まさかの急展開!
イカサマの語源には、こんな説がある。
烏賊の墨で書かれた文字は時間と共に消える事から、それで借用書を書いて借金を踏み倒すというイカサマをした人がいたのだそうだ。
正にイカ様々で『烏賊様』だね。
尤も俺が死んだ頃の日本では、『イカサマ』と言えばギャンブルの不正って意味が強かったけどさ。
借用書に不正があったら、もうそれ詐欺だし。
ちなみに詐欺の語源は、鷺という鳥とは全く関係がない、とも言えないかもしれない。
実は詐欺という言葉は古事記にある『因幡の白兎』から来ていて、ワニを騙した白兎の事を『さぎ』と言っていたとか。
羽を付ければ鷺になる、つまり『羽鷺』なんてね。
とにかくそれで騙す行為を『詐欺』と言うようになったと言われている。
兎を『一羽二羽』と数えるのも、鷺になりすます詐欺だった可能性が‥‥。
或いは『一鰐二鰐‥‥(一羽に二羽に‥‥)』と白兎が鰐を数えたという説も。
どの説も信じるか信じないかは貴方次第。{笑}
ブツゾウの町に到着した。
この町もやはり防壁は二メートル程度の高さで、平和な町を感じさせた。
しかし門の所で、俺たちは門番に町に入るのを止められた。
「萬屋の方々ですよね?申し訳ないのですが、貴方がたにはこちらの書類にサインをしてもらうよう言われておりまして。サインいただけないと町に入る許可は出せないのです」
また町に入るのを拒否されるのか。
俺たちは別に悪い事はしていないよな?
‥‥俺たちの正義には反していないかもしれないけれど、常に厄介事に関わっている気もする。
これも仕方がないのかもしれない。
書類を見ると、一つの約束事を守るというものだった。
つまり念書か。
『ブツゾウの町の中で他人に暴力を振るったり怪我をさせた場合、命をもってその罪を償う』
これは酷いな。
罰が重すぎる。
重すぎる罰は、逆に抑止効果を失う可能性があるのを知らないのか。
おそらくこの町は王都であるから、王族を守るためにこのような約束をさせようとしているのだろう。
しかしちょっとした弾みで暴力を振るってしまった時、どうせ死刑になるならと開き直る者も出てくる訳だ。
俺たちがそうなるとは言わないけれど、こんなものにサインなどできない。
そう思った時、想香からテレパシー通信が入った。
『策也さん。この程度のサインなら書いて大丈夫なのです。僕に任せてください』
ふむ、どういう事だろうか。
少し考えて、俺は一つ思い出した。
なるほど因幡の白兎に任せる訳だな。
「よし、書いておこう」
俺は想香を介して筆と墨を手に取ると、書類にサインをした。
それを見て他のメンバーも順番に同じようにする。
何人かは不安そうではあるけれど、概ね躊躇なく書き終えた。
「うん。確かに確認した。町に入るのを許可します」
少ししっくりこない気持ちはあるけれども、こうして俺たちは町へと入っていった。
「書いて‥‥大丈夫‥‥なの?‥‥」
「大丈夫だよ。あの約束は直ぐに無効になるからな」
「そうなのです。想香にお任せですよ」
「何かしたんだお?」
「それは何かが起こった時のお楽しみだ。とにかくあの約束は気にしなくていいからな」
因幡の白兎と言えば、八上比売との縁を繋いだ者という一面もあるけれど、兎詐欺でもある。
人を騙すのは得意なんだよね。
そんな訳で町に入った俺たちはいつも通りまずは食事だ。
この町は流石に王都だけあって人も多い。
高い建物が建ち並び、朝までいたモクギョの町を日本の田舎町とするならば、此処は東京の都会町といった感じか。
食事処はどこも混雑しており、俺たちはいつもの面子に別れて食事をとった。
そして二時間後、俺と尾花はお腹いっぱいの狛里と想香を連れて、集合場所へと向かっていた。
「お腹‥‥いっぱい‥‥美味しいものは‥‥別腹なのに‥‥」
狛里は美味しいものばかり食べているから、別腹しか使っていないんじゃないのか?
