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異世界のチートな萬屋店長~一寸神アナザーアフター~  作者: 秋華(秋山華道)
法螺貝編
35/64

実は強い?新巻鮭天冉!

日本は民主主義国家であった。

輿論(よろん)世論(せろん)によって人々が自由で幸せに暮らせる資本主義社会を目指した。

割といい感じの社会が出来上がった。

同時に世界でも似たような社会が構築されていた。

ならばと世界が協調して、その社会を守ろうとした。

そして更に発展させようとした。

気が付けば民主主義の中の社会主義を目指していた。

世界協調を謳って規制がドンドン増えていった。

伴って税も高くなっていった。

形は民主主義だが、資本主義と社会主義が半々の国家である。

そしてそこから共産主義へと進んでゆく。

金持ちから金を奪い、それを分け合えば皆が幸せになれると考える者が増えた。

気が付けば自由は失われ、多くが鳥かごの中の小鳥のような生活をするようになっていた。

そこに幸せを感じる者もいるだろう。

全てを否定もできないと思う。

だけれど、鳥かごの外で自由に暮らしている幸せ者の存在を知っても、人は現状に満足していられるのだろうか。

幸せとは案外相対的なものではあるけれど、絶対的な見方をする者もいる。

そして常に上を見続ける者もいる。

出来上がった社会は壊され、改めて資本主義の自由な社会が再構築される事になるのだ‥‥。


ホラの町は噂通り巨大な町だった。

だけれど、アワビの町と比べて質素に感じた。

アワビの町が銀座だとしたら、此処は王都にも関わらず浅草下町が広がったような感じだろうか。

或いは古き良き京の都か。

もちろん建物は西洋風ではあるけれど、イメージとしてはそんな感じだった。

昼食はホラの町に到着する前に済ませていた。

到着時間は既に夕方。

束の間の観光を楽しめばすぐにディナータイムになるだろう。

ならばその前にと、俺たちは法螺貝王国国王のいる城へと行く事にした。

目的は王様への抗議だ。

或いは戦闘も覚悟していた。

法螺貝はおそらく暗殺者組織ワクチンと繋がっていて、アワビの町やここまでの道すがら俺たちが襲われた事にも関与しているはずなのだ。

城門の所までやってきた。

城を見上げると、オシャレな城というよりは籠城戦にも対応したような実用的なつくりだ。

「私は新巻鮭天冉よぉ~」

「我は鬼海星陽蝕だ。法螺貝国王に会わせてほしい」

いきなり来られてそう言われても、普通は会わせる訳にはいかないよなぁ。

しかもなんというか、「お目通り願いたい」とか普通ならそんな感じで言う所じゃね?

