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第2章7話〜これはゲームだ〜

 VRゴーグルを外し、目の前にある四つのモニターから映し出されるゲーム画面を俺は同時に操作しながら、笑みを浮かべる。


 流石だな、ホーブ。PvP最強の名は伊達じゃない。


 何故、ユニーク武器を持っていないホーブが対人戦最強と言われているのかはあいつのジョブとその状況判断能力の高さにある。ホーブがメインジョブとしている暗殺者は戦士と同様に全武器種を使用可能なジョブとなっている。ただし、物理防御力とHPゲージに長けている戦士とは真逆に暗殺者は攻撃力と速さが持ち味だ。


 俺と同様にホーブも本来はユニーク武器は作れるだけの資金を持っていたが、ホーブは敢えてユニーク武器を作らなかった。その理由は一つの武器に固執してしまうのが逆にホーブの強みを消してしまうからだ。HPゲージを減らしてまで俺のテレスの弓の攻撃力の確認しにいく大胆さ、この四体のキャラクターを操作しているのが俺と即座に見抜くほどの状況判断能力で、常に相手に有利な武器に切り替え、確実に仕留めにいく、その戦闘スタイルはまさにPvP最強の名に相応しい。


 そんなホーブ率いるラビッツフットを打ち崩すのは正攻法ではかなり厳しい。だから、俺はこいつらを育て上げた。モノーキーはユカちゃん達と遊ぶようなキャラクターであったが、こいつらはそうじゃない。アルゴのレベリングをする為に、そしてラビッツフットを倒す為にガチの育成を行ったキャラクター達だ。


 俺がラビッツフットを追放される時、ホーブは誰もが俺とレベリングをしてくれなくなるだろうと言っていた。それは事実だと思う。今なんかアバンダンドで一番の嫌われものだろうしな。あいつの読みは当たっていた。だから、俺は他人を必要としない自分のみで構成されたパーティでアルゴをレベリングさせようという考えに至り、こいつらをレベル80近くまでこの数ヶ月で上げ切った。


 俺がアカウント停止中の時、メズからユカちゃん達がログインしてない間、アンタ何してんのよと聞かれた事がある。釣りやユニーク狩りをしてると嘘をついたが、メズの目は誤魔化せず、あいつだけにはこの答えを教えていた。


 俺のみで構成されたパーティだ。四人しかメンバーはいなくても、野良パーティやそこんじょそこらの固定パーティなんかより、遥かに効率よく上げる事が出来た。俺しかいないんだから当然だ。我ながらこの数ヶ月はとてつもないネトゲ廃人期間だったと思う。睡眠時間も削りまくった。


 俺のデスクの上に置いてあるモニターには、ジャークや蕨餅を含めた多くのアタッカーやタンクロールなどの近接部隊が襲いかかってきているのが映し出されている。いくらレベル80近くまであげたとはいえ、こいつらがラビッツフットの猛者達を相手にして勝つ事は不可能だ。ラビッツフットは全員が俺が強いと認めた奴らだ。こんな生半可な育成のキャラでは一対一だったとしても厳しいだろう。ただ、それでもあいつらの攻撃をかすった程度でHPをゼロにされないのは大きい。魔法、弓、銃等の遠距離攻撃は完璧に避けているようでも、多少ダメージは入ってしまうからな。


 クローズ、ナヤ、ホカン、ナンドを全員四方向に分けながら進めた事で、襲いかかってくるラビッツフットの戦力をうまく分散出来ている。これなら多少は持つだろう。ほんの少しだろうがな。


 クローズを相手にしている蕨餅が、「アルゴさん、あの時のように頭突きは喰らいませんよ。」と笑いながら襲ってくる。クローズの持つ騎士用の大盾で蕨餅の振るう大太刀を受けるが、それでもその衝撃で俺のHPは減少していく。上空からは魔法使い達が氷魔法を放ったのだろう。巨大な氷柱が俺を目掛けて飛んでくるのをバックステップで避けたところを別の戦士が切り掛かってくるのをロングソードで受け止める。


