お前らが英雄の北都尚成だと?
中華人民共和国(中国)は、中華民国である台湾と『一体である』と主張している。
つまり台湾も中国の一部であり別の国ではないと言っている訳だ。
その理屈が面白い。
台湾領土である金門島と馬祖列島は大陸のすぐ近くにあって、そこは当然大陸側である中国の縄張りであると考えていた。
その縄張りの島を統治しているのが台湾なのだから、台湾統治者は当然中国で無ければならない訳で。
だから台湾は中国であると言うのだ。
それは鬼海星王国と法螺貝王国の関係にも似ている。
法螺貝が鬼海星に侵攻してくるかもしれないと思われたのは、法螺貝が鬼海星王国は法螺貝王国の一部であると認識している事にあった。
タコの町と戦士の村は、地形的に見て法螺貝の縄張りであるように見えるからだ。
この二つを鬼海星が押さえている事が、両国の争いを生む事になっていた。
しかし法螺貝は、なんだかんだ言いながら今まで一度もタコの町へ侵攻した事がない。
タコの町と戦士の村を占領してしまったら、鬼海星王国が法螺貝王国の一部であるというロジックが崩れてしまう事になるからね。
ただ今後もその理屈が続く保証は何もなく、鬼海星は法螺貝への逆侵攻を決断したのだった。
午前中に戦士の村を発った俺たちは、昼前にはタコの町へと入り陽蝕と合流していた。
陽蝕の話によると、やはり輸送船団を襲った海賊の中には法螺貝の正規軍も含まれていた。
それが決め手となったのかは分からないけれど、昨日の内には法螺貝への侵攻が開始されてしまった。
「止められなかったよ。こちらから手を出さなければ、法螺貝から本気で攻めて来る可能性は低いと判断されているんだけどな」
これで法螺貝側の主張は、『鬼海星側から侵略戦争を挑まれた』というものに変えて行けるだろう。
誰もが納得する大義名分を得て、今度は堂々と鬼海星側に侵略してくるかもしれない。
中国と台湾の関係でいえば、中国の工作によって台湾側から侵略戦争を始めてしまったようなものだ。
国力はそこまで差は無いにしても、馬鹿な事をしてしまったものだよ。
たとえ助けてやろうと思っていた国があったとしても、これでは何処の国も手出しが難しい。
表向き悪いのは鬼海星側と判断されるだろうからね。
ユスアドベルム、戦いの正当性は現時点では法螺貝側にある。
あくまで現時点での話だけれどね。
戦争なんてものは大抵どちらが悪いとは言いづらい。
小さな挑発やいざこざが徐々に積み上がって戦争となるのだ。
ちゃんとした検証は、戦争が終わってから行われる。
それまで鬼海星は悪となる。
「この状況だと鬼海星側に味方する事ができないんだお」
「どっちみち‥‥無理‥‥」
「困ったわねぇ~。これから法螺貝王国へ向かうって時なのにねぇ~」
天冉が困っているようには見えないけれど、このまま向かうと確実に戦闘に巻き込まれそうなんだよな。
そして俺たちは戦争には協力しない訳で、もしも巻き込まれるような事にでもなれば、俺たちに刃を向けるものすべてを排除する事になる。
結果法螺貝側を助ける事にもなりかねない。
「すまないな。我はこの進攻が上手くいく事を祈る事しかできない。今日明日には法螺貝の『カラス』の町へ攻撃が開始されるだろう。早々に決着が付けば良いのだが‥‥」
早々に決着か。
それはどういう決着だろうな。
俺は鬼海星が負ける未来しか見えないのだけれどね。
それも早々に‥‥。
アレ?俺の未来予知が働いている?
