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異世界のチートな萬屋店長~一寸神アナザーアフター~  作者: 秋華(秋山華道)
東海林編
42/64

萬屋ぼったくり対ルペン三十三世

自分は人に騙されたりはしない。

なんて思ってはいても、騙される人は後を絶たない。

どうして人は騙されてしまうのだろうか。

騙す方法は無限にあって、その全てを理解できる人はいないから。

例えばあからさまなオレオレ詐欺電話がかかってきたとしよう。

これは詐欺だとすぐに気がつく。

だから『詐欺だろ!』と怒鳴りつけて終わりだ。

しかしその後、『いや~バレたか』と言ってその相手が実際の知人だと白状してきたらどうなるだろうか。

オレオレ詐欺電話は単なるネタだったとなる。

そして『実は金が必要で貸してほしいんだよ』とかって話になったら。

『仕方ねぇなぁ。貸してやるよ』となる人もいるだろう。

でもそれも罠で、それは知人本人ではなかったり、或いは知人本人だったとしても姿をくらませたり。

俺が転生する前にも、実際に似たような話があった。

騙された人は言う。

『気がついたら金を出していた』

すぐに騙されたと気がついたけれど、もう遅かった。

返しにくる事を待ってはいたけれど、結局その後その知人には会えていない。


俺たちは、ルペンが来るであろう犯行予告時間になるのを待っていた。

室内は昼間に確認した時と何も変わってはいない。

俺も尾花もそう感じているのだから間違いはないだろう。

少女隊は念の為、町の気になる所に放ってある。

だから一応俺も、魔封じの結界と拘束する為の魔法は使えるようにしておいた。

宝物殿の部屋に窓はなく、入口は一箇所。

木彫りの熊付近には増田と側近の護衛執事がいる。

その周りを警備兵が守る。

警備兵は入口付近も固めている。

俺たちはその他の護衛係たちと一緒に、部屋の壁際に立っていた。

この部屋には現在、テレポテーションを阻害する結界が張られている。

建物自体も強化されており、並の使い手だと壁を破壊して突破するのは無理だろう。

でもおそらくルペンは、それくらいできると思う。

テレポテーションが封じられている以上、警戒すべきは壁の破壊と高速移動か。

或いはテレポテーションの為に、まずはその結界を破壊してくるかもしれない。

この現状、おそらく盗むのはそんなに難しくはないだろう。

ただどうやって逃げるかだ。

期待しているぞ、ルペン。

俺は物語を読むような気持ちで待っていた。

時間が刻一刻と迫ってくる。

時間になったら灯りが消えたりするのかな?

あの漫画でやっていたように、時間まで目を閉じて待機しておいた方がいいのかね。

一応夜目は利くけれど、急な明るさの変化があればやはり見にくい訳で。

俺は目を閉じだ。

見えなくてもその他の感覚でなんとでもなると思うけれど、できることはやっておいた。

あと五秒、四秒、三秒、二秒、一秒‥‥スッと部屋の魔力が落ちていくのを感じた。

マジで灯りを消したか?

目を開けたら部屋は明るかった。

そして何処からともなく現れた何者かが、別の宝物を持っていた。

「雀の涙を盗むと見せかけて、本命はこっちだったんだよ!」

その者は宝箱のような物を抱えて出口へと向かった。

「捕らえろ!ルペンだ!」

「逃さ‥‥ない‥‥」

「僕が捕まえるのです!」

「オデに任せるんだお!」

増田の声に、皆が一斉にその者へと向かう。

その時尾花が声をかけてきた。

「旦那様!雀の涙の魔力が消えた!」

「おっ!マジかよ!」

別の所に気を反らせて人の目を欺くのはマジックの常道じゃないか。

してやられたか?!

でも魔力が消えただけで、木彫りの熊はまだそこにある。

なのに何故魔力を発していない?

盗まれたんじゃない?

いや偽物と入れ替えたのか?

今?じゃないよな?

