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第1章6話〜よく言われる〜

 ライクス島奪還作戦を行う一週間前の日の事である。俺がギルドマスターに就任以来、久々にギルドメンバー全員がギルドに集合している。俺の呼びかけに応じたこいつらの顔を見ると、少しは顔つきもまともになったように感じる。


 ま、それもそうだろう。焦燥感、悲壮感に塗れ、残った領土を何としてでも守り抜こうとやっきになっていたのを俺の指示で全て手放させたからな。この指示により、ナイトアウルに領土は一つもなくなったが、全て失う事でようやくこいつらも前を向けたのだろう。


 あと何だかんだいって、がむしゃらなレベリングはやはり一番効く。強くなって自信が生まれない奴はいないからな。やはりレベル上げはMMORPGにおいて全ての基本だ。


「良いか?知っての通り、次の日曜日に俺達はライクス島をラビッツフットから奪還しに行く。だが、奇襲で勝ったって意味はない。正々堂々と正面からがっぷり四つでラビッツフットに勝たなきゃ意味がない。それをゆめゆめ忘れるな!」


 俺が士気を高める為の口上を力強く述べると、メンバー達から歓声が上がる。


 よしよし、我ながらなかなかいい決め台詞だと思う。


 俺はギルドメンバー全体を一瞥すると、何人かのギルドメンバーは俺の言葉に驚いたようで、


「...何かギルマスの言葉とはとても思えない台詞だね。」


「いつもなら勝ちゃあいいんだよ、勝ちゃあとか言うのに。」


 こんな声もチラホラ聞こえてきている。


 こいつらがそう思うのも無理はないだろう。確かに普段の俺なら勝ち方なんか気にしない。結果として勝利しているのであれば、どんな事をしようが良いと言うだろう。だが、今回だけはまた話が別だ。


「良いか?奇襲で勝ったって、そりゃ一回くらい勝つ事もあるよなと思われるだけだ。俺達の評価は大して上がらないだろう。また、すぐに別のギルド達からライクス島は狙われるはずだ。攻めたところで簡単には崩せないと思わせるだけの真っ当な力を大勢に見せつける事が必要だ。」


 一回地に堕ちてしまった名誉を回復させるというのは大変な事だ。後進ギルドであったラビッツフットが奇襲でナイトアウルを落とすのと、かつて最強のギルドとして君臨していたナイトアウルが奇襲でラビッツフットを落とすのでは評価が全く異なってくる。奇襲で勝ったって、もうそういう勝ち方しか出来ないのかと思われるだけで、実力で勝ったとは誰も思ってはくれない。そう思わせない為にも、俺達は正面から正々堂々と倒さなきゃならない。


「だから、ナイトアウル復活の為には出来る限り多くのプレイヤーに俺達の完全勝利を見せつける必要がある。その為に全アバンダンドプレイヤーにナイトアウルへの注目度を高めさせるぞ。」


 俺がそう言うと、男ドワーフ族のキャラクターであるカペラが挙手して、「えっと、ギルマス、注目度あげるって何するんですか?」と聞いてくる。


 よくぞ、聞いてくれた。俺の素晴らしい作戦を聞かせてやろう。


 その言葉を待っていたとばかりに俺は口の端を吊り上げ、指を一本立てると、雄弁とナイトアウルのメンバー全員に言い放つ。


「ああ。今日から一週間ライクス島奪取の日まで、PvPエリアに入る事があったら、初心者でも上級者でもフレンドでも、例えそれが中高生、いや、小学生プレイヤーだったとしても、プレイヤーを見つけ次第容赦なく八つ裂きにしてPKしろ。目に入るプレイヤー全て殲滅だ。アバンダンド中に恐怖を与えろ!ナイトアウルの恐ろしさを示せ!」 


 我ながらなんて素晴らしい演説だ。情けないナイトアウルの奴らとはいえ、この宣言を聞けば士気も最高潮に高まるはずだ。


 俺は自己陶酔するかの如く、目を瞑りながら顔を上げ、自分の熱弁に感極まっていると、どうも静かだ。反応が良くない。何があったのかと俺は顔を下げ、ナイトアウルのメンバーに視線をやると、この俺の宣言に対して、ギルドメンバー全員がドン引きして絶句していた。


 ...何故だ。昔、テレスも似たような事メンバーに向けて宣言してた時は、ぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すとこいつらめちゃくちゃ盛り上がってたのに。...俺とテレスの何が違うのだろう。


