第2章4話〜あのバカを〜
【Night owlがライクス島の拠点へ領土防衛戦を仕掛けてきました。1800秒後、領土防衛戦が開始されます。】
オレの目の前にウィンドウが立ち上がり、このメッセージが表示されるとともに、ACOと紐付けしているオレの携帯端末にも同様のメッセージが送られてきた。
遂に来たか。ヴォルトシェルにいる俺にすら、アルゴがテレスさんが使っていたユニーク武器の弓を携えているという情報がリアルタイムで入ってきている。...願ってもない事だ。周りからはPvP最強などと言われたりしてはいるけれど、オレはそんなの名乗る気にはならない。それはザラシとテレスさんという確実にオレより格上の存在がいたからだ。
ラビッツフットの四大ギルド全て潰すという目標はオレがアルゴから引き継いだ今も変わらぬこのギルドの根幹だ。この目標が変わらぬ限り、ザラシとはいずれ近いうちに戦う事にはなるだろう。それは良い。だが、もう一人の最強だったテレスさんとはこの世界に帰って来ない限り、戦う事は永遠に叶わなくなってしまった。
オレが一番戦いたかったのは、ザラシよりもあの異常とも言える圧倒的なプレイをしていたテレスさんだ。ずっと彼女と戦う事を熱望していたが、結局一回も戦う事なく、彼女は引退してしまった。彼女を差し置いて最強を名乗る事は誰よりもオレ自身が認められない。だから、今回の事はまさに暁光だった
アルゴがユニーク武器。それもテレスさんの最強と言われた漆黒の弓を持ってオレを倒しにくる。アルゴの気持ちがどうであれ、実質的なテレスさんの後継者と周りは見なすだろう。最強の武器を持ってきたアルゴを倒せれば、オレも自信を持って最強を名乗れる気がする。
とはいえ、あの弓の威力は異常だ。あの威力を出す為に他の部分にかなり制限をかけているはずだ。テレスさんと戦った奴らの動画は穴が空くほど見てきた。矢を放つまでの溜めの長さは明らかだが、おそらく照準も狂いまくっているはずだ。そうじゃなきゃ、あの威力と射程は実現出来ない。だから、普通に考えればアルゴと言えどまともな運用は出来ないはずだ。だが、あいつの事だ。あの弓であろうと必ずモノにして使ってくる。使ってこないはずがない。あいつがあの弓をどう扱ってくるか考えるだけでワクワクする。
あいつを追放した時はオレも胸が痛んだが、今となっては追放して良かったと思える。あいつとPvPを何度もして何度も倒し、倒されてきた。その勝敗数はオレが圧倒しているが、そんなのはあくまでも仲間内でのじゃれあいに過ぎない。敵となり本気となったあいつと戦った事はないんだから。
オレは蒼穹回廊の能力を使い、ラビッツフットの本部からライクス島の砦へと移動すると、既にラビッツフットのメンバーは勢揃いしていた。ラビッツフットは皆戦闘狂だ。誰もがこのギルドの創始者であるアルゴと戦える事を楽しみにしているのが目に見えて分かる。その中でも、きっと一番楽しみにしているのはハルだろうな。自分の面倒を一番見てくれたアルゴが本気で戦ってくれるなんて嬉しくて堪らないんじゃなかろうか。
....。
...んで、そのハルはどこいった。先にハルはライクス島へ向かわせていたはずなのに、一階から四階まで見て回ったが、砦内のどこにもハルがいない。
「...ハル、どこいったか知ってるか?」
俺の疑問に対して、蕨餅がうんざりしたような顔で偵察用の望遠鏡を黙って指差す。
...望遠鏡に何があるんだというんだ。
オレは怪訝な表情をしながら、望遠鏡を覗き込むと、ナイトアウルのベースキャンプでハルがアルゴの腕に抱きつきながら、俺達に笑顔で手を振っているのが見える。
「...あのバ⚫︎をさっさと連れ戻してくるぞ。」
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