今盗まれたように演出しているけれど、入れ替えたなら本物の魔力は消失しない。

俺のフィールド内を移動した魔力も無い。

何時から入れ替えられていたんだ?

もしかしたら俺たちが最初にここに来た時には、もう既に盗まれすり替えられた後だったのかもしれない。

「ご主人様!魔力計測器に反応がありません!この木彫りの熊は偽物です!入れ替えられています!」

声を上げたのは側近の護衛執事だ。

「なんだと!?」

増田はショックの表情を見せていた。

なるほど、そういう事か。

狛里が宝箱を持ち去ろうとしていた者を捕らえた。

「残念でしたー!」

捕らえられたそいつは、そう言ってからただの人形へと姿を変えた。

「これはゴーレムなのです!」

「騙されたんだお!悔しいお」

こりゃまんまとやられたって感じだな。

だけど異世界とはいえ神を相手にしているのだよ。

ルペンに勝利はない。

「策也ちん、どう?」

天冉が横に来てそう声をかけてきた。

どうやら天冉はある程度分かっていそうだな。

「八割方犯人は分かったよ。まだこの部屋にいる。ただ証拠と本物の雀の涙の確保はこれからだ」

俺の言葉を聞いた天冉は、前に歩み出ながら手を叩いた。

「はいはい~!皆さん落ち着いてぇ~!この部屋は密室よぉ~!犯人が盗みに成功していたとしても、まだこの部屋にいるわよぉ~」

その言葉を聞いて、皆が落ち着き辺りを伺い始めた。

「まだこの部屋にいるってのは本当なのか?」

顔面蒼白といった感じの増田だけれど、少しの期待にすがるように天冉に歩み寄った。

「はい、いるわよぉ~!でもまだ証拠はつかめてないのよねぇ~。だからこれから証拠を掴んで、盗まれた雀の涙を確保しま~っす!」

増田は天冉の言葉に、一つ息を吐いた。

どうやら第二の容疑者だと思っていた増田は違うようだ。

そもそも増田にはメリットもなさそうだしな。

ただ犯人の演出に協力するような命令を出しただけだ。

持ち主なら当然言うだろう事だし、除外していいだろう。

「それでは今から、一つずつ整理していくわよぉ~!まずは現状からねぇ~!この部屋のセキュリティ魔法の中でテレポテーションの阻害魔法だけ何故か解除されているわねぇ~」

「そうなのか?」

「ええご主人様。おそらくルペンの仕業かと思いますが、解除されているようです」

ポイントはそれだけが解除されているということだ。

おそらく犯人は、テレポテーションで逃げる事を考えている。

しかしまだそれを実行はしていない。

「次に盗まれた、或いは入れ替えられたとされる木彫りの熊ですがぁ~、それを守る為の結界は今も生きているわねぇ~」

つまりスティールや念動力(テレキネシス)によって盗まれる事は考えられない。

ちなみに念動力、或いはテレキネシスは、物を自由にテレポートさせる能力だけれど、この世界で使えるかはまだ分かっていない。

ただスティールなど自分以外を瞬間移動させる魔法が使えるので、その応用と考えればおそらく存在する魔法だとは思う。

「しかし今そこにある木彫りの熊からは魔力が全く感じられない、つまり偽物と言えるわねぇ~」

「やはり偽物にすり替えられているのか‥‥」

「ご主人様、大丈夫ですか!?」

増田は膝を落とし、そこに護衛執事が歩み寄って気遣っていた。

「ではこれが何時どのようにすり替えられたのかぁ~?まず時間丁度にゴーレムが別の宝箱を盗み皆さんの気を逸らせたわねぇ~」

そう、みんなの意識を木彫りの熊から逸らす為の演出だ。

「増田さんの『捕らえろ!ルペンだ!』が引き金になったのよねぇ~。だから私は最初、増田さんの自作自演を疑ったわぁ~」

俺もそう思った。

しかし俺はある程度嘘が見抜ける。

盗まれた後の増田は心底ショックを受けている様子だった。

よって増田は白だ。

「でも私を含めて何人かは意識を逸らさなかったわぁ~」

悪い、俺は少し逸らせてしまった。

尤も尾花に任せていたからではあるんだけどさ。

言い訳じゃないよ?

