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異世界のチートな萬屋店長~一寸神アナザーアフター~  作者: 秋華(秋山華道)
法螺貝編
29/64

共存共生する移民の町にはルールがいっぱい

アメリカ合衆国は移民の国だ。

だから沢山の人種が共に暮らしている。

しかしそうなると困る事も出てくる。

価値観の違いからトラブルが多くなるのだ。

そこで必要になるのが、ルールと従わせるだけの力。

だからアメリカでは銃を持つ事が許されており、法律でガチガチに固められている。

一方日本は単一民族国家であり、長い歴史の中で培われた習慣や風習、伝統や文化といったものがある。

ルールを決めなくても天皇が国民をまとめ、人々の中に『当たり前の事』としてある『常識』が人々に規律と秩序を与える。

ただ俺が死ぬ頃の日本には外国人が多く来るようになっていて、ルールを定めるしかなくなってきていたんだけどさ。

法律で禁止されていない事は何をしても良いって、そんな風に考える輩も増えてきていた。

アメリカのように何でも『訴えてやる』って裁判で決める世界は、あまり好ましいものではないと思うんだけれどね。

とは言え違う価値観を持った者たちが共に暮らす社会を無理に作ろうとすれば、そうなってしまうのも仕方がない事なのかもしれない。


俺たちはタコの町を出た。

歩く隊列は今までと少し違っていた。

少しは信頼されるようになった猫蓮が、陽蝕と共に先頭を歩く。

強い狛里が先頭を歩くのは良かったのだが、常に最弱の天冉を伴う訳だから逆に問題もあった。

これで急な襲撃にも対応しやすくなっただろう。

二列目には狛里と天冉、三列目には雪月花で、最後方は俺と想香と尾花が並んで歩いていた。

ちなみにこの隊列で歩こうと相談した訳ではない。

自然とそうなっていた。

しかし俺はこの世界に来ても最後方を歩くんだな。

日本で暮らしていた頃も、俺は皆を見ながら歩くのが好きだった。

『孤独なのね』

『ボッチなのです』

『うるせぇ!』

少女隊め、本当の事を言うんじゃありません。

いや、マジでボッチって訳じゃ無かったよ?

本当だよ?

「次の町はどんな町なんだお?」

猫蓮が後ろを振り返り天冉たちに尋ねていた。

確か自由の町だとか云われている『シジミの町』だったか。

「そうねぇ~。あらゆる人種が共に暮らす町、かしらぁ~?」

何故疑問形?

