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第2章5話〜嘘つき〜

 俺の右腕に絡まって、キャーキャーはしゃいでるハルに対して、ナイトアウルの皆は誰も何も言わないが、その代わり俺に向けてくる刺すような視線が非常に痛い。


 ...そりゃそうだろうな。自分達のリーダーだったメズを打ち倒した象徴的な人物が目の前にいるんだからな。だが、これには深い意味があってだな...。


「...おい、アルゴ。」


 レグルが横目で俺に視線を向けながら、呆れたような声で俺に話しかけてくる。


「...分かってる。何も言うな。」


 ハルに抱きつかれたまま、こめかみに手を当てながら悩ましげに声を落とす俺に、ハルはニヤニヤと口の端を吊り上げた口元を隠すように右手を添えながら一人喋り出す。


「えー、勿体ぶらず言ってあげればいいのに。私がアルゴちんに恋人になってくれたら、ラビッツフットを裏切ってあげるよって条件出してて、アルゴちんはその答えを今保留中にしてるんだよって。」


 ハルは実に嬉しそうに、バカでかい声で周りに現在の俺の状況を聞こえよがしに言いふらしている。俺の額に汗が滲み出す。


「...お前、今度はハルに色恋営業しかけてんのかよ。どんな番外戦術してんだ。あんま言いたくはないが人として終わってるぞ、マジで。」と、レグル。


「...ほんと最ッ低。女の敵。」と、ミラリサである。


 気まずくなった俺はゴホゴホと軽く咳払いをし、二人から顔を背けて誤魔化すものの、二人は呆れを通り越して、完全に軽蔑した冷たい視線で俺を見つめているのを二人の方を見ずとも感じ取れている。


 クソ、視線が痛すぎる。これじゃ、俺がまるでクズのように感じるかもしんねぇけどよ。そもそも、裏切る裏切らない以前の話だ。


 俺の事を無条件で好きな奴から付き合って、彼女にしてと言われてんだぞ。そんな事言われて嬉しくないわけがないだろ。すぐに断れる男なんているわけがない。だから、少しだけ時間をくれと言ったところ、こうやって一緒に着いてきてしまったという訳だ。男の選択としては至って普通だ。それにな?


「こうして、アルゴちんギュッとしてるとグローブ型コントローラーから、まるで本当に触れてるような感覚が伝わってくるから嬉しいな。」


 俺の右腕をギュッと抱きしめながら、こんなかわいらしい言ってくるんだぞ。無下になんか出来るわけないだろ?いたら、そいつは男じゃあないね。


「あ、見てみて。アルゴちん。あの二人すっごい顔して、こっち見てるねぇ。」


 ハルは幸せそうな顔から一転、勝ち誇ったかのようにキャハハハハと高笑いし始める。ハルが指さす方に俺も視線送ると、ユカちゃんとメズが苦虫を噛み潰したような、非常に不快そうな顔で俺達を睨みつけているのが見えた。


「メズちゃんとユカユカちゃんは遠いねぇ。部外者はあそこ。私はアルゴちんの隣にいる。この差はでっかいねぇ。」


 我が教えを悪い意味で引き継いだハルは、口を開けばメズを煽っている。


 ...もしかしてだが、こいつ、俺と付き合いたいっての気持ちの中にはメズを煽りたいっていうのもあるんじゃないだろうか。思い返してみると、さっきもメズと会話してた時にハルが俺に話しかけてきたし。


「ね、アルゴちん。私が裏切るとしたら、ラビッツフットとして戦わないだけじゃなくて、ナイトアウルに入って一緒に戦ってあげてもいいよ。ナイトアウルの事はぁ、別に嫌いじゃないしぃ。」


「...ハルが嫌いなのはメズだけって事か?」


「そゆこと。で、アルゴちん、どうすんの?そろそろ、彼女にしてくれるかどうかの結論出してくれると、私も身の振り方決めやすいんだけどぉ。」


 そう言うとハルは前傾姿勢になり俺と顔が当たりそうなほどぐいっと顔を寄せて俺に聞いてくる。このハルに対する返答は既に俺の中で決めてある。俺はその言葉をハルに向けて口にする。