マジで!

「そしたら木彫りの熊の発する魔力はその場にありながら消失したのよねぇ~」

「つまり最初から置かれてあった木彫りの熊は偽物で、この時間に魔力が切れるように細工されていた?」

陽蝕もそれくらいは想像できたか。

とにかく犯人は、テレポテーションを阻害する防衛システムの対応にせよ木彫りの熊の細工にせよ、事前にちゃんと準備をしていたって事だ。

「おそらくそんな感じねぇ~。でも気を逸らされた者たちは、みんな盗まれた、入れ替えられたと思うわよねぇ~」

「それが‥‥狙い?‥‥」

「卑怯な奴ですね!九日の十一時に盗むと言っておきながら、実際はその前に盗んでいるのです!」

でも想香、ルペンの予告状には『夜の十一時』とは書かれていなかったんだよ。

「そうねぇ~。ルペンはもっと早くに木彫りの熊を偽物と入れ替えていたのよぉ~。更に偽物の魔力がこの時間に切れるようにしてぇ~、そして逃走ルートだけは確保していた‥‥」

「それができるのは‥‥もしかして‥‥増田ちゃんの‥‥護衛の人‥‥」

「そしてまだゴーレムが捕まる前からぁ~、『本物では無く入れ替えられている』と声を上げている人がいたわよねぇ~。魔力を感じられない人があのタイミングで計測するのは不自然よぉ~」

