タマムシの町のハッキリとしたルール
タマムシ色の解決と言えば、あまり良い印象を持たない人も多いだろう。
でも世の中のほとんどの事は、曖昧だし見方によって変わるものだ。
ゼロか百かで答えが出せるものなんてまずあり得ない。
知識の無い人はそれを求めたがるけれどね。
例えば誰もが駄目だとする『殺人』ですら、状況によっては正当化される。
差別は駄目だと共通の認識があったとしても、何処までが差別で何処からが区別なのかも定義できない。
どれだけそれが差別だという人が多くても、そうではないという人は必ずいるし逆も然り。
だから裁判所があるし弁護士もいる訳だ。
そして曖昧な部分が大きければ大きいほど、判断は困難になってくる。
結局『ある程度ハッキリしている所を法制化』して、『曖昧な所は道徳や倫理』として残しておくしかなくなる。
差別なんて正に道徳や倫理で対応する所だ。
タマムシ色はタマムシ色として決着させるしかない。
ただしその範囲が広すぎると、それはそれで大変になるけれどね。
殺人にも正当化できる部分はあるからと、理由のある殺人を道徳や倫理の範囲にとどめておいたらどうなるか。
きっと殺人は増えるだろう。
自分の価値観や判断で、自分に都合が悪ければ人を殺しても良いと考える者が増えるからだ。
だから『殺人は駄目だ』と法で定めて、それに正当化できる部分があるかどうかは裁判で決めるという形となる。
無罪から死刑まであらゆる結果を否定しない。
さてさて、では裁判が行われない世界で、民がゼロか百の答えを求めたらどうなるだろうか。
確かに法は、分かりやすく完結で少ない方が良いのは間違いないし、できるだけその方向を目指すべきだろう。
でもやはりタマムシ色の部分は存在する訳で、行き過ぎるとそれはもう困った事になるんだよね。
この日の昼過ぎ、俺たちは東海林王国の王都であるタマムシの町へと到着した。
この町の評判は割と良く『自由な町』として知られている。
しかし最近統治方法が大きく変わって、少し町の様子が変化したという話を聞いていた。
俺たちは防壁門の所で、門番に町の注意事項を聞かされる事になった。
「タマムシの町は以前は自由の町だったんですけれどね。一週間ほど前からいくつかルールが定められているからそれだけは守ってもらいます」
ルールか。
以前はどこぞの町で分厚いルールブックを読まされたなぁ。
また同じような事になるんだろうかねぇ。
「それでどんなルールかしらぁ~?」
「まず、町の中での殺人は理由を問わず全て『死刑』となります」
ほう。
正当防衛だろうと女子供を助ける為だろうと、全部駄目という事か。
「武器の持ち込みは、すぐに使えない状態にしていただきます。布で巻いたりして使用できないようにしておいてください。当然使用も駄目です」
武器の使用携帯は不可と。
異次元収納に入れておけばいいか。
「暴力、強姦或いは強制猥褻、盗み、放火、器物破損、住居侵入は、どんな理由があっても全て鞭打ち百回と懲役十年となります」
これは厳しいな。
つい手が出てしまったとか、助ける為に何かをしても駄目そうだ。
逆に放火に対してはヌルい罰かもしれない。
「以上です。後は以前の通り自由ですので、ゆっくりとしていってください」
この世界にこのルールは、あまりゆっくりはできないかもな。
秩序を維持しているのは『正義の暴力』でもある。
もちろんこの町にも警備兵はいるだろうけれど、一般人の正義もあるからこそ社会は機能するんだ。
悪い事をすればそこにいる誰かに成敗されるかもしれない。
他人の視線が犯罪を抑止している所もある。
でも誰も何もできないとなると、抑止効果が薄れるような気がする。
尤も、おそらくは道徳倫理がしっかりとしている町なのだろう。
でないとそれ以前の町が、好意的に『自由な町』なんて言われる事はない。
ただその中でこのルールが作られた。
道徳倫理が崩れてきたからルールが決められたと考えるべきか。
俺たちは一度防壁門から離れて、武器の装備を外していった。
「私‥‥武器と服‥‥一緒‥‥」
