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プロローグ①〜一ヶ月後に〜

「やっぱよ。アルゴがいると、ギルドの活気が違うな。」


「んだよ。皮肉で言ってんのか。」


 俺とレグルとミラリサの三人しかいないガラガラになったナイトアウル本部で俺はレグルに毒づく。


「いやいや、ここに誰もいない事がギルドにとって活気あるって事だと、俺は言いたいんだよ。」


 この閑古鳥が鳴いてる状態のギルド本部を見ると、一年以上前にネームドモンスター戦に向けて、俺が檄を飛ばした時の事を思い出す。あの時も今のように閑散としてたな。


 ミラリサは、「初日だけだったよね、アルゴが戻って和気藹々してたの。二日目から、レベリング地獄の始まりだし...。」と、やや困ったような顔を浮かべながら俺に言う。


「当たり前だろ。何の為に俺がナイトアウルに戻ったと思ってんだよ。不甲斐ないお前らを俺が直々に鍛え直しにきてやってんだ。この会議が終わったら、お前らも俺とレベリングだからな?」


 俺はいつもテレスが座っていたアンティーク調の木製の椅子を引く。俺はアルゴをその椅子に座らせるとギシっとした軋み音が鳴り、俺のVRゴーグルに映るギルド本部の景色は一段と低くなる。


 ...きっと、これがいつもテレスの見てたギルドの景色なのだろう。


 あの時はテレスがギルドマスターだったが、今は俺がナイトアウルのギルドマスターだ。ギルドマスターをやるのなんて、ラビッツフットを追放されたあの日以来だな。五つ葉のクローバーでユカちゃんの下で過ごしていた日々では、ギルドマスターなんて煩わしい事ばっかだったなんて思い返す事もあったが、こうしてこの椅子に座ると、案外しっくりとくるものだ。


 初日はナイトアウルに復帰した俺を皆温かく迎えてくれた。ギルドメンバーもいなくなったテレスとメズを除いて全員が当時のままだ。


 懐かしい面々を前にすると、当時の思い出が蘇ってきて、センチメンタルな気持ちになる事などあまりない俺でも、流石に感慨深いものはあった。...まぁ、そんなのは初日だけだったけどな。


 ナイトアウルに復帰すると、続々とこのギルドの問題点が明るみになった。いつ他のギルドに領土防衛戦を仕掛けられるか分からないせいで、拠点やギルドから離れられないとか情けない事をほざいていやがった。どんだけ舐め腐ってたんだ。こいつら。だから、俺は領土防衛戦が始まろうが、そのせいで最後の拠点が奪われようが、最低一日四時間レベリングするまでは絶対ギルド本部に帰ってくんな、ログアウトすんじゃねえぞと全員に向けて号令を出した事で、この閑古鳥が鳴くギルドの完成したというわけだ。


 まったく、これでも俺は相当優してやってるくらいだ。メンバーの大半が無職のラビッツフットの時は、もっと長時間のレベリングしてこいと指示出してたからな。


 ナイトアウルとって本当に大事な拠点は、ライクス島だけだ。ナイトアウル最後の拠点地というだけで、別にどうでも良い場所の領土に執着して、レベリングに行けねーとか本当に呆れてしまう。そんなつまらない理由でレベリングに行けないのなら、いっその事全部の領土を手放した方がマシだと、俺はナイトアウルの全員に伝えた。MMORPGにおいてレベリングは戦闘職、生産職どちらにしても全ての基本だ。ここをサボっていて、何が自称最強のナイトアウルだ。


 ミラリサが、おずおずと椅子に座る俺の顔色を伺いながら、「...ね、ギルマス。本当にメズちゃんはレベリングに誘わなくても良いの?」と躊躇いがちにメズの名前を出してくる。


 ...今更何を言ってんだこいつら。


 俺がナイトアウルに復帰して数日経った今、俺とミラリサとレグルは固定でレベリングパーティを組んでいる。日によってはカペラなどの別のメンバーもこのパーティが参加している状況だ。しかし、俺、レグル、ミラリサの三人が揃っている状況から、当時の事を思い出したのだろう。ここにいつも一緒にレベリングをしていたメズの姿が無い事が、この二人は気に掛かっているようだ。


 はぁ、と俺は二人のバカさ加減に呆れ果てて、嘆息する。


 当時の幹部全員揃ってレベリング出来なくて寂しいってか?馬鹿らしいにも程がある。


「良いか?お前らがメズをナイトアウルから除名したんだろ?俺はメズを絶対に誘わねーよ。」


 出した自分が驚くほどの冷淡な声で、俺は二人にそう言い放つと、レグルとミラリサは押し黙って、ギルドには沈黙が流れる。


 ...まったく。俺だって相当なやらかしをしてラビッツフットを追放されているのだ。自分を棚に上げてメズを批判するつもりなど毛頭ない。それでも客観的に見て、こいつらがメズをナイトアウルから除名したのは何もおかしな事じゃないと感じている。メズの大やらかしはギルドを除名されても仕方ないほど大きな事だった。ただ、人を排除するという事を行ったのであれば、排除した側はその自分の行動には責任を持たなければならない。


 少し間が空いた後、レグルは歯を軋ませ、悔いるように呟く。


「...俺達だって本意じゃなかったさ。...友達だからな。ただ、あいつの書き込みはそれだけ範囲の広いもので、やっぱり許せない人も多かったんだよ。このギルドを守る為に、他のギルドやプレイヤーの手前、メズを除名せざるを得なかったんだ。」


「なら、それを貫けよ。自分達で決めた選択なんだから、簡単に翻すな。それにな、もしあいつを誘っても来るわけがない。自分のせいで、ギルドが崩壊したと思ってんだからな。」


 再び俺は順々に視線を二人に向け、粛々とした口調で掃いて捨てるように言うと、二人はメズを誘おうなどという戯言はもう言ってこなくなった。軽く息を吐いて、仕切り直すと俺は二人に呼びかける。


「良いか、レグル。ミラリサ。一ヶ月だ。一ヶ月後にライクス島奪還するからな。」



お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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