「最初から偽物と知っていないと無理なんだお」

「いえずっと‥‥」

「ずっと計測し続けていたのぉ~?それこそ不自然よねぇ~。絶対に無いとは言えないけれどぉ~、見ていれば盗まれていないのなんて分かるはずだものぉ~」

最初から偽物で、その魔力も十一時に消失すると知っていなければ、計測し続ける意味はない。

「私は魔力が消失した事に気がついて、だから計測して確認したのです」

「何故計測する必要があるのかしらぁ~?魔力が感じられるのなら、それをそのまま伝えれば良かったんじゃないのぉ~?」

「それは、ご主人様に証拠として‥‥」

「信頼されている側近の言う事に証拠が必要なのかしらぁ~?」

「お前‥‥魔力は感じられないと以前言っていたよな?」

あら、そんな事を増田に言っていたのね。

この護衛執事が犯人である証拠はなかったけれど、嘘をついた事でほぼ確定だな。

尤も、ゴーレムをコントロールしていた魔力とこいつの魔力が一致する以上、最初からこいつだけは俺の中で確定だった訳なんだけれどね。

証拠にはならないけれどさ。

「いやいやお見事。流石は萬屋ぼったくりだ。そうでなくちゃ私が勝負を挑んだ意味がないよ」

護衛執事はそう言いながら部屋の中央に歩み出た。

とうとう白状するか。

「しかし萬屋は狛里だけのパーティーではなかったんだね。頭脳面では天冉姫がおられたと」

「私の事ご存知なのねぇ~。でも、萬屋はそれだけでもないわよぉ~」

「そうなのか?でもそんな萬屋相手に勝ったのは私だ。盗みは既に成功させているし、私も間もなく去らせてもらう」

ルペンはそう言って姿を変えた。

その姿は、人々に言われている通り、確かに六歳くらいの子供だった。

そしてその水色の髪には見覚えがあった。

少女隊が合体した北都尚成を子供にしたらおそらくこんな感じになるのだろう。

そう納得させられる容姿だった。

「可愛い子どもになったのです!そして確かに北都尚成っぽい気がしますね」

「水色の髪とその魔力‥‥そう言われても不思議じゃないお。オデよりもチートだお!」

「そう。私にはこれだけ強力な魔力がある。まさか萬屋狛里が私以上の魔力を持っているとは計算外だったが、それでも逃げるだけなら問題はない。私の勝ちだ」

確かに逃げるだけなら、このメンバーからでも逃げられるんだろうな。

俺のフィールド魔法による効果があったとしても、この場でルペンは捕まえきれない。

『策也タマ、全部確保したのね!』

『仲間は三人いたのです。木彫りの熊は四つあったのです』

そうか、少女隊が確保したか。

『よくやった。そのまま闇の魔法訓練場に閉じ込めておいてくれ』

『分かったのね!』

『分かったのです!』

『お前たちはそいつらがいた部屋で予定通り待機だ』

『余裕なのです』

『心配いらないのね』

昼間町を歩いている時に気がついたんだよね。

町のいくつかの場所で、木彫りの熊と同じような魔力を感じたんだ。

もしも事前に木彫りの熊を入れ替えているとしたら、おそらくそのどれかが盗まれた物ではないかと考えていた。

どうやらそれがビンゴだったみたいだな。

「それでは失敬させてもらうよ」

おっとこっちをどうするか。

できれば捕らえたいけれど、あまり目立ちたくはない。

それにタイムコントロールはこの世界の神に気づかれるリスクがあるから、できれば使いたくない。

そんな訳で一旦様子見。

テレポテーションでも五百メートルしか飛べないし、おそらく少女隊のいる隠れ家に帰るはずだ。

予想通り、ルペンはテレポテーションで姿を消した。

次の瞬間すぐに、少女隊のいる所にルペンの反応が移動した。

はい予想通り。

『捕まえたのです!』

『深淵の闇に落としただけなのね!』

ルペンも、まさか隠れ家が深淵の闇の中にある魔法実験場に繋がっているとは思いもしなかっただろうな。

「逃げられた?‥‥」

「どうなったのだ?逃げられたではないか!?」

「策也ちん?」

「大丈夫。テレポート先にトラップを仕掛けておいたので、無事ルペンも雀の涙も確保しているよ」

「本当か?‥‥そうか‥‥我が家の家宝は守られたのか‥‥不安なので早く見せてはくれないか?」

家宝だったんだな。

それがどれほど増田にとって大切な物なのか俺には理解できないけれど、まあ守れて良かったよ。

「はいはい」

しかし木彫りの熊を四つとか言っていたな。

物は共用の異次元収納に入れておいてもらったけれど、どれが本物か確認しないと。

「ちょっと取ってくるので失礼するよ。尾花一緒に来てくれ!」

「了解した」

俺は尾花と共に部屋を出た。

そこですぐに木彫りの熊を四つ取り出し、二人で影へと入る。

「尾花。どれが本物か分かるか?」

「あそこに置かれていた物と同じ形で同じ魔力なのはコレじゃ」

『妖凛も‥‥尾花と同じ意見か。ならば間違いないな。ありがとう』

