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異世界のチートな萬屋店長~一寸神アナザーアフター~  作者: 秋華(秋山華道)
東海林編
40/64

萬屋ぼったくりは何でもやるよ?

昔、大日本帝国とソ連の陸戦において、ピアノ線で戦車に対抗したという話がある。

ピアノ線が絡まれば戦車と言えども動けない。

つまり強い兵器でも動きが封じられれば何もできなくなりやられるという事だ。

戦いって、武力だけが全てでもないんだよね。

大切なのは頭だよ頭。

戦略と戦術が大切って話。


俺たち萬屋ぼったくりメンバーは、国境を越えて東海林王国領内へと入っていた。

向かっているのはハンミョウの町。

話によるととても過ごしやすい町だと聞いている。

というか、そもそも東海林王国自体良い噂しか聞かなかった。

これから行く国や町の事はある程度知っておかなければならないと思い、俺たちはしっかりと情報を集めた。

正直これだけ良い話しか入ってこないと逆に不安になるくらい。

でもうちの連中は素直にそれを受け止め、楽しみにしているようだった。

「東海林王国は、第一王子が凄く強いらしいのです。女性からの人気も上々で、王子によって守られている国なんて言われています」

想香は相変わらずいつも楽しそうだ。

見た目もみゆきに似ているし、つい目で追ってしまうよ。

「強い王子か‥‥」

そして陽蝕はこういう話、あまり好きではなさそうだな。

王子たるもの、強くなければならない。

そういう世界ではあるけれど、そこまで他国の王子を気にする必要も無い気がするんだけどさ。

いやでも、やっぱり気持ちは分かるな。

俺も俺より強いのがいたら、色々な感情が湧いてくる。

悔しいってよりは、怖いとか不安とかそういう感情だけれど。

「強くてモテモテの王子とか羨ましいお。オデもチートで転生してきたはずなんだお。どうしてこうなったお」

多分不老不死とか、似合わないイケメンを神様に要求したからだろうな。

無理な注文が多くなれば、その分弱くなるのはお決まりな訳で。

でも猫蓮は自分の力で強くなっていけそうな気がする。

魔力は会った頃とあまり変わらないけれど、確実に強くなっている気がするから。

それにしても気持ちの良い場所だな。

何処の世界も海の近くは空が広い。

俺たちは旅の楽しさを余す所なく満喫していた。

そんな気持ちの良い時間も間もなく終わりを迎えた。

ハンミョウの町に到着したのだ。

当然東海林王国からすれば最前線の町な訳で、それなりに要塞化されているように見えた。

防壁門の所には多くの門番がいたけれど、それでも皆にこやかに俺たちを迎え入れてくれた。

「こんにちは!ようこそハンミョウの町へ!」

「こんにちは‥‥」

皆サザエの町での一件があるので、気軽に挨拶するのをためらっているようだった。

まあでも相手への敬意さえ忘れていなければ大丈夫だろう。

俺は普通に挨拶をした。

「こんにちは!門番ご苦労さま!」

俺がそう言うと、門番も気軽に返してくれた。

「こんにちは!いい町だからゆっくりしていってくれ!」

それを見ていた仲間たちも、この町は大丈夫だと悟ったのか、普通に挨拶を返していった。

さて門を抜け町に入ると、予想もしていなかった事が起こった。

何故か多くの住民に大歓迎されたのである。

「いらっしゃい!」

「待っていたぞ!萬屋ぼったくり!」

「アレが萬屋狛里か。可愛い子じゃないか!」

「それだけじゃない。凄い魔力だぞ」

「それに仲間たちの魔力も凄い」

「本当に噂通りのパーティーだ!」

「よく来てくれた!」

なんだこれ?

