フェンリルだけどフェンリルじゃない?松桐尾花!
戦争には、その戦争に対する正当性と、戦い方に対する正当性がある。
それぞれ、『ユスアドベルム』と『ユスインベロ』という。
鬼海星王国と法螺貝王国の戦争は、今切って落とされた。
先に進攻を開始したのは、鬼海星王国である。
輸送船を襲った中に法螺貝王国の兵士が混じっていた訳で、先に手を出したのは法螺貝王国だとも言えるけれど、それを各国に伝え信じてもらう手は今の所ない。
鬼海星王国はその前から進攻準備を進めており、法螺貝王国としてはそれを『挑発』ととらえ止める為にそうしたとも言えるからだ。
ただそれも鬼海星王国にしてみれば、法螺貝王国は常に『鬼海星王国は自分たちのものだ』と言ってきた訳で、それもある意味『挑発』になり得る。
近々鬼海星領内への進攻も噂されており、そう考えると鬼海星王国としては仕方のない判断だったのかもしれない。
更に状況を見れば、お互いが領有権を主張しいがみ合っていた訳で、結局の所状況はどちらに優位性を持たせるものでもなさそうだ。
そんな中で鬼海星王国が実際に先に動いてしまった訳で、ユスアドベルムの観点からは鬼海星王国が悪いと現時点では判断せざるを得ない。
これで法螺貝王国は、堂々と反撃進攻する事が可能となった。
他国も鬼海星王国を擁護するのはリスクが高く、法螺貝王国の進攻に対しては静観の構えを見せるしかない。
さてしかし、戦争が始まった後に問題となるのはユスインベロである。
『戦い方の正当性』だ。
最も重要なのは、国家同士の戦争に民を巻き込んではいけないという事。
いくらユスアドベルムでは法螺貝王国が支持されていたとしても、ユスインベロがなっていなければ、どの国も支持しにくい状況に陥るんだよね。
この戦争どちらが悪い?
そんな話をする時は、ユスアドベルムとユスインベロ、両方の観点から冷静に見る必要がある。
ただ、俺はこれにもう一つ要素を加えてもらいたいと思っている。
国家国民を守る為の正当性だ。
その為には、仕方なくやらなければならない事もあるだろう。
まんまと挑発に乗せられて仕方なく先制攻撃はしたものの、反撃されて国家存亡の危機に陥ったとしたら、その時はなりふり構ってはいられないよね。
それでも最後まで正当性を貫いたのが大日本帝国だったんだよな。
大東亜戦争中、日本はユスインベロを守った。
アメリカが東京大空襲や原爆を投下したのに対し、日本は国際法を守って戦っていた。
原爆開発も実は行っていたんだよ。
でもそれは天皇陛下の猛反対によって潰えたという話もある。
民を無差別に殺すような兵器を、国家国民を守る為とはいえ日本は許さなかったのだ。
だから負けたという訳ではないけれど、相手が国際法を守らない中でどれだけ守るべきなのだろうかと思う所もあるよ。
今のままだと負けると分かっていても、勝つ為に関係のない民を殺すのは苦しかろう。
でもそれは結局、敵国の民を殺すか自国の民を見殺しにするかの選択な訳で、守る為の行動は許されて然るべきだと俺は思う。
ちなみにアメリカの東京大空襲や原爆投下には、自国民を守る要素は全く無かったとハッキリしている。
日本は既に終戦に向けて動き出していたのだから‥‥。
フェンリルが法螺貝王国の兵士を食いまくり、辺りの状況が落ち着くまでには少しの時が流れた。
俺はそれを空から眺めていた。
『もうあのフェンリルは人間の心臓を食べなくても良くなったのです』
『そうなのね。妃子には分かるのね』
『そうか』
別に元魔物である少女隊じゃなくても、それは俺にも感じられた。
ならばおそらくあのフェンリルは、今後人を食らう事はないだろう。
なかなか話せるいい奴ぽかったからな。
『じゃあ戻るか』
俺は状況を見届け、法螺貝王国の進攻はすぐにはないだろうと判断しタコの町へと戻ろうとした。
その時だった。
フェンリルが人の姿へと変化していくのが見えた。
『おおっ!』
『あのフェンリル、人間になってるのね!』
『それも女性なのです!可愛いのです!』
菜乃の言う通り、人の姿となったフェンリルは、着物姿の可愛い容姿をしていた。
こりゃまた何か嫌な予感がするな。
そう感じた瞬間、今度は人の姿となったフェンリルが、俺がいる上空へと一気に飛び上がってきた。
「おっ!」
そして前方約五メートルほどの所で制止した。
人の姿となったフェンリル女性は、ボーっとした表情でただ俺の顔を見ていた。
「よ、よう!あの時のフェンリルだよな」
ずっと見つめられて居心地の悪くなった俺は、とりあえずそう声をかけてみた。
するとフェンリルの表情は少し柔らかくなった。
「やはり、私の思った通りのようじゃな」
思った通り?
