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番外編33〜しょうがないなぁ③〜

 大平原は、いつものように小川には巨大魚のモンスターが、雲ひとつない青空には火を吐く鳥が、花が咲き乱れ、風に揺れる草原にはゴブリン達が歩いている。ただ、今日は訪れた大平原には本来存在しないモンスターも多数存在している。


 予想していた通り、この中から梟を探して話しかけろって事だな。


 俺達はヴォルトシェルから乗ってきた馬で、とりあえず大平原全体を一周する。大平原の名の通り、初期エリアにしてはかなり広大なエリアである為、見落としがもしかしたらあるかもしれないが、一応フクロウは何羽か見つかった。大森林エリアへの境界近くにいたフクロウと、ダンデリオン近くにいたフクロウと小川付近にいたフクロウ、今現在ここにいるフクロウの四羽のNPCだ。


「...フクロウ、四羽いるな。テレス、どいつが正解か分かるか?」


 俺は馬に跨ったまま、同じく馬に乗っているテレスへ問いかける。


「うーん...。この子が一番私が聞いた声に近いような気がするけど、自信ないかも。もうちょっとよく考え「どうすんの!!!!二時間何もできないじゃんこの役立たず!マジ最悪!」


 俺とテレスがどのフクロウに話しかけるべきか尻込みしていると、周りから割り込むように怒声が響いてくる。


「お前が間違えたせいだろ!お前が見た映像、大平原じゃなかったんだよ!てめぇの目ん玉腐ってんじゃねぇのか。」


「はぁ!!!何、人のせいにしてんの!あんたが鳴き声間違えたせいでしょ。このキツネじゃなかったのよ!私のせいじゃないから!!!!」


 ...あえて見ないようにはしていたが案の定、大平原は地獄絵図となっている。カップルの仲を深める為の協力イベントなのだろうに、至る所でこのイベントに参加していると思わしきプレイヤー達が罵り合っている。


 運営が去年クリスマスイベントが無かった事をプレイヤー達に散々叩かれた報復で、こんな無駄に高難易度にしたんじゃないかと邪推してしまうほど酷いイベントである。元々プレイヤーの民度が高いとは、とても言えないアバンダンドだが、今回の荒れ方は未だかつてないほど酷い。


 フレンドやギルドのメンバー同士でのペアも勿論あるだろうが、今回はクリスマスという事もあって恋人同士、またはそれに近い関係で組んでいるプレイヤーがかなり多い。だからこそ、喧嘩の本気度も今までとは次元が違う。普段俺に飛んでくる"死ねや殺すぞ"なんて言う暴言ですらかわいく思えてくるほどのあまりにも生々しさ溢れる暴言が各地で飛び交っている。こいつら通報されたら、全員垢BANされんじゃねえのかってくらい民度が終わっている。


 そんなこの大平原の至る所で起きている地獄絵図のような揉め合いを見て、テレスは、「わぁ...。」と目を宝石のように爛々と輝かせ、「見て!見て!アルゴちゃん!」とテレスらしさ全開で心の底から嬉しそうな表情している。


 相変わらずロクでもない女である。しかし、そんなテレスも時間が経つに連れて段々と正解が選べるか自信がなくなってきたのだろう。その顔が不安そうに変化していくのが目に見えて分かる。


「...何か自信無くなってきたなぁ。もし、私のせいで失敗したら、...アルゴちゃんの二時間無駄にさせちゃうよね。ミスったらごめんね。」


「んな事、気にすんなよ。そもそも、俺が大平原を間違えてる可能性だってあんだし。こんなのただの遊びだ遊び。...あれにはならねーから安心しろ。」


 そう言って、俺は周りにいる発狂しているカップルたちの方に軽く目を走らせて言うも、テレスの表情は完全には晴れない。


「...遊び、かぁ。ね、アルゴちゃんって学校とかでよくあったレクリエーションゲーム的なやつって得意だった?」


「得意も苦手もないけど、どうしてだ。」


「...私、昔からそういうゲームのルールうまく把握出来ないで、失敗させちゃって盛り下げちゃう事が結構あるんだよね。クラスに一人はいたでしょ?そういう子。」


 うーん。言われてみりゃ、確かにそういう奴いた気がする。だけどよ、そいつが失敗したところであんまり気にした事もなかったけどな。"あ、失敗したな"くらいで、教師の話あんまよく聞いてなかったんだろうなくらいにしか思わなかったし。


