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プロローグ 〜マジで終わってんだろこのゲーム〜

「ヴォルトシェル王国五層 商業地区は、9,000,000Gで落札されました。」


 この運営からのアナウンスと共に、木槌のポン!と小気味よい音がオークション会場中に鳴り響く。900万Gという大金で落札された事により、活気と熱気に満ちていた会場が、一段と熱を増していく。


「おめでとう!」「すげぇ!」など落札者を祝う言葉と拍手の渦で会場は埋め尽くされる。当の落札者も、念願叶ってという事なのだろう。両拳を突き上げながら、雄叫びをあげている。しかし、こんなお祭り騒ぎの中でも、ラビッツフットというギルドを運営している俺とホーブは、その熱狂に呑み込まれる事なく冷静さを保っていた。それは次に出品される土地こそが、俺達のギルドの本命であり、今回のオークションの最大の目玉商品だったからだ。


 ヴォルトシェル王国 第一層 "蒼穹回廊"


 先ほど落札された五層商業地区と同じ国の土地ではあるものの、比較対象にならないほど高額な価格設定がなされている土地だ。


「...んで!7億しか集まんねぇんだよ!クソがッ!俺が優し過ぎたのが仇になりかねないとか甘過ぎた。やっぱノルマもっとキツくするべきだったじゃねえか!」


 俺は苛立ちを募らせながら、隣の席に座っている全身黒装束の装備を身に纏ったラビッツフットのサブマスターであるホーブへと愚痴をこぼす。


 ホーブは頭のネジが外れたようなメンバーが大半のうちのギルドの中では珍しく、まさに好青年といった風貌をしている。軽くパーマのかかった黒髪のマッシュヘアで、いつも優しく微笑んでおり、笑った時の目尻が下がった顔は、いかにも優しさに溢れた見た目をしている。性格も口調も見た目通り穏やかそのもので、とても無職とは思えない大人の雰囲気を持っているプレイヤーだ。


「...あれで優しいとか、ほんとリーダーの脳みそ狂ってるよね。一度病院で見て貰うべきだと思うよ。蒼穹回廊の相場なんて6億あれば充分だし。むしろ、1億余裕持たせただけ皆超凄いからね?」


 そんないつも穏やかな彼ですら、俺の発言に唖然としており、何言ってんだこいつ...。と言わんばかりの顔をしている。俺を見る目つきなんて、頭のおかしい人を見るそれである。


「でもよぉ、万が一って事もあるだろうが。それに、もしノルマきつくするつっても、あいつらガンギマリ顔で嬉々としながら、多分1日20時間でもログインして稼いでくれると思わねーか?...流石に倒れる奴も出てきそうだから、そこまでしなかったけどよ。」


 ホーブは俺の言葉を聞いて、苦笑いを浮かべていたものの、「...まぁ、ラビッツフットは皆ネトゲ廃人だしね。困難な目標が設定されれば、されるほど燃え上がるところはあるよね。」と言って、どこか納得したかのような表情へと変化する。


「だろ?」


 ため息混じりながらも、ホーブから同意を得られた俺は口の端を釣り上げ、ニヤリと笑みを漏らす。


 俺とホーブの会話内容からして分かるだろうが、ここは現実の世界では無い。俺達が今いるこのヴォルトシェル王国は、3年前に発売されたVRMMORPG アバンダンド・コンティネント・オンラインにあるエリアの一つだ。


【世界から見捨てられたこの大陸があなたを待っている。あの熱き時代のMMORPGを、もう一度。】


 このキャッチフレーズと昔の熱かったMMORPGをもう一度作るというコンセプトのもとで作り出されたオンラインゲームだ。


 エリア間移動するだけで15分以上は当たり前。


 課金要素は月額料金のみであり、武器や防具、アイテムなどのガチャは一切ない、とにかく時間をかけたものが強くなるというニート最強仕様。


 武器や装備を一つ買う為だけに、数時間、数十時間の金策を要求して来る。


 ソロプレイでレベリングをするのは、ほぼ不可能なパーティプレイ必須ゲーなのに、パーティプレイをするなら、2〜3時間は必要という時間の拘束。


 今のMMORPGはPvE。つまり、対モンスター戦が主流なのに、このゲームではPvPエリアを各地に実装し、初心者狩りすら運営に公認されている。


 ライトユーザー志向が主流となった今のMMORPGでは、あり得ない仕様ばかりでいかにも大炎上しかねない内容なのだが、アバンダンドは意外にもプレイヤーから高評価を得ており、今年で3周年を迎えている。