だとするならば、本当に早々に決着がつきそうだ。
俺がそう思った時、食事処で食事中の俺たちの所に一人の男が近づいてきた。
その男は軽く会釈すると、陽蝕の耳元に顔を近づけ耳打ちした。
「分かった。ありがとう」
陽蝕がそう言うと、男は再び会釈をしてすぐに立ち去って行った。
もう負けたか。
俺には男が耳打ちした話が聞こえていた。
『我が軍は奇襲に合いほぼ壊滅。散り散りになって敗走中です』
それはすぐに陽蝕から俺たちに伝えられた。
「全く、だからやめろと言っておいたのに。完全に法螺貝は準備していたな。このままだとこの町が戦場になるかもしれないぞ‥‥」
準備か。
いやむしろ誘導された可能性もある。
法螺貝側から攻撃を仕掛けるのはリスクが高い。
不可侵条約を結んだ新巻鮭の狛里が出てくる可能性だって考えられるはずだ。
その可能性は無いと俺たちは知っているけれど、普通はその可能性も考慮されて然るべきだろう。
「町を戦場に‥‥したら駄目‥‥」
「だけど戦争には加担しないのですよね?僕たちには何もできないのです」
「町の人たちを見殺しにするんだお?オデには無理だお!」
ほう猫蓮よ。
民を守る為に戦いたいか。
死にはしないがかなり辛い戦いになるのを分かっているよな。
それでも助けたいと言えるのは敬意を表するよ。
「狛里様や想香ちゃん、策也殿がいれば守れるはずなんだお」
他力本願かーい!
まあお約束だな。
「我は‥‥この町に侵攻してくるのなら戦う事になる。その間は申し訳ないがパーティーから外させてもらうぞ」
「大丈夫よぉ~。その為に最初からパーティーには入れてないからぁ~」
「そ、そうだった、な‥‥」
ちょっと陽蝕が寂しそうだな。
それに狛里や猫蓮は納得いかない表情。
なんとか助けてやれないもんかねぇ。
「そうなんだお!また姿を変えて助けたら良いんだお!」
「それは却下よぉ~。前回はドワーフとゴブリンの戦争だったから何も言わなかったけれどぉ、こういう事を繰り返していたら結局ポリシーに反するのよねぇ~」
ポリシーに反するねぇ。
なんとなくだけど、天冉って戦いそのものを嫌がる傾向にある気がする。
いや、ちょっと違うか。
戦いを楽しんでいるような時もあるし、それ自体が問題って訳でもない。
好きだけど避けたいというか。
「今も鬼海星の兵士たちは法螺貝の追撃を受けてるんだお?もしかしたら戦士の村の人たちも殺されているんだお‥‥」
猫蓮の言う通りそういう事になるだろうな。
そうすると村は大丈夫とは言え、村人が村から出られない状況や、或いは誰も村に近寄れない状況がこの先続く事になるやもしれない。
そうなるとタコの町と戦士の村は孤立する。
結局鬼海星は此処を失う事になる可能性があるな。
皆がどうにもならない状況で伏せっていると、少女隊が元気に影から飛び出してきた。
「此処は菜乃の出番なのです!」
「そうなのね。仕方がないから妃子が助けてあげるのね」
おー‥‥。
妙にこいつらやる気だな。
どうしたんだ一体。
「そうなんだお!策也殿の嫁たちならパーティーメンバーじゃないんだお!」
猫蓮の言う通りではあるが‥‥嫁と呼ぶのはやめてくれ。
「ん~‥‥。二人は既に一度一緒に仕事をしていて、仲間だと思われているのよねぇ‥‥」
「合体すればどうでしょうか?前に見せてもらいました!」
「想香ちゃんの言う通りなんだお!」
「でも見た目はほぼ同じでしょ~?すぐに仲間だと分かるわよねぇ~」
正直こいつらが目立つのも、俺としては避けたいんだよなぁ。
「姿を変えればいいんだお!パーティーメンバーじゃないからいいんだお!」
「猫蓮さんにしてはナイスアイデアですね。僕もそれで大丈夫だと思います」
そういう事じゃないんだよな。
それを通してしまったら、この先ずっとこいつらが戦争に参加する事にはならないだろうか。
それに結局‥‥。
「そうすると、他の誰でもやっぱり姿を変えればいい事にならないかしらぁ~‥‥」
天冉の云う通りだ。
「心配は御無用なのです」
「実は妃子たちは合体する事によって、全く別人になれるようになったのね」
「なんだとー!」
おっと、大げさにツッコミを入れてしまったではないか。
つかそんな話聞いてないぞ?
