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第2章9話〜ダメだよねぇ〜

 砦の屋上から見えた光景に、私は歓喜の声を上げる。


「...やっばぁ。すっごい!すっごーい!!!かっこいい!マジでアルゴちん愛してる!」


 思わず柏手までうってしまう。大声で敵で自分達の仲間を大勢戦闘不能にしたアルゴちんを褒める讃えている事に対して、横にいる魔法部隊達からの冷ややかな視線がとんでくるが、そんなのお構いなしだ。


 アルゴちんはユニークの占有権争いなどPvEにおいては無類の強さを誇るが、PvPではギルマスや私には劣る。アルゴちん本人もそれは分かっていて、俺は金策のが得意と良く言っていた。なのに、まるでアニメやゲームの魔王の攻撃のようにあの弓から放たれた光り輝く一撃で、ラビッツフットの近接部隊をいとも容易く殲滅してきた。まさに最強。まさに一撃必殺。


 本当に驚嘆に値する。今のアルゴちんなら、PvPにおいてもギルマスやザラシにも匹敵するかもしれない。まさに最強というのに相応しい。私の大好きなアルゴちんがPvPまで強くなったのは、これ以上にないくらいに嬉しい。それに、このアルゴちんの活躍に心躍ったのは私だけじゃないようだ。


「やってくれる。」と、砦の下から笑い声がする。


 私は屋上の端ギリギリまで寄り、身を乗り出しながら、下を見るとギルマスが嬉しそうにニヤリと口の端を釣り上げていた。どうやらギルマスも私と同じ気分のようだ。最初のアルゴちんの弓の攻撃を受けて、消滅したギルマスの右腕はヒール魔法によって既に復活し、その手には力強く大太刀が握られている。


 ギルマスは屋上にいる私を見上げると、「ハル!降りてこい!誰も砦に通すな!お前がナイトアウルの動きを止めろ。俺は魔法石を死守する為に砦に入る。」と言い残し、砦の中に戻って行く。


「...無茶言ってくれるなぁ。人使い荒過ぎ。」


 はぁ、と私はギルマスからの無茶振りに諦めのため息をつく。


 誰も通すなって言ったって無理があんでしょ、どんな一騎当千よそれ。どんだけ人数いると思ってんのよ。


 私は砦の屋上からナイトアウル陣営に向かってぐるりと視線を走らせる。


 フィールドに転がっているアルゴちんの使っていた四体のキャラクター達はもう復活してくる事はないだろう。正規メンバー達と比べて、そこまでレベルが高くなかったのがバレた今、砦内でのどこから攻撃を受けるか分からない乱戦向きではない。


 えーと、そうなるとナイトアウルはあの四体抜かすと二十八人。タンクが八人。近接アタッカーが七人。魔法使いが六人。ヒーラーが七人か。...さて、どうしたものだろう。ナイトアウルのタンクやアタッカーなどの近接部隊が、もう大分砦に近づいてきているしなぁ。


 ...しゃあない。通さないプレイヤーの選別でもするかぁ。強い奴のみここで足止めさせよう。乗り込んだ雑魚はギルマス達が倒してくれるだろう。っつーかギルマスなんだから、そのくらいしてもらわないと困るし。今のところ自爆して右手吹っ飛ばして、砦に引きこもってるだけじゃんあの人。


 私は大勢こちらに向かってくるナイトアウルのメンバーの中から、ドワーフ族の盗賊であるカペラに視線を向ける。


 まぁ、同じ雑魚でも盗賊は足が速いし、回避能力も高い。砦に乗り込まれたら、魔法石奪われる可能性高くなるから、こいつは通しちゃダメか。


 私は砦の屋上から飛び降りながら、カペラに曲刀で切り掛かり、その勢いのまま彼の右腕を切り落とす。


 カペラとは前回のナイトアウル戦でも戦っている。その時はHPを一も減らす事なく完封出来ているし、ハッキリ言って雑魚だ。私の相手ではない。なのに、今回はカペラは右腕を切り落とされたというのに動揺する事なく、果敢にも即座に残った左手に持つダガーで状態異常スキルを私に向かって発動してくる。へぇ、どうやら前回とは少し違うらしい。


 ...でも、大して強くないくせに、一か八かで私にペトリファイスラッシュ当てようとしてきたのは腹立つなぁ。雑魚は雑魚らしくしてろって。片手を石化させたら私にワンチャン勝てるとでも思ってるのがマジでイラつく。私の両手両足石化くらいしてようやく勝ち目が出てくるレベルだってのに。そもそも、お前如きの攻撃が私に当たるわけないのが分かんないの?