「僕もお腹いっぱいなのです。もう食べられないのです」
想香は流石に食べ過ぎだ。
食べ放題コースとか、そういうのマジでやめた方がいいぞ。
というかやめてくれ。
想香を見ていると、こっちが気持ち悪くなってくる。
終いには狛里も想香も歩くのをやめ、俺にしがみついてきた。
全く、動けなくなるほど食べるなよ。
尤も本当に動けない訳ではないだろうけれどさ。
俺は二人を引きずるように足を進めた。
すると行く手を阻むように、何人かの制服男たちが俺たちの前に立っていた。
やっぱり来たか。
手出しができない状態の萬屋を襲うのね。
阿弥陀王か王族、或いはそれに近い権力者の差し金である事は間違いない。
結果的に悪い事なんてしていないんだけどなぁ。
それでも戦後の韓国のように、文句を言ってくる国もある訳で。
こっちが良かれと思ってやった事でも、そうは考えてくれない。
フィリピンなんかは日本の植民地統治を凄く評価してくれているのにさ。
日本が統治した韓国と台湾は、今では経済大国となっている。
しかしアメリカが統治したフィリピンは、鉛筆一本も自分たちでは作れない国になってしまった。
これは日本の教育が本当に良かったという証拠だろう。
それだけ評価される事をしていても、手出しを受け入れられない者もいる。
それは仕方のない事だけれども、簡単には割り切れないよね。
「何か‥‥用?‥‥」
「行く手を遮る黒い影ですか?もしかして悪魔の使いのドル‥‥」
「おい想香!それ以上は言うんじゃない!」
なんで想香にそんな知識があるんだよ。
つか二人とも今の今まで食いすぎてグロッキーじゃなかったのか?
「萬屋。お前たちこの町じゃ他人に暴力を振るうだけで死刑らしいじゃないか?」
「そうそう。それを受け入れる事が町に入る条件だったらしいぞ?」
周りの住民に聞こえるように言ってるな。
だったら‥‥。
「何を言っている。そんな約束を受け入れた記憶はないぞ?」
「そうですよ。書類にサインをしろと言われただけなのです!」
「うん‥‥サインはした‥‥でも‥‥約束は‥‥していない‥‥」
どうやら狛里もアレに気がついていたか。
いや、想香のアレに気がつける奴なんていないだろう。
狛里の場合は勘だろうな。
こいつの勘は恐ろしく鋭いし、俺が大丈夫だと言った言葉を信じて全てを理解している。
「そんな言い訳が通用するか!悪いがお前らが抵抗できない今がチャンスなんだ。阿弥陀王国に入ってからのスパイ行為悪行の数々。捕らえさせてもらう」
町を守って防衛体制を強化し、経済発展の為に協力したのにえらい言われようだなぁ。
それでもやっぱり天竺教原理主義を押し通したいのか。
「この様子だと他にもこんな奴らが行ってるかもしれない。さっさと片付けていくぞ!」
「うん‥‥食後の運動‥‥」
「体が少し重いですが、こんなの相手なら丁度いいです」
ぶっちゃけ殺すなら二秒もいらないんだけれど、殺さず気絶させるとなると時間がかかる。
六人の男を倒すのに十秒もかかってしまった。
「天冉たちはどこにいるか分かるか?アレを発動させたら面倒だ」
「天冉ちゃんの‥‥居場所は‥‥直ぐに‥‥分かる‥‥」
「そうか。なら想香を連れて狛里は行ってくれ」
「分かった‥‥」
「のです!」
残りは猫蓮だが‥‥探索魔法よりも尾花の探知の方が早いだろう。
「旦那様。こっちじゃ」
尾花ともだいぶ以心伝心ができるようになってきたな。
良きかな良きかな。
俺と尾花は猫蓮の所へと移動した。
「お前たちなんだお!?」
「悪いが王の命令だ。貴様らを捕らえさせてもらう」
「むざむざと捕まらないんだお!」
俺たちが到着する直前に戦闘は開始された。
ふむ、力は割と互角か。
四対六だし相手のレベルは結構高いけれど、それでも互角にやれるのはアイテムや能力のお陰だな。
「尾花。しばらく観戦していよう。これはきっと楽勝だ」
「魔力では相手の方が上なのじゃがな」
もう今さらだけれど、この世界では能力もかなり強さに影響してくる。
なんて観戦モードでいたら、町の人たちが騒ぎ出した。
「頑張れ近衛部隊!」
「そいつら悪い奴らなんだろ?倒してしまえ!」
「必ず正義は勝つんだ!」
これはちょっとアウェー過ぎるな。
町の人達は、俺たちの事をハッキリと知っている訳じゃないはずだ。
簡単に例えるなら、警察が誰かと大捕物をしていれば当然警察側を応援する感じ。
それでもやっぱり悪者扱いされるのは辛い。
この国に入ってから何もせず、此処まで全てスルーしてくれば良かったのだろうかと本気で考えてしまうよ。
かなり住民の命も救ったはずなんだけどなぁ。
「なんだか悲しいんだお。どうしてオデたちが悪者なんだお?とりあえずここは一気にけりを付けるお!」
猫蓮はそう言って、異次元収納から結界用の宝石を取り出し四方に飛ばした。
駄目だ猫蓮、よく見ろ!