「何を言っているのか分からないけれど、フェンリルって人の姿になったりもするのな」
俺の言葉にフェンリルは、人の姿になった事について話し始めた。
別に詳しく知りたい訳でもなかったんだけれどな‥‥。
何か話さないとと思っただけなんだよ。
「フェンリルは人間を食ろうて人間になるのだ。それが最終形態。その為に人間を食らうと言ってもいい。ただし人間になったフェンリルは厳密にはフェンリルじゃない。そもそもフェンリルは男の一頭のみであり、他は成長すればやがて人間へと成るのが摂理」
「そうなのか。えっと、じゃあお前はもう人間って事?」
「それもまた違う。人間とツガイになって子を産むまでは、どちらでもある曖昧な状態。だからフェンリルの姿へと戻る事もできる」
こりゃまたやっぱり嫌な予感しかしないぞ。
いや、ある意味俺が望んでいた展開になりそうなんだけどさ。
「そっか。じゃあまあ、人間になるのかそのままでいるのかは知らないけれど、俺はソロソロ帰るから失礼するよ」
「ちょっと待て!私は話があるからお前の前にきたのじゃ。話を聞け」
「そうなの?」
フェンリルは俺を帰らせてはくれなかった。
だから嫌な予感っていうか、普通ならおいしい予感しかしないんだって。
「そうだ。お主、かなり強いだろ?私は前に会った時、人間になったらお主とツガイになると決めておったのじゃ」
やっぱりキター!
マジ勘弁してくれよ。
俺には別世界にみゆきという妻が既にいる訳でね。
ただでさえ狛里に求婚みたいな事をしてしまっているし、想香はみゆきに似ているし、少女隊プラスは嫁扱いだしで自分を抑えるのが大変なんだよ。
理性も限界ってのがあってね。
その上こんなに可愛い女の子に積極的にいい寄られたら、マジで精神もちませんって。
フェンリルの言葉に、少女隊は我慢の限界と云わんばかりに影から飛び出してきた。
「何を言っているのです!嫁はもう菜乃に決まっているのです!」
「妃子が嫁なのね。それに策也タマはもうみゆきタマとも結婚しているのね!」
こりゃまたなんかややこしくなりそうな事を言い出しやがって。
「いやこいつらは別に関係ないんだけどさ。俺は既に結婚している訳でさ」
「別に私はかまわんぞ?そちらの二人も嫁のようだが、その中に私も加えてくれればいい。私はとにかく強い男と子を残したいだけじゃ」
そうなんだよなぁ。
全てが一夫多妻を否定する訳でもなくて、生物学的には強い雄に雌が沢山群がるのは間違っちゃいないんだよ。
でも俺はもう浮気はしないと誓った訳で、此処で負けては駄目なのだ。
「強い男なら、俺より強いのはいるだろう?」
「私は知らない。おそらくこの世界唯一のフェンリルですら、お主に勝てないじゃろう」
そういやなんかさっき唯一のフェンリルは男だとかなんとか言っていたな。
本当のフェンリルはこの世界にただ一頭とか。
おそらくそいつはかなり強いのだろう。
でもまあ俺よりは弱いんだろうなぁ。
「いや、今はまだ俺も俺以上に強いヤツを見た事はないけどさ。今後必ずそういう男が現れる事になっているんだよ。その男とツガイになる事をお勧めするよ」
「ふむ。俄かには信じがたいが、そういう男が現れるのならそれもいいじゃろ。でも今はお主が一番じゃから、これからはお主に付いて行かせてもらうぞ」
「付いてくるの?」
みんな、フェンリルを仲間にするの認めてくれるかなぁ?
