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異世界のチートな萬屋店長~一寸神アナザーアフター~  作者: 秋華(秋山華道)
東海林編
52/64

想香覚醒!触らぬ神に祟りなし!

人間はどうしたら分かり合えるのだろうか。

もしかしたら、本当の意味で分かり合う事は不可能なのかもしれない。

俺は全ての人類が共生する未来を夢見てきた。

だけれど実際の感情は、どれだけ理性で抑えられたとしても猛り荒ぶる。

感情に嘘をついていてはいけない。

その感情を抑え隠していたら問題は解決しない。

『本音を言葉にしなければならない』

常にそれが正しいと感じながらも、気持ちの弱さが行動を阻んできた。


俺の中で何かが切れた。

次の瞬間には、取り囲む者たちの手足を全て妖糸で切り裂いていた。

「うがぁー!」

「殺されないだけありがたく思え」

さて、次に危険なのは狛里か。

俺は魔力を探った。

ん?兎白に似た想香の魔力は健在だった。

温泉には少女隊が向かってくれている。

ならばもう大丈夫だろう。

俺は狛里の所へと飛んだ。

するとそこには、元気な狛里と雪月花たちがいた。

「狛里、無事か?」

「策也ちゃん‥‥食べ物に‥‥毒が入って‥‥いたみたい‥‥でもベルトのおかげで‥‥助かった‥‥ありがとう‥‥」

「おっ、おう。そうか。良かった」

全耐性は機能していたのか。

つまりそれって、全耐性じゃ太陽からの日焼けを完全には防げないって事になる。

だったら何故想香は日焼けしないのか。

その答えは‥‥今になってようやく分かったな。

同時に想香の正体もね。

アルカディアの元神の使いたちか。

俺がこれに気が付いた事で、想香は本来の力を取り戻した訳だ。

或いは逆で、想香が本来の力を発動させたから、俺は想香が兎白と岩永姫である事を理解した。

そしてその本来の力というのは、不老不死。

狛里は召喚する時、最初から願っていた。

強くて死なない仲間が欲しいと。

だから不老不死である俺が召喚され、更に不老不死である猫蓮が召喚された。

狛里は最初から猫蓮が不老不死だと知っているような対応をしていた。

でも想香は最初、不老不死では無かったよな。

その理由は、俺が兎白だと気づかなかったからか。

見た目がみゆきに似すぎていて、意識がそちらに行き過ぎたせいだ。

でも旅に出てから少しずつ兎白の事を思い出し、不老不死になっていったって所だろう。

兎白もきっと俺と同じような感じで思い出していたのだろうな。

兎白というか、アルカディアの元神の使い、岩永姫と一体だった頃の(うさぎ)が束ねる『兎束』として。

しかしそこに木花咲耶姫がいないのはどういう事だろうか。

確か三人で一人だったと聞いているんだけれど。

『旦那様。今嫁たちに助けてもらった。想香もどういう訳か無事じゃ』

尾花まで少女隊の事を嫁とか言うのかよ。

『そうか。それは良かった。とりあえず後は大丈夫だろう』

『不覚じゃった。面目ない』

『温泉では完全に無防備になるからな。俺も違和感を覚えながら対応しなかったんだ。俺のミスだよ』

今思えばあのフレンドリーな笑顔は全部嘘だったと分かる。

別の事を考えすぎていたか。

でも結果オーライ‥‥。

とは言えヤバかったな。

危うく沢山の死者を出してしまう所だったぞ。

殺したらこの世界の神にバレるかもしれない恐れがある。

いや、あの程度の奴らが五人なら多分問題ないだろう。

今からでも殺ってやろうか。

全世界の様子を把握できていたとしても、この程度の奴らを殺るくらいは天冉や陽蝕でもできたはずだし。

うん、これからはやっぱりキレないように気をつけよう。

力を持つと、どうしても力に頼ってしまう所があるのは仕方がないよね。

天冉の所に行くと、辺りは悲惨な状態になっていた。

魔力も感じられていたし、分かっていた結果だけれどね。

「やはり天冉姫は素敵だ」

「ありがとう陽蝕くん」

荒魂とそれを愛する男、恐るべし。

そこに服を着た想香と尾花がやってきた。

想香とはじっくり話さなければならないけれど、今此処で話す訳にもいかないよな。

当然想香も神の使いであるから、その辺分かっているようだった。

さてしかし、どうするよこの惨状。