「...悪い。ハルお前とは付き合えない。俺の事を好きだと言ってくれるのは嬉しいけどな。」


 こいつが俺を好きだと言ってくれる気持ちは間違いなく嘘じゃないのはわかるけれど、俺と付き合いたいって言葉の裏にはメズが嫌がる事をしたいっていう気持ちも少なからずあるように思う。それを感じられるうちは、やはり健全な付き合いではないように思う。


「えー、この流れでそれは酷くない?これで断られるなんて思ってなかったなぁ。」


 ハルはユカちゃんばりにあざとく頬を膨らませ、口ではぶーぶー俺に文句を垂れているものの、意外にもすぐに、「まぁ、でも、いいや。」と言って、頭をぽりぽりと左手で掻くと、納得したかのような表情を浮かべる。


「私と付き合いたくなったら、また声かけてよ。いつでも待ってるから。どーせ、最後にはアルゴちんは私の元に来る事になるんだし。ここは潔く諦めてあげる。」


 ハルは俺の付き合えないという言葉に、あっさりとした態度で受け入れている。


 正直、こんなに簡単に引き下がるのは予想外だ。


「ああ。好きだと言ってくれたのに悪かったな。お、丁度良いな。ギルマス自ら迎えにきてくれたみたいだぞ?」


 俺が指差す方をハルは目を細めて見つめ出すと、「げ、」と声を出している。


「ハル!!!!何やってんだ。帰るぞ!ナイトアウルも最後の作戦の確認くらいすんだろ。迷惑になるから帰ってこい!」


 俺達のベースキャンプから少し離れたところからホーブがハルに大声で呼びかけている。


「敵ながら久しぶりにマトモなギルマス見るとなんだかホッとするわね...。」と、ミラリサが思わずこぼしている。


 俺やテレスとベクトルは違うけど、ホーブも無職だし、人間として大概ヤバいギルマスなのにそう言わせるだけ、俺はギルマスとしてやばいらしい。


「...うわ、ギルマス超キレてんじゃん。アルゴちん一緒に謝ってよ。アルゴちんが煮え切らないから、私ここにいて返事待ってたわけだし。」


「...そこは確かに一理あるな。分かった。一緒に行ってやるよ。」


 俺がそう言うと、ハルは目尻を下げて、ニンマリとした笑みを見せる。それから、ハルは駆け足でホーブの元へとひと足先に駆けて行く。その姿を俺も後から追いかける。


「ギルマス。わざわざ来なくて良かったのに。エリア内にいれば、開始一分前になったら勝手に砦の中に戻されるんだし。」


 ホーブの元に辿り着いたハルは謝るどころか、開き直って、顔を顰めながら、不服そうに呟く。


「バ⚫︎タレ!そういう問題じゃないだろ!悪かったな、アルゴ!ハルが迷惑をかけた!」


 ハルの後方にいた俺に聞こえるようにホーブは大声で言う。


「気にすんな。ハルのこと俺が引き抜こうとしてこっちにいさせてただけだから。良かったな。ハル、ラビッツフット裏切らねーってよ。」


「お前は変わらないな。んなことだと思ったよ。...お前の事をラビッツフットから追い出したオレに恨みもあるだろ?本気でかかってこい。」


「ああ。全力で使えるもん全部使ってやるよ。」


「なぁ、アルゴ!オレから蒼穹回廊を取り返したいんだろ?そのテレスさんの弓と鮮血兎の足を賭けるんだったら、オレも蒼穹回廊を賭けに出してもいい。オレの憧れのテレスさんの弓だ。...それにラビッツフットを名乗っているのに鮮血兎の足を勿体無いのもなんだかなと思っていたところだからな。」


「...悪くない提案だが、今回の目的はあくまでもライクス島の奪還だ。その事だけに集中させてもらう。だが、いずれかは五つ葉のクローバーでそれをやらせて貰う。今回だけじゃなく何度だってお前ら倒してやるよ。」


 ホーブは、「楽しみだ。」と笑ってハルの背中を引きずって砦へと踵を返して行く。ハルも引きずられながら、嬉しそうにブンブンと手を振って、「アルゴちんまたねー。」と叫んでいる。


