番外編23〜待ってくれぇえええ③〜
『アルゴさん、宝箱発見しました。中にはゴールドしか入ってませんでした。』
宝箱を発見した僕は、アルゴさんから渡された宝箱の鍵を使って宝箱を開け、中身を確認すると、別行動で遠く離れていたアルゴさんへと報告する。
『おお、サンキュ。漆黒の闇夜の剣聖!助かるよ。その金持ってって良いぞ。』
アルゴさんは、僕に感謝の言葉をパーティチャットに書き込んでくる。僕もその言葉に対して感謝の言葉を書き込む。
『ありがとうございます。』
口は悪いし、人間性もどうかしてる人だとは思うが、素直に感謝の言葉を伝えてくれるし、鍵を僕に渡してくれる上に、中のアイテムまでくれるとは、かなり気前の良い人のようだ。
...ただ、何だろう。違和感を感じる。
それから、また僕達が少しプレイをし続けていると、「悪い。取り逃がした。漆黒の闇夜の剣聖の方にデュラハン逃げて行ったぞ!」と比較的近くにいたアルゴさんの叫び声が聞こえてくる。
その声の通り、僕の方に馬に乗ったデュラハンが逃げてくるのが見える。
「了解です!」
僕はゴーストを召喚し、逃げてきたデュラハンにタイミング良く呪縛のスキルを放ち、足止めする。
その隙に攻撃魔法を詠唱し、ダメージを与えるものの削りきれないが、アルゴさんもすぐ駆けつけ、短剣によるスキルを放ち、デュラハンはその場に倒れ込む。
ここで霊体が浮かび上がってくればテイム成功なのだが、その気配は一向に現れない。
「残念だったな。漆黒の闇夜の剣聖。」
「...ええ。でも、次の機会に期待です。」
...違和感の正体がわかった。今までこのかたほぼソロプレイでしてきた為、あまり名前を呼ばれる事がなかったし、HPとMPゲージの上に表示されてる自分の名前を読んでも、それほど違和感は感じなかった。
戦士でパーティプレイしてる時も、漆黒さんと良く言われてたから、何とも思わなかったが、フルネームで言われると、ちょっと、というか、かなりこの名前やばい気がしてきた。先程まであれだけカッコ良い名前だと思っていたのに。急に恥ずかしくなってくる。
僕がその事をアルゴさんにそれとなく伝えると、
「まぁ、そんな名前つけてる時点でかなり若い子だと思った。なぁ、漆黒の闇夜の剣聖。」とらニヤニヤと邪悪そうな顔で笑いながら言う。
...アルゴさんは僕にそれを知らしめる為、敢えて漆黒など短くした名前ではなく、フルネームで僕の事を呼んでいたようだ。...やはりこの人、性格はあまり良くはない。
しばらく二人で分かれて、ダンジョン内を捜索していると、奥の方に宝箱があるのに気づき、僕は宝箱の元へと歩みを進める。しかし、後ろから僕に近づく何かの気配を感じ、後方へ首だけ振り向くと、先ほどから何度もすれ違っている明らかに宝箱狙いの暗殺者であろうプレイヤーが足音もなく、僕の後ろから凄い速さで駆けてくるのが見えた。
その姿を確認した瞬間、僕も宝箱へと駆け出す。移動速度自体は暗殺者の方が早く設定されている。後ろを見なくてもドンドンと距離を詰められているのが分かる。
人と争うなんていつぶりだろう。このキャラクターではなく、現実の僕の心臓がドクドクと早鐘を打っている。
僕はアルゴさんから渡された宝箱の鍵を懐から取り出し、宝箱の中に突っ込む。間一髪、僕の方が先に差し込めた事に大きく息を吐く。
暗殺者はその僕と対照的に、「クソがっっっ!」と悔しそうに叫んでいる。普段僕はパーティプレイをしない。だから、他のプレイヤーと関わることはほとんどない。だからだろうか。久々にこういう生の感情をぶつけられた気がする。
...ここまで、悔しそうにしていると背筋に何か電気の入ったような感覚があり、ブルっと震える。高笑いしていたアルゴさんの気持ちが分からなくもない気がする。
暗殺者のプレイヤーが姿を消した事で、漸く僕は宝箱の中を落ち着いて確認すると、中には一冊の本が入っていた。アルゴさんが到着し、僕は彼にこの本を渡すと、邪悪そうな顔が更に不気味に歪んだ笑みへと変わっている。どうやら嬉しいようだ。
「おめでとうございます。」
僕は柏手を打ちながら、アルゴさんに、「良かったですね。」と言う。
「ああ、助かったよ。悪いな。俺ばっか終わっちまってよ。」
「大丈夫です。別に時間は有り余ってますし、今日も明日も一日中ここで粘ろうと思うので。そのうち僕もデュラハンをテイム出来ると思いますし。ま、気楽にやろうかと。んじゃ、抜けますね。」