 カペラがスキルを発動させたダガーを私に突き刺すより早く、私は今度はカペラの左手を切り落とすと、間髪あけずに曲刀を彼の左肩から右腰に向かって大きく真っ二つに胴体を両断する。私にとっては何の造作もない事だ。


 まずはワンキル。相変わらず話にならないほど弱っちぃかったけど、前回よりは少し動きマシになってたかな。私を苛つかせた事だけは褒めたげる。良く出来ました。...さて、次はどいつをぶっ殺そうかな。


 軽く後ろを振り向くと、ナイトアウルのプレイヤー達が何人も砦の中に入って行ってしまうのが見える。


 ...あちゃー。やっぱ全員食い止めるとか、どう考えても無理があるって。カペラを相手にしてる間に何人か通っちゃったなぁ。...ま、別にいっか。そろそろ皆ヴォルトシェルから砦に戦線復帰してくるだろう。私だけ負担大き過ぎだし、砦の中の事は砦にいる人達にやらせればいいや。


 砦を見つめ、そんな事を考えていると、誰かがロングソートで私の背後から切り掛かってくる。私は振り向く事なく、即座にその攻撃を左手に握る曲刀で弾き返す。私がその剣の持ち主へと向き直ると、そこには全身白銀の鎧を身に纏った一人の王国騎士が立っていた。


 ...何だ、レグルか。鬱陶しいなぁ。


 私は今までレグルと戦った事はないけれど、その実力の高さは良く分かっている。メズちゃんの代わりにナイトアウルの代表をこなしていたし、カペラと違って、こいつは雑魚キャラではない。勿論、私やギルマスと比べれば遥かに格下だし、私が負ける要因など何一つないけれど、今の状況だと少ーしだけまずい。


 白銀の兜の下から覗かせるレグルの目を見れば一目瞭然。自分がここで戦闘不能になってでも、味方を出来る限り砦の中に通そうという覚悟が決まっているようだ。まさにこのギルドの盾と言ったところだろうか。レグルは私が相手だと言うのに、一切怯む事なく、掌からすかさず光を私に放ってくる。


 ヘイトスキルか。めんど。


 モンスターに対しては敵対心を上げて自分に攻撃を仕掛けるようにするスキルだが、PvPではまた違う効果となる。この効果をくらっている間、私の攻撃は他のプレイヤーへダメージが通らなくなる。全くもってめんどっちいことをしてくれる。これで私はレグルと戦うしかなくなったじゃんか。


 前回、レグルを相手にしたのはギルマスだったから、造作もなく倒していたけれど。まぁ、あれは相手が悪い。ギルマスをまともに相手に出来る奴なんて本当に限られている。良い機会だ、多少興味あるし、私自らレグルの実力がどれほどか見てやろう。


「仕ッ方ないなぁ。特ッッ別に私が相手してあげるんだから、少しは楽しませてよね。」


 そう言って、私はロングソードを構えているレグルに飛びかかる。王国騎士は同じタンクロールである戦士よりも更に防御力の高い、重装備のジョブだ。防御という一点に置いては王国騎士は全ジョブ最強だ。しかし、その分私のような素早い動きを得意とするジョブを相手にするのは苦手となる。


 予想通りレグルは、私の素早く打ち込んでくる剣戟を黄金の大盾で受け止めるのが精一杯で、私に攻撃を仕掛けるのは難しいようだ。余裕綽々に笑顔を崩さない私と対照的に、兜の下から覗かせるレグルの表情には段々と焦りの色が見えてきている。


「必死な顔しちゃってやぁねぇ。このラビッツフットのお姫様。大海賊ハルちゃんが特別に相手してあげてるんだから、もっと嬉しそうにしてよねぇ。」


 ...反応なしか。盾役としては及第点をあげるけど、つまらないプレイングだなぁ。せっかく、この私が話しかけてあげてるのに返事を返す余裕もないらしい。


「メズちゃんの仇、それじゃ取れないよ。」


 私はキャハハと笑いながら、左手に持つ曲刀でレグルに猛攻を仕掛けつつ、右手の指で自分の首をゆっくりトントンと指し示す。


「私の首はここ。私がメズちゃんの首を切り落とした時のように、狙ってごらん?」


 私がぐいっと顔をレグルの前に近づけ、嘲りの言葉を口にすると、遂に激昂したらしい。頭に血の上ったレグルは強くロングソードを握りしめて、私に大きく振りかぶってくる。ロングソードを握るその両手は怒りで戦慄いている。


 ...あーあ、私にそんな大振りで隙見せちゃダメでしょ。戦闘中にこんな煽りに反応するようじゃ、絶対私には勝てない。期待はずれ。不合格。こんなんじゃ、プレイヤースキルはレグルのが上だとしてもカペラの方がまだ合格点あげられるなぁ。


 私はレグルのロングソードの一撃を左手に持つ曲刀で横殴りにして払う。これによりバランスを崩したレグルに、更に私は体をぶつけて押し倒すと、兜と鎧の隙間から刃をレグルの首に当てる。


 これでおしまいね。アンタじゃメズちゃんの騎士にはなれない。弱っちぃなぁ。


 首を掻っ切ろうとすると、「クソおおおおお。」とレグルが叫び出す。私は思わずその叫びに対して先程よりも甲高い声でキャハハハハと笑い出す。


 あー、こういう復讐に燃える奴を一方的にボコるのって最高に楽しい。いくら叫んでも、だーめ。私は手を抜かないよ。


 私は躊躇なくレグルの首に刃を何度も突き立てるとHPゲージはゼロになり、レグルは動かなくなった。


 ま、私相手に多少は時間稼ぎ出来た事だけは褒めてあげる。さてさて、次はどいつを倒そっかな。


 周囲に目を走らせると、奥に見える姿に私は歓喜する。


「...アルゴちんはぁ、砦通しちゃダメだよねぇ。」


お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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