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第2章3話〜ズルイよね~

 ぶんぶんと左手を振りながら、「アルゴちーん。」と言って、黒髪のボブカットの少女がこっちに小走りで向かってくる。頭領のピアスの時と同じ格好で頭にはいかにも海賊といったトリコーンハット、胴装備には白いブラウスシャツを身に付けている。ハルの姿を見た途端、メズは大笑いしてた先ほどまでの表情と打って変わって、慌ててユカちゃんの後ろに隠れ出している。メズはハルに対して、相当苦手意識が出来ているようだ。よっぽど相性が悪いらしい。


 人間族の女キャラクターの中でも、更に小柄に設定してあるハルに、高身長のエルフ族であるメズが怯えている図というのは傍目から見ると少しだけ面白い光景だ。


 ...ハルなぁ。俺からしたら話が合うし、面白いし、めちゃくちゃ良い奴なんだけどな。他の奴らは俺のユニーク狩りの講釈を真面目に聞こうとしないのに、ハルだけはいつも両手で頬杖つきながら、ニコニコと嬉しそうに俺の話を聞いてくれていた実に良い奴だ。今だって試合前だというのに、こうして俺のとこに来てくれるしな。


「お、ハル。信じてたぞ。ラビッツフット裏切って来てくれて助かるわ。早速、あいつらのスキル構成とメインジョブを教えてくれ。」


「...良くもまぁ、そういう自分に都合の良い発想出来るね。普通、挨拶に来たと思わない?」


「思わん!お前なら俺の為に裏切ってくれると信じているぞ。」


 俺が真剣な顔で言うのと対照的にハルは呆れ顔を浮かべて言う。


「...アルゴちんさぁ。そんなに私にラビッツフット裏切って、アルゴちんの味方になって欲しいの?まぁ、私って超強いからその気持ちは分からなくもないけどぉ。」


 溜息を吐きながら、そう言うハルに俺は、「その通りだ。」と素直に言い放つ。


「俺がラビッツフットで一番相手にしたくねぇプレイヤーはハルだからな。そのハルを味方につけたら怖いもんなしだ。多分、ホーブよりお前のが強いだろ?」


「...アルゴちん。私がギルマス以上って、それは自分の教え子だからって、私を高く見積り過ぎじゃない?とんだ買い被りだよ。」


「買い被りなんかじゃねぇよ。あのユニーク狩りの時だって、実際俺が相手にしたのは、ホーブじゃなくてハルだったろ?ラビッツフットでお前が1番プレイヤースキルあると思ってる何よりの証拠だ。」


「確かにそうだったけど。ギルマスより私のが強いなんて思ってんのアルゴちんくらいだよ。」


「俺は総合力ならラビッツフット最強はハルだと本気で思ってるぞ。お前が金策チームに入りたいって言うから俺が直属で鍛えてきたけど、俺としては戦闘チームに入れた方が良かったんじゃないかといまだに悩むくらいにはハルどっちもこなせるだろ?」


 俺の言葉でハルは虚を突かれたように目を丸くさせ、「...そこまで高評価だと困っちゃうなぁ。」と言って、頬をポリポリと掻き出す。


「何がだよ。」


「実を言うと、アルゴちんのさっきの言葉正解だったりするんだ。彼女にしてくれるなら、ラビッツフットを裏切ってあげても良いよって言いにきたんだけど、やっぱやーめた。そこまで私の事高く評価してくれてたなんて知らなかったから、本気でアルゴちんと喧嘩したくなっちゃったじゃん。」


 ハルは目を細めて、ニヤニヤと不敵な笑みを口元に浮かべながら、俺を見つめてくる。


「俺はお前と極力戦いたくないけどな。つーか何だよ、その裏切る為の訳わかんねぇ条件は...。前から思ったけど、お前、俺の事好きなのか?」


「好き好き。マジ好き。心の底から愛してる。」


 冗談混じりの言葉だったのだが、ハルは一切照れる事も、躊躇する事もなく俺への愛を口にしてきた為、俺の方が内心動揺してしまう。そんな俺を見て、察したのだろうか、ハルは矢継ぎ早に俺に問いを投げかけてくる。


「ね、アルゴちん。どんな女性が好き?どういう子なら、彼女にしてくれる?」


 俺の好きなタイプか。前にササガワやレンタロウにそんな話をした事はあるな。彼女にして欲しいと言う奴に対しての言葉だ。誠心誠意、嘘偽りなくハルに答える事にしよう。


「そうだな。現実の顔が良いにこしたことはないな。顔が良ければ良いほど良い。あと俺が働かなくても許してくれる上に、養ってくれる奴が良いな。その二つが揃ってんなら、別に性格は良かろうが悪かろうがどっちでもいい。そんなところに興味ねえわ。」