俺は影を出て他の三つは再び異次元収納へとしまった。

そして一つだけ木彫りの熊を持って宝物殿の部屋へと戻った。

増田に渡すと、増田は泣いて喜んでいた。

一応魔力計測器とやらで確認もして納得してくれたようだ。

うん、本人もそれだと思っているのだから、雀の涙で間違いないだろう。

さて後はルペンの方だな。

「ルペンは別の場所で捕獲しているので、後で冒険者ギルドに連れていけばいいか?」

俺は警備兵のリーダーに聞いた。

「はい。そうしていただけたらミッションコンプリートです」

「じゃあ俺はルペンを助けに行ってくるよ」

「助け‥‥に?‥‥」

「捕獲トラップにハマってえらいことになっているからな」

というか、現在魔法実験場で逃げようとして、少女隊におもちゃにされているだけなんだけどさ。

ルペンは確かに強いけれど、少女隊から見れば赤子も同然だから。

「じゃあ助けてくる!」

俺はそう行って宝物殿の部屋を出た。

そして誰もいない所で深淵の闇へと入っていった。

魔法実験場ではルペンが少女隊にボコられ身動きできない状態になっていた。

「おいおい殺したら駄目だぞ!」

「大丈夫なのね」

「死にそうになったら回復しているのです」

それ一歩間違ったら死ぬだろ。

「ルペンもここから逃げる事は無理だ。話をすれば逃がしてやるから大人しくしてくれ」

「もう‥‥魔力も尽きて‥‥動けないよ‥‥。というか逃がしてくれる?」

「冒険者ギルドには引き渡すけどな。でもお前一人なら簡単に逃げられるだろ?」

仲間も捕まえはしたが、全員を引き渡すつもりはない。

引き渡せばみんな死刑にされる可能性があるもんな。

つか他の三人も逃げようとしたのか、疲れてグッタリしていた。

「とりあえずいくつか質問するから答えてくれるか?」

「ああ、それはいいけどあんたは誰だ?」

「俺は萬屋ぼったくの末席メンバーだよ」

「末席がそんなに強い女二人を指揮下に置いているのか?」

少女隊の事ね。

まあ俺はさほど強そうには見えないから、不思議なんだろうなぁ。

「指揮下というか友達だよ。ただ俺の方が少し年上だから従ってくれているだけだ」

「策也タマはしょうがないのね」

「菜乃たちが守ってあげているのです」

いつもの軽口も、こういう時は助かるな。

「そんな訳で話がしたい。ちょっとついてきてくれるか?」

「う、動けない‥‥」

流石にちょっとやり過ぎだろ?

「もう逃げようとしないなら回復してやるけど?」

「た、頼む‥‥」

「そんな訳だから回復してやってくれ」

「全く仕方がないのです」

「もう動けるはずなのね」

回復は一瞬で終わった。

「北都尚成に匹敵する凄い回復魔法だよな」

こいつ、やはり北都尚成を知っているんだな。

というか今の見た目はおそらく北都尚成の六歳の時のもの。

「じゃあ行くぞ」

俺は魔法実験場の隅にある部屋へと移動した。

もしかしたら仲間の三人にも話せない事があるかもしれないしね。

俺は三人掛けソファーの真ん中に座り、両脇に少女隊が座る。

そして正面にルペンが座った。

「じゃあ何でも聞いてくれよ」

「そうだな、まずはなんでルペン三十三世なんて名乗って泥棒をしているんだ?」

この名前の事をすんなり話してくれないとは思うけれど、話してくれるのなら助かる。

「俺はただ貧しい人々を助けたいだけだ。盗んだ物は金に換えて貧困層に配っている。そういう話は既に広まっていると思っていたけどな」

名前の所はあまり意識がなかったな。

ごまかそうとしているようには見えないし、質問が悪かったか。

「お前の力があれば泥棒じゃなくても人助けはできるだろ?」

「チマチマクエストをクリアして稼ぐよりも、こっちの方が手っ取り早い。それに金持ちから奪うのは悪い事じゃないだろ?」

金持ちからなら奪ってもいいなんて、こいつは共産主義者か。

「それでも盗みは良くない。お前の力があればもっと簡単に稼ぐ方法があるじゃないか」

「そんな方法あるのか?」

知らない?

「ドラゴンの巣を襲うとか、盗賊を壊滅させて集めた財宝いただくとか」

「どちらも盗んでいるんじゃないのか?」

言われてみればそうだな。

「善良な民から奪うのと、魔物や悪人から徴収するのは違うだろ」

「私にはドラゴンや盗賊よりも、金持ちの方が悪人に見えるけどね」

考え方によっちゃそういう見方もできるか。

種族が違ってもドラゴンは善良かもしれない。

盗賊も貧しいからこそ、その道にゆくしかなかった社会の被害者。

それでもドラゴンは人間を襲うし、ここはそういう世界だ。

貧しいから何をやっても良いって考えも我儘すぎる。

「確かにお前の言う事は理解できる。でもやはり盗みは駄目だ。萬屋ぼったくりは真面目に仕事をして大金を稼いでいるぞ?とにかく逃がしてやる条件として盗みは辞めろ。でないと次会った時は逃がしてやれない」

