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異世界のチートな萬屋店長~一寸神アナザーアフター~  作者: 秋華(秋山華道)
出張編
5/64

素材集め!魔獣と獣の違いとは?

この日俺は、昼過ぎまで眠っていた。

昨晩は微妙な初仕事になっちまったからな。

店の方も今日は午後からの開店らしく、先ほど猫蓮と想香が店に行った所だ。

そして俺は狛里に許可を貰って、今日は素材集めに出かける事になった。

色々と店で売る物を作る訳だけど、やっぱり良い材料で作りたいじゃん。

そしてその前に、俺は自分の住んでいる町を確認しておきたかった。

昨晩初めて外に出た訳だけれど、夜中だったしよく確認はできなかったからね。

さて萬屋ぼったくりを出ると、店は割と町のはずれの方だった。

城が結構近くに見えて、そこそこ大きめの町と思える。

『昨晩も見たのね』

『いや暗くてよく見えなかっただろ?やっぱり昼間見るのとは印象が違うんだよ』

いくら夜目が利くと言っても、距離感とか肌で感じる感覚ってのはあるよね。

『菜乃はもう見慣れた景色なのです』

『コクコク』

こいつらは初日から素材集めに出ていたからな。

今日で四日目だし、もう町にも慣れているのだろう。

もしかしたら知り合いとかいるかもしれない。

何か出遅れた感を覚えるな。

俺は後れを取り戻すべく、とにかく町の中をじっくりと観察して歩いた。

それで分かった事。

まず服装がアルカディアと比べて質素だ。

派手な服を着ている者は少なく、妖凛が着る白のワンピースでも高価に感じる。

少女隊が着るメイド戦闘服も、上級な感じで見られそうだ。

そして俺の着る卵色のパーカー付きスウェットは‥‥。

色が地味なら一番貧相に見えるかもしれない。

でも卵色だからちょっと特別な人って感じに見られそうだな。

『そうでもないのです』

『作りは単純なので、囚人が脱獄してきたみたいなのね』

確かにパーカーとポケットが付いているくらいで、他に何にもないからな。

妖凛が少しアクセントをつけてくれているくらいだ。

まあでも特別に見えないならその方がいい。

異世界で目立つとろくなことにはならないからさ。

しかし平和な町だな。

だいたいこうやって異世界人が歩いていたら、貴族にいちゃもんをつけられる町民がいてもおかしくないだろ?

或いはイキった冒険者が俺に因縁をつけてくるとか。

そんな事を考えていたら来ましたよ。

子供が何か焼き鳥串のような物を持って走ってきた。

よそ見をしているので、このままだと俺にぶつかりそうだ。

俺なら避ける事もできたが、あまり目立つ行動はしたくない。

それに、よそ見は危険だと理解してもらった方がいいだろう。

あえて子供を避けなかった。

子供は俺にぶつかり、焼き鳥串で俺のズボンの股間辺りを汚した。

「あっ‥‥」

子供は少し泣きそうな顔をしていた。

俺はかがんで目線を子供に合わせた。

「よそ見して走っていたら危険だぞ。気を付けてな」

俺はそう言って頭をポンポンとしてやった。

「あ、うん‥‥ゴメンナサイ」

「おっ!偉いぞ!ちゃんと謝れるんだな」

子供は少し笑顔になった。

いい子じゃないか。

この町はきっと良い町だ。

そう確信した。

俺は立ち上がった。

既に股間の汚れは綺麗に消えていた。

俺はこの世界にオリハルコンアメーバ人間の神として転生してきている。

衣服は全て体の一部なのだ。

そんな訳で服に付いた汚れや傷は、一瞬で元に戻す事もできるのです。

「じゃあな!」

俺はそう言って子供と別れた。


町の出入口は、アルカディアのように住民カードチェックが行われるような事はない。

一応門番は立っているけれど、特に怪しい者以外はスルーと言った感じか。

「おいお前!見ない顔だな」

いきなり声を掛けられてしまった。

ここでキョドると怪しい奴と思われそうなので、これは冷静に対応する。

「あ、ああ。お、俺か?俺は萬屋ぼったくりで三日前から働いている者だ。よろしくな」

少しキョドってしまったじゃないか。

意識するとやっぱり駄目よね。

「ほう。萬屋か。せいぜい長生きするんだな」

「ありがとう」

どういう意味だ?

