番外編21〜待ってくれぇえええ〜
その人と初めて出会ったのは、古代の王の墓と言われる高レベルプレイヤー向けの巨大な墓場ダンジョンの中だった。
僕は学校に行く時間以外のほぼ全ての時間をACOに費やして、後発組ではあるものの、死霊使いとしてLv75を達成出来た。かつては、レベル50から55に上げるのに、相当な経験値が必要だったらしい。でも、僕が始めた時には、それは既に緩和されており、莫大な経験値を必要とするのは現在は75から80にする時だ。
僕がメインジョブにしている死霊使いというジョブは自身が倒したモンスターを一定確率で使役出来るジョブだ。ソロプレイでレベリングは、ほぼ不可能と言われるこのACOにおいて、唯一ソロでレベリングをする事が可能なジョブとなっている。
これだけ聞くと、死霊使いは物凄く強いジョブのように聞こえる事だろう。しかし、そんな上手い話はない。死霊使いは大きなデメリットが三つある。
一つ目は、他のジョブに比べて死霊使い単体でのステータスはかなり低く設定されている。死霊使いはアンデット族モンスター込みでの強さとなっている。パーティプレイ、ソロプレイどちらにしてもアタッカーである為、前線での活動を求められる。
しかし、アンデットモンスターを呼び出す降霊術は召喚魔法扱いとなっており、魔法封印系のスキルや魔法を受けてしまうと、召喚したアンデットは姿を消してしまい、非常に弱くなってしまうという事だ。
二つ目は、アンデットモンスターを召喚している間はMPが減り続けると言う事だ。この世界にアンデットを顕現させる為には、MPの供給が必要となる。ソロプレイをする際には、MP回復の薬を自分で買い込んでプレイする事になる為、非常にゴールドがかかるジョブ設計となっている。しかも、パーティプレイとなると、踊り子や音楽家などのMPを回復させるスキルを持ちのジョブからしたら、僧侶や魔法使い等にそのスキルを使いたい人が殆どだ。だから、死霊使いがパーティプレイしようもんなら、嫌がられる事は必至となっている。
三つ目は、狩場が固定化されると言う点だ。使役出来るモンスターはアンデット族のみであり、使役したアンデットは、倒したモンスターからの経験値ではレベルを上げられない。
アンデット族モンスターを倒した際に手に入る【彷徨える霊魂】というアイテムを使用する事で、使役したアンデットの経験値を貯められ、レベルを上げる事が出来る。
つまり、運営は死霊使いを選んだプレイヤーに対して、"墓場に一人で篭ってろ"と言いたいのだろう。いくらなんでも、あんまりな設計のジョブじゃなかろうか...。
まぁ、そんなジョブ設計という事もあり、死霊使いをメインジョブとしている僕は毎日墓場に篭り、レベルを上げる日々を送っている。
そして先日、遂に僕のレベルも70に上がり、使役出来るモンスターが拡張された。これで、現状最強のアンデットモンスターと言われるデュラハンが仲間に出来るようになった為、今日は古代の王の墓と言われる高難易度の墓場ダンジョンへ潜っていたというわけである。そこで僕はあの人と初めて会う事になった。
ガラガラ声で、ギャハハハハと悪魔のような高笑い声に対して、●すぞ!●ね!といったフィルターかかりくりの怒号の声が入り混じって、ダンジョン内に響いてくる。
...何だろう。揉め事だろうか。
目を凝らしてダンジョン奥の方を見ると、ターバンを巻いた金髪の人間族の男があまりにも汚らしい声質で笑っており、それに対してエルフ族と人間族の男が怒っていた。
...いやだな。僕はこういう争い事や揉め事は好きではない。危うきに近寄らずだ。
狩場を変える為に踵を返そうと思っていると、その揉め事を起こしている三人の方向に、僕が狙っているモンスターが湧いた。
馬に乗った首なしの騎士、デュラハンだ。
数時間待ってようやく訪れたチャンスだ。失敗するわけにはいかない。彼ら三人は僕が狙っているモンスターなんかに興味はないようだ。そらそうだろう。こいつを狙うのは死霊使いくらいだ。レアモンスターではあるものの、別に大したアイテムを落とすわけではないし、倒すメリットは何もないからだ。
デュラハンはユニークに比べれば出現頻度は高いけれど、めんどくさい事にどこに出現するのかは完全ランダムなうえ、非常に臆病なモンスターで速攻で逃げ出してしまう性質を持っている。
逃げられたら困る。
僕はゴーストを召喚する。青い炎のような形をした霊魂のモンスターだ。ゴースト族は呪縛のスキルが使えるアンデッドモンスターだ。呪縛スキルをデュラハンに当てて、動きを止めているうちに速攻でHPを削り切るしかない。
やるぞ。コッソリ、コッソリとだ...。
僕は物音を立てないように、ゴーストををダンジョン天井付近まで上に飛ばす。僕とゴーストの存在にデュラハンはまだ気づいてない。僕は慎重にゴーストをデュラハンに近づけていき、デュラハンの背後を取れた。
よし、そろそろ攻撃範囲内だ。
「アルゴ!てめぇが宝箱乱獲するせいで、こっちはクエストが進まねーんだよ!このクソ盗賊野郎!」
エルフ族の男が一際大きい声で、アルゴと呼ばれた金髪の男を怒鳴りつけた事により、ビクッと、デュラハンは身を震わせると、馬を走らせ、一目散に逃げていく。
「ああああああ 待ってくれぇえええ!」
僕の絶叫がダンジョン中に響き、がくっと項垂れている僕を見て、「ちっ。」とエルフの二人は気まずそうに去っていく。
また最初から探さないとだ。...再びデュラハン見つけるのに何時間かかるんだろう。
僕は気落ちしたまま顔を上げると、いつの間にか、ターバンを巻いた金髪の男が僕の目の前に突っ立っていて、「死霊使いか。」と呟く。
「なあ、宝箱を見つけたら教えてくれねーか。一回につき、五万G払うぞ。」
僕の人生において、今まで見た事ないほどの邪悪な顔で、その金髪の男は僕にそう言った。
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