王位継承と結婚式!そして伊勢神宮へ
神社は夢を願う場所ではない。
目標を叶える為に決意を表明する場所だ。
もしも夢があるのなら、まずはそうなる為に何が必要なのかを調べよう。
夢を願っているだけじゃ決して叶わないから。
どうすれば良いのかを調べ、目標に変える事が大切だ。
そうすれば、神は夢を叶えてくれるかもしれない。
神に夢を叶える力を与えられるのは、唯一他でもない自分なのだから。
陽蝕の答えはシンプルだった。
「天冉‥‥。いや天冉姫。我と結婚してこの国で共にやっていかないか?」
いきなりのプロポーズだった。
マジかよこの男。
流石にちょっと早すぎやしないか?
「陽蝕さんがそうしたいなら‥‥いいわよ」
そして天冉も受け入れるか。
これは俺の想定外の展開だぞ。
これから更に陽蝕か猫蓮を鍛えて強くなってもらわなければならないのに、此処で旅が終了するのか?
「天冉ちゃん‥‥旅は‥‥どうするの?‥‥伊勢神宮は‥‥大丈夫なの?‥‥」
そうそう、狛里よ言ってやれ!
「旅ねぇ~。そもそも伊勢神宮を目指したのわぁ~、私が荒魂を使いこなせるようになる為にぃ~、そうしろと言われていたからなのよねぇ~。でも陽蝕さんのお陰でそれは既に叶っているわけでぇ~」
「そう‥‥なんだ‥‥」
なるほど。
天冉は荒魂を使いこなせるようになる為に、伊勢神宮を目指していたのか。
そこに行ってその願いを叶えてもらう為に。
しかし既に叶えられているのなら、伊勢神宮に行く必要はない。
それにしてもそんな願い、伊勢神宮がどんな所かは知らないけれど、叶えてくれるもんなのかねぇ。
「そうしろと言われたって、誰に言われたんだ?」
仮に伊勢神宮でその願いが叶うとして、誰がそんな事を知っているのだろうか。
どんな願いも叶うなんて、そんな都合のいい場所がある訳がない。
アルカディアでも似たような事を言われる場所はあったけれど、ただ未来見能力によるアドバイスが聞けるだけだった訳だし。
そこでアドバイスを聞けって話なら分かるけれど、とにかく俺は誰がそんな事を言っていたのかが気になった。
「ん~。私の中にいた別人?かなぁ~?この一霊四魂わぁ~、『みたま』って神様が私の中に住み着く変わりにくれた能力なのよぉ~」
「えっ?」
マジでかぁー!?
そう言えばみたまの記憶もみゆき同様、しばらく戻っていなかった様子だったな。
ちなみにみたまとは、俺の娘の名前だ。
今では転生してアルカディアで暮らしているけれど、みゆき同様に記憶が無い時期があった。
みたまもこのイスカンデルに来ていて、天冉の中にいた訳か。
つまり天冉は俺の娘、と言っても過言ではないかもしれない。
いやあくまでみたまの意思が、一時的に居座る依代として使われた感じみたいだけどさ。
これはおそらく伊勢神宮に向けて旅をすれば、その中で問題は解決するだろうって話だったんだろうなぁ。
「分かった。俺はこの阿弥陀王国を陽蝕が継承し、天冉が王妃となるのに賛成するよ」
「うん‥‥私も‥‥天冉ちゃんが‥‥そうしたいなら‥‥賛成‥‥」
「オデも賛成だお!反対する理由がないお」
という事はだ。
やはり新たな神の候補として可能性が高いのは、猫蓮なのか。
「陽蝕さん。みんな賛成してくれたわよぉ~」
「ああ。という訳だ阿弥陀王よ。この国、我が引き受けよう!」
「そう言ってくれると思っていた。なんせ英雄の北都尚成が予言していたからな」
「えっ?」
今度はこっちから気になる話が出てくるのかよ。
「北都尚成が予言していただと?」
「陽蝕くん。君が王位を継承してくれるかどうかは分からなかった。けれど、『やがて諸葛亮王国に対抗できる人たちがやってくるから、その人たちに王位を譲るのがいい』とアドバイスを貰っていてね」
そんな事を俺は言い残していたのか。
ならばこれはきっと、俺に必要な展開なのだろう。
「此処で旅が終わると‥‥策也ちゃんは‥‥伊勢神宮‥‥行かなくて‥‥いいの?‥‥」
「そうだな。俺は行った方が良いかもしれない。だけど行くだけなら直ぐに行けるからな。この国で正式にやっていくとするなら、俺だけは少し別行動で行って来るよ」
そしてその後は人魚の肉探しかな。
俺だけならきっと直ぐに見つけられるはずだ。
「そう‥‥。ならこれからは‥‥この町で‥‥萬屋だね‥‥」
「俺は他にも少しだけやる事があるから、それが終わってからになるけれどな」
伊勢神宮に行って北都尚成の情報を集める。
そして人魚の肉を手に入れ、なんとか狛里を不老不死にする。
その後は萬屋か。
それでこの世界の神は倒せるのだろうか。
まあ何にしてもやれる事をやっていこう。
この町で猫蓮を鍛えるしかあるまい。
陽蝕はこれから阿弥陀陽蝕となり、天冉は阿弥陀天冉に変わるのか。
娘を陽蝕に取られる気分になってきたぞ?