世界ってのは創った神様に影響を受けるけれど、ここイスカンデルは割とその辺り適当な感じに思える。

「しばし待たれよ」

門番の一人が誰かとテレパシー通信をしているようだった。

この世界は意外とテレパシー通信が発達しているようにも感じる。

識字率も低い中、どうやって情報の拡散が行われているのか不思議だったけれど、それなら多少は納得できるね。

ただ狛里の場合は顔まで知られているみたいなんだけどさ。

少し待っていると、ゆっくりと門が開けられていった。

どうやらお目通りが叶うらしい。

そう言えば此処まで一国の王様にはあった事がなかったな。

なんとなく緊張するぜ。

「王はお会いになるそうだ。ただし、萬屋狛里は駄目だ。別室にて待っていてもらう」

狛里は流石に怖いといった所だろう。

或いは何かを企んでいる可能性も考えられる。

「それとお前も遠慮願おう」

門番がそう言って指差したのは尾花だった。

ふむ。

表面上魔力が強いと感じる二人が避けられたか。

そりゃ警戒もするよな。

「尾花は狛里の事を頼む」

「了解した」

それと一応少女隊も付けておくか。

『お前らも影になって狛里たちの方に行ってくれ』

『王様を見たかったのに残念なのです』

『それにニギリッペを食らわせてやりたかったのね』

おいおい妃子よ。

一応萌えキャラなんだからそういうのは心の中でだけ思っていてくれよ。

つか実行されたらそれはそれで面白い、いや困る事になるだろう。

まあなんだかんだ言っても、少女隊は萌えキャラで頼りになるんだよな。

こうして仲間が別れる事があっても、安心して任せられる。

「オデたちも王様に会うのはやめておくお」

猫蓮たちも王様には会わないか。

その方が無難かな。

もしかしたら暗殺者組織ワクチンの者がいないとも限らないし、王様との繋がりが明らかになれば思う事もあるだろう。

「では謁見はお前たち四人だな」

「そういう事ねぇ~」

天冉・陽蝕・想香、そして俺の四人。

現在妖凛はもうミンクのマフラーではない。

完全に俺と同化しているからね。

だから魔力を感じ取れる者がいたとしても、俺の中にもう一人いるとは分からないだろう。

案内されるがままに城の中へと入っていった。

するとすぐに狛里たちとは別れる。

「策也ちゃん‥‥天冉ちゃんを‥‥よろしくね‥‥」

「オッケー!」

狛里たちは一階のどこかの部屋で待機のようだな。

そして俺たちは階段を上がって行った。

その流れのまま通された部屋は、大きな謁見の間のようだった。

そこはアニメやゲームでよく知る謁見の間そのままだった。

ドアを入って真っすぐ正面奥、王座に座る偉そうなおっさんが目に入った。

間違いなくあれが王様だな。

だけど見るからに駄目な感じが漂っている。

三国志演義で言えば董卓みたいな雰囲気だ。

それでも魔力は大きく、狛里とは比べられないが尾花以上の魔力を感じる。

これだけの魔力を持っていれば、俺たち四人くらいは敵とは考えないだろう。

流石に大国の王と言った所か。

俺たちは話ができそうな所まで近づいていった。

なんとなく法螺貝王国の者たちから、『これ以上近づくな』という空気が漂ってきたので俺たちは足を止めた。

さて、こういう時はどうすればいいんだっけ?

頭を下げて膝まづくとか?

こんなおっさんにそれはしたくないなぁ。

陽蝕が膝を付いて頭を下げた。

こいつは一応最低限の礼儀はわきまえるか。

というか相手を見て完全に気圧されているな。

天冉はどうする?

「あなたが法螺貝の王様ねぇ。オークみたいな顔をしているのねぇ~」

おいおい、いきなり煽るんかーい!

確かにオークみたいな不細工な顔をしているけれどさ、容姿をバカにするような事を言っちゃ差別とか侮辱とかその界隈の人たちが黙ってはいないぞ?

幸いこの世界には、そんな事に五月蠅い活動家たちはいないだろうけれどさ。

「鬼海星の王子は多少状況を理解しているようだが、新巻鮭の天冉姫はどうやらバカのようだな」

周りをみると、王の側近と思われる使い手が俺達を取り囲むように立っている。

皆マスタークラス以上の魔力を持っていて、普通に見れば俺たちは完全に負け組ポジションだ。

もちろん俺の敵にはなり得ないけれど、天冉のブレなさはそれを計算に入れているとも思えないんだよなぁ。

内からあふれ出る自信というか。

「バカはあなたです!僕たちはあなたに抗議にきました!どうして不可侵条約を結んだ相手国の王族を暗殺しようとするのです!?」

想香のストレートきたー!

いやまだ暗殺に関わっているという証拠も何もないんだぞ?

その辺り確認してからお仕置きする流れを予定していたんじゃないのか?

「バカはバカなりに分かっているようだな。確かに俺はお前たちを暗殺しようとした。だが暗殺しようとして何が悪いんだ?」

王様がアッサリ認めたー!

