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番外編22〜待ってくれぇえええ②〜

「...宝箱ですか?」


 ...正直、こういうぶっきらぼうな喋り方をする人は、チンピラみたいで苦手だ。内心身構えながら、僕は彼に聞き返す。


「ああ。ここの宝箱から出る短剣のスキル書が欲しくて狙ってるんだ。宝箱見つけてくれたら、一回につき、五万G払うぞ。」


 ターバンを巻いた金髪の人間族の男は、「死霊使いならここの宝箱狙ってなかったろ?」と更に言葉を続け、僕に取引を持ちかけてきている。


 ...確かに僕は宝箱は狙ってはいない。それに盗賊は鍵を持っていなくても、宝箱を開けられるパッシブスキルを持っているが、僕は鍵を持っていないから、そもそも宝箱は開けられない。だから、彼が怪しいという以外は断る理由が何一つとしてない。


「気が向いたらで良いんでよ。見つけたら、Algo宛に個人チャットしてくれると助かる。悪い話じゃねーと思うがどうだ?」


 彼のその問いに対して、「良いですよ。」と僕は答えるものの、一つ彼に条件を加える事にした。


「ただ、五万Gはいらないんで、僕にもデュラハンをどこかで見かけたら、教えてくれませんか?」


 僕がそう言うと、アルゴと名乗る金髪の男は少し驚いた顔になる。まぁ理由は明白だ。


「良いのかそんなんで。無駄に強くて、ろくなもん何も落とさない上に、すぐ逃げ出すクソモンスターだろそいつ。」


 ...散々な言われようだ。


「良いんです。テイムしたいだけですから。」


 アンデット族モンスターを倒すと低確率で仲間に出来る事を彼に伝えると、


「ああ、そういやデュラハンはアンデットか。」と、彼は納得した顔で呟く。


 他のジョブからしてみたら、確かにデュラハンは一切興味を持たれないクソモンスターだ。ただ、これは運営にしてみたら、思惑通りなのだろう。


 これだけ倒すのが高難易度のモンスターが良いアイテムまでドロップしてしまえば、いつまで経っても死霊使いがデュラハンをテイムする事は不可能となってしまう。


 彼がデュラハンに興味がないように、僕も彼が狙っている宝箱には一切興味などない。けれど、こうやって、お互いが上手い事協力し合える状況になるのは面白いと思う。


「それにしても、一体どういうスキルなんですか?僕に一回五万G払ってでも、狙うような強いスキルなんです?」


 僕の言葉に彼は首を横に振って、「弱いスキルなうえに大赤字だ。」と笑う。このスキル書の取引販売所での適正価格はかなり低いものらしい。


「んじゃ、何でまたそれだけ払ってまで、手に入れたいんでしょうか?」


「ここのスキル書。全然取引販売所に売りに出なくてな。いくら金があっても、買えねーんだ。大した能力のスキルじゃねえから、別にいらねーっちゃいらねーんだが、短剣のスキル枠が埋まってねーのは盗賊を生業としてるものとして気に食わねぇんだよな。」


 アルゴさんは、ため息をつきながら、そうぼやく。僕もそれなりにゲーマーだ。そのスキル枠が埋まってない状態の気持ち悪さはわかる。やはりこういうのビシッと揃っていた方が気持ち良い。しかし、弱いスキルなのに取引販売所に全然出回らないとは凄くレアなアイテムなんだろうか。


「そんなに宝箱からのドロップ率悪いんですか。」


「まぁ、悪いのはその通りなんだが、ここの宝箱は、あるクエストと被っててな。そのクエスト受けてる奴は、ここの宝箱を開けないと次に進めねーんだ。これがまた、暗殺者にとって結構重要なクエストで、狙ってる奴も多くてな。」


「さっきの揉めてた人たちもそれでしょうか。」と、僕が尋ねると、「ああ。」とアルゴさんは首肯する。


「あいつらみてーなクエストを受けてるプレイヤーは、宝箱を開けると百パーセントの確率で、クエスト用のアイテムが中に入ってるんだ。だから、スキル書が中々市場に出回らなくてな。」


 なるほど。先ほどのエルフ達とのいざこざは、宝箱をめぐっての事だったらしい。ここの宝箱を開けに来る人の多くが、そのクエスト用アイテム目当てであれば、スキル書は宝箱からで出ない為、入手困難となるだろう。これが有用なスキルであれば、一攫千金狙いの人たちが宝箱を開けにくるのだろうけれど、弱いスキルであれば盗賊であっても狙う人は限られてくる為、尚更出回らないだろう。


「んでよ、俺が連続で宝箱開けてたら、あいつらクソムカつく事言ってきやがるからな。普通はクエスト優先でしょ!って感じでよ。譲ってくださいとか言ってくんだぞ。」


 まぁ、宝箱開ける権利は誰のものではない。口は悪いがこのアルゴさんの考え方が正しいと思う。ただ、自分がそのクエストを受けてたらとすると、いつまで経ってもクエストが終わらないのは、イライラしそうだし、そういう苦情の一つも言いたくなるのも分かる。


「だからよ、あえて十回連続あいつらの目の前から、宝箱奪ってやったわ。こうやって、目の前の宝箱を奪う事によって、戦意喪失させる作戦だな。」


 ギャーハッハッハッハと、漫画やアニメに出てくるような悪役のような笑い方をする人物を初めて見た。


 ...なんつーろくでもない性格してるんだこの人。


 僕は口をぽかんと開け唖然としながら、彼を見つめる。


 彼はターバンを頭に巻き、耳にはピアス、上半身は素肌にジレを身につけ、サルエルのようなタボっとしたズボンを履いている。身軽そうな盗賊特有な装備だ。ただ、それのどれもが普通じゃ手に入らないような高級な装備だというのは他のジョブの事をあまり知らない僕にでも分かる。


 それに、腰には何だろう。血塗れの動物の足をくくりつけている。...正直気持ちが悪い装備だ。


 こんな強そうな人がどうしてたった一人で、ロクでもない事をしながら、宝箱を狙ってるのだろう。

これほど強い人であれば、ギルドに所属しているだろうし、僕なんかに頼むよりもそっちに頼んだ方がいいだろう。


 僕は単純な疑問から彼にその事を伝えてみた。


「そんな大変な作業であれば、僕に協力頼むよりもフレンドとかギルドの人とかに、頼んだ方がいいと思うんですが。」


「ああ、独立するためにギルドを抜けたばっかりで、頼れる奴がいねーんだわ。」


 そう言って彼は、性格悪くて友人もいねーしなと恒例のギャハハハと特徴あるガラガラ声で高笑いをしながら答えると、僕の目の前に複数ウィンドウが現れた。


【Algoがパーティ参加希望を出しています。】


【承認しますか?】【はい】【いいえ】


 僕はアルゴさんからの勧誘に対して、【はい】を押すと、彼のHPやMPが僕の視界の右上に小さく表示される。


 パーティプレイをするなんて久しぶりだ。この死霊使いをとるために必要なレベルになるまで戦士をあげていたとき以来だろうか。


「せっかくだ。パーティ組んでやろう。その方がお互い位置も把握しやすい。よろしく、頼むよ。えーとsikkokuno..」


「あ、僕、漆黒の闇夜の剣聖です。」


「すげぇ、名前だな...」



お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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