こいつらもあの腕輪をしているんだから、魔封じの結界は通用しない。
封じられるのは自分だけだぞ。
「結界が通用しないんだお!」
「先輩!相手も腕輪をしています!」
「猫蓮よく見ろよな!」
「猫っちはよく見るであろう」
ほう。
雪月花たちはこの状況でも冷静だ。
『よく見ろ』という言葉の中には、おそらく『邪眼を発動したらどうか』というメッセージが込められている。
現状五分なら、邪眼発動で確実に勝ちに行けるだろう。
「気づかなかったお!みんな悪かったお!」
いや腕輪に気づかないのは仕方ないにしても、雪月花たちのメッセージには気づいてやれよ。
「見ていてイライラするのぉ。仕方ない私が手を貸してやるかの」
そうだな。
そろそろけりを付けないと、住民が集まりすぎて危険だ。
尾花は辺りを『威圧』した。
辺りの時の流れが少し遅くなったような錯覚を覚える。
しかしその中で、猫蓮たちだけは今まで通りの動きをしていた。
「くっ!これは恐怖か?」
「体が思うように動かない」
「チャンスなんだお!」
「先輩任せてください」
まずは最前列で戦っていた愛雪が、円盤シールドの刃で敵を切り裂く。
「今度はマイの番だ!」
続いて舞月が妖糸線で二人を捕らえた。
「トドメはミィがやるであろう!」
最後に美花が、炎を纏ったミスリル忍者刀で三人まとめて斬って捨てた。
拮抗していた者たちの戦いは、少しバランスが崩れるだけでこの結果か。
大きな力を扱う時はマジで気をつけないとな。
なんとなくそんな事を思った。
倒した相手はサクッと少女隊が捕らえ、俺たちは天冉たちの所へと急いだ。
こちらはまだ両者手出しはしておらず、舌戦が繰り広げられていた。
「お前たちは門の所で書類にサインしたはずだ!手出しせず大人しく捕まれ!」
「何を言っているのかしらぁ~?」
「サインは‥‥したけど‥‥それが‥‥どうしたの?‥‥」
「ちゃんと読んでないのか?お前たちは書類にサインをした時点で、この町の中で暴力を振るわないと約束したんだよ!」
「そんな事も書いてあったな。しかしサインをしたからと言って約束したとは限らないんじゃないのか?」
「減らず口を‥‥。そんな事を言っていたら、全ての書類が無効になるではないか!サインがある以上約束は守られるべきだ!」
「ではサインがなければ守らなくてもいいのよねぇ~?」
「それはそうだがお前たちはサインしたはずだ。無い訳がないだろう」
「だったらその書類を見せるのです!」
「書いてあったらちゃんと大人しく捕まれよ」
「書いてあればねぇ~」
相手は狛里の強さを知っている。
だから不用意には手出しできなかったようだな。
できれば手出しさせて、あのリーダーっぽいのだけはボコって捕まえておきたかったんだが。
これが誰の指示なのか。
どういう目的なのか聞き出したかった。
おそらく阿弥陀王の指示だろうとは思うけどさ。
目的も表面上はスパイ容疑だ。
でも本当に天竺教原理主義を壊そうとした罪で此処までされるのだろうか。
俺は少し疑問に思った。
「どういう事だ?!書類にサインが無いだと?」
書類を受け取ったリーダーっぽい男が、それを見て驚いている様子だった。
想香は因幡の白兎。
その本質は詐欺師なんだよなぁ。
「種を明かして差し上げましょう!僕たちは時間が経てば消える墨でサインしたのです!町に入る為にサインは必要でしたが、内容には同意できないという意思を伝える為ですね!」
イカサマの定番だな。
イカスミのような墨にする能力を想香は持っているのだろう。