「言ってないのです」
「そうなのね」
俺の心の声にツッコミはいれないでくれ。
「菜乃たちは合体する事で、全く別人になれるようになったのです」
「しかも男なのね。その姿で一度戦ってみたいのね」
マジかよ‥‥。
それで今回名乗り出たのか。
男になれるなら、それで一度戦ってみたいと思っても不思議ではない。
いや、そんな理由でこいつらが名乗り出るとは思えないけどな。
そこは関係ない、他にきっと何かがある。
「じゃあ早速合体して‥‥」
「ちょっと待てお前たち!」
俺は合体しようとする少女隊を止めた。
そして小声で伝えた。
「此処で合体して姿を晒したら、食事している者たちに見られるだろ?合体するなら場所を移動しよう」
見るとみんな食事は終えていた。
そんな訳で俺たちは、速やかに店を出て町外れへと移動した。
「ここなら人がいないから大丈夫そうだな。つかマジで合体して男になれるのかよ」
「なれるのです」
「ちゃんと股間にはアレが付いていたのね」
アレね‥‥。
最初に男になった時、こいつらが大喜びしたのが目に浮かぶよ。
「では合体して見せて下さい。いや別に楽しみという訳ではないのですが、ちょっと気になります」
「確かに気になるんだお!もしかしたら男の娘かもしれないお」
なんで期待するんだよ。
まあ中身は女の子だから見た目が男でもいいのか?
「それでは行くのです!」
「合体なのね!」
二人は少し光を放ち合体を開始した。
お互いの影が一緒になって、そして一つの影を形成してゆく。
気が付けばそこに一人の男が立っていた。
‥‥。
うん、普通だな。
髪の色は水色で、妃乃と同じか。
男になった事が理由かどうかは分からないけれど、完全に別人となっている。
あれ?だけどどこかで見た事があるような気がするな。
何処だっけ?
思い出せないけれど、なんとなく懐かしく感じる容姿をしていた。
「あらぁ~なかなか格好いい感じよねぇ~」
「それにちょっと‥‥可愛い‥‥」
「我はどこかで見た事があるような気もするぞ。どこだっただろうか」
「やっぱり男の娘なんだお!でもオデよりも年上に見えるお」
実際少女隊は猫蓮よりもかなり年上だけどな。
「その見た目なら、少女隊だとはバレないな。どうだ天冉。今回限りという事でやらせてみたら」
なんとなく俺も、こいつが戦う所がすぐに見てみたいというか。
何か惹かれるものがあるんだよな。
「そうねぇ~‥‥妃乃ちん一人でも大丈夫だというのなら、とりあえず許可しますかぁ~」
「大丈夫なのさ。でも妃乃じゃないのさ。この姿の時は既に名前があるのさ」
ほう。
名前は自分たちで考えたのか。
俺が変な名前を付けてやりたかったが、読まれていたかな。
「どんな名前ですか?この見た目ならきっと中性的な名前に違いないのです」
「俺の名前は‥‥」
俺だって。
こいつらが言うとなんかしっくりこないな。
「北都尚成なのさ!」
北都尚成だと!?
それって俺が転生する前にSNSなんかで使っていたハンドルネームじゃないか!
『どうかしたのさ?動揺しているみたいなのさ!』
少女隊がテレパシーで話しかけてきた。
『お前ら!その名前は俺の黒歴史を背負っているハンドルネームだと知ってて付けただろ?俺の記憶を見たな!』
そう、北都尚成は日本で暮らしていた頃、SNSのハンドルネームとして使っていた名前だ。
あの頃は若くて、今思うと恥ずかしい事を沢山言っていた気がする。
ハッキリとは思い出せないけれど、なんだか恥ずかしくなってくるんだよ。
『違うのさ。この姿になれるようになったと同時に、冒険者カードも持っていたさ。それにそう書いてあったさ』
『なんだとー?!』
どういう事だろうか?
偶然の一致にしては出来過ぎている。
容姿を見た時に感じた懐かしさも気になるし、一心同体になっておそらく何かが影響しているに違いない。
まあとは言え、その程度は十分あり得るし気にするほどの事ではないか。
そんな訳で尚成は、冒険者カードを見せて来た。
それをみんなで覗き込んだ。
「レベル百‥‥」
「それになんだか普通の冒険者カードとは違うみたいねぇ~」
「なんだかちょっと格好いいんだお!」
「僕のと取り替えてほしいくらいです。ちょっとキラキラしているのはどうしてでしょうか?」
なんだこれ?
ただの冒険者カードではないぞ。
なんというか、王族や勇者が持っていてもおかしくはないような、豪華な特別感のあるカードだった。
「北都尚成。思い出した。どこかの国で十五年ほど前突如いなくなった英雄の名前だ」
なんだってー?!