一歩間違っていたら、狛里も雪月花も想香も尾花も死んでいた。

いくらこいつら黒人が迫害を受けてきていたとしても、殺人が許されるものではない。

基本的人権にだけは手を出したら駄目なのだ。

人間を終わらせる事だけは許されない。

天冉たちは正当防衛だから仕方が無かったけれどね。

「村長は殺しちゃったしぃ~、どうしようかしらぁ~?」

「話は聞いておく必要があるだろうな」

「もう二度と‥‥こんな事しないように‥‥お仕置きが‥‥必要‥‥」

確かに話を聞く必要はあるし、お仕置きも然りだ。

でもこれは、違って産まれてくる定めでもある。

俺は三つの世界を経験してきたけれど、違う人種、違う種族、違う民族、どれも差がある限り差別や争いは必ずあった。

逆に仲良くできる者も少なからずいたけれど、そこが今の所限界であるように感じる。

まずは住み分けをして、お互い少しずつ理解し価値観のすり合わせを必要とするんだ。

この世界は既に、一部の黒人に対しての差別や偏見は完全に消えているように見える。

下手に関わるべきではないだろうな。

仮に俺たちが偉そうに説教して罰を与えても、逆にそれが差別意識を高めて事が悪化するだろう。

誰もそこに触れずに関わらない事が大切かもしれない。

触らぬ神に祟りなしって言うしね。


俺たちは一応住民たちに話を聞いた。

すると特に迫害を受けていた訳じゃなかった。

ただ違うものを見るような視線や、少し気を使うような所に嫌気がさしたらしい。

そんな理由で自ら町を出てきた者が多かった。

それはどうにもならないよ。

見た目が明らかに違って、違う人種なのだから。

どれだけ頑張った所で、内に秘めた思いを完全に封印する事なんてできやしない。

「でも‥‥悪い事をしたら‥‥お仕置きをする‥‥」

「狛里様待つお!そんな事をしたら、また心に傷を負うお。こうやって分かれて暮らしてしているし、この町は砂漠の横断ルートから離れているお。時が解決してくれるのを待つお」

俺も猫蓮の意見に賛成かな。

わざわざ問題になる可能性を増やす必要はない。

今回ここの者たちが俺たちを襲ったのは、あくまでこのオアシスを守る為だった。

強いものは排除しておかないと危険だと考えたからだ。

でもこの場所なら、然う然う部外者が来る場所でもない。

別々に幸せになれるのなら、今はまだそれでいいじゃないか。

一緒に暮らせる未来があるとしたら、その時はきっと洗練された正しい共通の価値観を持っているに違いないのだ。

結局俺たちは、生きている者全ての治療をしてから村を出た。

此処に長くはいたくないからね。

そして村が見えなくなる所まで移動してから、俺は移動用の家を出した。

今日は此処で一夜を過ごし、いよいよ明日は砂漠を出る。

砂漠の向こうには、今までと少し違った世界があるはずだ。

みんな疲れたようで、今日は早くに休んでいる者が多かった。

そんな中俺と想香は、移動用の家の上に出ていた。

昨日は狛里と、そして今日は想香か。

「思い出したぞ。想香は兎白と岩永姫だったんだな」

「ちょっと違うのです。そこに少しみゆきさんも加わっているのです」

「なんだとっ?!」

「この容姿だけですけどね」

ああ、そうだったな。

この見た目はやはりみゆきだったのか。

「でも少し違う気もするんだけど?」

「それはそうです。これはこの世界でのみゆきさんですから」

「どういう事だ?」

「策也さんがアルカディアに来てから神を倒すまで、みゆきさんの記憶は戻りませんでしたよね?」

「ああそうだな」

「その十四年ほどの間、みゆきさんの意識はこの世界に転生していたんです。でも策也さんが思い出した事で意識だけがアルカディアに戻る事になりました」

そういう事か。

その体に、兎白と岩永姫が転生してきた。

「でも何故、兎白と岩永姫は一緒になってるんだ?どうして木花咲耶姫は別になったんだ?」

「僕たち三人は元々一つでした。でもアルカディアの神の使いとして三人に分かれたのです。だから策也さんが神を倒した後は、元に戻る予定でした。でも‥‥」

「でも?」

「木花咲耶姫は策也さんに既に力を捧げていたのです。策也さんはそれを選択しました。木花咲耶として生きる事を」

そう言えばなんかあの時、選択がどうとか言っていたよなぁ。

つまり今では、俺の中に木花咲耶姫が?