「流石にそれは大丈夫だろう。武器にしなければいいだけだ」
「うん‥‥裸で‥‥町に入るのは‥‥ちょっと恥ずかしい‥‥」
そういえば強姦は駄目だけれど、公然猥褻は良いみたいだな。
狛里の裸がそれに当たるかどうかは分からないけれど。
うちのメンバーは皆異次元収納ができるので、準備は簡単に終わった。
改めて俺たちは防壁門を通り、町の中へと入っていった。
中は普通に良さそうな町に見える。
王都だし人も多そうだ。
だけど少し人々の表情が疲れているように見えた。
ルールができて一週間か。
そう考えるとますます人々の顔が冴えない気がしてしまうな。
あまり考えないようにしよう。
町を歩き俺たちはいつも通り観光気分だ。
店で美味しそうな物を買って食べたり、名産品なのか変わった物があればそれも入手していた。
「コレを買ってみたのです!どうですか?可愛いですか?」
想香は買ったばかりの髪飾りを付けてみんなに見せびらかしていた。
「とても可愛いと思います」
「そうだな。マイと違って想香は可愛いよ」
「ミィといい勝負であろう」
そういう美花も何か買ったようで、それを髪に付けていた。
若い女の子は髪飾りとかアクセサリーが好きだよなぁ。
というかよくこれだけ若い女の子が集まったものだ。
ちなみに一番年上の俺と同い年の十八歳くらいに見える尾花は、実年齢はまだ二歳だとか。
若すぎるよ。
愛雪が十七歳、狛里と舞月が十六歳、想香と天冉と美花が十五歳となっている。
いやぁ~、これからが楽しみなメンバーだねぇ。
俺はそんな事を考えながら、姦しい娘たちを眺めていた。
すると想香が付けていた髪飾りが外れ、それが地面へと落ちた。
想香はそれを拾おうと手を伸ばす。
そこへ突然、奇声を上げながら猛スピードで子供が走ってきた。
「うっひょーいっ!」
「何事ですか?!」
想香は声に驚いてそちらを見た。
皆の視線もそちらに移る。
するとその子供は、想香の落とした髪飾りを拾って手を上げた。
「落ちてる物は拾った人のもんだ!じゃあな!」
そういって子供は走ってその場を離れて行く。
一瞬の出来事に皆唖然としていた。
全くしょうがねぇなぁ。
「スティール!」
俺は魔法で子供から髪飾りを取り返した。
子供は気づかずそのまま走り去っていった。
落ちている物は拾った人の物ねぇ。
「本当に、ルールができてからああいうのが増えたよなぁ」
「駄目だと決まった事以外は何をしても良いと思っていやがる」
一連の出来事を見ていた町の人がそんな事を言っているのが聞こえた。
ほう、ルールができてそんな事になっているのか。
下手にルールを決めると、そういう風に考える馬鹿も出てくるんだよ。
赤信号と青信号の間には、黄色信号以外にも無限の色が存在する。
世の中は基本的に何をするにも自由だ。
だから何かを禁止するルールってのは赤信号を決めるもので、世の中は赤信号だけが存在する道と言える。
でもそれ以外全て青信号という訳ではない。
道徳や倫理によって限りなく赤に近いものから、むしろやるべき青まで色々とあるのだ。
或いはルールで決められていない赤信号もあるだろう。
なのにルールができると、それが赤信号の全てだと勘違いする。
赤か青かでしか判断できない奴ってのもいるんだよな。
そして多くの人が、赤か青かをハッキリさせたいと思っている。
その方が分かりやすいから。
でも世の中ほとんどがタマムシ色だ。
知識の無い人は特にそれが分からない。
だから教育が必要なんだよな。
まあ相手は子供だったし、今回は仕方がないか。
「想香!ホイッ!」
俺は髪飾りを想香に投げて渡した。
「ハッ!あっけに取られてフリーズしてました。というか何故策也さんが髪飾りを持っているのですか?子供が持って行ったように見えましたか?」
もしかして拾った物を持ち逃げしようとした奴から取り返しただけでも罪になったりはしないよな?
あの子供の言う通り拾った人の物になるなら、俺は子供から盗んだ事になるのだろうか。
だったら‥‥。
「いや、子供が拾う前に先に拾っておいたんだよ」
ちょっと苦しいか?