 昨今のライトユーザー志向となっていたMMORPG界隈に嫌悪感を抱いていた熟練のMMORPGマニア達に大変評判が良い事から、皮肉混じりにMMORPG版老人ホームとも言われていたりする。とはいえ、若年層のプレイヤーもいないわけではない。ここまでめんどくさばかりが目立つゲームっていうのは、逆に新鮮であり、ハマってしまった俺みたいなプレイヤーも少なくない。


「彼、嬉しそうだったね。」


 ホーブは、先程の落札者を一瞥して言う。


「そりゃ、ヴォルトシェルは特別な国だからな。土地に900万Gなんてヴォルトシェル以外だったら絶対出さないだろうが、それ以上にメリットもあるしな。俺達の予算の70分の1以下だが、良く頑張って集めたもんだ。褒めてやろう。」


 俺はそう言って、周りの奴らから遅ればせながらも、彼にパンパンと拍手を打つ。


「...ほんと良くもまぁ、人から嫌われるようなそういう言動出来るよね。五層とはいえ、このヴォルトシェルの土地って普通のプレイにしてたんじゃ、買えないよ?素直に褒めたら良いのに。」


「は?俺は十分褒めてるだろ。俺達はチームで集めたが、あいつは個人だろ。大したものだと思ってるぞ。俺とホーブ以外のラビッツフットのメンバーが出した額なんて、あいつ程度だからな。怠慢も良いところだ。」


「...そりゃ、ギルドの運営にかかるお金って別に蒼穹回廊購入だけじゃないからね?ギルド本部の維持費や領土防衛戦だってお金かかるし、十分皆良くやってると思うよ。そんな事ばっか言ってると皆着いて来なくなっても知らないよ。」


 ホーブはそう言って再び軽くため息をつく。


 今、俺とホーブがいるヴォルトシェル王国は、アバンダンドコンティネントと言われる大陸で最大の国家となっている。逆円錐螺旋状の五階層からなるこの国は、まるで鋼鉄の巨大な巻貝のような姿をしている。イメージがつきにくい奴はコマを想像して貰えば分かりやすいと思う。大体あんな感じだ。


 ゲームのメインシナリオもヴォルトシェル王国を中心に繰り広げられるものが多く、中・上級者プレイヤーの大半の拠点地となっている。だから、先ほどのようにオークションでヴォルトシェルの土地が出品されれば即落札されている。他の都市と比べて遥かに高い設定金額がついていたとしても、一瞬で買い手がつく。それだけここはプレイヤーにとって大事なエリアなのである。


 先ほどの彼が落札したヴォルトシェル王国5階層目の商業地区は、唯一プレイヤーが運営に手数料を取られずに商売を行う事が出来るエリアである為、王国の中どころか、アバンダンドで一番人が集まる場所となっている。このエリアで自分の店を持っているプレイヤーは、先ほどの1000万近い落札額を見ての通り非常に少なく、露天でアイテムを売買するのが一般的となっている。その為、露天の場所の取り合いも激しく、プレイヤー間同士でのいざこざも絶える事がない。だからこそ、生産職をメインとしているプレイヤーは、五層に土地を買い、自分の店を持つ事が一つのステータスであり、目標となっている。


 このゲームをプレイしていない人には、1000万Gという額に、ピンとこないかもしれない。分かりやすく言うとだ。中級者が金策としてソロで1時間プレイして、稼げる額が4000〜5000G前後である。


 ...これで、このゲームの金稼ぎのシビアさが分かったんじゃねーかな。プレイしてる俺がいうのもなんだが、大変頭のおかしくなるゲームである。


「お前はそう言うが、7億のうち3億は俺個人が出してんだから、俺は愚痴くらい言う権利あるだろ。」


 自分で言うのもなんだが、俺は自分の事を超優しいとすら思っている。こんなにギルドの事を思ってるギルマスは他にはいないんじゃないと思う。いくら、俺のメインジョブが盗賊で他のジョブよりも稼ぎやすいからといっても、3億は相当な大金だ。