「悪いに決まっているのです!同盟みたいなもんですから、仲良くしようって話ですよね?!」

「誰がそんな事を?俺は一言も仲良くしようなんて言った覚えはないぞ?」

条約など国家間の約束なんて、ぶっちゃけあって無いようなもんだからなぁ。

『守った方が得』、或いは『守るしかない』、そう相手に思わせる状況を作れなければ意味はないんだ。

法螺貝が鬼海星や新巻鮭と不可侵条約を結んだ理由はたった一つ。

萬屋狛里が恐ろしいからだ。

ならばそれさえ排除できればと考えるだろう。

そして排除したら今度は鬼海星と新巻鮭の領土を奪うべく動き出すのだろうか。

実際の行動を見ていると、だいたいその方向で間違いはなさそうだ。

仮にそうだとして、どうして領土を欲するのかねぇ。

資源や富を奪っても、奪うだけだとまた更に奪う必要が出てくる。

もしかしたらこの国は、奪う事しか知らない生み出せない国なのかもしれないな。

陽蝕がおもむろに立ち上がった。

なんとなく腹をくくった感じが伝わってくる。

会ってみたら思った以上に相手がヤバそうで気圧されていたけれど、想香の対応に諦めモードに入ったか。

「しかしあなたはまだ萬屋狛里を殺せていない。この状況でそんな事を言っていいんですかね?」

「萬屋の狛里か‥‥」

そう言えばそうだな。

狛里がいる以上、こんな事をばらして良い訳がない。

となるともしかしたら‥‥。

『部屋でいきなり闇へのゲートが開かれたのです!』

『とりあえず菜乃だけが深淵の闇に入っていったのね』

思った通り少女隊からテレパシー通信が入った。

やはりここで確実に狛里を葬る準備をしていたか。

狭い部屋にいる時にあの黒い箱のようなものの蓋が開かれたら、一瞬でみんな深淵の闇に引きずり込まれるだろう。

だけど狛里は腕輪をしているから大丈夫のはずだよな?

『それでみんな大丈夫なのか?』

『大丈夫なのです。闇の家に全員回収したのです』

『狛里も?』

『自ら飛び込んできたのです』

助けようとしたのか、或いは部屋で待っているのが嫌だったか?

いずれにせよこの判断は面白いかもしれない。

『妃子はまだ部屋の中で影になって残っているのね。出たら深淵の闇に引きずり込まれるので様子を見ているのね』

『そうか。とりあえずそのまま待機しておいてくれ。必要になったら呼ぶ』

『分かったのです』

『分かったのね』

まだ何か隠し持っているかもしれないしな。

安全な所で待機していてくれた方がいいだろう。

それに狛里が死んだと思っている法螺貝王がどういう態度をとるのか見てみたい気持ちもあった。

王座の後ろに控えていた側近に、一人の男が近づいて行った。

そして何やら耳打ちをする。

更に側近の男が王座へと寄って行き、王に耳打ちしていた。

それを聞いた王は、口を歪ませ薄気味悪い笑みを浮かべた。

「その萬屋の狛里だが、今しがた死んだようだ。わざわざ敵の城に入ってくるバカが何処にいる?ここにいたよ!ははははは!」

おーおー嬉しそうに。

陽蝕は流石にショックだったか、険しい顔に変わった。

想香が心配そうな顔で俺を見て来た。

(大丈夫だ。狛里は無事だよ)

俺はそう心の中で呟きながらウインクした。

これで伝わるだろう。

「策也さんいきなりこんな所で求愛行動ですか?平時ならともかく今はやめてください」

何勘違いしてるんじゃーい!

俺は心の中で想香にツッコミを入れた。

つか平時ならいいのか?

俺は小さな声で『大丈夫だ』と一言だけ伝えた。

少し心配そうな想香だったが、直ぐに調子を取り戻した。

「この王様はアホですね。狛里店長は殺しても死にませんよ。自分で確認もせず部下の報告を信じるなんて信じられません」

「このガキ‥‥」

うちの連中は煽るのが得意だなぁ。

少し俯いて黙っていた天冉だったが、笑顔で頭を起こした。

「そうなのねぇ。狛里ちんがやられちゃったのねぇ~」

ん?なんだ?