「そうだ。ならば私をテイムしておかないか?お主よりも強い者が現れれば、所有権を譲渡すればいいし問題ないじゃろ?」
テイムねぇ‥‥。
それならまあみんなも認めざるを得ないか。
眷属、或いは眷獣って事なら少女隊とも近いからな。
この子からは殺気も感じないし、嘘を言っている所もない。
賢く良い奴だし問題を起こす事はないだろう。
少なくとも少女隊と比べたら多分マシだ。
『何か今失礼な事を考えたのね?』
『帰ったらバックドロップの刑なのです』
こいつら本当に俺の心が分かりやがるんだよな。
「分かった。テイムしても良いというなら連れて行くよ。その代わり俺よりも強い男が現れるまでの間だぞ?ツガイにはなれないからな?」
「お主よりも強い男が現れたならそちらに乗り換える。でもそれまでは私の旦那様はお主じゃ」
それまでは俺が旦那様なんかーい!
「子作りはできんぞ?」
「すぐには求めない事にする。ただいつまで待てるか‥‥」
こらっ!
「百年は待ってくれ。百年以内に必ず現れるから!」
「百年か。まあいいじゃろ」
助かった。
フェンリルにとって百年はそんなに長くはないようだな。
「そういやまだ名前を言ってなかったな。俺は此花策也だ」
「私には名前が無いな‥‥。そうだ!今すぐツガイに成れぬと言うなら、せめて私に名前を付けてはくれんか?」
「名前くらいなら、まあ良いよ‥‥」
「では頼む」
つか名前を付けたらもうツガイだとか、そういうルールはないよね?
さてしかし名前か。
フェンリルと言えば、地属性の他に炎や雷といった属性の光魔法が使えるんだよな。
さっきも派手に使っていたし。
三つの光‥‥三光‥‥三光と言えば花札の役で『松桐坊主』が有名だな。
坊主は芒だから‥‥。
「よし、今からお前は『松桐尾花』だ」
フェンリルの尻尾は花のように綺麗だしピッタリだろう。
ちなみに『尾花』とは『芒の花穂』の事ね。
「松桐尾花か‥‥。気に入ったぞ!旦那様」
「いや旦那様じゃなくて策也って呼んでくれていいぞ?」
「策也か‥‥。なかなか魅力的な提案ではあるが、旦那様よりも強い男が見つかるまでは旦那様と呼ばせてもらう」
「さいですか‥‥」
狛里たちに何か言われそうだなぁ。
まあでもテイムしておくわけだし、マスターって言うのと変わらないかね。
「じゃあテイムして‥‥って、俺テイムの魔法知らないわ!」
全く不便な世界だよ。
「大丈夫。名前を受け入れた時点で私たちフェンリル族は旦那様に従う事になっている」
なんてご都合主義なんだーい!
「そうか‥‥」
『私の心の声も聞こえるじゃろ?』
『本当だ。これからよろしく頼む』
『こちらこそ。私を必要とする時は何時でも呼びだしてくれ。尤も呼び出さなくても常に一緒にいるつもりじゃがの』
ずっと一緒は困るけれど、これでいつでも呼び出せるのか。
少女隊よりも都合よく使えそうだな。
これはちょっといいかも。
『菜乃たちを忘れないでほしいのです』
『そうなのね。一番は妃子たちなのね』
『そうだな。お前たちが一番だよ』
一応そう言っておかないとな。
それに実際本当の俺を知っているのは少女隊プラスだけだ。
こいつら以上に大切なものはないよ。
まあ死なないから失う心配はないんだけどね。
そんな訳で俺は、フェンリルの尾花を仲間にしたのだった。
俺はみんなが集まる宿屋の一室へと帰ってきていた。
そこには陽蝕の姿もあった。
「という訳で、フェンリルの松桐尾花だ」
「もう人を食らう必要もないので、旦那様に付いて行く事にした」
みんな一瞬フリーズした。
しかし概ね問題は無さそうだった。
「策也ちゃんの新しい嫁‥‥つまり私の友達‥‥」
嫁じゃないんだけどさ。
「策也殿がうらやましいお!魔物が変化した可愛い子は転生者のオデがテイムするはずなんだお」
確かに猫蓮の言う通りなんだけど、まだお前弱いからさ。
俺より強くなれば喜んで譲れるんだけどな。
「此処では僕の方が先輩なので、困った事があればなんでも聞いてくれていいのです」
正式なパーティーメンバーは増えてないから、想香はまだ後輩ポジションなんだけどな。
「くそっ!何故お前なんだ‥‥」
陽蝕は最近俺への当たりが多少マシになってきている。
猫蓮も含めて、俺がみんなに頼りにされるポジションではないかと嫉妬していたのではないだろうか。
でも行動を共にする中で、そうでもない事に気が付いた。
