番外編① 〜シロツメクサってかわいくないですか?〜
ある日の事。いつも通り俺はユカちゃんと固定でレベリングパーティを組み、モンスターを倒していた。
「そういや、何でFive leaf cloverなんだ?」
ふと、俺は前から思っていた質問をユカちゃんにしてみた。
「それはギルド名の話の事ですよね?」
唐突な質問だったせいか、俺の質問に質問で返事が来た。俺はユカちゃんの問いに、「ああ。」と頷く。
「単純にシロツメクサって可愛くないですか?女の子は皆好きですよ。王冠作ったり、ブレスレット作ったり。」
ユカちゃんは大山羊族の背中に飛び乗り、ザクザクとナイフで突き刺しながら、俺の質問に答えている。
「今のガキっていうか、ユカちゃんの世代もまだそういうのやった事あんの?」
俺も負けじと大山羊の正面に立ち、二本生えている巨大な角で頭突きを食らわせて来ようとする大山羊の攻撃をかわす。俺はカウンターで金砕棒で大山羊の左角を叩きつけると、その衝撃で大山羊は一瞬気を失う。
クソ、スタンは入るけど、角は簡単には折れねーか。
「子供が野の花で遊ぶのは普遍ですよ。小学校や公園にも生えてたりしますし。外で遊ぶ事がなくならない限りは続くのではないでしょうか。」
スタンしたのを見逃さず、ユカちゃんは大山羊の背中に乗ったままレベル20で覚えた短剣のスキル、パラリシススティングを放つ。敵に麻痺を与えるこのスキルにより、敵は痺れによって攻撃速度や動きが遅くなる。短剣は攻撃威力は低いが、このようなデバフ付きのスキルを放てるのが強みのジョブだ。
完璧なタイミングだ。やはり、この子は呑み込みが早い。
「それに知っていますか?クローバーって縁起の良い植物なんですよ?」
ユカちゃんは麻痺で立ち尽くす大山羊の背中から飛び降りる。これは、次に俺が放つ攻撃の巻き添えにならないようにする為だ。
「まぁ、それくらいは俺も知ってるよ。幸運の象徴だしな。特に四つ葉のクローバーは良く知られてるからな。だけど、何で五つ葉なんだ?」
ユカちゃんがバランスを崩しながらも、地面に着地したのを確認すると、俺はこの好機を逃さないように大山羊にスキル、破城槌を放つ。名前の通り、城をも破壊する一撃と言わんばかりの赤い光を纏った金砕棒を大きく振り上げ、大山羊の二本のツノへ目掛けて振り下ろす。二本の角は俺の攻撃により凄まじい音を立てて、砕け散り、大山羊も光となって消えていく。大山羊は俺達よりも遥かに格上のモンスターである為、一体から貰える経験値も非常に多い事に俺は満足する。
「あ、それはですね。五つ葉の方が四つ葉のクローバーよりプラスワンで幸せになれるじゃないですか。」
ユカちゃんは光となって消えた大山羊がいた場所に走って行き、大山羊がドロップした大山羊の角を両手で拾い上げ、ニンマリと口元を緩ませながら微笑んでいる。
大山羊の角は一本三千Gで売れる。それが二本も手に入った。ここでレベル上げをしているだけで、相当稼げそうだ。
ドロップアイテムは完全に分配しようと事前に決めている為、俺はユカちゃんからその角を受け取りながら答える。
「ふーん、ユカちゃんって、俺が思ってたより強欲なんだな。」
「何でですか。」
「五つ葉は財運の象徴だぞ。このギルド入った時、とんでもねぇ守銭奴みたいな名前だと思ったぞ。」
「え" ぇ"ェ"!?」
どうやら知らなかったらしい。とんでもない素っ頓狂な声を出している。この子はとても真面目そうに見えて、たまに馬鹿なのかなと思うところがあるな。
「し、知らなかった。」
「更にもう一枚増えて六つ葉になると、地位と名声だな。」
「...何か葉が増える度に、大分俗っぽくなってきますね。」
「んな事もない。七つ葉までいくと無限の幸せだからな。ここまで行くと、ユカちゃんの意図してた意味の名前になるんじゃないか?」
「うーん。だからといって、今更改名する事も出来ませんね。もう少しちゃんと調べてから名付けるべきでした。クローバーって色んな意味持ってるんですね。」
「それにな、葉の枚数だけじゃないぞ。クローバーの花言葉も強烈だからな。私のものになってって意味だぞ。あんだけ強引に誘われて入ったギルドが、そんな名前してるんだ。てっきり、俺はユカちゃんから逆ナンされてるんかと思ったぞ。」
「ち、違います!そんな意図は、これっきりもありません!」
ユカちゃんは俺の言葉に対して、顔を真っ赤にさせ、かぶりを振って否定している。
「なら良かった。俺がユカちゃんと付き合ったら、何かの法律や条例で引っ張られそうだからな。」
俺はユカちゃんにそう言って、大笑いをする。
わけー娘を揶揄う事ほど面白いものはない。
それから俺は手に持っていた角を鞄へと収納する。これで今日は二人合わせて六本目だ。良い稼ぎになるな。
「もうっ!この話はおしまいにしましょう!終わり!終わり!終わりです!」
強引に話を打ち切り、次の大山羊の元へと走っていくユカちゃんの背中を見て俺は思った。
「とはいえ、クローバーね。案外、今の俺にはピッタリなのかもしれないな。」
俺はクローバーの持つもう一つの大きな意味を思い返しながら、ユカちゃんの背中を追っかけた。
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