「端っから同意する意思はなかったのよぉ~。でも町に入るにはサインが必要だったから書いただけぇ~。理解してもらえたかしらぁ~?」
「くっ!どうしても捕まってはくれないか‥‥。それでいいのかなぁ?俺たちはお前たちの弱みを握っているんだぞ?」
こりゃまたとんでもない脅しをしてきたもんだ。
特に後ろめたい事なんて何もないと思うが‥‥。
「何かしらぁ~?」
「そうだな。お前たちの仲間には、暗殺者もいるよな?」
確かにいるな。
それを喧伝されると、悪く見られる事にもなるだろう。
この世界だと微妙だけれど、暗殺者という肩書はやはりマイナスイメージなんだよなぁ。
「だからなんだお?!無理やり組織からやらされていただけだお!どんな事があってもオデはこの娘たちを守るお!」
「先輩‥‥」
「猫蓮はキモいけど嬉しいぜ」
「だからミィたちは気にしないであろう」
こいつらの信頼関係は、もう完璧なものになっているようだな。
その程度の事じゃ問題にならない。
「それだけじゃないんだぜ?この中じゃ‥‥。お前が一番話ができそうだ。ちょっと耳をかせ。大きな声では言ってほしくないだろ?」
リーダーっぽい男が指差したのは天冉だった。
まあそうなるよな。
「天冉。危険だ。近づいた所で何かしてくるかもしれない」
心配した陽蝕が天冉の前を遮るように手を広げた。
「陽蝕さん大丈夫よぉ~。聞かせてもらうわぁ~」
天冉は陽蝕の手をどけてリーダーっぽい男へと近づいていった。
何かしようとしたら俺が止める。
今の状況なら問題はないだろう。
天冉は男に耳を近づけた。
男はコソコソと話し始めた。
当然俺には聞こえている。
「頼む!捕まってはくれないか?どうしても阿弥陀王がお前たちと内密に話したいのだそうだ。しかし招待はできない。何を意味するのか、お前なら察する事ができるだろう?」
まさかの展開だな。
なるほど、全ては内密に話をする為に準備された事だったのか。
ここまで天竺教原理主義に反発され続けて来たから、此処でもそれを疑ってしまった。
これはおそらく諸葛亮王国の目を気にしての行動か。
そもそもこの阿弥陀王国が天竺教原理主義なのは、諸葛亮王国のコントロール下に置きやすくする為だ。
それが今変わりつつあり、当然最も困るのは諸葛亮王国。
おそらく阿弥陀王も現状が限界であると分かっていたのだろう。
しかしいざ変えようとしたら、諸葛亮王国が邪魔をしてくる。
この王都にもスパイや監視が沢山いるはずだ。
だからとにかく捕らえて城に連れていきたかった。
暴力を振るえないようにすれば、そうして話ができると考えたか。
「どうだ!これはバラされたくないだろう?大人しく捕まれ!」
「そうねぇ~。だったら半分だけでどうかしら~?」
「天冉!」
陽蝕はマジで心配しているけれど、それは良いリアクションだぞ。
半分という条件もなかなか良いかもな。
最悪半分は逃がせる。
或いは外から助けられる条件を残す事で、『譲歩しろ』とマジな交渉を演出している。
もしも諸葛亮王国の監視があったとしても、手を結ぶような事を疑う可能性は低くなるだろう。
それでもまあ何かあるんじゃないかと、警戒はされているだろうけれどね。
「半分だと?メンバーによるな」
「私と陽蝕さん、狛里ちんに策也ちん、後は~‥‥」
どんな話かはだいたい想像がつく。
諸葛亮王国の影響下から逃れ、自立する国になる為に協力してくれという話になるのだろう。
ならば後一人は‥‥。
「猫蓮だな。此処までの行動で罪があるとしたらこの五人だ」
「オデかお?オデは悪い事をした覚えがないお!」