「みんな‥‥よく知らない‥‥」

「我も他国の事はあまり知らない。ただ情報としては『色々な人種が共に暮らす自由の町』と言える」

シジミの町は移動運搬ルートから少し外れる所に町がある。

移動運搬ルートとしては北側にあるアサリの町に向かうのが普通のようだ。

おそらく魔物も少ないのだろう。

でも俺たちはあえて南のルートを選んでいた。

「アイたちも行った事はありません。ただ、町に入る為に少々面倒ごとがあると聞いています」

「だからマイたちも行くのを避けてたんだよな」

「ミィたちのような魔物系人間も多く住んでいるであろう。エルフ、ドワーフ、オーガ、獣人、共存しているであろう」

ほう、雪月花たちは流石に情報を多く持っていそうだな。

「そうなのか。雪月花は物知りだな」

「旦那様‥‥。私は限られた所で生きてきたので何も知らない‥‥。申し訳ない」

「いやいいんだよ。ほとんどみんな知らないんだから」

尾花は一見完璧なんだけれど、だからこそそうでない時は割とショックを受けやすいようだ。

もう少し駄目でもいいんだよ。

尾花は十分能力高いんだし。

どこぞの天才つばさチャンだって『知っている事だけしか知らない』と言っていたじゃないか。

「どんな町でも‥‥行けば分かる‥‥」

まあ狛里の言う通りだな。

もうすぐ町に着く訳だし、着けばどんな町かも分かるってもんだ。


そんな訳で、なんて思っている間に町には到着したのだけれど‥‥。

「町に入るのが初めての者たちには、これを全部読んでもらわなければならない」

門番に渡されたのは分厚いルール本だった。

「普通‥‥文字なんて‥‥読めない‥‥」

「読めないなら三日くらいかけてここで『語り手』に読んでもらえ。場所は提供するが、もちろん語り手は自分で雇う事になるから自腹だぞ。語り手の紹介はしてやる」

町に入る前に、その町のルールを知っておく必要はあるだろう。

でも流石にこれは酷いな。

文字が読める人でも読むのに三時間はかかりそうな分厚さ。

でも色々な種族や人種が集まる町だから、それも仕方のない所か。

ルールを定めておかないと、勝手にそれぞれの常識で行動される。

そうなったら秩序が保てない。

移民大国アメリカは、何でもルールを法制化しないとやって行けない国だった。

おそらくそんなアメリカ以上にここはそういう町なのだろう。

「雪月花は文字が読めるお?」

「問題ありません」

「楽勝だぜ!仕事がら必要だったからな」

「覚えるしかなかったであろう」

雪月花は大丈夫そうか。

問題は尾花だが‥‥。

「教えてくれればすぐに覚えるぞ!?」

ちょっと必死だな。

完璧に見えても人はやはり完璧にはなり得ないのだ。

人じゃなくてフェンリルだけどさ。

「尾花には俺が教えながら伝える」

最悪町に入ってから召喚すればいいしな。

そんな訳で俺たちは、読む為に用意されているであろう個室に通された。

こりゃみんなこの町を通って行こうなんて考えないよな。

この町に用が無い限り。

「それでルール本にはどんな事が書かれているのかねぇ?」

「これは酷いのね」

「わざわざこんな事をルールにする必要はないのです」

全くだ。

つか少女隊方、変な所から顔を出してこないでくれといつも言っているだろうが。

もう慣れたけどさ。

『人の物を盗んではいけない』とか『人を殺してはいけない』くらいは百歩譲って書いておく意味は分かる。

『ここに住む者は皆人であり平等である』ってのも、日本国憲法を思えば書かれてあっても仕方がないと言えるだろう。

だけど『皆呼吸してもいい』とか『食事をする権利を持っている』とか、こんなの必要か?

それを許さない奴とか、許されない種族や人種があるっていうのか?

いやまあ変な宗教を絶対と考える人も大勢いる訳で、何もかも全ての者が一緒に暮らすとなったら必要になってくるのだろうな。

こんな町に住みたくねぇ。

ただ、書かれている内容は『書く必要性』には疑問もあるけれど、どれも常識で納得できるものばかりだったのは救いだった。

これなら普通にしていれば問題ないだろう。

尤もその普通が難しかったりもするんだけれどね。

転生者はだいたいトラブルに巻き込まれる事になっているからさ。

そうなったらその時は逃げるだけだな。

とにかく三時間ほどで一通り目を通す事はできた。

「もう読めたのか?一応確認だ。『他人に暴力を振るう』これは良いか悪いかどっちだ?」

悪いに決まっているだろう!って言いたくなるけど、このおっさんは真面目に聞いてきている。

ちゃんと答えないと駄目か。

「もちろん駄目よねぇ~」

「よし、町に入っていいぞ」

それでいいのか?

ルール本なんて読む必要なかったんじゃね?