「そうですか。子供の手に赤い髪飾りが見えたのは気のせいだったようです」
「そうそう気のせい気のせい」
みんなには完全にバレているな。
とは言え証拠も何も無いし、とりあえず百叩きと懲役十年は回避できるだろう。
そんな訳で俺たちは、何事もなかったかのように観光気分を続行した。
さてしかし、次のトラブルがすぐにやってくる。
なるほど人々が疲れた表情をしていたのが分かるよ。
既に俺もうんざりだ。
眼の前で若い女性がイカレた男に襲われていた。
しかし誰も助けようとせず、ただ騒いでいるだけだった。
「おい!誰か警備兵を呼べ!」
「警備兵が見当たらないんだよ!」
「誰か助けてください!」
「つっても暴力は百叩きと懲役十年が確定だからなぁ‥‥」
「誰かなんとかしてやれよ!」
おいおいマジかよ。
女性が助けを求めているのに、これだけヤローがいて何もできないとか。
「猫蓮!念力だ!」
「分かったお!任せるお!」
念力なら誰にもバレずに何かを頭にぶつけてやる事くらいできるだろう。
と思ったのだが、猫蓮は何を思ったのか女性の体を動かして男を投げ飛ばしていた。
男は十メートルほど飛ばされ、地面に叩きつけられた。
おいおい、死んでないだろうな。
「おん‥‥な‥‥」
男は血まみれで立ち上がろうとしたが、再び倒れた。
生きてはいるみたいね。
そこにようやく警備兵一人がやってきた。
「今度は何事だ?」
警備兵の台詞には、『全く次から次へと』みたいなニュアンスが含まれていた。
かなりお疲れのご様子で。
「あ、あ、あの‥‥」
女性は喋れずにいた。
そこに町の人が割って入った。
「この女性があの男性に襲われていて、そしたらこの女性があの男性を投げ飛ばしました」
「あ、あの、体が、勝手に‥‥」
「新しいルールにより、両者逮捕させてもらう」
うわぁ~‥‥。
「猫蓮ひでぇ~‥‥」
「オデが悪いのかお?」
「念力で石でもぶつければ良かったのにな」
「オデのミスだお‥‥」
猫蓮、やけに素直だな。
まあ冗談は置いといて、このままじゃ洒落にならないよな。
さてどうするか。
「ちょっと待つお!オデがその女性を魔法で操作して男を投げ飛ばしたお!悪いのはオデだお!」
おおっ!猫蓮男らしいぜ!
自ら百叩きの刑を受けようとか、前からドエムだとは思っていたけれどやはりそうか。
「そうなのか?」
「その女性も体が勝手に動いたと言っているお!間違い無いお!」
「ならばお前!一緒に来てもらうぞ」
「分かったお」
猫蓮は警備に後ろ手にされて、縄で縛られていた。
どうしようか?これ?
「ちょっと待ってください!」
声を上げたのは愛雪だった。
流石にご主人様がそのまま連れて行かれるのは見ていられないか。
「先輩!豚箱生活は苦しいでしょう。コレをお持ちください」
愛雪はそう言って、この世界のうまい棒的なお菓子を猫蓮に渡した。
「ありがとう。嬉しいお‥‥」
一瞬期待した猫蓮は少し泣いていた。
これには俺も目頭が熱くなったよ。
「ところでさぁ?警備のおっちゃん。誘拐ってのはこの町じゃ罪にならないよな?」
「ん?誘拐だと?そりゃルールにはなかったと思うが‥‥」
その手があったか。
舞月ナイス!