一瞬この謁見の間が、ウォークイン冷凍庫の中なんじゃないかと思うくらい寒く感じたんだが?

「王様?少し二人きりでお話しませんかぁ?別室で」

おい天冉!いきなりなんて事を言い出すんだ?

そんな事したら最悪お前は殺されるぞ?

蘇生もできない世界だ。

死を覚悟した何かをしようというのか?

流石にそれは俺が受け入れられないだろ。

「二人で話がしたいだとぉ?ははは!いいだろう。従者の前だと恥はかきたくないよなぁ?」

いやそんな理由で天冉がわざわざお前と二人っきりになるかよ!

「そうねぇ~。策也ちんたちは此処で待っててねぇ~」

「マジで?」

俺は菜乃にテレパシー通信を送った。

『菜乃!今天冉が王様と二人きりになろうとしている。止めた方がいいよな?狛里に聞いてくれ!』

『分かったのです。‥‥。えっと‥‥王様はどれくらいの魔力を持っているのです?』

『そうだな。尾花の倍よりも大きいくらいか』

『ちょっと待つのです‥‥。狛里は、ならば大丈夫だから放っておくように言っているのです。ん?絶対に同じ部屋には入らないように、だそうです』

『マジで?』

何がどうなっているんだ?

此処まで狛里は頑なに天冉を守れと俺に注文してきた。

しかし今回に限って天冉を敵と二人きりにさせよと?

「俺は天冉姫と奥の部屋へ行く。お前たちはこいつらが逃げないように見張っておけ」

「かしこまりました」

「じゃあ天冉姫、こちらへどうぞ」

「は~い」

おい、一体どうなっているんだ?

今までとこんなに展開が違っていいのか?

前に狛里が言っていた事を思い出した。

『天冉ちゃんは‥‥強い‥‥』

冗談だろ?

冗談だと思っていた。

だって魔力は町民並みなんだぞ?

『ん?妖凛?妖凛は前から天冉に何かがあると感じているのか』

謁見の間の奥の扉へと、法螺貝王と天冉の姿は消えていった。

影になって追うか?

妖凛が今まで通りミンクのマフラーだったら、持って行ってもらえたのに。

「大丈夫なのか?」

珍しく陽蝕が話しかけてきた。

「知らん。ただ狛里は大丈夫だと言っている」

「狛里?殺されたんじゃ?」

「生きてるよ。おそらく天冉も分かっている。なのになんで‥‥」

そうだよ。

狛里が生きている事は天冉なら多分分かっているはずだ。

なんとなくどこかで意思疎通していたりするから。

なのに何故諦めたような行動をするんだ?

「天冉さんはとっても怒っていました。僕が何も言えませんでした」

さっきの寒い空気は殺気?

とにかく五感を研ぎ澄ませ。

魔力を感じろ。

何かあったらすぐに助けに行ける体勢をとっておく。

声は聞こえないな。

天冉の魔力じゃ気配を追うのも難しい。

そんな風に必死に状況を確認している時だった。

天冉の魔力が一気に高まる。

「えっ?」

「この魔力は?」

「天冉さんの魔力が一気に上がってます」

まさか今まで魔力を抑えて隠していたのか?

強い奴ほど魔力を隠すのも上手いというけれど、天冉はそれなのか?

狛里は抑えられてないけどさ。

連続した爆発音が鳴り響いた。

「王は我慢できなかったのか」

「あんな弱い王女を殺してしまうのかねぇ」

俺たちを見張っている部下たちがそんな事を話し始めた。

でも違うよ。

殺られたのは王の方。

「あれ?王様の魔力が消えていくぞ?」

「いやこれ天冉姫のじゃないのか?」

「本当だ。王の魔力は既に消えている?!」

「どういう事だ?」

騒ぐ側近たち。

それは俺も聞きたいよ。

一体何があった?