察しが悪いな。
かなり覚醒してきていると思っていたけれど、猫蓮はやっぱり猫蓮か。
とは言えこういうのもいた方がいいだろう。
「お前まさか女の子を差し置いて、自分だけ助かろうと思っているのか?」
「そんな事はないお!喜んでオデが掴まるお」
よしこれで主導的立場の者とその眷属とに分ける事ができた。
残りの五人は俺と猫蓮が決めた事に従う訳だから話し合いに連れて行く必要がない。
それにみんなテレパシーで話もできるから問題ないだろう。
「それじゃお前たちには、後ろ手にコレを付けさせてもらう」
男が取り出したのは魔封じの手枷か。
神眼で調べた所、その効果は魔封じの結界よりも弱くて半減効果のようだ。
完全に封じない辺り、俺たちに気を使っている?
もしかしたらそこまでのアイテムはそうそう無いのかもしれないな。
俺は天冉に目配せをして頷いた。
「どうぞぉ~」
天冉が許可を出し、順番に手枷を付けられていった。
付けられた途端に俺の魔力は半減した。
まあこの程度じゃ問題はない。
それに強い奴が襲ってこようとも、少女隊もいれば妖凛や姫ちゃんもいる。
楽勝だな。
でも笑顔で連れて行かれる訳にも行かないから、無の表情で行こう。
なんて思っていたら、猫蓮が凄くションボリとしていた。
「どうしてオデがこんな事に‥‥」
猫蓮笑わせないでくれ。
こういう自然な態度もあった方が良いけれど、他が笑いそうになるから駄目だ。
俺は他の事を考え必死に笑いを堪えた。
魔封じの手枷で拘束された俺たちは、近衛部隊とやらに連れられ城へと案内された。
さて何処に連れて行かれるのやら。
城の中を少し歩いて、やってきたのは重厚な扉の前だった。
おそらくこの部屋は、とてつもない結界が施されているだろう。
もしもこの中が完全な魔封じの結界だと、もしかしたらみんなが付けている腕輪でも無効化は難しいかもしれない。
誰かが、或いは何かが襲ってくるようなら斬るしかないかな。
安全確保の為だ。
おそらくタイムストップも効くとは思うし、余裕がある内にそちらは試してみるけれど‥‥。
「とりあえずこの部屋に入っていろ。くれぐれも逃げようなどとは考えるな。もうお前たちに逃げ場はない」
「なんだか悲しいお‥‥」
俺は天冉と狛里だけに目配せして頷いた。
部屋に入ると、直ぐにドアは閉められた。
やはり結界が働いている。
しかし魔封じではなく、普通の結界のようだ。
いや少し違うな。
これは外から中の様子が分からないようにしてある。
そしてこの結界は、隣の部屋まで通じているようだった。
そちら側の壁を見ると、徐々に透明化して人影が映し出されてゆく。
直ぐに人の姿がハッキリと見えてきた。
そこには偉そうなおっさんが一人立っていた。
おそらくこいつが阿弥陀王か。
俺たちは皆そちらを見た。
「なんだお?これはどういう事なんだお?」
「猫蓮落ち着け。俺たちは阿弥陀王と話をする為に来たんだ」
「えっ?そうなんだお?よく分からないお」
「分からないなら黙っておけ」
「分かったお‥‥」
陽蝕は一つ息を吐いてホッとした様子だった。
こいつもまあ天冉についてきただけで、分かっていなかったみたいだな。
それでも可能性を想像して想定はしていたようだ。
「よく来てくれた。萬屋のみなさん。僕が阿弥陀王だ」
見た目はおっさんだけれど、喋るとパパ系な感じの男のようだ。
「お話があるのよねぇ~?だったらこの手枷は外してもらってもいいかしらぁ~?」
「申し訳ない。味方の中にも信頼できる者が少なくて、その部屋に人は入れられない。少し我慢してもらえると助かる」