クソッ!みたまの話は聞くんじゃなかったわ。
何にしても、こうしてアッサリと陽蝕が阿弥陀王国を継承する事になった。
その後の展開は早かった。
直ぐに阿弥陀王は陽蝕に王位を譲り、その流れで天冉との結婚式を執り行った。
何かを成す前に結婚式というのはアリだ。
『この戦いが終わったら‥‥』なんて言っていたら、確実に死亡フラグになるからね。
そして国家方針を一気に変えて行く。
国教として天竺教は残すけれど、それ以外にもちゃんと法律を整備してゆく。
その辺りは猫蓮が相談に乗っていたので、それなりにしっかりとしたものができるだろう。
そんな訳で、俺は天冉と陽蝕の結婚式を見届けてから、一人西へと飛び立った。
目的はもちろん伊勢神宮へ行く事だ。
どのくらいの距離があるのか正確な地図は分からないので、俺は町が在るたびに軽く聞いて次へと向かっていた。
それでも三日ほどで俺は目的地へと到着した。
総距離一万キロ程度は飛んだだろうか。
とは言え疲れもなく、俺は上空からその場所を見下ろしていた。
「なるほど確かに伊勢神宮だ」
実際上空から伊勢神宮を見た事はないけれど、なんとなくそう思わせる雰囲気がある。
日本で暮らしていた頃には何度か行っているはずなので、所々記憶と似たような場所があるのかもしれない。
その周りは町になっており、伊勢神宮は町中にある皇居のようでもあった。
俺は人目につかないように、伊勢神宮の周りにある町へと降り立った。
やっぱりそのまま神社境内に降り立つ事は、日本人の俺としてはやってはいけないと思える。
ちゃんと参道の端を歩いて、鳥居をくぐって入らないとな。
町の防壁門から真っ直ぐ伸びる道があった。
どうやらこれが参道となっているようだ。
俺はそこから真っ直ぐ表門へ向かって歩いて行く。
途中鳥居があるたびに立ち止まって頭を下げた。
『お邪魔しますよっと』
表門の前でもお辞儀をして、俺はようやく伊勢神宮境内へと入った。
世界から人が集まっているようで、中には色々な種族の姿が見られる。
人間のあらゆる種族民族だけでなく、亜人種までもが伊勢神宮を訪れているようだった。
神聖な雰囲気もあるし、もしかしたらこの世界の神はこの場所にいるのかもしれない。
いや、この世界の神は討伐対象とされる神だ。
この世界の人々がこれほど集まる場所にいるとは考えづらいか。
俺は一応辺りを気にしながら、本殿のある場所へと向かった。
本殿が近づいてきた。
此処まで来ると、魔力の大きな者たちが沢山いる事に気がついた。
なるほど、集まる所には集まっているのか。
それでも狛里以上の魔力を持った者は見当たらない。
やはりこの世界で狛里は特別なんだと再確認した。
最後の鳥居をくぐると、左手に手水舎があった。
此処はやはり身を清めておくべきだろう。
俺は右手で柄杓を取ると、水をすくって左手にかけた。
そして柄杓を左手に持ち替え、水をすくって今度は右手にかけた。
更に右手に持ち替え水をすくい、左手を椀の形にしてそこに水を注ぎ入れる。
その水を口に含み、口の中を濯いで水を吐き出す。
最後にもう一度水をくすい、柄杓を立てて洗い流し元の場所へと戻した。
さて次は参拝だな。
俺は拝殿の前まで移動してから、先に一度だけ礼をした。
その後賽銭箱にお金を投げ入れる。
生前は『いい』という意味で毎回十一円を入れるのが基本だったけれど、今は金も持っているので一万円金貨を投げ入れた。
鈴を鳴らしてから俺は二回頭を下げ、二拍手してからそのままの体勢で目を閉じた。
『俺はアルカディアっていう異世界から来た神、此花策也だ。今日は会って話がしたいと思ってやってきた。北都尚成について何か知っている事があれば聞きたいと思っている。もしも話してくれるのならよろしく頼む』
俺は心の中でこの伊勢神宮の神に語りかけた。
ゆっくりと目をあけ、最後に一拝した。
これで参拝は終わった。
しかし此処まで来てみたはいいものの、どうしていいのか分からない。
宮司に話を聞いてみるか。
とりあえず御朱印とか貰った方がいいかな。
社務所は何処だろう。
そんな風に思いながら辺りをキョロキョロと見回していたら、一人の巫女が話しかけてきた。
「えっと‥‥此花策也さん?でしょうか?」
その巫女に俺は全く覚えがない。
なのに相手は俺の名前を知っている。
誰だろうか。
「ああそうだけど?君は?」
「私はこの伊勢神宮の巫女です。先ほど参拝の際、神に色々と話しかけておられましたよね。その件で少しお話があるのですが宜しいでしょうか?」