天冉の魔力が一瞬爆発的に増えた。

狛里ほどではないけれど、この世界に来てからは二番目に大きな魔力だ。

天冉がドアを開けて出て来た。

「困ったわぁ~。王様が罪の意識に苛まれて自殺しちゃったのよぉ~」

流石にそんな嘘は誰も信じないだろう。

でも、この天冉が王を殺せるとは到底思えない。

「自殺かぁー!」

「自殺なら仕方がない」

「そうだそうだ。ならば王子に跡を継いでもらおう」

「そうだそれしかない」

あれ?側近たちは天冉の言葉をなんだかアッサリと受け入れて、むしろ喜んでいるようにも見えるぞ?

「天冉、何をしたんだ?」

「何もしてないわよぉ~。策也ちん?知らない方が幸せってあるわよねぇ~」

「ま、まあな‥‥」

何があったのかは分からない。

ただ言えるのは、天冉は強い。

そして法螺貝王を殺したのは天冉だ。

狛里は同じ部屋には入るなと言っていた。

もしも同じ部屋にいたら、俺も天冉の攻撃を受けていたのだろうか。

自分だけ助かる自爆とか。

天冉を守れというのは、その自爆の被害に遭うのを防ぐ為だったのかもしれない。

なんだか恐ろしいな。

俺ならなんとでもできる気はするけれど、この世界の魔法や能力についてはまだまだ知らない事だらけだ。

油断はしない方がいいだろう。

「天冉姫。どうか王を許してやってください」

王の側近の一人がそう声をかけてきた。

「許す?」

「はい。王も昔はもっと良い王だったのです。ですが徐々に国家運営が上手くいかなくなって‥‥。我々もどうして良いか分からずに‥‥」

「そうなのぉ~?‥‥」

そんな事言われてもって感じだな。

「このまま王子が跡を継がれても、また同じ過ちを繰り返す事にはならないか?」

「確かに‥‥」

「せっかく良い国が出来上がったのに」

「天冉姫!どうしたらいいか教えていただけませんか?!」

いきなりなんなんだ?

他国の姫に泣きつくとか大丈夫か?

「困ったわねぇ~。一応話くらいは聞くけどぉ~‥‥」

「ありがとうございます。実は国家予算が足りなくて、どう調達すればいいのか、良いアイデアはないでしょうか?王は、他国を侵略して奪う事しかもう手はないと言っておりました」

国家予算が足りないだと?

それで他国を侵略?

この町を見るに法螺貝王国は割と良い感じには見えるんだけれど‥‥。

あれ?他の町は割と普通かそれ以上に見えたけど、この町は少し古い印象を覚えた。

この町だけが予算不足に陥っている?

「こういう話は策也ちんにパス!」

「えっ?おい!天冉!」

「お願いします!何か方法を教えてください!」

「えっと‥‥」

想香も陽蝕も明後日の方向を向いて知らん顔だ。

陽蝕はともかく想香には無理だろう。

「策也さんの仕事です。普段戦わない役なのですから、こういう時は仕事をしてください」

「そうそう。我もそういうのは苦手なんだ。お前にはそれがお似合いだ」

戦ったら一瞬で終わって話にならないから戦わないんだよ。

想香は分かっているよな?

