第1章2話〜違ったんでしょうか?〜
「あいつ、そんな風に言ってたのか。」
「はい。メズさんはハッキリとテレスさんはモノーキーさんの恋人だって言ってましたが...。その、違ったんでしょうか?」
ユカちゃんは自分が受け取った情報が間違っていたかもしれないという事で、少し気まずそうに小首を傾げながら、俺に尋ねてくる。
...あの野郎。人のいないところで随分と勝手な事を言ってくれるじゃないか。メズは俺がテレスの事を好きなのを知っていたから、本気で俺とテレスの関係をそう思っていたのかもしれねーけどよ。...まあいい。メズの発言の真意についてはひとまず置いとく事にして、今は目の前のユカちゃんの質問に答えるとするか。そうだな、俺とテレスの関係性は...。
...ふむ。...んー?...何て答えたらいいのだろうか。
よくよく考えてみるとだ。このユカちゃんの質問に対して、そうだとも、違うとも、中々答え難い事に気付かされる。
大前提として、俺はテレスに振られている。それは間違いない。だから、彼女と恋人だったと俺が言うのは烏滸がましいにも程がある。かと言って、俺の自惚れでは無ければ、テレスは俺に好意を持っていてくれていたような気もするのだ。そうじゃなきゃ浮気だなんだって言ってこないだろ?だから、ハッキリと恋愛関係じゃなかったと言い切れない気もする。不思議な関係性だった。だから俺自身もなんと言ったらいいのかわからない。
ただ、一言俺が言えるとするならば、
「...俺の事をそう思っていて欲しいってところだな。そうだとも違うとも言い切れない。マジな話、未だに俺もよく分かんねーんだわ。複雑だな。」
俺自身も何を言ってるのかさっぱり分からなく、こんな曖昧すぎる回答をしてしまった。だが、ユカちゃんには何か刺さったようで、キラキラと目を輝かせ、「わぁ。」と声を漏らしている。
「何だかステキですね。大人の恋愛って感じがします。」
...一体俺の言葉の何を聞いて、その感想になるのだろうか。
俺は、「違う違う。」と自分の前に出した掌を横に振って、否定する。
「逆だ逆。ユカちゃんは俺が年上だからそう見えちまうだけで、俺とテレスのやってた事なんて子供じみたもんだった。それこそおままごとみたいなもんだ。」
... 自分の恋愛遍歴を語るなんて俺のキャラではないし、何だか照れくさくなってきたな。
「もう、この話はいいだろ、大した話じゃないしやめよう。」と、ユカちゃんに伝えるも、ユカちゃんはそんな慌てた俺を見て、クスクスと笑い出す。
「おままごとだなんて、凄く良いじゃないですか。変に打算とかないって事ですし、一番素敵な形だと私は思いますよ。」
...この子は、俺の良く分からん話を全て良い風に捉えて全肯定してくれている。嬉しい事ではあるが、ここまで純粋に良い子だとロクでもない男に騙されないか若干不安になってくる。私が支えてあげないとあの人はダメなのとかいうタイプになる要素があり過ぎる。
「ま、とにかくテレスとはお互いの事なんて何も知らないまま、あいつはアバンダンドを引退してそれっきり。それだけだ。」
「そうなんですね。...まだ、私の周りでは誰もACOを引退してないので、軽々しく引退についてどうこうと言えないですが、仲の良い方ともう会えなくなってしまうっていうのは絶対に寂しいですよね。」
「そうだな。寂しさが無いと言えば嘘になるな。でも、オンラインゲームで連絡先を交換していなかったフレンドと二度と会えなくなるなんてのは良くある話だ。こればっかりはしゃーねーよ。」
俺がアバンダンドで出会ったプレイヤーの中で、引退していったのは勿論テレスだけではない。色んな奴がいた。初めてフレンドになった奴。レベリング中の雑談で妙に気があってフレ登録した奴。好みの外見してたから声かけた奴。俺より強かった奴。本当さまざまだった。
俺のフレンドの項目欄には最終ログイン日時が三百日、五百日前なんていう奴もザラだ。もう二度とアバンダンドには戻ってこないんだろうなと思っているが、それでも俺はフレンドの欄から削除した奴は誰もいない。そいつがここの世界にいたってのを何となく残しておきたかった。あいつらがいてこそ今の俺があるんだ。なかった事になんて出来やしない。
「このゲームをしてる限り、引退は必ず訪れる事なんだが、その中でもテレスはなぁ...。周りに残したものがあまりに大きすぎて、どいつもこいつも未だにそれに執着してんだ。メズも、ナイトアアウルも、そして俺もな。」
「なるほど。つまり、皆テレスさんが好きだったって事なんですよ。そうやって、自分が引退した後も話題にして貰えるなんて羨ましいです。いないところで語られるのは少し恥ずかしい気もしますが。」
「んじゃ、ユカちゃんがアバンダンドを引退した後も、俺はここで思い出してやるから安心しとけ。ぜってー忘れねーからよ。こういう奴がいたんだって未来のフレンドに話してやるよ。」
「ナチュラルにモノーキーさん、私よりも後に引退する気満々ですね...。」
「そりゃそうだろ。今更何言ってんだ。」
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