この世界のどこかの国で英雄だった北都尚成。
その者は十五年ほど前に突如いなくなっただと?
『お前ら、昔はこの世界にいたのか?』
俺はテレパシーで尚成に尋ねた。
『それはないのさ。そもそもシャドウデーモンが人間な訳ないのさ』
そりゃそうだよな。
「そう言えば聞いた事あるわねぇ~‥‥。魔王を倒して直後姿を消したとかぁ~。名前までは憶えて無かったわぁ~」
「そうです。魔王を倒した英雄の話は知っています。でも興味がないので僕は覚えていませんでした」
「そんな英雄に、どうして嫁たちはなれたんだお?」
「あー‥‥。正直こいつらにも分かってないみたいだ。ただこれがどういう事か分からない以上、あまり表立っての行動は無理だよな」
北都尚成がこの世界のどこかで英雄だったとしたら、その姿で大っぴらに行動するのはマズいだろう。
「いや、北都尚成が魔王を倒し姿を消したのは十二歳の時だと聞く。今の姿はその頃とはまるで違うだろう?」
「でも冒険者カードに記された年齢が二十七歳でしょ~?冒険者カードを見られたら同一人物だと思われるわよねぇ~」
そんな所まで一致しているのか。
尤も実際の見た目は精々二十代前半って所だけどな。
冒険者カードさえ見せなければバレない気はするが‥‥。
「どうする‥‥の?‥‥」
「流石に迂闊には動いてもらえないか‥‥」
「まだ法螺貝の軍勢が町に来るまでには時間もあるわぁ~。どうするかはゆっくり考えましょう~」
「それにこの町は要塞都市で守りは結構堅そうです。助けなくても大丈夫かもしれませんよ?」
「確かに想香ちゃんの言う通りだお」
いつの間にか少女隊は元の二人に戻っていた。
少し寂しそうだったが、次の瞬間にはコソコソと二人楽しそうに話していた。
楽しそうに‥‥。
こいつら勝手に行こうとか、そんな事話してるんじゃないだろうな。
地獄耳でも話が聞こえないように喋ってやがる。
勝手にやる事にまで俺は責任持てんよ。
この後皆は宿屋に泊まるという事で、俺と陽蝕は別行動となった。
陽蝕は当然防衛の為の準備で、俺は俺で自ら情報を確認する為に法螺貝王国との国境付近へと向かった。
護衛には妖凛を置いてきた。
宿屋には温泉があって、みんなで入るらしいからね。
分身くんではそこまで護衛できないからさ。
まあ何とでもなるとは思うけれど、妖凛にもたまにはゆっくりしてもらいたいし。
毎日ゆっくりしているようにも思うけれど‥‥。
それにみんなと少しは仲良くなれた方がいいよね?
何にしても今は俺と少女隊だけだ。
空をゆっくりと行きながら、俺は少女隊と何時ものように話をしていた。
『北都尚成はきっと策也タマと何か関係があるのです』
『そりゃ、俺の使っていた黒歴史のハンドルネームだからな』
『そうじゃないのね。何処かしっくりくるというか、違和感がないのね』
『しっくりねぇ。お前たちはもう一心同体だから、俺の黒歴史である北都尚成とも当然一心同体って事なんじゃないのか?』
『そうなのね!』
『まさにその通りなのです!』
『というかお前たちそのものが俺の黒歴史って事なのかもな』
『何を言っているのです!?黒歴史どころか白歴史なのです!』
『そうなのね!誇るべきなのね!』
そうだな。
仮にこいつらとの繋がりが強くて、俺の愛用していたハンドルネームがこいつらについたとしたら、おそらくこいつらにふさわしいものの可能性が高い。
だとしたら北都尚成は、決して俺にとって悪い物ではなかったはずだ。
俺はこいつらが好きだし、もう俺にとっては欠かせない体の一部となっている。
北都尚成は俺にとってそういう存在だったのではないか。
正直SNSやネット上で使っていたハンドルネームってだけで、どんな投稿をしていたとかあまり覚えてないんだよな。
メタバースなんかでも使っていて、そこで色々な人と交流もしていたけれど、話した内容はまるで覚えていない。
ただ男と話すのは嫌だったから、常に女の子と話していたって事くらいは覚えているけれどね。
やっぱ黒歴史か?
