番外編②〜俺が責任とってやるさ〜
「ギルマス、自分を金策チームから、戦闘チームに変えて欲しいです。」
ヴォルトシェル王国二層にある、ラビッツフットのギルド本部にて、ギルドを研究所のような内装にしようとハウジング真っ最中の俺に同じ金策チームの一員である蕨餅が、おっかなびっくりといった緊張した面持ちで相談してきた。
突然のメンバーからの相談に、俺は棚に飾ろうとしていた薬品のビンを床に置くと、蕨餅へと向き直る。
「何だ。急にどうした。PvPや領土防衛戦をメインでしたくなったのか?」
ラビッツフットのメンバーは主に二つのチームに所属している。一つは俺が主導となる金策チーム。PvE、つまり、対モンスター戦をメインとするチームだ。ユニークモンスターや高難易度の敵であるネームドの討伐をし、そのドロップアイテムを必要としているギルドメンバーへ配布したり、取引販売所で換金して運営費にしたりしている。
もう一つが、ホーブが主導となる戦闘チーム。PvPや領土防衛戦というギルドレイドがメインのチームだ。金策チームと違って、プレイヤーが相手になる為、対人戦を得意とするジョブのギルドメンバーが選任されている。
蕨餅がメインジョブとしている侍は、PvPが得意なジョブではある。領土防衛戦のような集団戦は苦手だが、一対一においては無類の強さを誇る為、別に戦闘チームへと移動させても良いっちゃいいが、どうしたもんか。
俺は意見を求める為に隣にいるホーブへと顔を向けると、ホーブは実に嬉しそうにニタニタとした笑みをこぼしていた。
「あーあ、リーダー。遂にメンバーからの信用まで無くしちゃいましたね。蕨、来い来い。オレが戦闘チームで優しく指導してやるから。こんなパワハラ野郎の部下なんか辞めちゃいな。」
なんて腹立つ野郎だ。ホーブは誰にでも優しいが俺に対してだけは煽る事を生き甲斐にしているような奴なので、俺の元からメンバーが離れる事を心の底から嬉しそうにしている。しかし、当の蕨餅はホーブの言葉に慌てて首を横に往復させ、否定する。
「いやいやいやいやいや、違いますって。そういう意味じゃないんすよ。自分もっとギルマスの為に動きたいんすけど、侍って占有権取るのに向いてない気がするんです。俺が下手すぎて、金策チームに迷惑かけちゃってるような気がして。」
蕨餅はそう言うと、がっくりと意気消沈して、うなだれている。ホーブは、「気にするなよ。」と蕨餅の肩をポンポンと叩きながら言う。
「ほら、リーダーがいつもノルマノルマうるさいから、皆萎縮しちゃってますよ?な?蕨、こういうパワハラするリーダー嫌だよなぁ。」
うるせぇ、お前は黙ってろ。
「なぁ、蕨餅。別に俺は迷惑だなんて思った事一度もねーぞ。俺は侍が占有権取るのに向いてると思ったから、俺のチームに入れたわけだし。まだ慣れてないだけだから気にすんな。そのうち上達するだろ。」
俺は真っ直ぐに蕨餅の目を見つめながら言うも、蕨餅は、「...でも、」と自信なさげなままだ。
「ギルマスは盗賊だから、パッシブスキルに第六感があるじゃないですか。あれで敵の位置把握出来るから占有権取りやすいですし。魔法使いや魔剣士は範囲攻撃を沢山ありますけど、侍ってそういうのすら無いじゃないすか。向いてるとはとても思えなくて。」
「確かにそうだよな。別にリーダーへの煽りとか抜きにしても、侍ってPvP戦とかのが向いてるし、蕨のチーム変えさせても良いんじゃないか?」
ホーブはギルドメンバーである蕨餅の悩みを真面目に考えたようで、今までの軽口とは違い、真剣な表情と声色で俺に提言してくる。
まぁ、確かにな。ホーブや蕨餅の言いたい事は分からないでもない。
ジョブにはパッシブスキルというプレイヤーがスキルを選択しなくても、常時発動する固有スキルがある。盗賊のパッシブスキル【第六感】は、自分の周囲にいるプレイヤーや敵を感知出来るスキルであり、他のジョブと比べて常にフィールドの状況を把握しやすい。このように占有権の取りやすいジョブ、取りにくいジョブがあるのは事実としてある。
しかし、俺はホーブが出してきた提言に対して首を横に振って答える。
「それでも、俺は蕨餅に金策チームにいて欲しいと思ってる。」
俺の言葉にホーブは、「呆れた。」と大きくため息をつき怪訝な視線を向けてくる。
「おいおい。その考え方は効率が全てのリーダーの発言とは、ちょっと思えないなぁ。自分の下から人が離れるからって、そんな非効率な考え方は最強のギルドを目指すラビッツフットのマスターらしくないんじゃないか?」
「ちげーよ。そういう俺のプライドとかくだらねぇ事じゃなくて、侍を金策チームに入れたのには意味があんだよ。」
俺がそう言うと、ホーブは訝しげな表情を浮かべている。どうも俺の言葉を信用していないようだ。
「侍の居合スキルは全ジョブ最速で打てるからな。理にかなってんだよ。魔剣士や魔法使いは最速の呪文でも数秒は詠唱時間があるだろ?それに比べて、侍は構えさえとっていれば、居合の発動時間は0秒だ。しかも、移動付きでだ。ユニークを狙うなら、これ以上のジョブはない。」
俺の説明によって、ホーブは納得したらしく、ふむ、と指を顎に乗せて頷く。
「なるほどな。確かにそれは一理あるな。」
「とにかく音がしたら、その方向に居合打てば最速で占有権を取れる。距離のある敵には、居合の真空の型で斬撃を飛ばす事も出来るだろ?理論上では、侍以上に占有権を取れるジョブはないんだよ。」
蕨餅も俺の言葉で、大分納得はしたようだが、それでもまだ、完全に納得とはいかないらしい。
「うーん、言いたい事は分かりますが、間違って、別の対象に当てちゃいそうな気もしますよ?それでも良いんすか?モンスターならまだしも、プレイヤーに当てたら絶対問題になるんじゃ。」
「小心者だなぁ。んじゃ、そんな心配なら低レベルエリアでユニーク狙えば良い。そこならプレイヤーも大体雑魚しかいねーだろ。間違ってプレイヤーに当てたとしても、一撃でHP削り切れば良いじゃねーか。死んだら文句も出ねーよ。」
目の前に映るもの全部ぶっ殺せば良い。低レベルや初心者なんかわざわざそこで文句言ってくる奴なんていないはずだ。粘着されても困るだろうしな。
「悪魔みたいな発想っすね...。」
俺の発言に蕨餅はドン引きしているようで、口をあんぐりとさせ、完全にヤバい奴を見る目つきで、俺の事を見つめている。
「まぁ、一回やってみろって。練習には付き合ってやっからよ。何か文句言われたら、俺が責任とってやるさ。」
俺はそう言って、ケタケタと笑った。
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