「...まるで蛮族ね。」と、辟易したように眉をひそめた渋い顔でミラリサがぼやく。


「...テレスでもグレイトベアくらいにしかそんな指令出した事なかったぞ。全プレイヤーはいくらなんでもやりすぎだろ。」と、引き攣った顔でレグルが言う。


「ゲームや漫画、アニメだったら完全に悪役だろ俺達のギルド。」と他のギルドメンバーからも、俺の宣言に対して、不満や批判の声がちらほら聞こえ出してくる。


 うるせぇ。んな事は承知の上だ。


 俺は周りから聞こえてくる不満の声を遮るように声を張り上げる。


「良いか!悪役でも何でもいい!とにかく、今ナイトアウルは舐められてんだよ。他のプレイヤーに嫌われようが何しようが、迂闊に手を出したら何倍にも報復してくるヤバいギルドと思わせなきゃ意味がねーんだよ!」


 俺がナイトアウルに再加入した時は弱小ギルドからも炎上したギルドだし、試しに攻めてみるか(笑) 程度の感覚でナイトアウルは領土を狙われていた。そんなんがずっと続いていたら、そりゃあ、皆疲弊して当然だ。ナイトアウルを攻めたら、粘着させられたり、報復させられるかもと思わせるだけの恐怖を与えるような存在でなくてはならない。


「例外は無しだ。どんなに仲の良い奴だろうと見かけ次第キルしろ。それとラビッツフットのメンバーをキルしたら、一週間後ライクス島を襲いに行く事を告げろ!いいな!?」


 語気を強めた俺の念押しの言葉に、再びギルドメンバーどもは黙り込んでしまう。


 本当に分かってんのかよ、こいつら...。


 だが、そんな俺の不安など杞憂だったようで、俺が号令を出したその日から、ちゃんと皆暴れ回ってくれているらしい。数日も経たないうちに、「フレンドからフレ削除された。」だの、「誹謗中傷の個人チャットがひっきりなしに届くようになった。」だの、ギルドメンバーからの苦情が俺に届いてくる。


 んなの、しゃーねーだろうが。一度は納得したんだから、そのくらい受け入れろ。俺だって、残ってるフレンドなんて、もはや数人しかいないし、四六時中殺害予告が飛んでくるんだ。慣れる慣れる。


―――


 この日、俺達はラビッツフットの金策チームが海峡でユニークを狙っているところをギルドメンバー総出で襲い掛かりPKを行った。


 ラビッツフットのパーティといえど、四人しかいないのにナイトアウルのメンバー二十人近くに突如襲い掛かられたら、なすすべもなくやられ、光となってリスポーンしていく。しかし、ラビッツフットの幹部である銀髪の男エルフ族のジャークだけは、リスポーンさせない為にも、すぐにはキルせず俺は、「久しぶりだな。」と声をかける。


「ジャーク。ホーブに伝えろ。日曜日夕方十七時にアルゴがライクス島を奪還しに行くと。」


「...アルゴさんが俺達をどう潰しにくるか、皆楽しみにしてますよ。」


 ジャークも俺の宣言に不適な笑みを見せてくる。俺の元直属の金策チーム所属だけあって、生意気な奴だ。


 さて、これでもうこいつに話す事はないし、生かしておく意味はないな。


「やれ。」


 俺の指示に従い、レグルがロングソードでジャークの首を切り落とすと、その姿は光となって消えて行く。これで完全に宣戦布告となった。幹部がやられたのであれば、ギルドマスターとしてホーブも示しがつかない為、本気でぶつかってきてくれるはずだ。これで後戻りはもうできない。


 俺は空を見上げて大きく息を吐くと、「モノーキーさーん。」と声がどこからか聞こえてくる。その声はヴォルトシェル王国の方向から聞こえてきており、声の方向に目を凝らすと、ユカちゃんがこっちに向かって走ってくるのが見える。


 俺はギルドメンバーから少し距離を取り、俺も彼女の方へと近寄って行く。ユカちゃんの元へ辿り着くと、「良かった。間に合った。」と彼女は安堵の声を漏らす。


「その、名前をサーチしたら、一層から出てきてるみたいなので応援しに会いにきちゃいました。...まったく、最近モノーキーさんの良くない噂ばっかり聞きますよ。至る所でPKされたとか。一体何やってるんですか。」


 ユカちゃんは俺の後ろにいるナイトアウルのメンバー達に少したじろいだ様子を一瞬だけ見せたが、すぐにいつものように自身の腰に両手を当てて、前傾姿勢気味に俺を嗜めてくる。そんないつも通りの彼女の姿を見ていると、ピンと張り詰めていた緊張の糸が緩んでいくのを感じる。


 こうして、いつものように振る舞ってくれるのは今の俺にとって何よりもありがたい。


「あぁ、それか。事情があるんだ。領土奪還の為にちょっとナイトアウルの注目度をあげたくてな。少し舐められてるから、怖さを出してーんだ。今もラビッツフットの幹部を倒したところだ。」