全く、陽蝕にはそうは言いたくないし。

「分かった。一応聞くから話してくれ」

「ありがとうございます!」

そんな訳で俺は側近たちの話を聞いた。

法螺貝王国は、昔はもっと普通の国だったそうだ。

それでも規模は今と同じように大国だった。

つまり上手くいっていた訳だ。

上手くいっていると、当然更に上を目指したくなるのが人というもの。

国民の生活を豊かにするべく、社会保障を充実する方向で変革していったのだ。

そうなると当然財源が必要になってくる訳で、少しずつ税が上がって行った。

最初は税が上がっても社会保障の安心感に喜んでいた訳だけれど、徐々に税が重荷となって国民から反発の声が出て来たらしい。

そこで国王は、贅沢をしている貴族から金を招集する事にした。

当然貴族にしてみたらたまったものではない。

多くは隣のアワビの町へと逃げて行った。

それでも残った貴族から金を集め、気が付けば貴族は単なる平民に変わっていた。

むしろ平民の方が良い生活ができるからだ。

社会保障が充実しているので、あまり働かなくても生活補助によってそこそこの生活ができた。

そうなるともう金を取る所が無くなる。

他の町は領主に任せている訳だし、王都と同じ事をしていたら今度は貴族が国外に逃げてゆくだろう。

王族の財産はドンドン減ってゆく中、ホラの町の社会保障を目当てに国外からも貧乏人が町に集まってきた。

一気に王様は追い詰められたそうだ。

この所法螺貝王国が外に戦争を仕掛ける話が出てきていたのはその為だとか。

なるほどな。

これは転生前の世界でもある話だ。

最初は資本主義で自由にやっているんだけれど、国民の要望などもあって社会保障に力を入れる。

社会保障費ってのは無限の金食い虫だから、際限がなくどこまでも国民から徴収する税は増えて行く。

資本主義の社会主義化だ。

それが限界にくると、今度は共産主義化してゆく。

金持ちから金を集めればいいという話になる。

社会保障が充実し、金持ちから金を徴収するようになると、国民の働く意欲というのは減退してゆく。

それで益々税収が落ちて行き、国家はどうにもならなくなるのだ。

そうなると法螺貝の王がやったように、他国への侵略という話になってゆく。

或いは国民が革命を起こしリセットボタンを押すんだ。

そして最初の自由な資本主義へと戻る事になる。

「社会保障は捨てるしかないよ。働かざる者食うべからずだ」

「しかしそんな事をすれば、多くの国民が飢えてしまいます!」

「食べ物はあるんだよ。そして誰かが食わないと無駄になるだけ。それでも生きられない者は、新巻鮭領のナマヤツハシの町によこしてくれ。仕事を与えてやるから」

国民に金を与えるような政治をした時点で、その国は衰退する。

社会主義や共産主義は一見理想にも感じるけれど、なかなか良いバランスの所で止められない。

それに政府が腐敗してゆく。

志が高く、賢くて腐敗しない指導者がいないと無理な社会体制。

そしてそんな人が未来永劫国の指導者である訳がないんだ。

だから国は、生まれては滅びてゆくの繰り返し。

そう考えると、日本の皇室が二千年以上続いているのは本当に奇跡なんだよなぁ。

そこに理想の国家体制の断片が存在するのは明らかだけれど、俺が転生する頃はまだそれを見つけられてはいなかった。

アルカディアを理想の世界にしようと思っていた訳だけれど、俺が戻る頃にはどうなっているのだろうか。

結局、社会保障を徐々に減らしてゆく事になった。

それはそれで国民の反発を買う事にはなるはずだけれど、そうしないと国がもたないのだから仕方がないだろう。

一度ぬるま湯につかれば、人はそれが当たり前と思うようになる。

だからその前で止めなくちゃ駄目なんだけどな。

何にしてもこの国の事はこの国の者に頑張ってもらうしか仕方がない。


それでその日の夜。

「一つ依頼を受けたわぁ~」

だけどどうしても自分たちでできない事もある。

そんな訳で一つだけ天冉は依頼という形でお願いを聞く事にした。

王の側近たちから受けた依頼は、この町にある暗殺者組織ワクチンの地域本部を叩く事。

世話になっていた組織なので、自分たちでは壊したくない。

だけどこの町にあると何かと問題になるし、今後の国家運営に支障が出る。