でも想像はできるか。

こうやって町を歩いてみたが、強そうな奴ってほぼいない。

今の門番ですら、猫蓮の足元にも及ばないだろう。

つまり萬屋ぼったくりは、この町で命の危険がある仕事を一手に引き受けている可能性があると思える。

昨晩の仕事でも、おそらく今の門番クラスじゃ成し得ない。

もしかしたら萬屋に従業員がいなかったのは、みんな死んだからじゃないだろうか。

それで俺たちが召喚された。

でもこんな召喚ができるなら、死ぬような奴を従業員にしなくてもいい気がするな。

いやおそらく召喚は最近できるようになったばかりか、或いは大きな代償が伴うに違いない。

狛里は強いけれど、俺を召喚する事なんて普通は無理だろうから。

大抵異世界に召喚される時って、大きな儀式によるものだ。

それを狛里一人でやっている訳だからな。

その辺りは追々本人に聞くしかないか。

とにかく俺は町を出て、昨晩行った森へと向かった。


森に到着すると、結構な数の冒険者が仕事をしていた。

川には渡し船があったので、アレでみんな渡ってきたのだろう。

この辺りはどうやら冒険者の仕事場のようだな。

そして川がある事によって、町は魔獣から守られているといった感じか。

今は昨晩よりも魔獣は少なく、しかも弱そうなのしかいなかった。

魔物は夜行性のが多いからな。

ただこの世界で、魔獣と獣の違いってまだよく分かっていない。

何処で線引きしているのだろうか。

魔力を使うのが魔獣で、そうでないのが獣なのかねぇ。

その辺りは覚えていたら、帰ってから誰かに聞いてみよう。

俺は更に南へと下った。

昨日魔法の実験をした場所を過ぎて、更に山へと近づいて行った。

『此処より奥は行かない方がいいって狛里が言っていたのね』

『そうなのです。冒険者ギルドにもそのような注意書きが貼ってあったのです』

『お前ら冒険者ギルドに入ったのか?』

俺は萬屋ぼったくりの従業員だから、冒険者ギルドに登録するという選択肢は考えていなかった。

でも自由に動けるこいつらなら、ギルド登録して仕事をするのもアリかもしれない。

『建物内を見て回っただけなのね。アルカディアの冒険者ギルドと大きな違いはなかったのね』

『そうなのです。ただ魔法機器はなかったのです。かなり遅れているのです』

『そうなのか。ところでお前たちの格好だと、怪しい目で見られなかったか?』

今の所少女隊のような派手な衣装はあまり見かけない。

メイドはいるだろうから無い服装ではないと思うが、少し戦闘用に改良された感じだからな。

『大丈夫なのです。ちゃんと影の中に入っていたのです』

『妃子たちは影人間なのね。忘れてもらっちゃ困るのね』

忘れても大して困らないと思うけどな。

どうしてこういう時、『忘れてもらっちゃ困る』なんて言うのだろうか。

無能に見ないでくれって事だろうかね。

『そうだったな。さてそろそろ山だ。お前たちも出てきて一緒に素材集めをするぞ』

『仕方ないのね』

『菜乃たちも大人だから仕事はするのです』

こいつらとは長い付き合いだけれど、ようやく仕事をしてくれるようになったな。

まあこの世界に来る条件にしたからだろうけれど。

俺の神としての出張が決まって、誰を異世界に連れて行くか迷った。

みゆきは子育て中だし、まずは妖凛が確定した。

もう一人は叔母の賢神かリンドヴルムの七魅にしようかと思っていたが、どうしてもこいつらは離れたくないと言ってきたんだ。

そこで『ちゃんと働く事』を条件に連れてきたんだよな。

約束を守れるとは、感心感心。

「それで何をするのね?」

「太陽の光が眩しいのです!まずは休憩をするのです!」

出てきていきなり休憩かーい!