徐々に狛里の名声も薄れてきていると思いきや、この町の住人の多くは狛里を知っているようだった。

これも天冉の差し金だろうか。

俺は天冉を見た。

「知らないわよぉ~。私が情報を広めていたのは法螺貝王国のホラの町までだからぁ~」

そういう事だったんだよな。

妙に狛里が有名人だったのは、天冉が『紙媒体化』の魔法でチラシを作って配っていたからだった。

狛里の強さを伝えて新巻鮭の抑止力としていた訳ね。

でも今回は違うらしい。

という事は逆に、東海林王国の諜報活動によって知られていたという事だろう。

しかし一体どうしてこんなに歓迎されるのかねぇ。

強すぎて恐れられているって感じは全くない。

狛里の人となりまでしっかりと情報収集してきたって事だろうか。

ん~分からん。

とにかく俺たちはむず痒くなるような歓迎を受けつつ、なんとか冒険者ギルドへと逃げ込んだ。

「歓迎されるのは嬉しいんだけどぉ~理由が分からないと怖いわよねぇ~」

「きっとオデの活躍が広まっているんだお」

「猫蓮さんはどんな活躍をしたのでしょうか?気になります」

「正直‥‥思い出せない‥‥」

「みんな酷いんだお。でも本人もよく考えたら心当たりがないんだお」

いや、きっと何か活躍していたと思うぞ。

俺ももう忘れちまっているけどさ。

「アイたちは先輩に助けていただきました」

「そうそう。マイたちは感謝してるぜ」

「一生ついていくであろう。あくまで後輩として」

そうだったな。

雪月花たちは猫蓮に救われていたんだった。

でもこの町の人が歓迎するような話ではないよなぁ。

一体何があるのやら。

その疑問は、この時やってきた男によってすぐに判明する事となった。

その人物はギルドマスターだった。

「こんにちは。萬屋ぼったくりの方々ですよね?私はギルドマスターの吉田と言います」

吉田か‥‥多分モブだな。

「こんにちわぁ~。私は萬屋ぼったくりマネージャーの天冉よぉ~。それでこのちっこい子が萬屋狛里で~っす!」

「狛里‥‥です‥‥」

「よくハンミョウの町に来てくださいました。我々は皆さんを歓迎します。というか、みなさんが来てくれるのをずっと待っていたのです」

待っていた?

待たれるような約束は何もしていないよな。

「それはどういう事ですかぁ~?」

「実はですね。萬屋ぼったくりに依頼したい仕事が山ほどありまして‥‥」

ああ、なるほどね。

仕事の依頼をしたかったのか。

すっかり本業の事を忘れていたよ。

うちら萬屋だったな。

そしてこれはつまり、やりたくない仕事、或いはやれない仕事が沢山あるって話だ。

でもこの国はいい国なんだから、嫌な仕事でもやる人は多い気がする。

それに難しい仕事だとしても、強い王子がいるのならなんとかなりそうなんだけど。

「そういう事なのねぇ~。どうする狛里ちん?」

「困っているなら‥‥みんな‥‥助けたい‥‥」

「そういう事なので、お話を伺いましょうかぁ~」

「ありがとうございます!」

まあそうなるよな。

こうして俺たちは、ハンミョウの町で沢山の依頼を受ける事となった。


しかし‥‥難しい依頼から人がやりたくないと思う仕事まで、あまりに数が多いな。

どうしてこんなにまで仕事をためるのか。

この町はいい町だけれど、嫌な事を全部他人に任せるから穏やかな人が多いってだけかもしれない。

転生前の日本も似た所があった。

日本人は穏やかで確かに良い社会を築いた。

だけれど一方で、人がやりたがらない仕事をする人がいなくなっていた。

そうなったのには教育の失敗もあったんだろう。

メディアが影響したかもしれない。

そこで仕方なく外国人を入れまくった訳だけれど、当然やりたくない仕事ってのは誰にとっても同じだ。

逃げて犯罪を犯す外国人が問題になっていたよな。

そんな仕事を俺たちがやる訳か。

尤も報酬はぼったくるので、日本よりも圧倒的にマシではある。

むしろこれが正しい姿なのだろう。

命がけの仕事も結構な数あるからな。

つかこの町、冒険者が仕事してくれなくなったらヤバいんじゃね?