「小学生の時なんて遠い彼方の記憶だ。覚えてねーな。」


 そう言う俺の言葉に、「そっか。」とテレスは呟く。


「私はそれだったんだよね。話し言葉で説明されると理解出来ない事も結構あって、皆が楽しみにしてるレクリエーションを私のせいで台無しにしちゃう事もあってさ。...何か思い出しちゃった。ごめんね、急に。こんな話して。」


 そう言うと、テレスは慌てて取り繕うように、「あ!でも実際にやってるの見たり、文章で説明されてたりするとちゃんと分かるんだよ。おかしいよね。」と笑って話す。


 ...前に彼女は自分の事を宇宙人だと言っていた。俺が気にも留めないであろう、この世界の一つ一つの出来事が、テレスにとっては自分が宇宙人に思えるほど違和感のある世界なのかもしれない。


 世界の一つ一つの出来事が自分を拒否してくる感覚になるのだとしたら、それはきっと、とても恐ろしい事で、とても寂しさを感じる事なんじゃなかろうか。


 ...俺は自慢じゃないが、多分そこそこ恵まれている。俺の一番の自慢は何だと言われたら、顔と即答出来るほど見た目は悪くない。それに、友人は少なかったけれど、それでも心許せる奴は必ずいたし、大学にだって行かせてもらえた。ブラックだなんだと自虐的に言う事もあるが、就職浪人する事なく新卒で会社に俺を採用してくれた会社には感謝している。何年も辞める事なく勤めている事も出来ており、最低限の仕事やコミニュケーションだってとれている。大きく社会から外れた何かが起きたわけではない。


 彼女からしたら、俺は同じ宇宙人ではないのだろう。だから、俺は彼女の大変さなど分かるよとは軽々しくは言えない。けれど、


「過去の事なんてどうだって良いだろ。今一緒にゲームしてるのは俺だ。俺が盛り下がってるように見えるか?」


「...そうは思わないけど。アルゴちゃんに迷惑かけちゃったらやだなって。」


「いいか?俺はな。大好きなテレスとクリスマスイベントやれてる事が楽しいんだよ。失敗するとか成功するとか気にもしねーよ。失敗したらそれはそれで面白いからな。」


 これがすべての本心だ。テレスの辛さに寄り添えるなんて事は考えちゃいない。ただ、俺がテレスと一緒にいて楽しい。だからテレスの横にいたい。それだけだ。


「...良くそういう恥ずかしい事を言えるよね。」


「事実だからな。んじゃあよ。失敗したら俺のせいにしとけって。あいつらみたいに、ひたすら謝ってテレスに許してもらうようにすっからさ。それなら良いだろ?」


「...アルゴちゃんさぁ。口がうまいよね。慣れてる感じ。あんまり女遊びとか夜のお店に行っちゃ駄目だよ。絶対こういう人はいつか女性問題起こすんだから。」


「...偏見が過ぎんだろ。お前、俺を何だと思ってるんだ。」


「ふふ、んじゃ、失敗したらアルゴちゃんのせいにしちゃおっかな。あの人達みたいに、いっぱい逆ギレまくっちゃうからね?」


「...ああ。一応ほどほどにで頼む。」


 俺がそう言うとテレスは微笑みながら、「そうだなぁ、やっぱりこの子だと思う。」と目の前にいるフクロウを指さす。


 うし。


 俺は馬から降り、横に待機させるとテレスが示したフクロウに話しかける。するとフクロウはホォホォと一回鳴いてから、「あー、大変だ大変だ。どうしようどうしよう。」とフクロウが独り言のように呟く。