期待を裏切らない奴らだな。

別にいいけどさ。

「俺はとりあえず山に入る。お前らは休憩が終わったらついて来いよ」

「嘘!嘘なのね!」

「一緒に行くのです!」

こうやってなんだかんだ一緒にいたがるから可愛いんだよな。

「それでお前ら、此処には来たのか?」

「二日目に一度来てるのです」

「でも弱い魔獣がいただけなのね」

こいつらにとっては、おおよそほとんどの魔獣は弱いだろう。

だからその言葉を鵜呑みにはできない。

それに魔獣しか見てないからなぁ。

俺が今日ここに来た目的は、金属や鉱物素材を探す為だ。

この世界でもオリハルコンやミスリル、アダマンタイトと言った武器防具に使えるモノがちゃんとある。

他にもプラチナや金、銀などはアクセサリーの作成には欠かせない。

宝石類は当然魔石の代わりとして、魔道具作成に必要となる。

萬屋やるなら集めておきたいよな。

「宝石や金も集めていたみたいだけど、それは何処で集めたんだ?」

「この奥には、死んだ冒険者の亡骸がいっぱいあったのね」

「持ち物から全部拝借したのです」

こいつら死体あさりをしていたのかよ。

でも放置していても勿体ないしな。

それはそれで使わせてもらおう。

俺たちは山をドンドン登っていった。

なるほど少女隊が言うように、所々に人の亡骸がある。

死んでそれほど経っていないものはあまりなく、白骨化して原型をとどめていないものがほとんどだった。

「この辺りのは全部回収したのね」

「そうなのです。お金のほとんどは菜乃たちのお小遣いなのです」

やっぱりな。

どうも素材に比べて金が圧倒的に少ないと思ったよ。

でもまあ働かざる者食うべからず。

俺は何もしていなかったのだから文句は言えない。

ギャラは狛里から貰ったしな。

でも少女隊プラスが手に入れた金はそれぞれの物で、俺が貰ったギャラはみんなで分けるってのは何か違うような気もする。

「お前ら!俺たちは一心同体なんだから、全部山分けが基本だろうが!」

「きゃー襲われるのね!」

「あーれー!駄目なのです!」

そんな訳で俺たちは、久しぶりにプロレスを楽しむのだった。


俺たちのプロレスはそんじょそこらの遊びとは違う。

マジレスリングだ。

だから終わった時には地形も変わるくらいに激しい。

気が付くと辺りは原型をとどめてはいなかった。

そのおかげか、土の中に眠っていた金属や鉱物、或いはお宝までもが地表にさらされていた。

「おっ!この辺りは結構色々あるじゃないか!」

「多くの冒険者がこの辺りで死んだのね」

「武器や防具、宝石やお金が沢山あるのです」

少女隊はそれらを、嬉しそうにそして狂ったように回収していた。

こいつら何かを集めるの好きだからな。

アルカディアでは魂を集めるのが好きだったけれど、この世界じゃそういう概念がない。

魂という言葉はあるけれど、その存在は確認できない世界なのだ。

「うひょー!ミスリルの原石もあるな。武器防具が作り放題だぜ!」

俺も案外少女隊と同じだった。

一心同体だからね。

似てくるのは仕方がないだろう。

三十分ほど俺たちは、夢中になってあらゆるものを回収していった。

「だいたい回収したかな?」

「もうお腹いっぱいなのです」

「百年はこの世界で遊んで暮らせるのね」

流石にそこまでじゃないだろうけれど、俺の加工魔法を使えばそれくらいは稼げるかもしれない。

「じゃあそろそろ帰るか」

俺がそう言うと、何故か少女隊たちは笑顔で俺の後ろを見ているようだった。

「どうかしたのか?」

俺はそう言って振り返った。

するとそこには、巨大な熊のような魔獣が三体立っていた。

「大熊魔獣なのね」

「この辺りは出るから危険って言われているのです」

なるほどな。

こいつが出るからこの辺りには死体が多かったのか。