まあ俺が心配する必要もないんだけどさ。

さてしかし、数があまりに多いので、俺たちは手分けして依頼を捌いていく事にした。

まずは猫蓮チーム。

雪月花を含めた四人で、魔物の討伐ミッションを受け持ってもらう。

多少難易度の高いものもあるけれど、そこは戦い方次第でなんとでもなるはずだ。

俺は猫蓮たちに、妖糸を紡いで作った『妖糸線』なんかを持たせておいた。

妖糸線とは、妖糸よりも太くて切れにくいピアノ線みたいなものだと考えればいいだろう。

「巨体の魔獣も動きを封じれば倒せるよな?ノモンハンを思い出せ」

「それって大日本帝国とソ連が戦ったノモンハン事件の事だお?でもそれだけだとドラゴンは倒せないお」

「動きを封じれば、後は猫蓮の得意な持久戦でもいいじゃないか。石の上にも三年。雨垂(あまだれ)れ石を穿(うが)つ。或いは蟻の一穴(いっけつ)でもサラミ戦法でも、勝つ方法はあるはずだ」

一応それぞれ説明しておくと、まず『石の上にも三年』ってのは、我慢して戦い続けていたら勝機はあるだろうって意味。

『雨垂れ石を穿つ』は、根気強く繰り返し同じ所を攻撃していたら、致命傷を与えられるだろうって戦い。

『蟻の一穴』は、小さい穴でも空ける事ができれば、そこから勝機をつかめるはずだ。

そしてサラミ戦法ってのは、敵に気づかれないように少しずつダメージを与えて行けば、気付いた時にはもう遅いよってやり方ね。

「それに魔封じの宝石もあるだろ?」

妖糸線以外にも、魔封じの結界を作れる宝石を渡してある。

宝石は念力で配置し、ドラゴンを結界に閉じ込める事ができたなら、今の猫蓮なら楽勝だろう。

「言われてみれば確かに楽勝だお。でもどうして策也殿がノモンハンを知ってるんだお?」

「いや、友達の家の隣に住んでいたおじさんの親戚がそんな事を言っていたんだ」

「そうなんだお。この世界の転生者はオデだけじゃないんだお」

ふぅ~‥‥俺もたいがい口を滑らせてしまうな。

気をつけないと。

次に天冉と陽蝕チーム。

公演的な仕事や指導をする。

色々と武勇伝的な話が広まっているみたいなんだよね。

それで話を聞きたいとか教えてほしいって依頼は結構あった。

本当は狛里自らやるのが良いかもしれないけれど、当然そんな仕事ができるわけもなく。

それに狛里にしかできない仕事もあって、公演なんてしている暇はない。

尤も、天冉が戦うならそれでもなんとかなりそうなんだけどね。

狛里は想香と尾花を連れて三人で、盗賊や魔王クラスの悪魔の退治をする。

このメンバーが殺られる事はないだろうとは思うけれど、心配なので俺も最初は一緒に行くつもりだった。

でも俺にしかできない仕事もあって、狛里の命令でメンバーから外れた。

俺は一人で防壁の修理や防衛システムの構築を手伝う。

宝石を使った設置型魔法も勉強できるし、これはこれで楽しみではあった。

それに俺は一人じゃないしな。

妖凛は俺の中にいるし、影には少女隊の二人もいる。

寂しくなんかないよ。

「ハブられたのです」

「仕方がないので策也タマの相手をしてあげるのね」

くそっ!なんか負けた気がするぞ。

何にしても俺は、みんなを少し心配しながらも自分の仕事をしていくのだった。

宝石を使った防衛用フィールド魔法にも携わる事ができるし、この世界の魔法を色々と理解する事ができそうだよ。


全てのクエストをコンプリートするには五日を要した。

それでも皆問題なく終えられたのは良かったよ。

誰かが死んでいたりしたらと考えると、やっぱり怖いもんな。

蘇生ができない異世界は夢の世界じゃない。

RPGの世界が楽しいのも、蘇生あってのものだと改めて考えさせられた。

さてみんなの仕事だが、まず猫蓮チームの最大のミッションはドラゴン退治だった。

ドラゴンダンジョンで天冉が倒したボスドラゴンにはやや劣るものの、ほぼ同格のドラゴンを四人で倒したらしい。

魔封じの宝石は使わず、妖糸線でドラゴンの動きを封じて倒したとか。

愛雪が前線でドラゴンを引き付け、舞月が高速移動で妖糸線で絡めてゆく。

美花が蟻の一穴を突いて、そこに猫蓮が特大魔法でとどめを刺したらしい。

