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プロローグ②〜信じられん〜

「...一ヶ月、ね。」


 ミラリサはぽつりと歯切れ悪く呟く。俺の一ヶ月という提示した期間に対して、スッキリとしない様子を見せている。何か腑に落ちない点があるようだ。


「んだよ、もっと短い方がいいのか?」


 そう問う俺の言葉に、「違うの。」とミラリサは慌ててかぶりを振るうと、彼女の橙色の髪の毛が揺れる。


「あれだけラビッツフットにボロ負けしたのに、たった一ヶ月でライクス島を取り返せるだなんて、ちょっと思えなくて。」


 ミラリサがそう俺に言うと、レグルも彼女に同意らしい。言葉はないが、軽く一回頷く。


「余裕だろ。」


 俺はちゃんと今のナイトアウルの状況を理解したうえで、自信を持ってもう一度二人にラビッツフットに勝てる見込みがある事を伝える。


「ラビッツフットは強かったか?」


 俺は改めて二人にこの事を尋ねると、まずはミラリサが口を開いた。


「...うん。下手したら、グレイトベアより強いと感じた。グレイトベアとやり合ってた時はテレスがいたとはいえ、一回もライクス島が奪われる事はなかったわけだし。」


 ...ほう。そう素直に言われると、今は俺のギルドではないにしてもこう褒められると気分が良い。


 ミラリサに続いて、レグルもラビッツフットについて語り出す。


「ユニーク武器や禁断魔法、エキスパートスキルなどは誰も持っていなかったが、一人一人が相当に強い。...穴が見当たらない。そう感じた。ただ、その中でもホーブの強さは段違いだった。タイマンで相手にしたから分かる。凄まじい強さだった。強襲じゃなくても、ナイトアウルは負けていたかもしれない。」


 レグルが指摘した点は俺はラビッツフットを作る際に一番こだわった所だ。本来であれば、俺もユニークは作れた。だが、個人として強くなるよりも、組織として強くなる事をまず第一優先にし、そこに俺個人の資金も大きく費やしたからな。事実、俺がいなくなっても、ラビッツフットは何も変わらず、最強のままでいられているようだ。


 俺は二人のラビッツフットに対しての見解に対して大きく一回首肯する。


「だろうな。最強を目標にメンバーを集めたギルドだぞ。そこら辺のギルドとは面構えがちげーよ。」


 ラビッツフットの殆どのメンバーは生活の何かを切り捨てた猛者のみで構成されている。...正直、ヤバい奴らしかいない。四大ギルド全てぶっ潰してアバンダンドで最強を目指す、それを目標にしてきたギルドだ。その為に仕事を辞めた奴、友達や恋人と疎遠になった奴、学校を辞めた奴、そもそも仕事をしてない奴と、多岐に渡る。


 ラビッツフットは無職率の極めて高いギルドではあったが、入団条件は別に無職である事などは求めていなかった。だから、別にニートを集めたギルドというわけじゃない。俺が最初のメンバーに加えたのだって学生のササガワだ。そこら辺は関係ない。本気でこのギルドを最強にするって心意気が見えるやつを誘ってたら、脅威の無職率を誇るギルドになっただけだ。


 それに、ササガワ以外にも学生は数人いたはずだ。確かハルも学生だったような気もするけど、どうだったかな。忘れてしまった。何となく言動が若かったし、ログイン時間も長かったから、勝手に専門学生とか大学生とかと思ってたな。


「ギルマス自身もラビッツフットが強いって認めてるのに、それでも一ヶ月で勝てるの?」


 俺はミラリサの言葉に、「ああ。」とこともなげに再び速攻で頷く。


 もし、これがグレイトベアやシューホースのような他の四大ギルドと言われるところとの領土防衛戦だったなら、こう容易くは言えないが、今回だけは別だ。


「俺を誰だと思ってんだよ。ラビッツフットの創始者で、ギルドマスターだったんだぞ。メンバーの武器も立ち回りもスキル構成も、全部頭に入ってるに決まってんだろ。」


 俺は自分の側頭部をトントンと指で叩きながら、口の端を吊り上げて言う。今の俺は自分でも実に悪い顔してると思う。しかし、レグルは戸惑った声で俺に言う。


「...そんな情報俺達に流して良いのかよ。少なくとも、アルゴの仲間だった奴らだろ?倒すべき相手とは言え、流石に悪い気がしてくるぞ。」


「これから戦う相手に気なんて使うな。俺は戻る気なんてもうねーし。それに、ラビッツフットはホーブにやったから良いんだよ。」


 それにな、割と俺はあいつらに本気でムカついてたりもする。俺が個人で出した三億G分のゴールド使って買った蒼穹回廊を当たり前のように使ってるのは相当に腹が立つ。完膚なきまでに叩きのめしてやる。俺を追放しやがったんだ。復讐くらいされて当然だ。目にもの見せてやる。


「...ただ、まぁ俺のギルマス時代から、メインジョブとかスキル構成が変わってる奴もいる可能性は大いにあるな。メンバーに変動もあるかもしれねーし、念には念を入れてた方が良いか。」


 俺は顎に指を添え、「ふむ。」と一回唸ると、事前に考えていた案を実行する為にウィンドウを立ち上げて、プレイヤーサーチ機能にそいつのプレイヤーネームを入力していく。


 本気で領土取り戻すってんなら、使えるもんは最大限に使ってかねーとだからな。


「念を入れるって何すんだよ。」


 突然の俺の行動を不審に思ったレグルは訝しげな声と顔で俺に問うてくる。


「ラビッツフットに一人いるからな。俺の味方になってくれそうな奴が。そいつにちょっと個人チャットしてみる。」


 怪訝な顔をしてい二人に俺は意気揚々と伝える。


「「は?」」


 レグルとミラリサが同時に気の抜けたような声を上げる。


 お、よしよし。プレイヤーサーチに引っかかった。今ログインしてんな。あいつなら、俺の為に動いてくれる事間違いなしだからな。


 呆然と立ち尽くす二人の横で俺は個人チャットに、そいつ宛の文字を打ち込んでいく。


《おう、ハル。久しぶり。元気にしてるか?》


《アルゴちん!久しぶり!急にどした!?もしかしてデートの誘い!?》


 我が愛弟子は俺がラビッツフットにいた時と変わらない調子で返信をくれる。


 元気にやってるようで良かった。


《いや。デートじゃなくて、悪いんだけどさ。今のラビッツフットのメンバー全員のメインジョブとスキル構成教えてくんねーか?》


《...あのさぁ、アルゴちん。⚫︎カじゃないの?教えるわけないでしょ...。自分の都合の良い時だけ人を利用しようとする悪癖、ほんと最低だから、やめた方が良いよ?》


《そうか。それは悪かったな。》


 それ以降、ハルから返信は来る事はなく、個人チャットは途切れてしまった。


 バカな。


「信じられん。何ていう事だ。ハルが裏切らなかった。...断られてしまったぞ。」


「当たり前だろ...。」


お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。


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ばかで草
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