「だったら連れ去るであろう」
「いやちょっと待て?人を盗むって風にも言えるような‥‥」
考える時間を与えては駄目だな。
俺は猫蓮の下に深淵の闇を作ってそこに落とした。
「今誘拐は良いって言ったわよねぇ~?」
「間違いなく言った。我は聞いたぞ」
「ええ、確かに」
「なんだ誘拐はオッケーなのか」
天冉や陽蝕の言葉を受けて、襲われていた女性や町の人も同調してくれた。
猫蓮が良い男だったからな。
人々の心を動かしたんだ。
いやぁ~感動だね。
「いや良いとは‥‥」
「じゃあみんな解散するわよぉ~」
「めでたしめでたしだな」
狼狽える警備兵と血まみれの男を残し、俺たちは早々にその場を去った。
「危うく‥‥猫蓮ちゃん‥‥取られる所‥‥だった‥‥」
「先輩を取られたら、アイたちはどうしたらいいのやら」
「まあいなくてもそれはそれで良かったかもしれないけどな」
「むしろ自由になれたであろう」
みんな軽口を叩いてはいたけれど、なんだかんだ良かったという気持ちが伝わってきた。
こんなに慕われるようになっていたのか、猫蓮。
これは聞かせられないな。
もうしばらく深淵の闇の中で孤独を味わってもらおう。
冒険者ギルドに到着するまで俺たちは、猫蓮抜きで観光気分を味わった。
幸いその間変なトラブルに巻き込まれる事はなかった。
「酷いんだお!何も無い闇に落とされたんだお。早く出してほしかったんだお」
「いや悪い悪い忘れてたんだよ」
深淵の闇は現在、四ヶ所の管理が可能となっている。
一つは闇の家。
次に魔法実験場。
そして妖凛のぶっ飛び施設。
ここに飛ばされた者は、妖凛の裁量で深淵の闇に放流される場所ね。
島流しとも言う。
そして黒い箱によって得られた深淵の闇の座標には、酸素を維持するだけの大きな結界空間を作っておいた。
黒い箱によって間違って仲間が飛ばされても、すぐには死なないようにする為のものだ。
ただし深淵の闇を知らない者にとっては、空気があるだけで深淵の闇と何も変わらない。
この空間のコントロールは俺にあるから、結界を解除して無酸素状態にする事もできる。
今回は試しに猫蓮をそこに飛ばしてみた訳だ。
「でも酸素はあるし死ななかったみたいだな」
「良かったお。話を聞いていなかったらパニックになっていたお」
深淵の闇の事は、当然みんなに話してある。
そして黒い箱も、陽蝕と舞月に渡してあった。
「じゃあとりあえず冒険者ギルドで食事するわよぉ~」
「はーい!」
こうして冒険者ギルドへと到着した俺たちは、とりあえずいつものように食事をするのだった。
食事が終わる頃、予想通り俺たち萬屋ぼったくりに近づいてくる者があった。
やはりこの町でも何かしらの依頼をされるのだろう。
そう予想はしていたけれど、近づいてきたのはギルドマスターではなさそうだった。
何人かの騎士を連れた、ちょっと偉そうな白髪のイケメンだった。
「旦那様。かなりの使い手じゃ」
「そうか‥‥」
魔力はさほど感じなかったけれど、強い奴ほど魔力を隠すのが上手いと言われている。
狛里は全くだけれどね。
でもこの距離なら、尾花の探知の前では隠しきれなかったようだな。
「こんにちは。ちょっとよろしいでしょうか?」
見た目は偉そうだけれど、言葉遣いは割と丁寧なイケメンだな。
「何かしらぁ~?」
「僕はこの国の第一王子、東海林久美と申します。貴方たちは萬屋ぼったくりの方々ですね?」
なんと、東海林の第一王子か。
そう言えばこの国は王子一人で守られているとか、そんな話もあったな。
なるほど納得だ。
などと驚いていると、周りで食事をしていた冒険者も皆驚いていた。
「なんだと?!東海林久美だと?」
「食事をしている方は萬屋ぼったくりか!?」
「最強と言われる萬屋狛里はどれだ?」
「あの小さい子から大きな魔力を感じるぞ?」
「お前分かるのか?」
「まあ少しはな」
一気に騒がしくなってしまったな。
見た目は知らなくても、名前だけは皆知っているのね。
「そうだけど、王子様が直々にどうされたのぉ~?」
「ちょっとお話があります。ギルドの奥に部屋を用意しておりますので、皆さんそちらまで来ていただけないでしょうか?」
またギルドの応接室かな。
ワンパターン過ぎるだろ?