「えっ?ああそれはこちらの希望なので助かるよ。というか、もしかして‥‥」
「はい。参拝手順を守っておられる方の声は、ちゃんと私たちには聞こえるようになっているのです」
なるほどねぇ。
つまり俺が別世界の神である事も聞かれていたって訳ね。
その上で話があると言うのだから、やはり此処には何かがありそうだ。
「どうしたらいい?」
「ではこちらに。付いて来てください」
巫女にそう言われ、俺は後をついていった。
そのまま本殿とは少し離れた所にある社殿に入ってゆく。
日本の建物とは少し違っていて、土足で入れるようになっていた。
それにしても結界が多い感じがするな。
この伊勢神宮も含めて町全体をよく分からない結界が覆っているし、それがまた神聖な感じを醸し出している。
同じように境内、そして此処の社殿にもそれは感じられた。
なんの為の結界かは分からないけれど、特に害はなさそうだな。
そうして進んだ先の部屋で、一人の男が立っていた。
まあ見るからに宮司って分かるんだけどさ。
「なるほど確かに。異世界の神というのもどうやら本当のようですね。わたくし伊勢神宮の宮司をしております、神宮司と申します。一応この国の王なんぞもやっております」
神宮司と名乗ったこの男、おそらくは神の使いか。
いや少し違う雰囲気がある。
『この方はおそらく神の使いに仕えていた神の使いじゃないでしょうか?或いは眷属といった所ですね』
『そうなんだ。流石は姫ちゃん』
元神の使いだけはあるね。
「俺は異世界の神、此花策也だ。見た所神宮司は神の使いの眷属のようだな」
「よくお分かりで。ただわたくしの主は、現在この世界の神に捕らえられ封印されておりますので此処にはおりませんが」
「神の使いが封印?」
「異世界の神が来た時点で、神の使いは敵も同然ですからね。尤も八神姫のような力無き者は放置されているようですが」
姫巫子、力無き者とか言われているぞ。
それでも狛里よりは大きな魔力を持っていたように思えたけれど。
「それで俺に話があるって事だけれど、それは俺に協力してくれるって事でいいのか?」
「そうですね。ただしそんなに多くは協力できないと思います。わたくしはこの伊勢神宮を離れる事はできませんから」
なんとなく分かる。
この結界に守られていると同時に、行動も制限されているのだろうな。
「それで何を協力してもらえるんだ?」
「一つはこの世界についての話をする事でしょうか。それと先程参拝の際に仰られていた北都尚成についての事‥‥」
少し神宮司の雰囲気が変わった。
これは北都尚成について何か知っているという事なのだろう。
そしてそれを俺に話すべきか、見定めているといった所か。
「北都尚成について知っている事があれば聞きたい」
「その前に一つ聞いても宜しいでしょうか?」
「かまない」
「どうして北都尚成について聞きたいのでしょうか?」
どうしてねぇ。
この者はおそらく味方であるし、話しても何も問題はないだろう。
「俺自信が北都尚成だから、って所かな」
「貴方が?」
「正直俺自身は何も覚えていないし、見た目も全然違うと思う。だけれど魔力は北都尚成のものと同じだっていう奴もいたし、まず間違いないだろう」
「なるほど‥‥」
神宮司は顎に手を当て、俺の魔力を探っている様子だった。
眷属だけあって能力は高そうなんだよなぁ。
「信じてもらえたか?」
「ん~‥‥。正直わたくしの判断では分かりかねます」
「なら北都尚成については話してもらえないのかな?」
「いえ、その件に関しては知っている事をほとんど話す事ができます。ただしそう大した話はありません。世間一般に知られている情報か、或いは直ぐに行き着くような話をただ集めただけの事しか知りませんから」
つまり聞いた所で、俺が神の仕事を成し得るのに役立つものはあまり無いって事か。
「そうか。でも一応話してもらえるか?」
「その前にもう一つ聞かせてください。貴方が北都尚成だという証拠は他に何かありませんか?」
ああそう言えばあるっちゃあるか。
それを見せた所で信じてもらえるかは分からないけれど‥‥。
「菜乃、妃子、出てこい!」
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんなのです!」
「それはパクリだからやめるのね」
影から少女隊がでてきた。
全く、パクリネタを言ってから自らツッコミを入れた所で許されないぞ?