場所は教えてもらったので、俺たちは早速夜に襲撃をかける事にした。

「殺しは駄目よぉ~。萬屋は殺さないパーティーだからねぇ~」

天冉がパーティーに入らなかったのは、自分が人を殺してしまうからだったようだな。

王族だからという理由もあるのだろうけれどさ。

そんな訳で俺たちは組織を襲撃した。

統括部長もいたけれど、アッサリと制圧は完了した。

暗殺するのは得意でも、攻め込まれるのには弱いようね。

「俺たちは殺し以外にやれる事は何もない!」

そう言って統括部長は自害した。

「どうしようかしらぁ~?ヤンチャな人たちをこんなに捕らえてもねぇ~‥‥」

殺さないとそりゃこうなる。

日本の苦労が身にしみて分かるよ。

雪月花の訓練生時代の同級など、改心が可能そうな者はナマヤツハシの町で再教育して雇う事にする。

力のある者を野に放つのは惜しいからね。

この強い奴が少ない世界で、マスタークラスに近い者たちは貴重だ。

尤もまだ世界のほんの僅かしか俺たちは知らない訳だけれど。

どうにもならない奴らは、法螺貝王国に引き渡し処分を任せた。

全員死刑になる可能性が高いけれど、ただの殺人鬼を野放しにもできないよなぁ。

悪い者がいればなんとかしなければならないのが人間社会だ。

そして殺人を犯すような者は命で罪を償ってもらうのも仕方がないとは思う。

だけど‥‥。

俺もこの世界に来て少し変わったか。

日本で暮らしていた頃を思い出す。

蘇生のできない世界では命の重みが違うわ。


この日、暗殺者組織の者たちを引き渡したあと、俺は王の側近たちと話をしていた。

「新しい王の即位式には出ていただけませんか?」

「天冉と狛里が出ないと言っている以上、その決定は覆らないよ」

「そうですか‥‥」

俺たちが即位式に出た所で、新しい王も嬉しくはないんじゃないだろうか。

父を殺された訳だし、なんとなく新巻鮭天冉に王にしてもらったような感じな訳だし。

それよりも俺は聞きたい事を聞いておくか。

旅の途中、俺はいくつか聞ける時に聞いている事がある。

一つは北都尚成の事。

次に姜好の事。

あとは伊勢神宮の情報や神の使い、或いは不老不死に関する情報なんかだ。

大抵は『知らない』と言われる訳だけれど、王の側近なら何か知っているかもしれない。

「いくつか聞きたい事があるんだけれど、いいか?」

「我々に答えられる事でしたら構いませんよ」

了解を得て俺は順番に聞いていった。

北都尚成に関しては今まで得た情報以上の事は何も聞けなかった。

しかし姜好に関しては、一度だけ会った事があるとの話が聞けた。

暗殺者組織ワクチンの統括部長と一緒にいたらしい。

ただ暗殺者組織のメンバーという訳ではないとか。

せっかくの情報だけれど、統括部長はもう死んでいる。

あとのカーニバルで残念だよ。

それでも暗殺者と何かしらの関係があるというのは、大きな収穫かもしれない。

反社と関係があるってのは、善人とは言い難いからね。

ここまで表立って知っている者がいなかった辺りを考えても、おそらくは裏の人間か。

伊勢神宮の情報は今まで以上の話は何もなく、神の使いや不老不死に関してもなんの情報も得られなかった。

狛里たちは、新国王誕生に湧く町を散策に行った。

町の者は半分喜びつつも、半分は歓迎していない感じ。

対外的に前国王はあまり評判が良くなかったけれど、最底辺の怠け者で働かない国民にだけは優しい社会を作ってきた訳だしね。

でもそれでは国は維持できない。

楽して生きていこうという人ばかりになれば、みんなで貧しくなって行ってしまう。

少なくとも統治者というのは、経済に関してはあまり口出ししない方がいいのだろうな。

俺はそんなことを思いつつ、今日も深淵の闇の中を探索した。

妖凛と一心同体となってから、闇の中がよく見えるようになった。

そもそも妖凛はニョグタで闇の住人だからね。

深淵の闇も庭みたいなものだったみたいだ。

おかげで一気に深淵の闇を手の内に収める事ができた。

こうしてそれぞれの一日を過ごし、明けて俺たちは再び次の町を目指すのだった。

2024年10月16日 言葉を一部修正

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