偶には城までご足労願うとか、秘密のバーとか隠れ家に連れて行ってほしいものだ。
「分かったわぁ~。それじゃみんな行くわよぉ~」
「ではこちらへどうぞ」
みんなもう慣れたもので、久美の促すままギルドの奥の部屋へと移動した。
どこのギルドも部屋の作りは似たようなもので、俺たちは迷わず部屋へと入っていった。
すると何やら魔力を感じた。
部屋に仕掛けがしてあるな。
「旦那様。これは魔封じの結界とテレポテーション阻害じゃな」
「ああ。でも問題ないだろう」
魔封じと言っても以前経験した魔力激減のものと同じだし、テレポテーションなんて使わなくても逃げる方法はいくらでもある。
それにこれは多分俺たちを捕らえるというよりは、警戒しての装置なのではないだろうか。
王子が個室で知らない強者と会って話すわけだからね。
おそらく冒険者ギルドなら、こういう準備は大抵何処にでもあるはずだ。
「魔封じの結界が張ってあるわねぇ~?どういう事かしらぁ~?」
天冉も時々こういうのは気がつくよな。
気づかない時もあるからその辺りよくわからないけれど。
「一応僕も東海林王国を支える王子ですからね。セキュリティをしっかりとさせて貰っているだけですよ。貴方がたに害を及ぼすつもりはありませんからご心配なく」
まあ当然と言えば当然か。
天冉が俺の方を見たので軽く頷いておいた。
なんだかもうこのやり取りも自然になってきたな。
でもあまりやらないでくれ。
陽蝕からの視線が冷たくなるからさ。
いつものように適当にソファーに座ってから、久美との話が始まった。
「先ほど町で騒ぎになっていたのは、貴方がたですよね?女性が男に襲われて、その後その男が血まみれになったヤツです」
「どうだったかしらぁ~?」
「話したくなければそれでも結構ですが、女性が男を投げ飛ばして怪我をさせたという事で、その女性は今捕らえられています」
うわぁ~超絶卑怯過ぎてドン引きだよ。
「あの女性は被害者だお!捕まるなんておかしいお!」
コラ馬鹿!
卑怯者の誘導に引っかかってどうするんだ。
でもこの素直さが猫蓮の良いところでもあるんだよなぁ。
「やはり貴方がたですね」
「だったら‥‥何?‥‥この町の‥‥ルールが‥‥おかしい‥‥」
「でもそうだと知っていて貴方がたはこの町に入った。ならば従うのが道理ですよね?」
「う‥‥策也ちゃん‥‥」
おいおい狛里よ。
簡単に言いくるめられて俺に助けを求めるな。
「それで王子様は、俺たちにどうしろというのかな?」
とりあえず久美の話を聞いてみない事には対応もできんよ。
「萬屋狛里さん。僕と勝負しませんか?僕はこれでも東海林を一人で支える強者として名が売れています。しかしそれ以上に貴方の名声は大きい。このままでは悔しいのでどちらが上かハッキリさせておきたいのです」
さっきの話からなんで狛里との勝負になるんだ?
「私は‥‥かまわない‥‥それで‥‥勝ったら‥‥見逃して‥‥もらえる?‥‥」
「そうですね。このルール自体見直してさし上げますよ。その代わり僕が勝ったら、先程の騒ぎで手を貸した方は罰を受けてもらいます」
よく分からない展開だけれど、狛里が負けるとは思えない。
天冉や尾花の反応から、おそらく強さは天冉のバーサクモードに近い感じだろう。
でも魔力だけが強さではない。
こいつの魔力で何か剣術を極めていたら、物理戦闘では分が悪いかもしれない。
その時は俺が分からないように助けるしかないか。
いやむしろ逆に久美が死んでしまう可能性の方を心配した方がいいかな?
ロイガーツアールをまともに受けたら死ぬぞ。
普通に考えたら絶対魔法防御以外で防ぐ手はない。
使える事を祈るしかないな。
「ルールを見直すなら、例えば人殺しの場合『死刑』ではなく『最大で死刑』という風に変えた方がいいぞ。無罪から死刑まで幅を持たせれば状況に応じて変えられるからな」
俺は何を言っているんだ。
この町のルールには見兼ねた所があるからしゃーなしか。
「なるほど。それだと判断する人、或いは機関が必要になりますが、アドバイスはありがたく受け取っておきます」
「そうなんだお。それが裁判官と裁判所なんだお。どんな罪人でも申開きする場所が必要なんだお」
「そちらの意見もありがたく受け取っておきます。では決闘は明日でよろしいでしょうか?お互い万全の状態で戦いたいので」
「分かった‥‥それで‥‥時間と場所は?‥‥」
「そうですねぇ。町の東五キロの所にある荒野でどうでしょうか?時間は午後の二時です」
「それでいい‥‥」
「では決定ですね」
こうして明日の二時、萬屋狛里と東海林久美の決闘が行われる事となった。
一体どんな戦いになるのか。
どうして戦う必要があるのか。
多少不安もあったけれど、どちらかというとかなり楽しみに感じていた。
おそらくは対人戦での狛里の本気が見られる、そう思った。
つかこの世界に来てからの最高の戦いになるんだろうなぁ。
2024年10月16日 言葉を一部修正




