまう。この攻撃により、私のステータス欄に毒状態を示す、瓶に入った紫色の液体のアイコンが付与される。
「なーに。アルゴちん。アシッドスラッシュなんてせこい技使っちゃって。」
私は毒消しを使う為に、メニューを開き、アイテム欄から毒消しを探していると、その隙を見逃すはずもなく、アルゴちんは躊躇なくダガーを振るい、私の首を正確無比な軌道で掻っ切ろうとしてくる。
あっぶないあっぶない!
今度は先ほどの反省から、大きくバックステップし、完全に攻撃避ける。
アルゴちん相手に毒消しを使う余裕なんてあるわけないか...。ヤバいな。毒によるスリップダメージの量が半端じゃない。私のHPゲージが見る見るうちに減っていってる。こんな減り方見た事ない。アルゴちん、毒属性強化を極限まで上げてきてるなこりゃ。多分現状手に入る毒属性強化の装備全て揃えてないと、このスリップの量はありえない。さっさとアルゴちん殺さないと、私が毒でやられてしまう。反省だ。自分が今相手にしてるのは最強の盗賊であるアルゴちんだって言うのを忘れてた。...やっぱアルゴちんはこうでなきゃ。
今のアルゴちんの状態が明らかに普通じゃないのは私にだって当然分かっている。かといって、それを気にかけてあげられるほど私は優しくはない。何があったのかは知らないけど、それはアルゴちんの都合だ。私には関係ない。
それに風邪を引いて体調が悪くても、精神が疲れていたとしても、ゲームにおいてアルゴちんは絶対に手を抜かないのを私は知っている。PvPの相手が初心者だとしても、ギャハハと汚い声で笑いながら全力でボコボコにする。それがアルゴちんだ。
先ほどだっていつものアルゴちんではないものの、レグルを蘇生するという点においてはきちんと結果を出している。普段のアルゴちんらしくはないけれど、あれはあれで正解の行動だ。ゲームにおいて手を抜かない。その一点に関しては私はアルゴちんの事を何よりも信頼している。だから、私はアルゴちんのそういうところが好き。
愛してる。
さて、この毒でやられるまで、残り二分ってところか。一気に攻めきるしか、もはや選択肢はない。
お互いに速さを活かした戦闘スタイルだ。一瞬たりとて気は抜けない。
私は目の前のアルゴちんの攻撃のみに、神経を集中させる。アルゴちんは的確に私の首を一点を狙ってくるだろう。少しでも気を抜いたら掻っ切られるはずだ。私の曲刀での攻撃を器用にも小型のナイフであるダガーで全て受け止めながら、反撃の隙を狙ってくる。
やはり、アルゴちんはカペラやレグルなんかとはモノが違う。面白い。本気のアルゴちんなら、このくらいやってくれると思ってたよ。
決め手にかける私は魔法を使う為に、大きく後ろに飛び、アルゴちんから距離を取ると、今度はアルゴちんは弓へと武器を持ち変える。
クソ、そう来るか。
アルゴちんは弓に矢を四本セットし、攻撃を溜め始めると、私に照準を合わせながらジリジリと近づいてくる。これでは詠唱も出来ない。先ほど使ったのがエキスパートスキルであれば、まだアルゴちんはあのスキルの再使用時間になっていないはずだ。しかし、私は警戒を解かない。あのスキルがない限り、アルゴちんはこの漆黒の弓をまともに扱えないなんて思うわけがない。
「アルゴちんの考えてること当ててあげる。」
私の言葉にアルゴちんは何も言わず、弓を構えながら、攻撃を溜め続けている。
「...零距離射撃でしょ。私に密着して射れば上に飛んでこうが、下にとんでこうが関係なく当てられるからね。...良い作戦だね。」
ただ、この作戦を決行すれば、アルゴちんも矢の爆発に巻き込まれるから自爆覚悟だろう。
「...でもぉ、本当にその弓、私に当てられるぅ?」
確実に当てられるほど、アルゴちんが私に密着しようとしてくるなんて、キュンとしちゃうな。
「アルゴちんが私と心中する為に胸に飛び込んでくるなんてドラマみたいでドキドキしちゃうなぁ。いっそのこと私の方から飛び込んじゃおうかなぁ。」
