エピローグ3〜史上最悪な〜
彼女の母と名乗った人物が姿を消した後、俺は一人考え込んでいた。
確かに彼女の母と名乗る人物というだけあって、テレスとは声も、動きも、雰囲気も違う全くの別人だった。彼女の姿をしているのに、その中身は彼女ではなく別人だなんて、質の悪いホラー映画を思わせるようだった。普通に考えたのであれば、彼女の母と名乗った人物が言う事は、信じるに値する程度には信憑性があった。
それでも、俺は彼女の母と名乗った人物の言う事を信じきれずにいる。
何故なら、それはテレスだからだ。
彼女はこのアバンダンドの世界で特別な人物。この世界に選ばれた人物だった。誰よりもぶっ飛んでいて、誰よりも頭のネジが外れていて、誰よりも強かった。そして、誰よりも慕われていた。そんな彼女がこんな終わり方をするわけがない。してはいけない。声なんてボイチェンでいくらでもどうとでもなる。常にナイトアウルの前では演技を続けてきたテレスだ。別人を装うのなんてお手のものだろう。
これはブラックジョーク。不謹慎トークが大好きなテレスが俺に仕掛けた史上最悪な不謹慎ジョークなのではないだろうか。彼女の姿をした奴の言葉なんかより俺は自分のこの直感を信じ、テレスは実は生きているのではないかと信じる事にする。
あいつの愛した不謹慎な話やジョークだって、言い続けてやる。こういう事を言うのをやめてしまったら、彼女の死を無意識的に認めてしまうような気がしてしまうから。だから、俺はあいつの話を聞かされたとしても、何も変わらないでいるつもりだ。
ただ、一つだけ変えなきゃいけない事がある。このナイトアウルは俺は抜ける。ここはあいつの思い出がありすぎる。ふとした時に、彼女の母と名乗った奴の言葉を信じてしまいそうになるかもしれない。
テレスが生きてる事を信じきれず、この抱えてしまったものを、誰かに話してしまうかもしれないのが怖い。テレスの名誉を守る為に、俺はこの事は自分の内だけに秘めておく。こんな事を他の誰も知る必要はない。
テレスは自分の事を宇宙人だと言っていた。
誰からも理解されず、狭い部屋に引きこもり、世間から切り離され、友人も誰も尋ねてくる事のない部屋で、世界から取り残されてしまっていた彼女は何を考えていたのだろう。
...俺も全てを捨てて、同じ境遇になれば彼女の事を少し分かるのだろうか。
仕事を辞め、世間から切り離され、テレスのように全てをアバンダンドに注ぎ込んで最強と言われる組織のリーダーになれたなら、あの時の彼女に少しは近づけるのだろうか。
勿論、同じ事をしたら、テレスの気持ちが分かるなんて烏滸がましいにも程がある。それでも、今の俺には、それをしてみたい。
なぁ、テレス。浮気だろうとなんだろうと言われようが、俺はお前以外の別の人を好きになる事もやめはしないぞ。いつか現れたテレスにお前が俺を振ったのが悪いんだろうと言いつけてやる。
「悪い、メズ。俺はナイトアウルを引き継ぐのは辞めた。俺は自分のギルドを作って出て行く。」
俺はメズを呼び出し、彼女にそう告げた。
お読みいただきありがとうございます。
面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。
よろしくお願い致します。