 俺の目の前にも【居場所の事を伝えますか?】【はい】【いいえ】と選択肢が浮かび上がり、俺は【はい】を選択する。


「冒険者さん、ありがとう!探しにきてくれたんだね!もう少ししたら仲間のところに向かうことにするよ!お礼にハンドベルの魔力の回復と、これをどうぞ!」


 そう言って、俺達はフクロウのNPCからハンドベルの再使用時間リセットとサンタ帽の装備を渡される。


 良かった。このフクロウで正解だったらしい。


 テレスも安堵の表情を見せている。


「ハンドベルのリセットとサンタ帽と成功報酬か。ま、クリスマスのイベントって言ったら、確かにこういうのが無難だよな。」


 俺は頭に巻いていたターバンを外し、代わりに貰ったサンタ帽を被ってテレスに話しかける。


「...アルゴちゃん。びっくりするほどサンタ帽似合わないね...。」


「うるせぇな。ほら、テレスも被れよ。」


「...しょうがないなぁ。」


 仕方なさそうにテレスも馬から降りて、サンタ帽を被ると、彼女の白髪と小さいツノごとすっぽりと包まれている。


「似合ってるぞ。」


「ありがと。ね、このイベント周回すると多分胴や足のサンタ装備も貰えるっぽいね。まさかと思うけど、それもやるの?」


「そらそうだろ。ナイトアウルのギルマスが全身コンプリートしないのか?」


「そう言われるとなぁ。やらざるを得ないじゃん。ずるいなぁ。」


「ま、とりあえず初回のイベントはクリアしたわけだし、二週目行く前にプレゼント交換もそろそろしとくか。」


「...それ、本当にやるんだ。」


 テレスはやはり過去のトラウマからだろうか、プレゼント交換に対して複雑そうな顔をしている。


「当然だろ。ほら、受け取りな。」


 俺は用意したプレゼントをテレスに差し出すと、その表情は更に曇り出している。


「...何これ。」


 テレスは俺が渡したプレゼントを手に取り、見つめながら、俺に尋ねてくる。


「そら、腐った肉だよ。見りゃ分かんだろ。」


「...本当にいらない物持ってきたね。こういうのってさ。そうは言いつつも、何か良いアイテム渡したりする振りとかじゃないの?」


「なわけねーだろ。最初からいらねぇもん同士の交換だって言ってんだろ...。」


「...そっか。本当にいらないもので良かったんだね。...色々考えちゃった。」


「なんだ。マジなプレゼント交換したかったんか。んじゃ、今つけてる俺の銘が入った指輪やるぞ。」


 そう言うと、俺は指から俺の名前が彫られた銀色の指輪を外してテレスに差し出す。こいつは以前公式のイベントで知り合ったイロドリが生産職のプレイヤーとして有名らしいので、特注で作らせた盗賊向けの指輪だ。これならテレスも盗賊上げてるし、通常時から使える逸品だろう。


「...それはいらない。」


「...その言葉は普通に傷つくぞ」


「ごめんごめん。でも、私はこの腐った肉で充分。ありがとね。こっちは貰っとく。本当に嬉しい。料理人もあげてるから何か作ろっかな。」


 テレスはそう言って、嬉しそうに腐った肉を見つめている。


 ...俺の指輪のがよっぽど良いと思うけどなぁ


「さて、テレスは何持ってきたんだ。」


 俺がテレスに尋ねると、「え、えーと、」とテレスは言葉を詰まらせ俺から顔を背けている。


 何かまずい事でもあるんだろうか。


 不審に思った俺は顔を背けたテレスの方へと回り込んで彼女の顔をじっと見つめていると、テレスは分かりやすいほど狼狽した様子で目泳がせたあと、申し訳なさそうにパンっと両手を合わせ、勢い良く頭を下げた。


「ご、ごめん!アルゴちゃん!私、何も持ってこなかった!本当にこんなレベルのいらないものだとは思わなくて!選んだものいらないってアルゴちゃんに言われちゃったら傷つきそうだから、結局決められなかった。」


「...俺の銘入りのリングのプレゼントはいらないって言っといて、その言い草かよ...。」


 彼女は再び申し訳なさそうに両手を合わせて、「あ、あはは。ごめんごめん。ちゃんと決めたら、そのうち渡すから許して。」とはにかみながら言う。


「そーだなぁ。何にしよっかな。私が持ってるものでいらないものかぁ。」と言って、腕を組みながら、少しだけ顔を上げてテレスは唸っている。


 本当にテレスはプレゼントの事を全然考えていなかったらしく、俺に渡すゴミアイテムを中々思いつかないようだ。


 ...これは長くなりそうだ。


「ま、気が向いたら何かくれよ。さ、二周目行こうか。」

 

 デートの続きだと言いかけたところで、俺はその言葉をグッと呑み込む。まずいまずい。こんな事言ったらテレスは二週目のイベントやってくれない事態になりかねないからな。


 俺は冷や汗を掻きながら、考え込むテレスにそう促すと、当のテレスはハッと焦ったような表情になる。


 ...こいつ、俺を放置してた事忘れてたな。


「あ、うん。分かった。でも、期待しないで待っててね。」


「ああ。気長に待ってるよ。」


お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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テレスの弓の重みが増したが?
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