『きっと読んでいるのを見ていたのね』

『今のはちょっとした最終確認なのです』

まあそうか。

しかしあの門番も大変だな。

一日何人チェックするんだか。

尤も知らずに来た者と商人くらいしか来ないだろうけどさ。

何はともあれ俺たちはようやく町に入れた。

「凄いお!色々な人がいるんだお!」

「確かにこれは凄い。我はこんなに沢山のエルフとドワーフが一緒にいるのを見た事がない」

それにこの町、今までの町と比べて桁違いに強い魔力を持った者が多い。

皆が戦士と言った感じだ。

この町を統治する者も大変だろうな。

ちょっと変な事をしようものなら、住人が黙っちゃいないだろう。

なるほどそういう事か。

やはりこの町はアメリカのようなんだ。

アメリカでは統治者が暴走しないように、自由は国民が自らの力で守れるように銃を持っている。

そんな感じの町なんだ。

「今まで‥‥これだけ強い者が‥‥集まっているの‥‥見た事ない‥‥」

狛里はやけに嬉しそうだな。

もしかしたら、強い事が狛里を孤独にしていた所もあるのだろうか。

今は俺たちがいるけれど、その前はほとんど誰もいなかったはずだ。

「狛里ちんに比べるとまだまだ蟻以下よぉ~」

だよな。

強い奴らが集まっているって言っても、マスタークラスにすら満たない奴らばかりだ。

ようやく普通の異世界を感じられる程度。

それでも多少懐かしさも感じられて、俺はこの町、割と好きになれそうだ。

なんて思ったらそれはフラグな訳で。

「多数決で決めるのが一番公平でいいだろ?!」

「何を言う。強い者に従うのが一番公平だろうが!」

一体何の話をしているのかは分からないけれど、面白い話をしているな。

一見民主主義国家と独裁国家の戦いみたいに感じられるけれど、民主主義だって結局は金や権力を持つ者が国を動かす。

そもそも多数決の数ってのは力な訳で、ルールを決めて従わせる力はそこにあると言っていい。

つまりどちらも正解だし間違いでもあるんだよな。

「何を揉めているのかしらぁ~?」

天冉の呟きに町の者が答えてくれた。

「いやね。今晩魔物退治の祭りがあるんだがね。毎年それには町の男連中全員が参加する事になってるんだよ」

「だけどそんなに大変なものでもないから、女性の中にも参加したいって子が現れてね」

「それで住民投票をしたら、全員参加が平等でいいって風に決まってな」

「でも町一番の討伐数を誇るオーガのあいつが、足手まといがいると邪魔だからむしろ数を減らせって言い出して」

なるほどな。

何かを変えようとすれば必ず文句をいう奴がいるんだよ。

「多数決は領主が決めた事だから、一応全員参加に決定しているんだけど、あいつが反対したんじゃ領主もなかなか強制はできなくてさ」

「それで同じくらい強いと云われているエルフのあいつが女性たちの支持を得て説得を試みている訳なんだけど‥‥。やっぱり力のある奴には逆らえんだろうよ」

なんだか国際連盟委員会で日本が『人種的差別撤廃』を提案した時みたいな感じか。

多数決では人種的差別を撤廃する方向で決まるはずだった。

しかしアメリカが全会一致を主張してそれを許さず、その後も人種差別は続く事となった。

なんだかんだ力は重要だよ。

でもその後どうなったかを考えれば、どちらが正しかったかは歴史が教えてくれる。

おそらく人種差別は失くす方向で今も動き続けているはずなんだ。

あくまで人間である権利を認めるという意味でだけどね。

さて今回の場合、その祭りを実際に知らないから俺はどちらの味方もできない。

ただ一つ言える事は‥‥。

「だったら何も変えないのが一番いいんだお!」

そうそう猫蓮の言う通り、それが一番無難ではある。

変えるから問題になるのであって、変えなければ元々あった不満しか残らない。

尤も、変えるべき理由が明らかに説得力を持つのであれば考える必要はあるけれどね。

「なんだ君たちは?」

「部外者が口出ししてくるんじゃ‥‥えっ?こいつら‥‥いやこの方たちから尋常じゃない魔力を感じるんだが‥‥」

次の瞬間、一気に俺たちの事が町の者たちにバレた。

「アレは萬屋の狛里じゃねぇか!?」

「間違いない!狛里と愉快な仲間たちだ!」

おいなんだよ愉快な仲間たちってw

俺たちがどう見られているのか分からなくなってきた。

