番外編25〜おっはよー!〜
「こうっしきの仕事っ。こうしっきのっイベントっ、あ、アルゴおっはよー!今日もいい天気ね!」
休日のある日。ログインしてナイトアウル本部を訪れると、朝っぱらからメズがこんな変な鼻歌混じりに、ニコニコ顔で俺に挨拶してくる。
珍しい。こんな機嫌よく俺に挨拶してくるなんて滅多にない事だ。
「おう。朝からお前も頭お天気模様だな。」
「ええ、その通りね。私って、いつも晴れ女なの。だから、いつでも気分は快晴よ。」
...おかしい。何て事だ。俺の煽りが一切通用しない。ここまで機嫌が良いメズを見るのは、初めてかもしれない。よほど嬉しい事があったらしい。
メズは、うふふふ、と不気味なくらい大変ご機嫌な様子で微笑んでいる。
「あ、アルゴちゃん。」
ふと気づくと、テレスがいつの間にか俺の横に来ており、「おはよ。」と挨拶してくる。俺も軽く手を挙げ、「うっす。」とテレスに挨拶を返す。
「お、驚いたでしょ。ロ、ログインしてきた時からずっと、メズちゃんあんな感じなんだ。機嫌良いよね。」
テレスはいつも通り、皆がいる時はこのような少し詰まったような喋り方をしている。この喋り方の真実を知ってるのは俺くらいなんだろうな、となんだか少し優越感を感じながら、テレスに尋ねる。
「...良すぎだろ。どうしたんだ、アレ。おかしくなってんぞ。」
ギルド中をまるで犬のようにくるくる回って、喜んでいるメズを俺は指差す。ギルドの全員があまりのメズの機嫌の良さに、困惑しているのが分かる。
「な、何かメズちゃん。公式の、イ、イベントに参加するみたい。お呼ばれしたんだって。まだ大分先の予定らしいんだけど、凄い喜び方だよね。」
ヒソヒソと俺とテレスが声を顰めて会話をしていると、自分の話題にはめざといようで、獲物を見つけた鷹のように眼光を鋭くしながら、メズは猛烈な勢いでこっちに向かってくる。
...こえーよ。どんだけ自分の事が好きなんだよこいつ。普段は俺とテレスの会話なんかまるで興味なさげなのに、自分の話題になると、一瞬で食いついてきやがる。
「どんなイベントか知りたい?ねえ、知りたいでしょ?しょ〜〜がないわねっ。皆に教えてあげよっかなぁ?」
えへへー、と口元をだらしなく緩めた笑みを浮かべて、俺とテレスの会話にメズが混じってくる。
「おいおい、言って良いのかよ。守秘義務とか大丈夫なのか?」
俺は眉を顰め、しかめ面でメズに尋ねる。こいつの事だ。調子こいて周りにバラしまくって、出演取りやめみたいな事になりかねない。優しい優しい俺は一応メズに忠告しとく事にする。
こんだけ喜んでいるんだ。流石にそうなったら、あまりにも哀れすぎる。
「ええ、大丈夫。心配ご無用よ。運営側も、むしろ宣伝してくれって感じだし。」
俺の懸念をよそに、ずずいっとメズは身を乗り出して、自慢げに俺の前でピースサインを作っている。
「期待のルーキー座談会。ネクストジェネーレションってイベントなのよ。次世代の強いプレイヤーに話を聞こうみたいなのをACO公式の生配信放送でやるのよ。凄いっしょ!」
後で公式から動画投稿もされるみたいだし!服装もおしゃれなものにしなきゃと、メズは意気揚々と言葉を続けている。
確かにそれは凄いな。そんなイベントに声をかけられるって事は、公式からもメズは強いプレイヤーとして認知されてるって事だしな。...だけどよ。
「...メズ、お前。そのイベント、他に誰が参加するのか知ってて、それ言ってんのか?」
「さぁ?たしか、めちゃくちゃPvPが強い人とか呼ばれてたような気がするけど。まぁ、別にどうでもいいじゃないそんなこと。私が可愛ければ問題なし!」
...こいつ、自分の事にしかほんと興味ないのな。普通は他に誰が参加するくらいは確認するだろ。ある意味潔いとは言えるが。
「...言っておくが、そのイベント俺も呼ばれてるからな?」
「は?」
俺の言葉に今までウキウキ顔だったメズの顔が凍りついた。
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