実際の所は知らんけどねw
それに狛里はともかく、自分が一番強い男ではないってのが気に入らない可能性もある。
「それでフェンリルが法螺貝軍を追っ払ったとかって話なんだけどぉ~?」
「ああ。尾花が最後の食事をした事が、法螺貝軍の撤退に繋がった。尾花のおかげで直ぐに法螺貝軍が攻めてくる事は無くなった訳だ。しかし今日明日は無くても、明後日明々後日くらいにやってくる可能は否定できないだろうな」
少し準備時間が得られた程度で、おそらく法螺貝軍は攻めてくる。
国力はかなり法螺貝王国の方が大きいし、他の国が鬼海星側で介入するのも難しい今の状況はチャンスだからな。
そして今戦争を続けるのなら、鬼海星領を全て飲み込む勢いでやってくるだろう。
タコの町だけじゃ、その後はこの先続けられなくなるからな。
大義名分が通用しなくなる。
「猶予はできたが、圧倒的に少なくなった兵力で守らなければならない状況は変わらないか‥‥」
陽蝕は追い詰められているな。
俺が自由の身ならば、色々と手伝ってやれる。
でも異世界の神が何処まで手を貸していいものか。
「とりあえず‥‥明後日までには‥‥民を非難‥‥」
「それは既に準備が進んでいる。民を巻き込む訳にはいかない」
この辺り鬼海星王国は割とまともだ。
既にユスアドベルムで負けているのだから、ユスインベロでまともな所を見せなければならない事もあるだろう。
でも思った以上に鬼海星王国は悪い国ではない。
姜好の事について先日陽蝕に尋ねたが、鬼海星王国とは何の関係もないようだった。
少なくとも陽蝕は知らない。
新巻鮭を傘下に治める為の脅しも、決して本気という訳ではなかったそうだ。
鬼海星王国は酷い事を云うけれど、実際にそれを実行した事はほぼ無いという話だった。
一方法螺貝王国は、表向き良い事は云うけれど、実際はかなり酷い国という印象を持たれている。
自国の民ですら戦いに巻き込む事は当たり前で、他国の民となると全く気にしない。
ただし表向きは好戦的ではなく、実際に戦争を仕掛けるような事は今までなかった。
尤も法螺貝王国が今まで全く戦争をしなかった訳もなく、いずれも相手側から進攻を開始しているのは、今回のような事があったからではないかと想像できるんだけれどね。
「とにかく僕たちにできる事はないか相談しましょう。戦争に参加はしなくても、何か役に立てるはずです」
「いや、想香ちゃんの気持ちは嬉しいが、やはりできる事はないよ」
陽蝕がそういうと猫蓮が声を上げた。
「そんな事はないんだお!たとえオデたちにできる事がなくても、みんなで話し合えば何か思いつくかもしれないんだお!神々は『集いに集いて』光を取り戻したんだお!色々な人が集まれば何かが起こるんだお!」
その通りだな猫蓮。
それは天岩戸の神話だな。
日本は二千年以上前から民主主義なんだよ。
ただ、上手く行く時もあればそうならない時もある。
「とりあえず話し合ってみましょう?まずは状況整理ねぇ~」
天冉が進める形で、とりあえず相談は始まった。
まず状況としては、明後日以降に法螺貝軍がタコの町に攻めてくると考えられた。
そこで明日、タコの町の住民は戦士の村へと避難する事に決まっている。
俺が作った防壁もあるし、しばらく町の者たちが暮らすくらいはできるだろう。
そして明後日以降に備えて、今度はこちらが伏兵を置くという話に至った。
尤もバレバレだろうけれどね。
それでも置かないよりはマシと考えた。
その後はタコの町に籠城する。
籠城すればそう簡単に落とせる町でもないし、長引けば疲弊するのは法螺貝側だ。
長期戦になれば、俺たちは戦士の村の住人を助ける為に、食料物資の運搬を引き受ける事とした。
民を助ける事は戦争行為には当たらないからね。
こんな感じで特にいいアイデアは無かったけれど、俺たちができる事も見つけられたし、何よりこの戦いでの勝利が見えてきたのは良かった。
「相談して良かったよ。民に辛い思いをさせなくて済みそうだし、勝算がハッキリと見えたのは嬉しいよ。ありがとう」
陽蝕は素直に皆に礼を言った。
しかし俺は引っかかっているんだよね。
こんなに上手く行くのだろうかと。
安心させる為には良かったかもしれないけれど、対応はあらゆる状況に応じてどうするのかを考える必要がある。
これは最もあり得る可能性の一つに過ぎず、他にも起こり得る展開はあるのだ。