他にもマスターレベルのクエストをいくつもこなし、当然だが雪月花たちみんなが冒険者レベルを百まで上げる事となった。

ちなみ猫蓮たちがやったこれらのクエストは、できる者がいなくても特に問題は起こらないものだ。

今まで入れなかった森や山の奥に入れるようになるくらいのものだからね。

だから無理に達成する必要のないクエストだった訳で、猫蓮たちも気軽にできた事が良い結果に繋がったのだろう。

駄目なら逃げ帰る事もできたしさ。

ミッションコンプリートできたのは、猫蓮たちにとっていい経験になったはずだ。

次に天冉と陽蝕だけれど、天冉は武勇伝を聞きたい者に旅の中での話をし、陽蝕はこの町の騎士に稽古をつけていた。

騎士の数だけは多いけれど、その弱さは部外者でも不安になるレベルだったとか。

本当に王子一人の名声で守られている国だと納得した。

普段この町の騎士を指導している者も、冒険者レベルこそ陽蝕よりも上だったが、陽蝕との模擬戦では完敗だったらしい。

それで陽蝕は指導者に任命され、更に冒険者レベルを百に上げる事となった。

そこには天冉の脅し?もあったようだけれど、陽蝕は既に魔力ではマスターレベルを超えており、実力不相応という訳でもない。

当然のクラスになったと言えよう。

狛里たちは魔王に近いクラスの悪魔を退治したり、盗賊をいくつか壊滅させた。

これらは最重要クエストだったみたいだ。

強い王子一人だけの国では、強力な盗賊組織の殲滅や悪魔の討伐は全て王子の仕事となる。

冒険者を頼ろうにも、それができるレベルの者はこの辺りにはいない。

だから盗賊や暗殺者組織が自由に活動できてしまっていた。

尤もこれで盗賊や暗殺者の組織は一通り片付けられた訳で、しばらくこれらの犯罪は失くなるものと思われる。

それでこれらの仕事だけれど、どれも高いクラスのものなので、尾花もマスタークラスへと昇格した。

魔王に近い悪魔を倒したのもどうやら尾花らしいし、文句なしの冒険者レベル百だね。

これで俺たちはみんなレベル百のマスタークラスとなったのである。

良かった良かった。

後は俺のやった仕事か。

この町は高い防壁と結界、或いはフィールド魔法によって高い防衛能力を持っていた。

しかし魔王に近い悪魔が最近襲撃を繰り返しており、かなり防壁も結界もやられていたらしい。

尤もその悪魔は今回尾花が倒したのでこれ以上壊される事は無くなった訳だけれど、また新たな敵が出てきた時の為に直しておく必要があった。

防壁は俺の建設魔法で簡単に修復ができた。

一方結界は一筋縄にはいかなかった。

町の防壁に設置された大量の宝石に傷や破損が見られ、限界を超えていたのだ。

そこでこの町の地下にあるハンミョウダンジョンへと潜って、宝石集めをしたのである。

このダンジョンは既に攻略済で新たに魔物も湧いてこない。

ただ宝石が掘れるだけのダンジョンだった。

そんな面白みの無いミッションだけれど、少女隊は大喜びで宝石を集めた。

少女隊は集めるのが好きだし、当然宝石をくすねる為に頑張った。

いや、くすねるのではなかったな。

宝石集めの仕事を引き受ける代わりに、集めた宝石の数に応じて宝石をもらうという形で契約した訳だ。

この方が少女隊のやる気が倍増するからね。

やはり働きに見合った報酬ってのが真っ当なあり方だと思うよ。

給料で働くのはどうしてもモチベーション維持が難しい。

会社で働くのが当たり前の世の中になっていた日本。

でも本当は売れたら売れただけ自分の利益にできる商売なんかの方が、人にとっては健全なのだろうと思う。

しかし組織でやらないと世界と太刀打ちできない世の中だったから、人はドンドン働く気力を失っていったのだろうな。

それにチームプレイが苦手な人もいるだろうしさ。

何にしても少女隊が頑張ったお陰で、いや頑張りすぎた為に宝石は必要以上に集まった。

そんな訳で結界を作るフィールド魔法もパワーアップする事になって、装置制作に必要な魔力も増えた。

俺にとっては大した魔力でもなかったけれど、実際の魔力は隠しておきたいので疲れるフリに疲れた感じだ。