そう言うと、私は逆にアルゴちんに向かって飛び込んでいく。アルゴちんは弓を構えたまま私の剣戟を避け続けている。この状態でも避けれるとは流石だ。でも、こんだけ動き回ってたらアルゴちんは私を狙えないだろう。しかし、アルゴちんは焦る事なく隙があれば、私へと距離を詰めて狙おうとしてくる。
一瞬でも気を抜けば、あの弓から最大火力の一撃が飛んでくる。毒なんか使わないでも、アルゴちんのプレイヤースキルはやはり卓越している。
「大好きだよ。アルゴちん。」
今、この場は私とアルゴちんの二人きり。二人だけの世界。最高なのになぁ。
毒によりHPゲージが減り続ける中、何度も私は刀を振るう。その度にアルゴちんは私の攻撃を避け、零距離まで詰めようとしてくる。まるで二人でステップを踏んでダンスをしているようだ。
ああ、アルゴちん。アルゴちん。アルゴちん。好き好き好き好き好き。この世界の誰よりもアルゴちんの事が好き。あと数秒でこの戦いが、終わっちゃうのが辛くて堪らない。
しかし、それでもタイムリミットは来てしまう。私は両手をあげて曲刀を地面に落とす。
降参だ。
「あーあ、負けちゃった。最高に面白かったよ。アルゴちん。もうっ!毒なんかにしないでよね。つまらない結末じゃん。ずっとこうして戦っていたかったのにぃ!」
「...ハルが俺より圧倒的に格上だったからな。毒なら一撃でも与えれば、HPを勝手に削ってくれるからな。ゲームシステムを活かさないと俺じゃあハルに勝ち目はなかった。...昔、教わったんだ。動きの速い相手や格上の相手をソロで倒す時は、スリップダメージで倒せってな。」
そう言って、アルゴちんは右手に握りしめているダガーナイフを見つめている。そんなアルゴちんを見て、私は苦笑いを浮かべながら、「そっか。確かに格上相手ならそうするのがベストか。良い作戦だったよ。」とアルゴちんに言うと同時に彼の与えた毒により、私のHPゲージが尽きた。
私の操作するハルは糸の切れたマリオネットの如く、支える力を失い、背後にある大岩にもたれかかるように後ろから崩れ落ちる。私個人としてはアルゴちんにやられたのはある意味満足のいく結果ではあるものの、今の私はラビッツフットの一員だ。ここでいつまでも感慨に浸っているわけにはいかない。
私はリスポーン地点として設定しているヴォルトシェル一層に帰還し、蒼穹回廊のワープを使ってライクス島へ戦線復帰しようと思ってはいたが、アルゴちんが未だに弓を構えているのが見え、気になった私はその操作を取りやめる。
目の前に、ラビッツフットのメンバーはいないのに何をしているのだろうか。
それから直ぐに、あの時と同じようにアルゴちんの身体が光り輝く。
あのエキスパートスキルを発動させたらしい。...ここからギルマスでも狙うつもりだろうか。確かにあのスキルなら屋上に一瞬でも姿を見せれば、一撃でギルマスを倒す事が出来るだろう。ただ、レグル達にうちのギルマスが屋上まで追い詰められてくるなんて、そう簡単な話じゃない。アルゴちんがそんなに仲間を信用するのだろうか。...まさか!
一本ずつですらラビッツフットの精鋭たちを壊滅させたユニーク武器による射撃だ。その矢が先ほどとは違い、四本全ての矢が一つの矢のようにまとまり目標へと向かっていく。その直後、激しい爆発音と共に砦がたった一撃で崩れ落ちていくのが私の目に映る。
勿論、砦内部ではラビッツフットとナイトアウルの激しい攻防が繰り広げられている為、砦が相当破損していたのは間違いない。それでも傍目には、アルゴちんがたった一撃で砦を崩落させ、領土防衛戦を終了させてしまったようにしか見えない。そんな事分かっているにも関わらず、「...すっご。」と思わず口ずさんでしまう。
弓を空間にしまったアルゴちんは私へと振り向き近づいてくる。
「...ハル悪かった。俺は引退する。」
そう言い残し、アルゴちんは私の前から去って行った。
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