「自分たちで‥‥取るなら‥‥良い?‥‥」
「それは構わないが‥‥」
王様の返事をそこまで聞いた所で、俺と狛里は手枷を破壊して外した。
そして狛里は天冉のを、俺は陽蝕と猫蓮の手枷を外してやった。
「その程度では拘束されないか。流石は萬屋だ」
「それでぇ~、一体なんの話なのかしらぁ~?此処までするのだからぁ~、あまり聞かれたくない話なのよねぇ~?」
「ああ。隠しても仕方がないから単刀直入に言うが、貴方がた萬屋にこの国を救ってもらいたいのだ。知っているかもしれないけれど、この国は諸葛亮王国の属国みたいなものなんだよ。でも最近、ようやくそこから変わろうとしている」
言葉を噛みしめるように、そして選ぶようにゆっくりと阿弥陀王は話した。
「それでぇ~?」
「そうだなぁ。今までが不幸だった訳じゃない。いやむしろ国民はみな幸せに生きては来た。今のまま続けられるのならそれも良いだろう。しかし最近納める金も多くなってきたし‥‥、何より魔物に襲われても助けてくれなかった。このままだといずれ見捨てられ国は滅ぶと思ったんだ」
そりゃそうだよ。
だからジュズの町では周瑜がフリーハンドの力で防衛力を高め、モクギョの町では経済力を高める事がこの国の為に必要だと考えた。
「だから我たちはそれぞれの町で行動したんだ」
「僕はありがたい事だと思っているよ。でも諸葛亮王国が黙ってはいない。僕に何度も萬屋の言いなりにならないよう言ってきている。排除できるのならそうしろともね」
予想通りか。
俺が諸葛亮王国の立場でも、傀儡国家が力を持って反発してくるのは阻止しようとするだろう。
「つまり‥‥諸葛亮王を‥‥ぶっ飛ばせと?‥‥」
「ははは。あの王はそう簡単にはぶっ飛ばせないよ。かなり強いからね。だけど萬屋のみんなでなら、互角にやれるのではないかと思うんだ。どうだろうか?この国を萬屋で引き受けてはもらえないだろうか?」
この国を萬屋で引き受ける?
どういう事だろうか。
「それはどういう事だ?」
「確か貴方は鬼海星王国の第三王子だったかな?ならば王としての資格はあると思うんだ。僕の養子となり、この国を貰ってはくれないか?ならばこの国は萬屋のものになるんだろう?」
またとんでもない事を言い出す王様だな。
いきなりの急展開過ぎて頭が付いていかんわ。
「この国を我に統治しろと?」
「形としてはそうだが、本質は萬屋の国にしてほしい。でないと諸葛亮王国には対抗できない」
「そんなに諸葛亮王は強いんだお?」
「萬屋狛里一人では勝てないだろうな」
この世界に狛里以上に強いのがいたか。
そりゃいるよな。
神もいれば神の使いもいるし。
でも狛里は既に人間の領域を超えた存在だ。
もしかしたら諸葛亮王は神か、或いは神の使いという可能性もある。
いや神はあり得ないな。
神の領域から出て一国の王などやる必要はない。
おそらく自分を狙う異世界の神が来ている事も知っているはずだ。
神の使いがコントロール下から離れているから。
ならば普通は神の領域から様子を窺うだろう。
そして邪魔をする為に手を打ってくる。
或いは諸葛亮王国内に神の領域があるのか。
でも阿弥陀王は、萬屋が揃えば対抗できると思っている。
それだと神にしては弱すぎる気がする。
可能性はゼロに近そうだ。
何にしてもどうするかは陽蝕次第か。
或いは天冉や狛里の意思も無視はできない。
さて、俺の異世界の仕事は急展開するのだろうか。
全てはこの三人にかかっていた。
2024年10月17日 言葉を一部修正