「まぁ、そこは確かにそうだね。ギルマスが資金の40%以上負担してるのは、四大ギルドでも中々いないんじゃないかな。」


「俺は口だけの奴はきれぇなんだよな。俺はやりたい放題やってるけど、それに見合った事もやってる自信はあるからな。それに本来なら俺だってユニーク武器持ちになれたのを諦めてんだからよ。」


 このアバンダンドの世界において、最強の武器と言われるユニーク武器を作るのにかかる金額が大体3億G前後である。現在、ユニーク武器持ちは世界で十人もいない事を考慮すると、俺がどんだけこのギルドの為に奮発しているか分かるはずだ。しかし、そんなユニーク武器ですら、レアリティという意味では蒼穹回廊に及ばない。なんていったって蒼穹回廊にギルド本部を建てたギルドは、未だ4つしかないからだ。


 ギルドを強化するか、個人を強化するかは、このゲームをやるうえで、一番悩みどころとなってくる。結果的に俺は個人が強くなる事を捨て、ギルドを強化する為に蒼穹回廊を購入する事を選んだのだから、ギルメンからはもっと感謝されてもいいくらいだ。


 本来ゲームで稼いだゴールドは、自分を強化する事に使いたい奴が大半だ。だから、ギルメンも蒼穹回廊の代金を払うとはいえ、俺が出した残りの額をメンバー同士で折半すれば良いから、金銭的負担は、そこまで大きくはない。


 こう考えると、ほんと俺ってクソ優しいと思うだろ?


「個人として最強を目指すか、集団として最強を目指すか、って話しだよね。漫画、アニメやゲームであれば前者が多いね。やっぱ皆が見たいのはあくまでもヒーローだしね。」


「そりゃあ、俺だってそういうプレイヤーになりたかったけどよ。このゲームはソロで出来る事が限られてっからな。上を目指すんなら、集団を鍛え上げねーと話にもならん。だから、この程度のノルマの金も出せねー、レベルも大して高くねー奴らは、さっさと追い出すに限る。雑魚は、このギルドにはいらねえ。」


 俺がそう言うと、ホーブは苦笑いを浮かべながらも、「言いたい事は分からないでもないけどね。」と俺に言う。


「俺はゲームにしろなんにしろ、やるんなら本気でやるべきだと俺は思ってっからな。ま、そのおかげで、ラビッツフットも超ガチ勢しかいなくなったのは良い事だ。」


 ラビッツフットは結成して一年ちょいだが、今や四大ギルドに匹敵するほどの勢力を持つまでになっている。このギルドに雑魚はいない。忙しいからノルマが無理だったなどと、甘えた事を言う奴はもはや1人もいない。皆が必死にやってる中、大してプレイもせず、金も出さず、ただ大手ギルドの甘い汁だけ吸おうとしてきたゴミどもは全て切り捨てた。その結果、このラビッツフットのほとんどのメンバーは、生活の何かを切り捨てた猛者のみで構成されている。


 ゲームに集中するため仕事を辞めた奴がいる。


 現実世界の友達と疎遠になった奴がいる。


 ホントにいたのかどうかは真偽不明だが、恋人と別れた又は離婚したと言っている奴がいる。


 挙げ句の果てには学校を辞めた、とてつもない気合いを見せてくれたものもいる。


 俺自身も例外ではなく、このゲームで最強になる為に仕事を辞めた。当然の事だ。今は社会人時代に貯金していた金で、細々と暮らす日々だ。それでも、俺に後悔などあるわけがない。


 そんなアバンダンドに全てを捧げた猛者達が一日15時間は毎日プレイして、ようやくここの土地を買う金を作れた。重みが違う。これこそ俺が目指した理想のギルドの形だ。俺自身もメンバー達には絶対的な信頼をおいているが、その中でもこのホーブは、俺の中で特に信頼が厚い存在である。


 何故ここまで信頼を置いてるかと言うと、それは単純にホーブも大金を出しているからである。ホーブも俺に次ぐ額で、1億5000万を出している。どんなに口で最もらしい事を言ったとしても、やはり結果こそが信頼である。


「ホーブがいなかったら、7億集められたか分かんねーからよ。本当感謝してるぞ。」


「いやいや、本来はオレもリーダーと同額出したかったけどね。やっぱり暗殺者では、そこまで稼げなかったのが申し訳ないな。それでも、オレもここのサブリーダーだから、出来る限りはリーダーのご期待に答えられるようにはしてるよ。」