そして山に入らない方が良いと言われる理由。

でも俺たちの敵となるには三百光年は早いな。

距離の単位とか突っ込まないでねw

不可能を表す言い回しだからさ。

さてどうしようか。

次の瞬間にはミンチにもできるんだけどさ、最近熊を殺すと五月蠅い人が多いんだよ。

だけど殺しておかないと、冒険者が命を落とす可能性が高まる訳で。

やはり人命第一だな。

俺は妖糸で大熊魔獣を斬り刻んだ。

一体は肉と毛皮と骨に綺麗に分けて、後の二体は首チョンパでそのまま持って帰る事にした。

俺はそれらをサクサクと異次元へ収納していった。

「今夜は熊鍋かな」

「策也タマは魔獣を食べないのです」

「この世界だとどうなんだろうな?」

「聞いてみるしかないのね」


という訳で‥‥。

俺は狛里の所に戻ると、早速魔獣と獣の違いを聞いてみた。

「大熊魔獣の肉を持って帰ってきたんだが、これは食べられるのか?」

そう言って肉を見せると、狛里はあの時のように凄く嫌そうな顔をしていた。

はいはい、食べられないのね。

いや食材として扱っているから食べられなくはないけれどきっと不味いのだ。

「魔獣の肉は‥‥不味い‥‥獣の肉は‥‥美味しい‥‥」

「つまり魔獣と獣の違いは、肉が美味いかどうかだと?」

「その通り‥‥」

肉の味だったかぁ~‥‥。

でも不味いって知ってるって事は、食べた事があるんだよな。

あの熊は大きいだけで魔石も無いし、割と俺でも食えそうな見た目だった。

食わず嫌いは良くないし、一度調理してみるか。

「ちょっと料理してみる」

俺は狛里の困り顔をよそに、厨房に移動して調理魔法を発動した。

果物や色々な調味料を使って料理してゆく。

さて美味しいものは出来上がるのだろうかね。

魔法なので、寝かせる時間は不要だ。

その辺りも含めて調理魔法には効果がある。

つまり敵を調理魔法にかければ、それで倒す事も出来るかもしれない。

美味しくなっちゃっても、人相手だと食べたくはならないけどね。

転生前の世界では、近年まで人を食っていた国が近くにあったんだけどさ。

料理は問題なく完成した。

この前作った生姜焼きに似たものができた。

おそらくこの厨房にある物で作ると、それが一番美味しいのだろう。

俺は包丁で切り分けた。

そして一つ神通力でつまみ上げ口に放り込んだ。

まあ、特に美味しいという訳ではないけれど、それなりに食べられる物が完成したと言えるだろう。

この世界なら、最悪魔獣でも食えるな。

ん?視線を感じるが‥‥。

ふと横を見ると、狛里が人差し指を口に咥えて上目遣いで俺を見ていた。

食べたそうだな。

「まあまあの味だ。食うか?」

「うん‥‥食べる‥‥」

俺は一切れ神通力でつまみ上げると、それを狛里の口に持って行ってやった。

するとパン食い競争かはたまた親鳥に餌をねだる小鳥のように、それを一瞬の内に口へと収めた。

そして普通に咀嚼して食べていた。

以前作った料理ほどの美味さはないけれど、それなりに美味しそうにしている。

「前のが美味しかったけど‥‥これも普通に美味しい‥‥」

料理なんてものは、不味い食材をいかに美味しく食べられるか挑戦するものでもある。

魔獣の肉の不味さは知らないけれど、これだけできれば上出来だろう。

なんせこれで、おおよそ魔獣の肉でも食べられると思えるからさ。

それに五メートルもある熊一頭の肉だよ。

しばらく肉に困る事もない。

なんて思ってしまったのは、アルカディアで食料危機を経験したからだろうか。

しかしそんな肉も、直ぐに消えてしまう事になる。

それは次回のお話という事で。

2024年10月14日 言葉を一部修正

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