一応菜乃と妃子は別人ではあるけれどさ。
「その方々は?」
「こいつらは俺の影だ。ほぼ同一と考えてもらってもいい神の使いだな」
「そうなのです」
「妃子は策也タマの影なのね!」
そうは言われても直ぐには納得できないだろう。
神の使いが自分自身とほぼ同じだなんて、普通はあり得ない話だろうからさ。
でもなんだかんだで一緒になってきちまったんだよなぁ。
「それでそちらの影が何か?」
「そうだったな。お前ら、合体して北都尚成になってくれ」
「とうとう出番がきたのです?」
「この姿でギリギリの戦いがしたいのね」
などと言いながら、菜乃と妃子は合体して北都尚成へと変化した。
「おお!なんとなく面影がありますね。わたくしが会った北都尚成くんが大人になれば、こんな感じではないかと想像していた通りです」
「どうだ?これで信じてもらえたか?」
俺の影が俺と同一であると信じてもらわなければ始まらないけれど。
「確かに容姿はソックリだと思われます。しかし変化の魔法もありますからね。これだけでは信じられません」
そうか。
コレでも駄目か。
「策也タマ。コレならどうだ?」
こいつらがこういう普通の喋りをすると違和感あるよなぁ。
つか冒険者ギルドカードか。
「という訳でどうだ?冒険者ギルドカードも持っているんだけれど」
それを見て神宮司の目の色が変わった。
「おおっ!これはまさしく尚成くんのギルドカードじゃないですか。この加工は魔王を倒した証に、北海道王が名誉の証として贈ったものです。間違いない。貴方は北都尚成くんですね」
「‥‥」
そう言えばこれを見せれば早かったか。
でもこれくらい簡単に偽造できそうだけれどね。
「何にしても納得してもらえたようだな」
「確かに。これでわたくしも長年の借りが返せそうです」
「借り?」
「そうです。この伊勢神宮一帯に結界が施されているのが分かりますか?これは尚成くんがやってくれたんですよ。此処ともう一ヶ所、この世界の神が絶対に入ってこられないように」
北都尚成だった俺は、そんな事もしていたのか。
となると此処は、それだけ大切な場所なのだろう。
或いはこの世界の神が恐れる何かがあるのかもしれない。
「ではこの手紙を託します。これは北都尚成くんから頼まれていた手紙です。『もしも記憶の無い私に出会ったら渡してほしい』と、そう頼まれました」
「‥‥」
北都尚成は、再びこの世界に戻って来る事が分かっていたみたいだな。
そして記憶がない事も‥‥。
「早く手紙を読ませてくれ!」
少女隊の北都尚成は手紙を受け取って、それを広げた。
やっぱり少女隊の男喋りは違和感があるよ。
さて手紙の内容はどんな感じなのだろうか。
今の俺に何を伝えてくれるというのだろうか。
冒頭はこんな風に始まっていた。
『私が再びこの手紙を読んでいる時は、おそらくこの世界での記憶が失われている時だろう。しかしおそらく目的は同じだと思う。この世界の悪しき神を打ち倒す事。その為に私が十二年間、この世界で集めた情報を此処に書き記しておく』
やはり尚成も目的は同じだったか。
今更だけれど、俺がこの仕事を受ける事になった意味が、ようやく実感できている気がするな。
俺じゃなきゃ駄目だったのか。
そして俺だからそこ、きっとこの仕事は短期間で終えられる。
なんせ全てを合わせたら、足掛け二十八年になるのだから。
尤も、まだ神を倒せる新たな神の目処も立っていないんだけどさ。
情報を貰った所で何処までやれるか。
俺は神宮司がいるのも忘れて、しばらくの間ジックリと手紙を読むのだった。
2024年10月17日 言葉を一部修正