おそらくアレには色々な意味があったと思うけれど、そんな意味もあったのか。

それに、もしもあの時から俺の中に木花咲耶姫が干渉を始めていたとしたら、この女みたいな容姿になったのも何か関係があるのかも知れない。

「そこで元に戻れなくなっていた僕たちは、どうやって戻るか考えた結果、この方法を選んだのです」

「みゆきの意識を失った体に一緒に転生してくる道か」

「はい、そうです」

「なんでそんな面倒な事を?普通に兎白なり岩永姫の体を使う事もできたんじゃ?」

「それは‥‥。策也さんの神の使いになった訳ですし‥‥。離ればなれは嫌ですから」

マジかぁ。

異世界に連れていける神の使いは二人まで。

それでこんな方法を。

「でもこれだと帰れなくね?」

「大丈夫です。妖凛は既に策也さんと一心同体です。妃乃さんと合わせて二人帰れます」

ふむ、えらくデキた流れだな。

これはおそらく既定路線だったに違いない。

俺は神にはなれたけれど、まだまだ天界に住む神の事はよく知らない。

色々できる神がいるのだろう。

「分かった。それでこれからは想香として俺の手伝いをしてくれる訳か?」

「もちろんです。その為にみゆきさんの体を貰った訳ですから!」

「どういう事?」

「説明すると長くなりますが‥‥」

俺は想香の話を聞いた。

まさか北都尚成から続く想いのリレーだったとはね。

聞いた話と俺の想像を混ぜて説明すると‥‥。

まず俺は北都尚成としてこのイスカンデルへとやってきた。

悪い神の存在を知り、俺は倒す決意をする。

しかし自分には無理だと悟り、後に託す事にした。

その一人が、兎束姫香の娘である想香だったのだろう。

まだお腹の中だった想香に、自分の能力の残り半分を受け継がせた。

そして尚成がこの世界を去った直後、みゆきの意識を持った兎束想香が産まれた。

多分『兎束』の読み方が違うのは、みゆきの意識がアルカディアに行き、兎白たちが来るまでの間の記憶喪失時期に勘違いしたに違いない。

「みゆきさんはおそらく、またこの世界に北都尚成である策也さんが戻って来る事を予見していたんだと思います。魔力に限界のある想香が、此処まで鍛え抜かれているのですから」

「そっか。そういう事か。俺はこの世界でもみゆきに助けられる訳だ」

「そんな想香になって僕が転生してきたのです。魔力も跳ね上がって無敵の強さですよ」

うわぁ~、反則レベルだな。

能力のみを鍛え抜かれた体に、魔力しか取り柄の無かった奴が転生してくるとか。

今は既に神の使いとなっているから、レベルは百五十程度の魔力に感じられる。

でも本当は狛里以上の魔力を持っているはずだ。

「それで一部使える魔法や能力も思い出したみたいです。ハッキリ言って僕も無敵になりました!」

よく考えたらこいつ、普通は持てそうにない魔法や能力を持っていたな。

絶対魔法防御とか、マジックプロテクションとか、全耐性とか。

完全回復魔法も使えるとかまさしくチートだったわ。

「それで、この世界でのみゆきの記憶は何処にあるんだ?」

「分かりません。でもおそらくは今宙に浮いた状態だと思います。策也さんが北都尚成の事を完全に思い出す時が来れば、アルカディアのみゆきさんが思い出すのではないでしょうか」