例えばフェンリルがいなくなったと判断した法螺貝軍は、そのままこちらに引き返してくるとか。
その場合今晩にも夜襲をかけてくるかもしれない。
或いはそこまででなくても、法螺貝王国の最前線であるカラスの町とは二十五キロ程度しか離れていないのだから、強行して明日攻めてくる可能性もある。
そしてその場合、再びフェンリルが現れてもいいように強力な軍がやってくるかもしれない。
強い使い手がいるかもしれない。
最悪の可能性は、明日強い奴も含めて強行してくる事だ。
その場合、こちらの民が避難するのと重なる可能性がある。
更に法螺貝軍なら戦い方の正当性を無視する様にも思えるし、民を狙う可能性も捨てきれない。
虚を衝き相手の嫌がる事をするのは戦いの常識とも云われる。
ならば対応は、可能性がある限り可能性として考えておく必要があるのだ。
しかしそれを言って心配させるのもなぁ。
何も無ければそれでいい。
でも言わなければ、言霊を恐れて負ける可能性を言えなかった大日本帝国と同じだよ。
「他の可能性については話さなくていいのか?」
「どういう事だ?」
陽蝕が俺を睨みつけてきた。
マシになったとは言え、その目はきついよ。
「明日法螺貝が攻めてくる可能性だって無いとは言えないだろ?」
「その点は大丈夫だ。斥候の話だと法螺貝軍はフェンリルにやられて満身創痍でカラスの町へと退却したらしい。正直明後日来るかも怪しいくらいだ」
「そうか‥‥」
流石に退却したなら今晩来る可能性は排除できるか。
でも嫌な予感はしている。
未来予知もハッキリとは見えないけれど、この作戦では上手く行かないと暗示しているんだよ。
とはいえ陽蝕とはこれ以上話しても無駄だな。
鬼海星が負ける事は正直どうでもいいけれど、民だけは守らないと寝覚めが悪い。
宿屋での話し合いが終わり陽蝕が去った後、俺はコッソリと天冉と二人で話す事にした。
他に感づかれないよう天冉だけを呼び止め、俺たちは二人で部屋に残った。
いや、そこにはまあ俺の影たちや尾花もいるんだけどさ。
こいつらは俺自身みたいなものだし、一応二人って事で。
「どうかしたのぉ~?もしかして何かもっと良い作戦でもあるのかしらぁ?」
「そうだな。もっと良い作戦というか、今の作戦じゃ上手く行かないっていうか。だから相談があるんだ」
「上手くいかない?それは策也ちんの勘かしらぁ~?」
「まあな。おそらくだけれど、法螺貝軍は明日やってくる。そして避難民を襲う可能性もかなり高いと俺は見ている」
明日やってきた所で、籠城すればこの町はそう簡単には落とせない。
しかし民を襲う事で、鬼海星軍は民を守る為に町から出なければならなくなる。
そうなればおそらく鬼海星軍は負ける。
「それで作戦はあるのぉ?言っておくけど私たちは戦争には加担しないわよぉ~」
「そうだな。戦争には加担しない。そこで天冉に頼みたい事があるんだ。天冉ならなんとかできるだろ?冒険者の仕事として、戦士の町に向かう民の護衛をギルドから俺たちに依頼させるんだ」
俺の考えた作戦は簡単だ。
冒険者の仕事、萬屋の仕事として民の護衛を引き受ける事。
戦争とは関係がない。
そもそも戦士の町に向かうのは危険がある訳で、護衛兵が付く事になっている。
でも今戦士の村辺りは魔物が多くなっているのだ。
それを理由に冒険者に護衛依頼があっても不思議ではない。
「あくまで普通の護衛クエストとして民を守るのねぇ~‥‥」
「それなら戦争に加担した事にはならないだろ?」
まあ法螺貝軍が襲ってくる事をあらかじめ予想している辺りただの方便でしかなく、加担していると言えなくはないんだけれどさ。
「分かったわぁ~。萬屋ぼったくりで民の護衛クエストをやる事にしましょう~」
「おっ!流石天冉!できるか」
「狛里ちんの気持ちも無視はできないしねぇ~。此処の住人に、新巻鮭と繋がりのある人が何人かいるはずよぉ~。その人達から他の民も巻き込んで依頼を出させる事にするわぁ~」
新巻鮭王国も一応国だからな。
他国に諜報員やスパイ工作員がいても不思議ではない。
そしてそれはただの民として普段は生活しているのだろう。
その民からギルドに依頼を出させれば良いって訳だ。
こうして俺たちは次の日、戦士の村に向かう民の護衛として一緒に出発する事となった。
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