『神様』とか『大佐』とか小学生に呼ばせていたりもしたし。
神様は本当になってしまった訳だが。
下は小学四年生から、上は自分よりも年上の人まで、色々な人と話をしていたなぁ。
仮想空間って、年齢関係なく話せるのは魅力的だったよ。
物思いに耽っていると、俺の影に入っていた二人が影から飛び出して俺の横を飛び始めた。
「北都尚成にもう一度なるのね」
「凄い事が出来るので見せるのです」
「凄い事?」
「とにかく合体なのね!」
「なのです!」
二人は空中で再び北都尚成へと姿を変えた。
「凄い事ってどういう事だ?」
俺がそう尋ねた直後、その凄い事がすぐに分かった。
「私の名前は北都尚成だよ。大佐と呼んでくれ!現在年は二十七歳だ。人生の目標は全ての人を好きになる事。よろしくね!」
「おいお前!なんだその喋り方は?!変な喋りしかできないお前たちが普通に喋っているじゃないか!」
菜乃と妃子は萌えキャラとして俺は作った。
だから変な語尾を付けて話す事になる。
そして合体した時には二人の喋り方の違いから、喋られないという事にもなった。
それをなんとかする為に『さ』を最後に付ける話し方に強制したのだ。
なのにそうしなくても普通に喋る事ができるなんて、これは一体どういう事だ?
あれ?北都尚成という名前を使っていた時、俺はこんな喋り方をしていたような気がする。
そうそう、ネット上では『私』という一人称を使っていたじゃないか。
「多分策也タマはこういう喋り方を大佐の時にはしていたんじゃないかな?つまり今の私は、本当に策也タマの影って事だよ」
「そうだな‥‥」
俺の影であった少女隊は、本当に俺の裏の顔である影になったんだな。
ただ、それがどうしてこの世界での英雄になっているのだろうか。
この世界を作ったのは実は俺だとか?
いやそんな記憶はまるでない。
そうだと思っても思い出せないって事は違うという事だろう。
そう言えばみゆきなら、俺が北都尚成という名前でネット活動していた事は知っている。
もしかしたらみゆきが作った世界なのか?
いやそれもあり得ない。
そもそも今の討伐すべき神は、みゆきが死ぬよりも先に神をやっていたはずなのだ。
考えても仕方がないか。
しかしこの事が今の神を倒すのに必要であれば、いずれは知る事になるだろう。
大佐となっていた少女隊は、分裂して元の二人に戻った。
そして速やかに俺の影へと入っていった。
『という訳なのね!』
『だからいつでも策也タマの影として出撃は可能なのです』
『分かった』
この世界の英雄が俺の影か。
一瞬何かが思い出されそうな気がしたけれど、飛んでいく先に大きな魔力を感じ思考はそこで停止した。
『この魔力はヤツなのね!』
『そうなのです。フェンリルなのです!』
二人の言う通り、その魔力には覚えがあった。
あの時逃がしたフェンリルだ。
向こうからは鬼海星軍の者たちが逃げてきており、それを追ってきていた法螺貝軍がフェンリルに襲われているようだった。
『こりゃまた面白い事になっているな』
『菜乃たちが助けなくても良さそうなのです』
『あの程度の軍だと、フェンリルには勝てないのね』
フェンリルは約束通り、法螺貝の所で人を狩っていた。
それも法螺貝の兵士たちを。
『あの時よりも更に強くなっているようだな』
『魔力が桁違いなのです』
『人間の心臓を食うのはきっと成長期なのね』
『つまりまだ強くなるって事だな?』
『でもソロソロ限界のようなのです』
『これだけ食べればお腹いっぱいなのね』
そうか。
法螺貝軍を倒してくれて、しかもそれでもう人間の心臓を食らわなくても良くなるのならいい感じじゃないか。
見ていると法螺貝軍も撤退を開始していた。
流石にこのフェンリル相手じゃ勝てないと判断したのだろう。
これで法螺貝軍が完全に進攻をやめるとも思えないけれど、とりあえず目の前の鬼海星軍は救われたようだ。
俺たちはしばらく上空からフェンリルの様子を眺めていた。
2024年10月15日 言葉を一部修正と、次の作品に向けた伏線の変更