「つまり想香は思い出さないと?」

「おそらくは。想香はもう僕ですから」

なんかややこしいな。

体と意識、或いは体と魂と言った方が分かりやすいか。

どちらが死んだら本当の死なのかって話、よくあるよね。

やはり体ではなく、魂なのかな。

でも、体に残る記憶ってのもあるし、なかなか一概には言えないんだけれどね。

「それで想香は、基本的には兎白に近い感じがするんだけど?」

「そうですね。兎束は『兎に束ねる』なので、兎白が軸なのです。岩永姫は言わば分身のような感じでしょうか。どちらも僕なので少し違いますが」

「僕か。僕っ娘なのは岩永姫だよな」

「はい」

「となると想香はもう『不老不死を司る神』ではないって事か?」

「そんな事はありません。ただ、この世界では不老不死にする魔法や能力は存在しないので、誰かを不老不死にする事は無理です」

「そっか‥‥」

岩永姫の能力があれば、狛里を不老不死にできるかもしれないと思ったんだけどな。

「ただ、この世界で不老不死になる方法は分かります」

「なんだと!」

「声が大きいのです。耳の近くで叫ばないでください」

「すまんすまん。ずっとそれを探していたからな。つい」

「狛里店長ですか?」

「そうだ」

狛里は寿命を三十年も縮めて、俺と猫蓮と想香を召喚した。

しかも後のは俺が勧めてやらせてしまったんだ。

せめて本来の寿命分くらいは生きてもらいたい。

「方法は簡単です。人魚の肉を食べる事です。ただし毒があり記憶を失う可能性もあります。完全耐性でも防げるかは僕にも分かりません」

まあそんな所だろうなぁ。

予想はしていたけれど、とりあえず一歩前進と言った所か。

「所で、兎束という名字は、想香を召喚する時に俺が金魚を思い出したからだと思っていたんだけれど、何か関係があるのか?」

「大有りですよ。アルカディアの兎束家は、僕たちが戻る時の依代を作る家系だったのです。小麟さんは元々『小さな麒麟』つまり神の使いを束ねる為に産まれてきました。霊体化できるようになったのはその為です。しかし策也さんが名前を金魚に変えた事で運命が変わりました」

名前って割と重要なんだな。

「つまり、もしも色々違う形で俺が神を倒していたら、兎白や岩永姫は金魚になって俺の元に来ていたって事になるのか?」

「可能性はありましたね。でも木花咲耶姫も岩永姫も両方選ばないで神を倒すとなると、それは大変困難な道だったと思いますよ」

結局、こうなるべくしてなったという事か。

「そういえば木花咲耶姫は俺の中にいるんだよな?全然気づかなかったんだけど?」

「あの子はただ力だけを策也さんに渡せれば良いと思っています。だから決して出てこようとしないのです。今のままだとあの子の人格は完全に策也さんの意思に飲み込まれるでしょうね」

そうなのか。

だとしたら、なんか可哀想な気がする。

俺は自分の中にいる木花咲耶姫に話しかけた。

『おーい!いるなら返事をしてくれ。その存在を教えてくれ』

‥‥反応無しか。

『こら姫ちゃん!このまま消えるなんて許さんぞ!そんな事になったら想香が悲しむじゃないか!』

おっ!少し反応があった?

俺の中に少しだけれど、木花咲耶姫を感じられたぞ。

「今、木花咲耶姫を少し感じられた。この意思を引きずり出すことはできないのか?例えば妖凛と分裂するような感じで」

「妖凛と木花咲耶姫は違うのです。妖凛は元々策也さんになる事を望んでいた訳じゃないですし、体も一緒に策也さんに吸収されています。体があれば策也さん自身ですから、策也さんのコントロール下で実体化させる事は可能かもしれませんが‥‥」

俺自身だから体があれば‥‥か‥‥。

あっ!あるじゃないか!

俺の中にはもう一人の俺である妖精霧島がいる。

俺は見つけた木花咲耶姫の意思を、全て妖精霧島にぶち込んで召喚した。

うっすらと光りの柱が落ちてくる。

するとそこには、美しい女性の姿となった妖精が立っていた。

「どうして‥‥。わたくしはせっかくあなたと一緒になろうとしたのに。それを拒むのですか?」

「ああ拒むね!俺が本当の意味で一緒になるのはみゆきだけだからな。絶対に一緒になんかさせない」

俺は頭の中にある意思の多様性を守るぜ!

その方が楽しそうだし、助けてもらえそうだし、良い事ばかりなんだよ。

まあ、プライバシーはちょっとないけどな。

妖精の姿をした木花咲耶姫が少し笑みを浮かべた。

「分かりました。それでは主様(あるじさま)の仰せのままに従いましょう」

「よっしゃー!」

「良かったのです。僕も嬉しいのです!」

うん、良かった。

やっぱり誰かがいなくなるってのは嫌だもんな。

「名前を呼ぶ時はどうするかな。同じ名前だと呼びにくいし。かといって霧島ではないし‥‥」

「先ほど主様は姫ちゃんと呼んでくださいました」

「ああ~‥‥。じゃあ姫で?」

「姫ちゃんと呼んでくださいました」

‥‥。

「姫ちゃん‥‥」

「はい!」

木花咲耶姫ってこんなキャラだったの?

ちょっとブレてない?

何にせよ、こうして色々な謎が解けて、みんなが強くなって、新たな仲間も加わってしまった。

良いのかこんなに強くなって。

人も収拾がつかなくなりそうだよ。

そうなってしまったんだから仕方がない。

気にしたら負けだな。


さていよいよ明日からは別の国だ。

砂漠は色々な国が領有権を主張しているそうだけれど、どの国も統治はできていない中立緩衝地帯。

これからは未知の世界へと足を踏み出す事になる。

本当の冒険の旅はこれからかな?

そんな事を思いながら、今夜は家の上で三人川の字になって眠るのだった。

一応結界があるから、砂まみれになっていたりはしないよw

2024年10月17日 言葉を一部修正

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