 ホーブはレベル85の暗殺者で、ラビッツフットの中では俺に次ぐ高レベルでありプレイヤーとしてのスキルも非常に高い。ギルドにギルドマスターは1人しか設定できない為、ホーブはサブマスターとはなっているものの、実質的にはもう1人のギルマスといった位置付けが正しい。


 俺が金策メインのリーダーだとしたら、ホーブは戦闘に関してのリーダーだろう。遊びでギルド内でPvPをする事もあるが、俺はホーブには戦績で言えば、大きく負け越している。正直、戦闘においては俺はホーブには敵わない。ホーブは、それなのに俺の事を絶対に"リーダー"と呼んでいる。ラビッツフットではなく、別ギルドであったなら、確実にギルマスをしているべき奴だと思うが、ホーブに言わせてみれば、オレはこの位置がちょうど良いんですよ、との事だ。


 この穏やかな性格と口調でありつつも、俺に対して一歩も引かないところを俺は非常に気に入っている。ギルドマスターともなると敬語であったり、気を遣われる機会の方が多くもなってくる。これくらいタメ口だったり、煽り合いのようなことができるやつは貴重だったりする。だから、俺にとっては一番信頼できる相棒だ。


「ま、だから安心しなよ。蒼穹回廊は問題なく買えるだろうさ。これでオレ達も最強のギルドの仲間入りだね。」


「そうなってくれりゃあ、一番だが。さっきも言ったろ。万が一って事も中にはあんのがこえーんだよ。」


 蒼穹回廊は年に1・2回しか公式からでしか売りに出されないエリアだ。蒼穹回廊の名の通り、鋼鉄で作られた回廊がヴォルトシェル王国の最上層を縁取っており、中央部には王族や貴族のNPCキャラクターが住居を構えている事からゲーム設定からしても最も公式からも特別な扱いをされている。


 プレイヤー側もレベル50以上かつメインシナリオを進めて、二層行政地区にあるクランス・パイラル城で国王との謁見イベントをこなしたものにしか開放されていない。


 そんなエリアだからこそ、プレイヤーがここに無秩序にガンガン家を建てたり、ギルドなどを建てたとしたらゲームイメージが崩れるために数を絞っているということもあるのだろう。


 今までここのエリアを落札したギルドは4つしかない。そしてその落札した4つのギルドは全プレイヤーに4大ギルドとして認知されるという事になっている。つまり、ここを落としたギルドこそが最強のギルドの証なのだ。だからこそここを落とせるか落とせないかの責任は非常に大きい。


「しかし、まあ、最低落札価格が5億ってどんだけ暇人多いんだよ。こんなの買うの頭おかしい奴らじゃないと無理だって。イカれてんじゃねぇの。」


「...リーダー、気づいてないかもしれないけど、それオレ達が頭おかしいイカれてる奴等って言ってるようなもんだからね...。」


 2年半前にここで初めて、一層蒼穹回廊が5億Gで売りに出されると情報が出た時はヤバかった。アバンダンドをプレイしてる人の多くは、高難易度のクエストなどに関しても非常に好意的に見てくれるプレイヤーが多い。そのアバンダンドプレイヤーですら、ほとんどがドン引きし、誰がこんなん買えるんだよと非難轟轟だった。


 まぁ、これは公式側も分かっており、やる事がなくならないように、数年かけてようやく買う事が出来るというエンドコンテンツの位置付けでの実装ではあった。しかし、実際に売りに出されると5億Gを持った奴らがまさかまさかで現れたのだ。更にそれが、1ギルドだけではなく2ギルドもあった事が驚きだ。ネトゲ廃人恐るべしと言ったところだ。


 最終的にこの2ギルドの争いは6億まで価格が上がって落札される事になったのだが。その後の攻略雑誌に運営がこの件についてのインタビューが載っていて、


 まさか買われるとは思いませんでした(笑)


