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第4章14話〜...でかいなぁ。③〜

 テレスは首を横に数回振り、「大丈夫。」とメンバー全員に声をかけている。これは防衛戦に対応してなくて良い、ジミーだけに集中しろという指示だ。


 このタイミングでグレイトベアがライクス島に攻め込んでくる事は当然俺達も予測していた。俺達だって、グレイトベアの拠点に攻め込むとしたら、このようなあいつらが大掛かりな動員をしたタイミングを狙って仕掛けるからな。だから、こうしてグレイトベアがライクス島を攻めてきても大して驚きはない。


 グレイトベアへの対策として、防衛拠点の砦にはネームド戦に参加していないギルドメンバーが現在待機している。ネームド戦、領土防衛戦どちらが上とかではない。どちらもナイトアウルにとっては欠かせない重要な役割を持っている。確かに今回のネームド戦には選ばれなかったメンバーではあるものの、防衛戦側のメンバー達がジミー戦に選ばれた俺達より劣るわけじゃあない。単純に今回のジミー戦は、盾が使えるタンク、盗賊、魔法使い、僧侶、音楽家をメインジョブとして育てていたメンバーが選抜されただけに過ぎないからな。


 それにいざとなったら、俺達ジミー戦のメンバーも最悪防衛拠点に駆けつけられないわけじゃない。今、俺達が戦っている地点は防衛拠点からもさほど離れていない。だから、ジミーを倒し終わった後に防衛拠点に向かう事も十分可能だ。逆にジミーにやられて全滅したとしても、ヴォルトシェルにデスワープで移動し、ギルド本部から蒼穹回廊のギルド能力の一つである拠点ワープで防衛戦に参加する事だって出来る。


 ...大丈夫。焦らなくて良い。俺達はテレスの指示通り、ジミーだけに集中していれば良い。


『グ きた。ちゅうい。』


 ほとんど余裕のないジミー戦だ。テレスは領土防衛戦に備えているメンバーに向けて、ギルドチャットにグレイトベアが現れた事を簡潔に注意喚起すると、即座に、『了解!』と防衛戦メンバーからの返事が返ってくる。これで必要な事は全て伝えた。後は防衛戦側のメンバーが領土を防衛する事を信じて、俺達はジミーを倒せば良い。


 ジミーのHPを半分削り終わると、ジミーの甲羅の後ろが大きく開き、ずるずると中からその殻を脱ぎ捨て、黄色味がかった赤色のジミーが再び姿を現す。しかし、崩れ落ちた右前脚はそのまま復活する事なく欠けたままだ。


 これでようやく、第二形態に突入だ。ここからのジミーの攻撃は全て全体攻撃になる。ここまでは以前ジミーに挑戦した新進気鋭のギルド、シューホースがあげていた攻略動画で把握済みだ。ただ、シューホースは俺達と違って正攻法で挑んでいた為、第二形態となったジミーに十数秒で壊滅させられていた。


 ジミーは左前脚を大きく横に降ると、鋏の先から高水圧で水を噴射し、刃の様に俺たちを切り裂く技を連発している。第一形態よりも攻撃力も上がって何発も耐えれるものではない。片前脚のジミーの攻撃でこれだ。両前鋏脚揃っていたとしたら、と思うとゾッとする。俺達がとにかくジミーの鋏を破壊する事に必死になっていた理由がここにある。


 ここからタンクロールはもはや意味をなさない。


 メズ達、僧侶は回復量を大幅にアップする使うと再使用時間一時間かかるジョブ固有の必殺技スキルを全員同時に発動し、範囲の治癒魔法を連発している。続いて、音楽家達もバフ効果を一・五倍にする 一時間スキルを発動し俺たちの攻撃力、防御力、回復量、魔力を更に上昇させている。


 ジミーの外殻は脱皮したてという事もあり、先ほどまでの異常なまでの頑強さから打って変わって柔らかくなり、防御力と状態異常に対する耐性が非常に落ちている。これなら短剣でも十分攻撃は通るはずだ。今回のジミー戦で俺がカトラスのような攻撃力の高い大型のナイフではなく、小型のナイフであるダガーナイフを選んだ理由もこの第二形態の場面を想定しての事だった。このゲームでは小型のナイフは攻撃力は落ちるものの、状態異常の属性値が高くなる仕様がある。


 テレスは毒のスキル、俺は麻痺のスキル、カペラは攻撃感覚を遅くするスキルと事前に決めていた弱体化スキルを打ち込んでいく。中々入らなかったペトリファイスラッシュの時が嘘のように全ての弱体攻撃が面白いように入っていく。もはや好き勝手にぶん殴りまくるだけだ。


 ここまで僧侶、音楽家の一時間スキルを使わずに、片前脚をぶっ壊せた状態で第二形態を迎えられた時点で俺たちの勝利はもう揺らぐ事はないだろう。後はグレイトベアの動向だけだ。


 ...あいつら、一体何してるんだ。大分あれから時間も経ったというのに、防衛戦が開始のアナウンスが一向にならない。


 俺は少しだけ後ろを振り向く。メズ達僧侶やミラリサ達魔法使いの更に後方にグレイトベアの集団が俺達の事をじっと見つめているのが確認出来る。


 ザラシは俺の視線に気づいたらしく、「ん?ああ、悪い!そりゃ当然、気になるよな!でも俺達の事は気にするな!!!」と俺に向かって叫び出す。


 頭おかしいんかこいつ。こんなバカみてぇな高レベルのプレイヤー三十名近く引き連れて来て、気にするなって、無理な話に決まってんだろ。


「気になるに決まってんだろ。何しに来たんだよ、アンタ!!!!」


 俺が後ろにいるであろうザラシに向かって、大きく叫び声を上げると、俺の背にザラシの返答が届く。


「何しにって、んなもん決まってんだろ!ネームドがこの世界で初めて倒されるところ、見に来たんだよ!」


 そう言うと、ザラシはグレイトベアの連中と共に、「いけいけー。」やら「やっちまえー。」などの応援の声を俺達に向かって飛ばしている。


 ...確かにグレイトベアはアバンダンドというゲームにおいてすべての歴史的瞬間を最前で見てきたギルドだ。純粋な興味で今回もその歴史的瞬間を見に来たとしてもおかしくはない。良く考えれば分かる事だ。


 俺は横にいるテレスを一瞥すると、自身に向けられる声援に少し恥ずかしそうな表情を浮かべながらもどこか嬉しそうに、『みんな だいじょぶ ジミー みにきて。』と領土防衛戦に備えていたギルドチャットに簡潔に書き込んでいる。


 どういう事態が把握しづらかったのか、領土防衛戦に備えたメンバーから少し遅れて返信が返ってくる。


『了解。』


 どんな状況になろうと、このギルドでテレスの言葉を疑う奴はいない。全員がテレスの事を信じている。少しすると、グレイトベアと共に聞き馴染みのある奴らの声が声援に含まれ始める。


 それから後は、ただただ無我夢中でジミーをタコ殴りにした。結局、誰がジミーに最後の一撃を与えたのかすら分からない。それだけこの時は必死な状況だった。ジミーのHPゲージが尽きて、砂浜にその巨体が崩れ落ちると、全プレイヤー共通である全体ログに文章が金色の文字で流れた。


 この金色の文字は、俺も未だ数回しか見た事がない。これは今、ログインしてる全てのプレイヤーに向けて送られる運営からのメッセージだ。


【ネームドユニークモンスター Respectful Jimmy が討伐されました。】


お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。


よろしくお願い致します。

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