「...最低。」


「...モノーキーさん。いくらなんでも人として最悪ですよ。」


 俺の本心からの回答にメズとユカちゃんは嫌悪感丸出しの顔で俺を睨みつけてくる。


 んだよ、俺はハルに答えたわけで、二人には答えてねーのに、何でそんな風に言われなくちゃならんのだ。


「...アルゴちんさぁ。私は本当にアルゴちんの事愛してるから言いたくないけど、この時代にルッキズム全開とヒモ全開の思考は流石に口にするのはやめた方が良いよ。」


 クソ、ハルまで良い子ちゃんぶりやがって。ぜってーお前らだって同じ性格なら、顔が良い奴と悪い奴いたら顔の良い方とるだろうし、楽させてくれる奴のがいいに決まってんだろうが。ルッキズム否定してる奴の方が俺は誠実じゃないと思うね。


「んだよ。ハルが聞いてきたから、誠実に答えてやったんじゃねぇか!」


「ごめんごめん。でも、口にしない方が良いってだけで、その考え自体は私は否定しないよ。良かったね、アルゴちん。私現実でも多分アルゴちんのお眼鏡に叶う程度には結構可愛いと思うよ。それに、アルゴちんが望むなら私が働いて養ってあげるね。」


「ちょっと、ハル!このバ⚫︎を甘やかすのはやめてよ。この男は、絶対に社会に戻して働かさなきゃダメなんだから。」


 メズはユカちゃんの後ろからハルに苦言を呈しているが、それを見たハルは口の端を釣り上げながら、メズに詰め寄っていく。


「メズちゃぁん。やぁだ。そんな若い子の後ろに隠れながらじゃなきゃ、私に話しかけられないなんてダサすぎ。そんなに私の事嫌い?」


 前傾姿勢でメズの顔を覗き込むように尋ねてくるハルに対してメズはボソリと呟くように言う。


「...大っ嫌いって言われて、好きになる奴なんかいるわけないでしょ。」


 メズのその言葉はハルが期待していた言葉なのだろう。満足そうに目を細め、自身の口元に左手を添え、せせら笑うように言う。


「あ、そりゃそっか。メズちゃんの事大嫌いって前に言ってるもんねぇ。ごめんごめぇん。でも、メズちゃんさ、自分がナイトアウル崩壊させた原因なのに、よく応援に来れるよね。一体どーいう精神してんの。また、厚顔無恥って言われて炎上しちゃうんじゃなぁい?」


 ...こいつ本当性格悪いな。俺とラビッツフットで組んでた時は、むしろ媚び媚びでこういうキャラじゃなかったのに。


「そうじゃないんです。これは、私がモノーキーさんを応援しようとメズさんに無理に来てもらって」


 煽るようなハルの言葉に、ユカちゃんが必死に反論しているが、「庇わなくても大丈夫よ。」とメズはユカちゃんに頷いている。


「...分かってるわよ、そのくらい。ここに私が来ちゃいけない事くらい。確かに厚顔無恥だわ。でも、叩かれても炎上しても私の尻拭いをさせてしまったアルゴの応援すらしなかったら、本当にクズじゃない。...そう思ったから来たのよ。」


「ふーん。馬⚫︎女なりの考えね。しっかし、メズちゃんはズルイよね。アルゴちんがナイトアウルを暴れさせる指示を出してくれた事で、アバンダンド中の悪評をアルゴちんが背負ってくれてるし。」


 ハルの言葉に、メズは、「あ、」とだけ声を漏らし、口ごもると俺の事を見つめてくる。


 クソ、ハルめ。余計なこと言うなよな。んな事考えちゃいねえよ。ただ、そっちのがナイトアウル復活が早いと思ったからしただけで。


「んなの、付属的なもんだ。別に庇ったわけじゃない。」


 俺は素知らぬ顔と声でハルの言葉を否定する。


 ここにいるユカちゃん、メズ、ハル。この三人の女どもだけ俺の事を良い人風に見がちなんだよな。んなこと考えてないってのにやりにくいにも程がある。他のプレイヤー達のように罵声を浴びてくる奴らの方がよっぽどやりやすい。


「でも、結果的には、しっかりメズちゃんの噂も消し飛ばしてくれてるじゃん。メズちゃん、アルゴちんにほんと感謝しなよ?でも、そーいう誰にでも優しいアルゴちんマジ好き。愛してる。」


 ハルはそう言うと、くるりとメズに背を向けて、二人に見せつけるように俺の事を抱きしめてくる。


「ちょ、ハルさん。ダメですよ。モノーキーさんから離れてください!モノーキーさんもデレデレしてないで少しは嫌がってください!」


 ユカちゃんは慌てたように必死にハルを引き剥がそうとしているが、ハルのレベルは俺より高い89。ユカちゃんの力では引き剥がす事は到底無理なようだ。


 ...そもそもな、嫌がるなんて無理だって。こうして自分に露骨に好意を抱いてくれている人物からのアクションだ。誰だって嬉しくないわけがないだろ?ただ、不満があるとするならば、こう抱きつかれたからって何の感触もないのは寂しい。早くフルダイブ式のVRとか出てくんねえかな。


お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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顔良くて、養ってくれるを面倒見が良いと置き換えればメズ? テレスの面倒見良かったし、ストリーマーとしてそこそこ稼いでるなら
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