「分かったよ。萬屋には負けたし、やる気も失せた」

とりあえず納得はしてもらえたか。

「じゃあ次の質問だ。どうしてお前は北都尚成の姿をしている?」

「へぇ~。これが北都尚成の姿だと知っているんだ?」

「おそらくそうではないかと思った程度だ。でも今の反応からそれで間違いなさそうだな」

「ありゃりゃ。言わされちゃったみたいね」

「で、質問への答えはどうなんだ?」

「よくわかんねぇよ!何故かこの姿になっていた」

嘘か。

「悪いが俺は嘘は分かるんだよ。嘘をつくようなら洗脳して喋らせる事もできるんだけれど‥‥その場合お前は一生こいつらの下僕になるけどいいのか?」

俺は少女隊を指さした。

「下僕ができるのです!」

「こいつを馬車馬のごとく働かせて一生遊んで暮らせるのね!」

これ、冗談や脅しじゃないからな。

少女隊は本気で言ってるから。

「わ、分かったよ。ちゃんと話す。ただ信じられない話だと思うぞ?」

信じられない話か。

となるとやはりこいつは‥‥。

「いいから話してくれ」

「‥‥俺は転生者なんだ」

やっぱりそうか。

「それで?」

「驚かないんだな?」

「他にも転生者を知っているからな」

「そうだったのか。この世界割といるみたいだな。それで転生の際神様に要望を聞かれたのよ。だから私は『転生先の世界で最強にしてくれ』って頼んだんだ。そしたら四歳の時、今の北都村で会った北都尚成に変化できるようになった。能力も完璧にコピーしてね」

「ということは、元の姿は違っていて、戻る事もできるんだな?」

「まあな」

「見せてくれ」

「断りたい所だけど、それは無理そうね」

ルペンはそう言って元の姿へと戻った。

何処にでもいる二十代中頃くらいの男だった。

これなら普段怪しまれる事もないって感じだな。

魔力も一気に落ちてマスタークラスにも満たない。

成長余地もなさそうに見える。

「それでルペンは、北都尚成の事をどれくらい知っている?」

「あいつが村を出るまでに何度か見かけた程度だよ。最後に見たのが四歳だぜ?まだまだ幼子のフリを続けなければ怪しまれる年齢さ」

その程度か。

一応転生者みたいだし、神候補の可能性もあるんだよな。

だけど能力が六歳の北都尚成に変化できるだけって事は、おそらくもう成長はない。

この世界の神を倒すのは不可能か。

「聞きたい事は以上だ。仲間はすぐに開放してやるけれど、お前はとりあえず冒険者ギルドに引き渡す。後は好きにしてくれ」

「それだけでいいのか?もっと色々と聞かれるものだと思っていたよ」

「聞きたい事があれば、また次に会った時にでも聞けばいいさ」

この世界は広い。

また会う事があるのかどうかは分からない。

でもこいつが神を倒すために必要な人材であれば、またきっと巡り会うだろう。

「ちょっと待ってくれ!俺は今回、世間で騒がれている萬屋ぼったくりと萬屋狛里がどの程度のものなのか。勝って鼻を明かしてやりたくて、あんたたちが来るタイミングに犯行予告を出したんだ」

そう言えば宝物殿でも『勝負を挑んだ』とか言っていたよな。

いいタイミングだと思ったよ。

「しかし私は今回負けた。絶対勝てると必勝を期したのに負けた。宝物殿で見た萬屋狛里には勝てる気がしなかった。私は逃げるしかなかった。それでも勝負は勝ちだと思った。なのに結局捕まって、魔力で勝っているはずなのにその女の子たちにも勝てなかった」