僕はそう言って、パーティから抜けようとすると、「今日も明日も一日中って、漆黒の闇夜の剣聖は学校は良いのか?平日だろ?」と小首を傾げているアルゴさんに引き止められた。
あー、しまった。曜日の感覚が狂っていた事が、完全に抜け落ちていた。正直に言うとするか。隠してたってしょうがないしね。
「...出会ったばかりの人に言うのは、なんなんですが、僕学校休みがちなんですよね。ちょっと、うまくいってなくて。」
僕は苦笑いを浮かべながら、自虐的にアルゴさんに伝えると、彼は何とも言えないような顔をしている。まるで、苦虫を噛み潰したような苦い表情だ。
あー、やっぱ学校休みがちなんて言わなきゃ良かったかな。変だよね。やっぱ。
「おい。これは俺のメルアドだ。メッセージアプリのIDはこれだ。電話番号も必要なら載せる。何かあったら、連絡よこせ。」
しかし、彼は僕の思いとは裏腹に、焦ったようにパーティチャット上に、彼のメールアドレスとメッセージアプリのIDが書き込まれた。
「...僕は絵でも買わせられるのでしょうか...。」
「...お前俺を何だと思ってるんだ。」と、呆れたようにアルゴさんは呟く。
「いや、結構グイグイ来たので。」
「傍観者じゃなくて、踏み込まなきゃどうしようもならない事もあんだろ。外部の人間だから、相談できる事もあるだろうしな。」と、彼は言う。
「もし、リアルで友達がいねーなら、近場だったら会ってやるよ。飯くらいなら、奢ってやる。焼肉やラーメンなら男は誰でも好きだろ?」
アルゴさんは勝手に何か話を進めている。この人、僕とリアルで会う気満々らしい。
「あー、でも未成年と会ったら誘拐犯になるんだっけ?親の許可とってからにしねーとだよな。」と、一人でぼやいてる。
この人は性格が悪いのか、良いのかさっぱり分からない。
「まぁ、リアルの事はとりあえず置いておこう。せっかくだ。お前、俺のギルドに入らないか。まだメンバー俺だけだから、オリジナルメンバーでやりやすいぞ。」
悪い話ではない気がするが、ちょっと強引さが垣間見えて、少しだけ怖い。ただ、僕の事を心から心配してそうなのは伝わってくるから、悪い人ではないのは分かる。...でも、大人数の中でやるのはちょっと苦手だ。
「突然やめちゃうかもしれませんが良いですか?」
「ああ。いつでも抜けて大丈夫だ。合わなくなったらやめてくれて構わない。」
僕の質問にアルゴさんは腕を組みながら、軽く頷く。
そこまで言うなら、僕にもメリットはある話だ。
「よろしくお願いします。」と、僕は頭を下げる。
「んじゃ、お前サブマスな。動き見ててもめちゃくちゃうまいし、任せられるわ。」
「嫌ですよ!やりませんよ!」
僕は大慌てで首を横に振り、アルゴさんの提案を拒否する。そんな指導力なんて、僕にあるわけがない。
「大丈夫だって。メンバーが揃ったらまた考えるからよ。それまで頼むわ。」
「絶対にやらないですよ!」
今度は更に強く彼の言葉を断ると、無理強いは出来ねーかと、がっかりしたような顔を浮かべている。少しだけ胸が痛むような気もするが、無理なものは無理だ。
「しゃあねーなー。とりあえずはサブマスなしでやるか。まだ作ってはねーんだけど、ギルドの名前は既に決めてんだ。」
彼は僕に血まみれの動物の足をぽいっと投げてきた為、僕は反射的にそれを両手でキャッチする。
...不気味な装備だ。これは一体何の生物の足だろう...
「この俺の装備に、ちなんだ名前にしようと思ってんだ。」
僕は手に持ったこの気味の悪い装備の名前をサーチしてみると、鮮血兎の足と表示されている。どうやらこれは、...兎の足らしい。
「最近、仕事やめちまってよ。絶賛無職中で時間有り余ってんだよなぁ。」
本日出会った中で一番大きな声で、ぎゃははははと笑う。...正直聞かされる方は笑えない話である。
「...何で辞めたんですか。」
「最強になる為だな。」
アルゴさんは真顔でそう答えてる。本気で言ってるらしい。
...やばいなこの人
「ま、だから。俺も似たもん同士ってことで仲良く遊ぼーや。」
彼は僕に手を差し伸べてくる。僕は、どうしようもないなこの人と、呆れながらも、僕はアルゴさんのその手を握った。
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