 そう言って、俺は先ほどジャーク達の首を切った地点にちらりと視線を送る。


「あんまり無茶な事はしないでくださいね。皆からモノーキーさんが嫌われてくの私悲しいですよ。」


 ユカちゃんはそんな俺を見て、少しオーバーリアクション気味に目元を指で擦るような素振りを見せていると、「あの子がアルゴの最新の彼女だ。」と背後からレグルの声が聞こえてくる。


 ...レグル、お前は一体何を言ってるんだ。


「...あの隠せないキャピキャピ感は間違いなく十代ね。きっと、アルゴは二十代はババアと思ってるのよ。メズちゃん可哀想に。」


 次に後ろから聞こえてくるのは、メズを憐れむミラリサの声である。


 そんなん口に出した事も、思った事も一回もねーよ!どいつもこいつも勝手な事ばっか言いやがって。喧嘩売ってんのか、こいつら。


 レグルとミラリサのあまりにも失礼な物言いに、少し苛つき、眉根を寄せた俺にユカちゃんは、きょとんとした顔をしている。


 良かった。とりあえずユカちゃんには、あいつらの声は聞こえていないらしい。


 そんなホッとするのも束の間、レグルとミラリサが俺とユカちゃんの元へ来て、二人は俺の腕を掴みながら言う。


「ごめんね、ユカユカちゃん。ちょっとうちのギルマス借りるね。」


「悪いな。すぐ返すから。」


「あ、はい。」


 突然の事にユカちゃんは呆気に取られ、ポカンとした顔を浮かべながら、ミラリサとレグルの頼みにこくりと軽く頷いている。ユカちゃんから了承を得た二人は俺を殆ど引きずるような形でユカちゃんから少し距離が空けると、レグルとミラリサはユカちゃんに聞こえないように、ボソッと小声で俺に話しかけてくる。


「お前がよーくモテるのはもう充分に分かったから。頼むから逮捕だけはされるような真似するなよ?とりあえず、あの子が成人するまでお前手出すな。」


「出さねーよ。何の心配してんだ、お前らは。」


「だってねぇ、その、アルゴが連れてくる女の子って、見る度に年齢が下がっていってるじゃん。そういう性癖なのかなと思って当然じゃない?」と、ミラリサは俺から目を逸らし、少し口ごもらせながら言う。


「ユカユカちゃんでも、ギリギリアウトなんだろうから、それより下はもう絶対連れてくるなよ。連れてきたら、流石にもう擁護も出来ん。」


「お前ら俺を何だと思ってんだよ。」


 レグルとミラリサは目配せした後、小声で声を揃えて言う


「「ロリコン。」」


「⚫︎すぞ」


 俺は両手で二人の頭をギリギリと締め付けるように鷲掴みにすると語気を荒げて言う。


「で、どうすんだ。アルゴだけ特例は無しだからな。」と、レグルが俺の手を払いのけ言う。


「あー...。まぁ、そうだよな。」


 ロリコン疑惑は全くの出鱈目だが、これに関してはレグルの言う言葉はもっともだ。ギルドメンバーから俺に対する視線もちゃんと感じているさ。自分だけ見逃すなんてことしねぇだろうな?と言わんばかりの圧力を感じる。


 ...まぁ、俺が言い出しっぺだからな。そのくらいの責任は取るさ。


 俺は能天気そうに口を半開きにして、ぼーっとしているユカちゃんの元に帰った俺は、これからユカちゃんに起こる事に対して、「悪いな。」と謝る。すると、ユカちゃんは不思議そうな顔で、「急にどうしたんですか。」と小首を傾げ、小さくはにかむ。


「...やれ。」


 俺が号令をかけた瞬間、消し炭と化して光となって消えていくユカちゃんの姿がそこにあった。


《一体何するんですか!!!!!!!》


 ユカちゃんからブチギレの個人チャットが俺に送られてくる。そりゃそうだ。


《いや、あいつらの手前、俺だけユカちゃん見逃すなんて言ったら示しつかねーし。》


《だからといって、何の説明もなく、いきなり全身に矢が突き刺さって、銃で蜂の巣にされて、挙げ句の果てには炎魔法で焼き尽くされてトラウマになりますよこっちは!本当に怖かったんですからね!》


《本当に悪かったって。一応聞いておきたいんだがユカちゃんを消し炭にした動画、ナイトアウルのアカウントのSNS載せて良いか?次代のスタープレイヤー候補のユカちゃん倒したって事で話題になりそうだし。》


《頭おかしいんですか!!!!???良いわけないでしょう!!!》


《よく言われる。》


 ダメか。いい宣伝になると思ったんだがな。


お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。


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