少女隊はこれでも神の使いであり神の領域だからな。

強さを隠しているだけなのよね。

「なあ、私を萬屋の仲間にしてもらえないか?」

「ちょっ!な、なんで?」

「自分よりも強い者がいるなら、その仲間になった方がいいって考えなんだ」

おいおい待ってくれよ。

まさかこんな事を言い出すとはな。

確かにその理屈は正しいかもしれない。

向かい風を進めないなら、振り返ってしまえば追い風だ。

上手くいかない場合、相手側の立場になれば上手く行ったりもする。

それでもそんな奴、簡単に裏切ったりはしないだろうか。

いやそれは国家間の同盟も同じだ。

昔大韓民国は、大日本帝国が強かったから併合を望んだ。

でも今は日本が弱くなったから敵視するようになっている。

利害関係を考えれば当たり前の事。

ならば狛里が、或いは萬屋ぼったくりが強くあれば決して裏切る事はないはずだ。

それにルペンは転生者であり、天冉の本気と同程度の魔力を発揮できる。

こんな奴を味方にできるなら、しない手はないよな。

「決定権は俺にはないからなんとも言えないけれど、どういう役回りでも良ければおそらく可能だ。ただ一緒に旅はできない。理由はこの世界を管理する神がそれを許さないから」

ぶっちゃけて言うと、既に十人パーティーで多すぎるんだよね。

ルペンの仲間三人も入れたら十四人パーティー、少女隊プラスも含めると十七人パーティーになってしまう。

作者、じゃなかった、この世界を管理する神が無理だと言っているのが聞こえてくる。

「それは構わないが、何をさせてもらえるんだ?できれば貧しい人や虐げられた者を助ける事がしたいんだが」

へぇ~、良い奴じゃないか。

殺さずの鼠小僧をやっていた時点で、そんなに悪い奴ではないとは思っていたけれど。

「ならば面白い役がある。新巻鮭王国のナマヤツハシの町に『夢の城』という養護施設や教育施設なんかが一体となった所がある。そこに神社があるんだけれど、そこの宮司がなかなか見つけられなくてな。やってみる気はないか?」

「神社?宮司?私が転生者だからかな?」

「そうだよ。全く分からない奴に教えても全然できなくてな。知ってる奴なら形だけでもなんとかなるだろ?」

「ふむ。その養護施設とか教育施設とかそちらで働く事はできないのか?」

「一体となっているって言っただろ?施設全体の実質トップはお前になる。領主も夢の城に関しては全て現在の宮司に任せているからな」

「なんだと!?いきなり私にそんな大役を任せようってのか?」

「今の宮司は俺の分身がやっている。仕事を教えて任せられるようになればそうなるな」

「分身だと?ははは‥‥あんたも只者ではなさそうだな」

「俺は萬屋ぼったくりのただの従業員だよ。おっとまだ自己紹介もしていなかったな。俺の名前は『此花策也』だ」

「なるほど。咲くやこの花か。私の本当の名前は『江戸川乱角(えどがわらんかく)』。よろしく此花さん」

江戸川乱角だと?

なるほど、あの小説家の子孫なのかもしれない。

ならば盗みのトリックもお手の物って所か。

宮司だけじゃなくもっと広い範囲で使わせてもらおう。

「よろしく乱角!」

俺たちはソファーから腰を上げて握手をかわした。

当然右手でね。

「菜乃は菜乃なのです!」

「妃子なのね!」

おっとそう言えば少女隊もいたんだった。

こいつらが大人しくしているとステルスモードが半端ないな。

普段騒がしい奴らが静かにすると、こんなにも存在感を失くすのか。

そんな訳でとにかく、乱角がナマヤツハシの町で宮司をする事になった。

尤も、これから冒険者ギルドに引き渡し、逃げてもらう必要があるんだけどね。

後日の話ではあるけれど、乱角は無事脱走してナマヤツハシの町にやってきましたとさ。

めでたしめでたし。

2024年10月16日 言葉を一部修正

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