 ...チッ、目がまわる。


 俺が相手にしているのは蕨餅の部隊だけではない。ナヤの方にも王国騎士であるジャークが襲いかかってきている。


「アルゴさん、そんな可愛くなっちゃって。この前の俺のようにその首切り落としてあげますよ。」


 ジャークが銀髪の髪を靡かせながら、ロングソードを振るうと、ナヤの右腕が切り落とされる。


 クソ、クローズの方に目が行き過ぎた。


 ナヤは僧侶だ。近接アタッカーを相手にする事は一番難しい。左手に持つバックラーで致命傷となる攻撃を防ぐのが精一杯だ。ホカンやナンドの方も、もはや大分厳しい状況に追い込まれている。一人だけでも砦の中に入り、魔法石を奪いに行く事が出来たなら一番良かったのだが、それは無理なようだ。あと十秒もしないうちにナヤはやられ、魔法使いであるホカンも戦闘不能になるだろう。


 ここらが潮時か。


 俺はマウスとキーボードから手を放し、VRゴーグルを再び装着する。アルゴに戻った俺の目には、クローズやホカン、ナヤ、ナンドのHPゲージが尽き、その場に崩れ落ちていくのが見える。


 ありがとう。よく頑張った。と俺は四人に心の中で感謝の言葉を述べると、一つのスキルを発動させる。


 エキスパートスキル【鵜の目鷹の目】


 ロックオンによる必中効果と、次の攻撃にクリティカルを乗せられるスキル。再使用は十分と気安く使えるスキルではないが、残り時間を考えれば、この試合なら、あと一回は使う事が可能だ。


 俺なんかを倒す事に近接部隊の総力を費やしてくれてありがとよ。


 俺は倒れた四名のキャラクター達の位置に赤枠の照準マークを合わせると、アルゴにずっと溜めさせていた弓から四本の矢を同時に放つ。四本の矢は稲妻のように強い光を放ちながら、照準にしたナヤ、ナンド、ホカン、クローズ達の位置へそれぞれ真っ直ぐ飛んでいく。


 このテレスの弓は、テレスですらも複数矢を放つ事はあまりのコントロールの悪さからか、見た事はなかった。だが、このエキスパートスキルならそれが可能となる。あの時のテレスですら出来なかった事を今の俺ならやれる。


 俺の放った四本の矢に光に触れたプレイヤー達が一人残らず倒れていくのが見える。着弾した矢は地響きと共に爆発音を伴った巨大な音を立てている。


 ラビッツフットの近接部隊が全員が俺に執着してくれていて良かった。俺を倒す為に総力使うなんて過大評価にも程があるのにな。


 戦闘不能になったラビッツフットのメンバー達はいち早くこの場所に戻る為にデスワープを使い、ヴォルトシェルにリスポーンしたのだろう。あれだけいたラビッツフットの近接部隊はこの場に誰一人としていなくなる。


 ギルドの最高峰が蒼穹回廊。


 武器のエンドコンテンツがユニーク武器。


 魔法の最終地点が禁断魔法。


 スキルに関しての最終到達がエキスパートスキルだ。


 そのジョブ固有の最難関と言われるクエストをクリアしたもののみに与えられるスキル。サービス開始当初から宝箱を開け続け、三年かけて宝箱を五千個開けて俺が手に入れたスキルだ。ナイトアウルに入ってからは風邪をひこうが何しようが、とにかくこの日の為に更に宝箱を開け続けた。


 間に合ってよかった。


 恐らく、このアバンダンドで俺しか持っていないスキルだろう。宝箱を奪いまくる事でしか習得出来ない為、この世界で最も嫌われたものに与えられるスキルとも言えるだろう。


 ユカちゃんとメズに言った通り、俺は自分のプレイヤースキルだけではこの弓を扱う事は本当に不可能だった。アニメや漫画、ゲームの主人公みたいな奴なら、きっとそういう特別な事が出来るんだろうな。


 ...俺は違う。


 俺はテレスやユカちゃんのように超人的な反射神経もなければ、それを活かしたプレイヤースキルも持ち合わせていない。俺に出来るのは時間をかけた廃人プレイのみ。俺は彼女達とは違う。でもよ、これはゲームだ。自分にある能力だけで全てが決められる現実とは違うんだ。いくら超人的な才能があったって、レベル1の奴がレベル80の奴に勝つ事は絶対に出来ないだろ?この世界では自分に足りないものがあるのなら、いくらでもゲームシステムで補う事が出来んだろうが。


お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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