 俺も踵を返し、ナイトアウルのベースキャンプへと戻り始める。


 さて、俺達も作戦の最後の確認をするか。


―――


 それから、俺は残された時間で作戦の最終確認を皆にする。これは何度もした話という事もあり、異論は一つも出てこない。


 俺達がラビッツフットの砦へと目を向けると、タンクロール、近接のアタッカー達は砦の中から外へ出てきて陣形を作り、屋上にはホーブとハルが魔法使いなどの遠距離アタッカーやヒーラーと共にいるのが見える。あそこから指揮を出すらしい。


 ...あと数秒で防衛戦が開始される。お互いに準備は整った。


 俺が一つ大きく息を吐くと、目の前に【領土防衛戦】という文字が大きく映し出され、防衛戦の開始が伝えられる。ただ、こうして防衛戦が始まったからといってラビッツフットは俺達の陣営に簡単に攻めてはこない。


 これは領土防衛戦というゲームシステム上、当然の事とも言える。防衛戦は基本的には格下でもない限り、防衛側は相手側のベースキャンプに攻めては来ない。領土奪取側である俺たちの勝利条件は砦内にある魔法石の奪取か砦の破壊だ。だが、それに比べて防衛側であるあいつらは、三十分耐え切れば良いから、守りに人員を集中させるのが防衛戦の基本だ。


 メズもこの戦術を得意としていた。だが、基本に忠実すぎる戦い方に慣れ過ぎたせいでこのライクス島を奪取された時のような強襲には慣れていなかったのが敗因だった。


「中々攻めて来ないな。」


「私達の様子を伺ってるようね。」


 レグルとミラリサは三十分という時間制限に、少し焦りがあるようで、一向に攻めてこないラビッツフットにもどかしさを見せている。


「アルゴ、どうする?まだこちらも様子見か?」


 それでも、レグルは焦る気持ちを抑え、俺の指示を仰いでくる。


 確かに、このまま何もしないのも時間の無駄だな。それにこんだけ俺に溜めさせる時間をくれたんだ。これを打たない手はない。


 俺は構えたテレスの弓から矢をラビッツフットの陣営に向けて射る。


「んじゃ、まず景気付けに一発。」


 真っ直ぐ飛んでくれとは言わない。せめて上とか下じゃなくて前方向に飛んでくれれば十分だ。


 俺が放った矢は稲妻のようなバチバチとした強い光を纏いながら、ラビッツフットの砦に向かって行くが、その軌道は徐々に砦の左側へと逸れて行く。矢の軌道上には誰もいないが、まぁ、それも悪くはない。とにかく、このテレスの弓はエフェクトが派手な攻撃だ。威嚇射撃をしてきた程度に取ってもらえればそれでいい。これであいつらも迂闊には近寄れないはずだ。


「ちょ、ギルマス。見て!」


 ミラリサの指し示す方を見ると、ホーブが砦の屋上から矢の軌道の方に飛び出している。


 まさか、わざと当たりに行く気か!?


 ホーブは右手を伸ばし、矢が纏う光に触れた瞬間、ホーブの右腕が爆発音と共に消し飛ぶ。


 ...あいつ、威力を確かめに来やがったな。


 右腕を失ったホーブが少しバランスを崩しながら地面に着地すると、大声で俺達に向かって叫ぶ。その声は実に楽しげだ。


「アルゴ!その弓まともに使えねぇくせに、ちゃんと打ち直してきて偉いじゃん!いくらかかった!?この威力だ。直撃したら一撃でやられちまうなぁ。ま、当たればだけどな!」


 チッ、もう俺がテレスの弓をまともに扱えないのバレてんじゃねぇか。打ち直したのもホーブの言う通りだ。ミラリサやレグルにはしないしないと言ってはいたが最大まで強化してきている。敵を騙すには味方からと言うしな。だけど、レグルやミラリサも嘘つきだ。打ち直しにかかる金、何が数千万Gだ。実際は一億近くかかったぞ。アバンダンドの物価上がりすぎなんだよ。


 あの時テレスに貰って、手付かずにしておいた契約金のほとんどつぎ込んじまったじゃねえか。


お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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