とは言えその分得られたものも多く、宝石による宝石制御によって、人のように魔力を自動で回復させられる装置の作り方が分かった。

生きた宝石は装備者の魔力を吸う事で機能を維持するのだけれど、宝石によって回復する方法が分かったのは、今後のアイテム作りで大いに役立つだろう。

闇の家も移動用の家も、時々魔力供給が必要だったからね。

それをしなくて良くなるのは助かるよ。


仕事を全て終えたその日は、ギルドマスターやギルド職員、或いは領主や町の人々も一緒になって打ち上げ会をしてくれた。

「ありがとうございます。領主として礼を言います」

「いえいえ~こちらも相応の報酬は貰ってますからぁ~」

天冉の言う通り、ヤバいくらいの金が手に入ってしまった。

もちろんそれくらいの働きはした訳だけれど、仕事ってのは求める人がいないと発生しない。

この国が豊かで素晴らしいからこそ、金を出してでも何かを求める人が多いのだ。

日本は労働者不足に苦しんでいた。

それは逆に言うと、日本がとても豊かで素晴らしい国だったからであろう。

「しかしまさかたったの五日で全てが終わるとは‥‥。一月はこの町にいてもらう予定だったんですけれどね」

そう言うギルマスも、これだけの仕事をやらせようとか、まともな神経じゃないぞ。

まさかの要望だったわ。

「萬屋ぼったくりには僕もいますし、おそらくこの世界最強の集団なのです。最初から五日で終わると思っていました」

想香も相変わらずだな。

最初に仕事の数を見た時には、『こんな数、一生かけても終わらないのです!』とか言っていたじゃないか。

それにしても本当に兎白に似ている所があるよなぁ。

僕っ娘じゃなかったらまんま兎白だよ。

「ん?何でしょう?今何か思い出しそうになった気がするのです!」

「何?‥‥記憶‥‥?」

「記憶が戻ったんだお?」

おいおいいきなりだな。

つか、そういえば想香は記憶喪失だったか。

記憶を失っているって事は取り戻す事もある訳で、漠然とした不安と期待が俺の中に湧き上がってきた。

「いえ、そんな気がしただけでした」

「そう‥‥なんだ‥‥」

「思い出せないからって気にすることないお。そのうち思い出すお」

なんだ気のせいかよ。

それにしても猫蓮って、その喋りをやめたら割といい奴なのにな。

想香がとても複雑そうな顔をしていた。

こんな感じで打ち上げ会を楽しみ、気がつけば終わりの時間を迎えた。

「また明日からは冒険の旅に戻るわよぉ~」

「騎士の指導は疲れた。冒険の旅の方がやっぱり我には向いている」

「仕事するより自由がいいお」

「明日からは‥‥また自由に‥‥美味しいものが‥‥食べたい‥‥」

「そうです!僕も誰にも気兼ねなくお腹いっぱい食べたいのです」

みんな仕事には疲れたみたいだな。

嫌な仕事じゃなくても、やはり決められた事をしなければならないという状態は心に余裕がない。

好きな事を仕事にした途端に辛くなるってのはよくある話だ。

だから人によっては、本当にやりたい事は趣味でやる人も多いのだ。

苦にならない、或いは得意な事を仕事にするのが一番良いと言われているしね。

「そうそう萬屋の皆さん、次の町に行っても東海林王国領内であれば、おそらく仕事の依頼があると思いますよ。できれば助けていただけるとありがたいのですが‥‥」

打ち上げ会の会場から出て宿屋へ向かおうと思った時、ギルドマスターがそんな事を言ってきた。

おいおい、また今回のような仕事の嵐に襲われる事になるのかよ。

「また‥‥こんなに‥‥沢山?‥‥」

「いえ、この町は森や山も近いし最前線だから特別多いと思います。他は少ないと思いますから、冒険者ギルドに寄ってやってください」

皆顔を合わせて返事に困ったけれど、狛里に断る事はできないだろう。

「分かった‥‥」

「ありがとうございます」

多少困り顔だったが、狛里は承諾の返事を返していた。

どうせ誰かが困っていたら助けるのが狛里なのだ。

こうして東海林王国領内を行く、萬屋ぼったくり冒険の旅は始まったのである。

2024年10月16日 言葉を一部修正

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