「確かに他とは違ったオーラも感じる」

「ヤベェぞこのパーティー。全員が強いのは間違いない」

本当になんでこんなに俺たち有名なんだよ。

できればコッソリと猫蓮を強くしたいんだけどさ。

「多数決も力による決定も間違っているお!それは歴史が証明しているんだお!相談して議論を尽くして同意を得て、その上で死者の民主主義こそ正義なんだお!」

「死者の民主主義?」

「そうだお策也殿!この祭りは長く続いているんだお。それも男性の全員参加と決まっているお。そこには何か理由があるお。先人たちがそうするべきだと考えていたんだお」

なるほどな。

つまり多数決を取るにしても、先人たちの考えを票としてちゃんと考えろって訳か。

まずは先例を解きほぐして考え、それでも間違いと思えるなら今の常識で多数決を取る。

それこそが真の民主主義だ。

昔からやってきた事、続けてきた事には何か意味がある。

風習や習慣、伝統や文化と言い換えても良い。

大切だから、そうするべきだからそうやって残っているのだ。

だから文化ってのは大切にしなければならない。

それにしても『死者の民主主義』とは、多分日本の偉い人の受け売りだろうけれどなかなかいい言葉だな。

雪月花という守る者を得た事で、猫蓮が急激に進化している気がするぞ。

「そこまで言うなら、実際に祭りを見ていったらどうだ?その上でお前たちも今のままが良いと思うのなら俺は強者には従うつもりだ」

「確かに言いたい事は分かりました。私もオーガの彼の意見に賛同します。あなた方が見て、この町の女性たちの気持ちも含めて、どうするべきが教えてほしいですね」

おいっ!

いきなり何勝手に話を進めているんだ?

ちょっと口出ししただけでちゃんと現場を見て判断してくれだと?

丸投げにも程があるぞ。

あまりに都合が良すぎやしませんかねぇ。

「分かったお!見てみるお!」

って言われた通りにするんかーい!

「私も‥‥ちょっと見てみたい‥‥」

「そうねぇ~。祭りは楽しそうよねぇ~」

はいはいさいですか。

「あんたたち運が良いよ。今日の祭りは三千年目の祭りで特別なんだよ」

ほう、三千年目かよ。

こういう節目って良い事も悪い事も含めて何かありそうなんだよな。

「そうそう、この祭りは二千年前に『千年竜祭り』と名前が変わり、千年前には『町が共存共生の自由の町に変わった』んだ」

「今年も何かが起こるんじゃないかと云われている。いやぁ~楽しみだよ」

マジかよ。

楽しみって言うか、不安しかないぞ?

おそらくそこには意味があって、未来の人たちに忘れるなと伝えている気がする。

だとすると千年竜は‥‥。

「今年は竜が襲ってきそうだな」

そうそう陽蝕の言う通りだ。

「一応祭りの事を話しておくと、この祭りの日には何故かリザードマンが襲ってくるんだよ。極偶にワイバーンが来る事もあったらしいが、前回来たのはもう百年くらい前だったかなぁ」

「リザードマンもワイバーンも竜属の端くれだ。だから千年竜祭りって云われているんだろうよ。ドラゴンが来たって話も全く無い訳じゃないけれど、もう伝説の域だからな。誰も信じちゃいないさ」

信じろよ!

別に百パー信じろとは言わないけれど、少しは可能性を考えてくれ。

「まあこんな所にドラゴンなんてやってはこないよ」

何故千年前に、今のようにあらゆる種族や人種が共に暮らす町に変わったのか。

それはこの祭りに勝つ為だとも考えられないか?

人間だけじゃドラゴンに勝てないから、魔物すらも仲間にしようと考えたんだ。

「その答えは今晩分かります。僕はきっとドラゴンがやってくると思います」

「想香もそう思うか。人は何故か百年もすると過去の事は忘れちまうんだよな」

東日本大震災の時、二十メートル以上の津波が襲って来て町が壊滅した。

過去の人たちが石碑を建てて『此処まで津波が来た』と記していたにも関わらず、その下に町をつくってしまったせいだ。

もしも過去をちゃんと覚えていて対応していたら、町が壊滅する事も多くが死ぬ事も無かったのではないだろうか。

人は忘れるが故に同じ過ちを繰り返すか‥‥。

とにかくその夜、俺たちは魔物が襲ってくるであろう町の南側、森の入り口で待機するのだった。

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