 この運営からのコメントは、多くのプレイヤーから怒りを買い、今でも公式を煽る言葉としてよく使われている。


「年々、落札価格も少しずつ上がってきてるし、そのうち10億くらい相場いっちゃうんじゃないかな」


 ホーブは冗談話と言った感じで少し大袈裟な数字を出したが、実際これがあり得ない話ではないのが恐ろしい。


「...このゲームぜってぇ社会に対して良い影響与えてねーよな。ニートしか買えねーだろこんなん。」


「正確に言えばニートの集団だね。例えニートでも個人じゃ手が出ないっしょ。ニートが徒党を組んでようやく参加券を得られる感じさ。」


 アハハハとホーブは笑いだす横で、俺は思わず呟いてしまう。


「...マジで終わってんだろこのゲーム。」 



 アバンダンド・コンティネント


 和訳すれば"見捨てられた大陸"という意味合いのゲームを現実世界から置いてけぼりされた人間達が必死になってプレイしているのはあまりにも皮肉で笑えない状況である。誰もあえて口にはしないが、正直このゲームの無職率は10%以上はあるように思う。


 以前アバンダンドコンティネント国勢調査というアンケートが行われ、全プレイヤーに年齢、性別など様々な項目が聞かれた事があった。殆どの項目において、その情報が解禁され、プレイヤーの男女比や年齢層など、俺自身もへぇーとなるような結果で面白く見させてもらっていたのだが、現実の職業についての項目だけは、いつまで経っても公開されていない。これはおそらくこのゲームにおいて、ネガキャンにしかならないような衝撃的な結果が出たのだろう。


 お察しである。


「ただ、万が一競り合いに負けたら、リーダーはどうする。流石にもう諦めるかい?」


「んなわけねーだろ。」


 俺はホーブの問いに対して、即座に首を横に振る。


「時間は無限にあんだから、一日15時間プレイしてんのを今度は1日20時間プレイすりゃいいだけじゃねーか。そしたら、次は勝てんだろ。」


 そう言って、俺は今日初めて笑みを浮かべる。


 だってそうだろ?俺達に出来るのはそれしかないんだからな。


「ゴミクソ人間そのものの発言だけど、オレはリーダーのそういうところが気に入ってるよ。」

 

 ホーブは、褒めてんだか貶してんだか分からない言葉を嬉しそうに言う。


「大丈夫。リーダーが蒼穹回廊買うまで、オレも付き合うよ。」


 そりゃどうも。


 俺は静かに呼吸を整え、くっつけていた人差し指と親指を間隔を空けるように動かすと、メニュー画面が目の前に開く。目の前に開かれたウインドウには、19:10と示されている。15分から入札開始となる予定だ。もうすぐだ。VRゴーグルをつけた現実世界の俺の頬に冷たい汗が伝ってくる。


 クソ、流石に緊張してきたな。負けないとは分かっていても、この日の為に今までの苦労してきた事を考えると、俺も平常心ではいられない。


 深く息を一回吐くと、参加者全員の目の前に、四角い入札用のウィンドウが浮き上がってくる。


 ...ついに来たか。


 ウィンドウには、【入札に参加する】【入札に参加しない】この二つの選択が表示されており、俺は参加するをタップする。すると、画面が金額入力のものへと変更される。ここから自分の希望額を入力する事なる。ホーブは参加しないを選択し、俺のウインドウへと視線を集中している。


「それでは、一層蒼穹回廊 最低入札価格5億からとなります。」


 オークション会場の正面にある巨大モニターに500000000Gと、現時点での金額が映し出される。入札が開始されれば、あの数字がリアルタイムで更新されていく事になる。


 ...やはりスタートは5億Gからか。とりあえず、駆け引きとかなんだか、いろいろ作戦はあるが、あとは野となれ山となれだ。


「では、19:15となりましたので、入札開始となります。」


 結論から言うと、俺達は蒼穹回廊を落札する事が出来た。用意していた資金も大分残せる程度には、あっけないくらい簡単に手に入れられた。けれど、俺は、そこの土地に足を踏み入れる事はなかった。


 俺はラビッツフットを冤罪で追い出される事になったからだ。


お読みいただきありがとうございます。

面白く感じていただけたら、ブクマと評価していただけるととても嬉しく思います。

よろしくお願い致します。





7/9 続き書いてたら優しいやつだと主人公が可哀想になってきたので主人公ゴミカスな性格にしました。これでどんな裏切りにあっても安心。


7/24 加筆修正しました。内容そのものはほぼ変えていませんが、かなり読みやすくなったかと思います。

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